2019年1月30日に、マーケティングの基礎を体感できる学習用次世代ボードゲーム「Marketing Town(マーケティングタウン)」を制作した株式会社NEXERA(ネクセラ)


それに続き、今度は「キャリアデザインを通して自分の人生に向き合う」企業研修用ボードゲーム「CAREER MAKER(キャリアメーカー)」をリリースしました。キャリアメーカーでは「キャリア=仕事」として捉えるのではなく、「家族」「健康」「余暇」など人生に関わりのある多要素全てを含めたものをキャリアとしています。


マーケティングタウンに続き、今回のキャリアメーカーのデザインも、NASUが手掛けました。今回のデザインのミッションは、いかにして「研修をやってみたい!」と思ってもらえるデザインができるか? でした。制作メンバーでそのポイントを紐解きます。



単にボードゲームを作る会社になりたくない!

―――第一作目のボードゲーム「マーケティングタウン」が好調な中、新しいボードゲームを作るに至った経緯を教えていただけますでしょうか?

山本:「マーケティングタウン」は確かに会社の大きな柱なのですが、次を考えるフェーズに入ったなと思ったんです。マーケティングタウンに続く、会社の次の柱になるボードゲームを考える機会がありました。どんなテーマがいいかリストをたくさん出したその中の一つに「キャリア」がありました。


飛田:結果的にテーマを「キャリア」に選んだのは、マーケティングタウンでいろんな企業で研修をさせていただく中で「キャリア関連」に関する課題をよく耳にするようになったからです。この課題に対して、自分達から何かアプローチできないかなと考えたことが背景にあります。

僕たちの考えとしては「単にボードゲームを作っている会社」にはなりたくないんですよね。

単純に色んなジャンルのボードゲームを大量に作ってしまったら、一つ一つにフォーカスが当てにくくなり、研修として学びが薄くなって、成果も分散してしまう。

そうではなく、何かを伝える手段としてボードゲームが最適なものであって、またそれを研修として提供しているので、受講者が学びや正しい知識を得られるといったところにフォーカスを当てると、ボードゲームをたくさん作ることが我々の使命ではなく、きちんとブラッシュアップされたものを大事に育てていく事がポリシーになりますね。


山本:弊社のビジョンも「体験による学びの場をつくる」なので、一つを大事に育てつつ、かつ色んな分野の学びをボードゲームに置き換えていきたいですね。


前田:「ボードゲーム自体が商品」という訳じゃないって事だよね。


飛田:そうですね。ボードゲームはもちろん好きなんですけど、ボードゲームありきではなく手段として提供していきたいです。



体験することで人生を具体的にモデル化して分析できる

―――ゲームは、どんな風に制作を進めたのでしょうか?

飛田:まずはこのゲームを通して、受講者にどのようになって欲しいかというゴールを想定して、それに沿うように設計していきました。


山本:その点の切り口で、今回大きく謳っているのが「キャリア=仕事」ではなく、ライフイベントなども含めた「キャリア=仕事、家族、健康、余暇の4つから構成される“人生全体”」という事を受講者に意識してもらうという事ですね。その点をゲームに落とし込んでいます。

また普通のキャリア研修って、無限にワークショップがあったりなどして、研修とゴールの繋がりが感じにくく「これは何の為にやっているんだろう?」って感覚に陥ってしまう事があるんですよね。

でも、ボードゲームって一連のストーリーの流れがあるので、何がゴールなのかが見えやすいんです。キャリアメーカーでもゲームを通して色んなイベントを疑似体験する事で、人生をモデル化し分析できるようになっています。

飛田と僕で大枠を決めてから、社内でルールや構成をテストプレイしては修正してまたテストして……、を繰り返して結果的に完成までに約1年ぐらいかかりましたね。


―――改めて、キャリアメーカーとはどのようなゲームなのか、簡単に説明していただけますか?

山本:会社に入社してから5年目までの会社からプライベートで起こりうるイベントを体験するゲームです。ゲームの初めに、5年後のゴール設定を自分自身で設定します。自分でゴール設定するので「余暇を重視した生き方」や「家族との時間が持てる生活」など、人によってゴールが異なります。


「仕事(青)」「家族(赤)」「健康(緑)」「余暇(黄色)」の4つのパラメーターは16個のキューブで表されています。

「仕事に注力したい」と考えて仕事のキューブばかりを取りすぎると、仕事に比べて健康のキューブが少なくなったり、「5年後は結婚しているだろう」とゲームを進める中で家族時間のキューブを増やしていったりと、自身が描きたいキャリアがどのような経緯で形成されていくかを俯瞰的に見る事ができます。


前田:一度このゲームをプレイさせてもらったことがあるのですが「実は余暇もきちんと取れているな」ということに気づけて面白かったなぁ。僕自身は、デザイン一筋の認識だったから、そういう意味ではキャリアのバランスが悪いのではと思い込んでいました。でもこのゲームを通して、余暇があるから仕事を頑張れているんだなって今の自分の状態に気づけてよかったです。



―――どのパラメーターに重きを置いて自分が行動しているのかが、目で見て分かるんですね。

山本:そうです。また「切り札カード」というのをそれぞれ持っていて、「資格を持っている」「ジムに通っている」などの個人の切り札となる要素を、仕事がなくなりそうな時や健康が損なわれそうな時に、切り札として出す事でそのキャリアを失わなくて済みます。

