※まえだたかしの個人ブログから、記事を移行しました。

前田高志が「NASU」の屋号を掲げて任天堂から独立したのは、2016年2月のこと。
これまでNASUとして、デザインで多くの人の夢を成すお手伝いをしてきました。2018年には法人化し、NASUの一事業としてオンラインサロン「前田デザイン室」を設立。会員数150名を超えるクリエイティブ集団を率いることに。そして秋には、前田高志の漫画家転身宣言。

NASUとして迎える4年目、株式会社NASUは代表の前田高志のアシスタントとして、デザイナーの吉田早耶香が加わりました。NASUという軸で考えた時、去年と今年は変化の大きい節目の年と言えるのではないでしょうか。

このNASU-noteは、前田高志が文章を綴る場所です。今回は特別編としてインタビュー形式でNASU広報担当の浜田が、NASUがチームになった経緯、これからのNASUはどう変化していくのかを前田さんと吉田さん両方の視点で話を聞いてみることにしました。



株式会社NASUの新入社員 吉田早耶香です。

───吉田さん、自己紹介をお願いします。

吉田:専門学校HAL大阪出身、グラフィックデザイナーの吉田早耶香です。

多趣味で、自分では「インドアアウトドア」と言っています。家の中でも外でも趣味があるってことです。インドアはyoutubeで音楽鑑賞。それからシルバニアファミリーやぬいぐるみなどを集めるのも好きです。外はライブや美術館に行くのが好きです。今年23歳になります。



───NASUを知った理由と、NASUに入ろうと思った理由を聞かせてください。

吉田:NASUを知ったのは、前田さんが私の学校の先生だったからです。学校で「twitterやっているから見てね」と話をされていたので、前田さんのアカウントをフォローしていました。それがたぶん去年の春。ちょうど就職活動を始めた頃です。でも夏になっても秋になってもなかなか就職先が決まらなくて。

前田:ああ、確かに。学校でも何度か面談したんだけど「まだ就職先が決まってないんです」って話を聞いた。彼女は優秀で成績もよかった。だから就職がなかなか決まらないことが不思議だったんだけど、大阪でやりたいことを絞っていたからなのかもしれないね。HALだけじゃなく専門学校全般に言えることだけど「入れるところに入ってとにかく就職を」みたいな風土があるけど彼女はそうじゃなかったから。

吉田:「就職ならHAL」ってCMもあるくらいですからね(笑)。それもわかるんだけど、やっぱりやりたいことは譲れなくて。


───なるほど、就職活動期間が長かったことは辛くなかったですか?

吉田:もちろん辛かったです。

私の適正や条件面で合わなかった会社もあったけれど、企業側から音信不通になる、面接の約束をしていたのに知らないうちに不採用になっていたこともありました。多くの就活生が通る道なのかもしれないけれど、こういうことが続くと辛かった。だから一旦は就職活動を休んでいる時期もありました。でもさすがに焦ってきて秋頃就職活動を再開しました。

自分のやりたいことは曲げたくない。だけど学校での制作活動の両立との大変さ、徐々に就職が決まっていく友人たちを見たときの焦り。不安と焦りのあまり無機質にただエントリーしてしまっている時もあり、なかなか就職は決まりませんでした。そんな時、前田さんのtwitterを見ていたら、「漫画家になる」「デザイナーを募集している」と投稿していました。だから「これは!!応募してみよう」と。

就職が決まってない時に募集があったから応募したのではなく、私のやりたいことと一致していたからっていうのが一番の志望動機です。授業中に前田先生が仕事の話をしていたので、NASUがどういう仕事をしているのかは知っていたし、魅力的だと感じていました。

特にポケモンのお仕事は魅力的ですよね。私、個人的にもポケモンが大好きなんです。大好きなキャラクターのデザインに関われるかもしれないなんて夢のようなことですから。

それから、社員として入って早々言うことではないのかもしれないけれど、私最終的にはフリーランスになりたいんです。前田さんはフリーランスとしてお仕事されているから、私の目指す働き方のモデルです。一緒に働いて吸収したいと思いました。


───なるほど。先ほどから出てくる「こだわりが強い」とは具体的にどういうことでしょう?

吉田:一言で言えば、「楽しい仕事をしたい」ということです。

就職活動する際は、自分で作ったものをポートフォリオとして見てもらうんですね。私の場合デザインとイラストとそれから写真も撮ります。3つのジャンルでポートフォリオを作り面接に挑みました。

でもそれを見て返ってくるのは「ポートフォリオに載ってるような楽しそうな仕事はうちではできないよ」って言葉でした。それから「残業が多い」とか「夜帰れない」とかも言われました。それが普通なのかもしれないことはわかっています。残業が嫌だとかじゃなくて、働きたいと思って面接に行っているのに「うちは楽しくないよ」って最初から言われてしまうことがしっくりこなくて。

HALの先生には「最初の1,2年は業界に慣れて、やりたくない仕事もやって、それから転職してやりたいことをやっては?」と言われました。それもわかるんだけど、私は1年目からやりたいことがしたかった。楽しいと思える仕事がしたかったんです。

前田さんに話を聞いたときは真逆で「NASUは楽しい仕事しか請けない」とおっしゃっていたし、実際見せていただいた仕事もそうでした。だからNASUに入りたいって思ったんです。


───実際今入ってみてどうですか?

吉田:楽しい仕事しかないです。難しいし考えぬかないとできないことだらけだけど、楽しいです。


───なるほど。フリーランスになりたいとのことでしたが、自分のペースで仕事をしたいからですか?

吉田:それもありますが、自分のことを知ってもらいたいんです。デザイナーの一人に埋もれるのではなく、吉田早耶香の名前をわかってもらえるようになりたいからです。

このことは前田先生の授業を通して気づいたことなんですよ。前田先生の授業は、必要最低限の質問で自然と思考が整理されて答えにたどり着くんです。アートディレクションの授業では、例えば「自分の好きな〇〇ベスト10」を調べる課題があり、何故それが好きなのか、そこから自分は何に憧れて何がしたいのかまでを深堀しました。

その授業がきっかけで、私は「吉田早耶香という名前を知ってもらえるようなデザイナーになりたい」という自分のやりたいことに気がつきました。仕事内容はもちろんですが「前田さんだから」NASUに惹かれた部分も、もちろん大きいです。前田さんの元で、NASUでアシスタントになればデザイナーとしての自分が見つかるかもしれないと思いました。


───自分の名前を知ってもらえるようになりたい!野心家ですね。素晴らしい!

吉田:はい(笑)。

───NASUは、雇用形態もユニークですよね。平日毎日出社しないといけないわけではなく、週に3日くらい事務所に来ればOK。そのほかはリモート勤務だとか。そういうことへの戸惑いは?

吉田:全然なかったです。

前田:この雇用形態にも弱点はあると思っている。会社っていろんな人にいろんなことを言われるの。作ったデザインに対して。

それは大変ではあるけど、自分では気づけないことに気づかせてくれるから大事なこと。そこを乗り越えて強くなる部分もあるからね。NASUだと僕の意見に偏ってしまって、そういう経験ができないことは、将来的に弱点になるかもしれない。でも僕自身が15年くらいいろんな角度からいろんな意見を言われる環境に身を置いていたので、僕が一人でその役目ができるようにしようとは思っています。

まぁ、彼女は意見を受け止めて跳ね返す耐性を持っていそうだけどね。

吉田:いや、結構メンタル弱いです。気にしぃなんです。一つやらかすと、側から見れば大したことでなかったとしても、結構引きずってしまう。切り替えがなかなかできなくて。

前田:そっか、俺も繊細だよ。こう見えてめちゃめちゃ気にするんだよ(笑)。

吉田:(笑)。

前田:でも切り替えは早いかな。

そうだ、前田デザイン室がオフィスみたいなものだと思ってもらえたらいいかも。いろんな人と触れ合うのって大事だよ。じゃないと本当に僕と二人になってしまう。それは彼女にとってあまりよくないと思う。

吉田:そうですね。前田デザイン室にはいろんな方がいらっしゃるようなので、楽しみです。


───では、NASUでこういう仕事をやりたいってありますか?

前田:「吉田早耶香を産んだ前田高志」って言われるようにしてほしいな(笑)。

吉田:(笑)。がんばります!

先ほどもお話したようにポケモンが大好きなのでポケモンのお仕事に携われたら夢が一つ叶います。長期的には、フリーランスになってもやっていけるような力をつけたいです。

NASUに入ってばかりなのにすみません。踏み台にしたいとかではなく、いずれはNASUとお仕事できるくらいになれたら、それくらいの力をつけることができたら最高だなと思っているんです。

前田:うん、もちろんそれでいいけど、いきなりいなくならないでね。焦るから(笑)。「1年後くらいに独立したいんですけど」くらいの感じで相談してくれたら嬉しい。その方がお互いハッピーだと思う。


───前田社長にお願いとかありますか?

吉田:事務所のトイレのタオルが洗濯されていないようなので変えて欲しいことくらいです(笑)。ほかは何も。まだまだすねかじりの存在ですから。楽しい仕事をさせてもらえていつも感謝しています。



NASU代表 前田高志インタビュー

───NASUに人を増やすと決めた経緯をお聞かせください。

前田:去年の10月にコルクの佐渡島庸平さんとの出会いがきっかけで、幼い頃からの夢だった漫画家になると決めました。

(漫画家になることを決断した経緯を記したnote。)

だから仕事を整理しようとしたんです。

でも今までお付き合いのあったクライアントさん、これから仕事を依頼しようとしてくれていた人、方々から「デザインやめるんですか?」と言われました。そりゃそうですよね。冷静に考えたら無責任だなと思ったから、これまでお付き合いのあったクライアントさんの仕事はきちんとしようと。

でも実際デザインの仕事をしながら漫画家を目指すことには限界を感じました。だからもう一人デザインができる人が欲しいと思うようになった。それでtwitterで人を募集してみました。

もう一つ理由があって、人を増やしてデザインはしてもらっても、ディレクションはやめないでおこうと。

ディレクションって編集だから、漫画家を目指す上で編集視点はずっと持ち続けた方がいいじゃないですか。まだそんなに漫画を描けていないけれど、僕は今佐渡島さんに漫画編集でお世話になっています。佐渡島さんが新人漫画家を育てるプロセスと僕の場合とでは違うと思うんです。ここまでデザインをやってきてある程度成功した僕だからこそ描ける漫画を大事にしたいので。だから漫画家になっても、デザインを完全にはやめない方がいいかなと。


───NASUの屋号で独立して今年で4年目だと思いますが、人を雇う構想は当初からありましたか?

前田:全くなかったですよ。人を雇うとなると売り上げをあげないといけない。つまり嫌な仕事をやらないといけないことを意味するから、それは避けたかった。嫌な仕事っていうのはお金のための仕事って意味ね。

───前田さんの場合、企業でデザインの発注権を持っているような方で、前田さんのデザインのファンが結構多くいるようなので、楽しくない仕事はしなくてもよさそうな気がします。

前田:おかげさまで今はそうなりました。それからポケモンのグッズは、元々僕からの自主提案なんです。あんな風に自主的にプレゼンして楽しい仕事をもらえるようにしていきたい。

吉田:その話なんですが「前田さんだからお願いしたい!」と言っているお客様の仕事を私がすることで、がっかりさせてしまわないか正直不安があります。

前田:絶対に僕がしっかりディレクションするから大丈夫。むしろ僕が一人で作る以上に良いものになる自信がある。だって彼女の視点で作るものは僕が気づかない要素もあるはずで、そこに僕の視点でディレクションするからね。絶対良いデザインになります。それは保証します。

───採用の話に戻ります。吉田さんを知って、彼女を選んだ理由を教えてください。

前田:吉田さんはHALでの教え子だったわけですが、元々印象は良かったですよ。僕自身もかなり良い評価をつけたはず。だから彼女の能力や人柄は申し分なかったけれど、とにかく彼女の意思が気になっていました。そこが一番大事だから。どれだけ良い人でも「NASUに入りたい」って気持ちが強くないと後々お互いハッピーにならないからね。

最後は吹っかけるくらいの勢いで言ったと思う。

「NASUは、というか僕はいいかげんだし、抜けていることが多い。仕事は楽しいかもしれないけれど、それは大きな案件であることを意味するからハードでしんどいと思う。それでも来たいと思ったら入ってください」って。そしたら「ちょっと考えさせてください」って返事が来て、その日の夜に「お願いします」と返事をくれました。


───吉田さんは、その時の心境はいかがでしたか?

吉田:その時はもう一社面接を受けていて、既に内定をいただいていました。だから早く決断しないとその会社も待たせてしまうことになる。でも心は最初から決まっていて、もしも両方受かったらその時はNASUに行くと決めていました。


───NASUを選んだ理由ってなんでしょう?仕事内容ですか?

吉田:やっぱりそうですね。やりたいことができるから。もう一社はDTP関係のお仕事で、作るものも決まっているとのことでした。そこの社長さんも「もしかしたら楽しくないかもしれない。残業もあるから」と言っていたんですね。



───みんな「楽しくないかもしれない」と言うわけですね(笑)。

前田:俺だけやん!「楽しいよ」って言うの(笑)。

吉田:そうですね(笑)。

あ、でもその会社の社長さんも良い方でした。「決めるのは吉田さん自身だから、あなたが思うように答えを出したらいいですよ」と言ってくださいました。だからお言葉通り自分が思うようにさせてもらい、そちらの会社は「ごめんなさい」って断りました。

前田:NASUも楽しい仕事だけでは、もちろんないよ。他の会社に比べれば楽しい仕事の割合が多いはずだけど。吉田さんにお願いした仕事も全てが楽しい仕事ではなかったはず。

吉田:そうですかね。でも苦じゃないです。学生の時からなんですがアルバイトが嫌だったんです。お金を稼ぐ目的のためだけに何かをするのが苦手なんです。だからバイト先に行くのが憂鬱でした。

前田:なるほどね、やりたいことがはっきりしているからだね。

吉田:就活しているときにも決めている軸がありました。必要のない残業や会社に奉仕はしない。仕事だけじゃなくて、自分の時間も大切にしたかったんです。

プライペートが充実していれば仕事にも活きると思うんですよ。例えば美術館に行っていい刺激を受けたら、それはきっと仕事にもプラスになるはず。両方余裕を持ってる働き方がしたかった。そういった点で、在宅ワークは時間の融通がきくので、すごく働きやすいと感じています。


───NASUが求めるぴったりな人材が応募してきてくれて良かったですね。

前田:ほんとそう。なかなかいないよ、こんなにぴったりな人。企業って何十万、何百万かけて採用に投資するわけ。それが今回はtwitterで、こんな良い人に来てもらえてありがたい。応募があったのは彼女だけだったけど、それがちょうどぴったりな人だったから。


NASUとは? NASUのデザインとは?

───これまで前田さん=NASUだったわけですよね。でも今回人を増やすにあたり「NASUは、こんな会社だよ」って部分を受け継いでいく必要があると思うんです。それを吉田さんに説明していただけますか?技術的なことより、前田さんの考え方の部分を知りたいです。

前田:デザインするときに、事細かくヒアリングをします。ヒアリングでいかに情報を汲み取るかを重要視しているからです。この人は何をお願いしていてて、何に困っていて、だけじゃなく、どういうことに価値を感じていて、どういう服を着ていて、どういう車に乗っていて…あらゆる情報をキャッチする繊細さが必要です。

簡単に言うと「気が利く」ってことなんだけどね。「わかってる」ってこと。

まずはそこを目指してほしい。配慮とか、気持ちの汲み取りとか。


───なるほど、「この人はこういう風に見えた方が嬉しいだろう」と汲み取ってデザインするってことですかね?

前田:そうだね。僕は最近よく「網」って表現している。優秀な人はたくさんの情報をキャッチし、良いものを選び取る細かくて大きな網を持っているの。

「活躍している人は異常に空気を読んで、異常に行動する」と幻冬舎の箕輪さんが言ってたけれどその通り。行動力があることはいいことだよ。でもただの無鉄砲では意味がない「こう動いたらこの人はどう思うだろうか?」と常に考えながら行動することが大事なんです。

例えば、僕の話で恐縮だけど、宇野常寛さんのyoutube番組に出演することが決まったり、出版の話が来たら毎回箕輪さんに報告している。箕輪さんは忙しい人だから、メッセンジャーで報告することすら本当は申し訳なく思ってるよ。でも箕輪さんつながりで決まったことはちゃんと報告したくて。だって僕が佐渡島さんや宇野さんと知り合えたのは箕輪編集室での活動があったからだからね。箕輪さんに報告しなくても別に箕輪さんは何も言わないだろうけど、言った方が箕輪さんも喜んでくれるし僕もお礼を言いたいから。

逆に前田デザイン室がきっかけで何か仕事につながった時に僕が報告を受けるときがある。言ってくれたら本当に嬉しくて。応援したくなる。だから僕もそういうのは大事にしている。

コミュニケーションを大事に。挨拶もそう。会社で挨拶をさせられるのって、本質的には挨拶をすることがコミュニケーションの第一歩だからだと思う。それができるからデザインに活きてくる。

僕がするデザインは全てに意味があるの。この形なのはこういう理由があって〜って。クライアントさんとコミュニケーションをして情報を得た後、無数の思考の積み重ねをしているわけ。「どの情報を一番に伝えるべきか?」と優先順位を考えたり、「これを見たとき不快に思う人がいるかもしれない」とかね。いろんな角度で見る。

そういう気配りの積み重ねが僕のデザインであり、NASUのデザインだと思っています。


───漫画家へ転身するとのことでしたが、NASUはこれから何を成しますか?

前田:コンテンツメーカーになります。自社コンテンツで、漫画を作ります。デザインのサポートはもちろん継続しますよ。僕がコンテンツを作る裏で、彼女にデザインをしてもらう。


───漫画はどうしていきましょうか?

前田:漫画、今描けてないからなぁ(笑)。僕空気はめっちゃ読むから、一回羞恥心を捨てないとダメだよね。僕の漫画を描く時間を作るのが吉田さんだからね。よろしく!

前田高志一人のNASUからチームNASUへ。これからのNASUにご期待ください。

取材、執筆、写真:浜田綾