このカードは年数を重ねる毎に増えていきます。実際の人生で、経験を積むのと同じ役割をしています。

水上:この「切り札カード」の存在は、かなり面白かったです。自分では今まで長所であり・武器になるって思っていなかった事が、キャリアでは切り札になると気づけたし、それらを可視化する事でこの先の5年後をよりクリアに想像する事が出来ました


飛田:実際にプレイしてもらうと、途中で自分の目指しているゴールから反してしまう人もいたりします。なので、途中で実際に今の時点でゴールに近づくためにはどうすればよいのか、残りの3年4年後におこるイベントでどうアクションを起こせば良いのかを一度講義でしっかりとお伝えします。その講義でインプットしたものを、残りのプレイでアウトプットして実践し、自身が目指すキャリアに向かって調整していく形になります。


前田:仕事頑張ろう!と思っていても、実は余暇を大事にしたい自分がいる……という内に秘めた気持ちに気づいたりもできますね。



「やってみたい!」と興味を引くデザインを求めて

―――マーケティングタウンに続き、NASUにデザインを依頼していただいた理由をお聞かせください。

飛田:マーケティングタウンに関しては、デザインのおかげで伸びたという実感がありました。

今回のキャリアメーカーのポイントは「研修」のやらされてる感・堅苦さを感じさせず、受講者には純粋に「ゲームとして楽しみたい!」と思ってもらいたくて、その為にまずは見た目からしてやってみたい・面白そうと感じて欲しかったんです。

そういった点で今回もデザインはNASUさんしかいないだろう! となりました。やはり受講者自身からやってみたいというスタンスを持ってもらった方が、学習の効果や定着が良い方向に向かうので。

前田:最高の褒め言葉をありがとうございます!


もっと早く出会いたいゲームだった(前田)

―――前田さん、水上さんはテストプレイしてみていかがでした?

前田:最初に話を聞いた時は「マーケティングタウン」の派生かと思っていたのですが、話を聞くと全然違うんですよね。

でも「マーケティングタウン」のDNAを奥底に引き継いでいるから、「マーケティングタウン」の後に「キャリアメーカー」をプレイした場合も結びつきを感じられると思う。

テストプレイした時は鳥肌が立ったね! 本当によくできてる。もっと若い時にこのゲームに出会いたかったと心から思うくらい!

水上:実際プレイしてみると、自分が無意識に「健康を大事にしたいな」「余暇大事にしたいな」って思っている事を客観的に気づく事ができました。

前田:チームでプレイすると、相手が大事にしている事を知る事ができるのもいいよね。価値観を共有する事で、働き方やチームマネジメントを変えるキッカケにもなるし。


山本:確かに。あと、デザインのポイントの一つになるんですけど「ゲームカードの内容を変える」事が出来ます。

一般的なキャリアイベントもあれば、会社ごとに発生する時期が異なるイベントもあるじゃないですか。そこはあえて余白を持たせたデザインにしているので、企業ごとに適したキャリアメーカーが作れるようになっています。


飛田:キャリア育成をしている企業さんは、人材の流動性が高かったり、働き方が多様化していたりしているので、一人一人に対するアプローチの仕方が課題の一つとなっています。

そんな中で、このゲームはプレイを通して相互理解を深める事が出来、それは退職防止やオンボーディングの役割も担う事が出来ます
研修の中で、「こういうライフイベントがあったときに、うちの会社はこんな制度があるよ。」って、福利厚生を認知させる事は社員定着にも繋がりますし、企業の魅力を最大限に伝えるツールとしても使えるんじゃないかと思っています。


キャリアメーカーは「人生を作り上げるゲーム」である(水上)

水上:キャリアメーカーのデザインの話に入るのですが……、まずはデザインをする上で最初に考えたのは、このゲームってどんなゲームなんだろう? ということです。その結果辿り着いたのは、会社に入ってから5年目までという人生の中でもターニングポイントとなる大事な時期を切り取った、言わば自分の人生を表す一部を切り取った「人生を作り上げるゲーム」だなと思いました。

そしてゲームを通して、「作る」「自分を知る」「積み上げる」という3つのキーワードが重要になるのではと考え、このキーワードを元にデザインを提案しました。

―――水上さんの提案を受けてお二人はどの様に思われましたか?

飛田:このゲームが言わんとしていることを感じられる、人をモチーフにしているものがいいねってなりました。


水上:そのご意見をいただいてから、次は人のデザインを展開していきました。

水上:初めは、研修ツールなので初回に提案したB案のようなニュートラルなピクトグラムのような形をイメージしていました。でもこれだとNEXERAさんが求められている「わくわく感」や「ゲーム性」が足りないなと思い、色々な人型を模索しました。

その時に前田さんから、「ブロック型のおもちゃみたいなモデル作ってみてよ」と提案されて、その過程の中で3頭身ぐらいが可愛くてゲームっぽさもあるなという着地点につき、このキャラクターが生まれました。

人間っぽくなりすぎず、ブロック感あるけど丸みもあって可愛らしく、腕の可動域が狭そうな姿に「不器用さ」が感じられて、そこに愛嬌が感じられる点が良いんだと思います。

また、同時にキューブのイラストも加えてこのゲームの世界観を表現しました。
カラーも色盲の人でも判別しやすいという点も注意して決めましたね。

一同:かわいい〜〜〜〜!


水上:このイラストは、立体を斜め上から見た、いわゆるアイソメトリック図で構成しているので、キューブがとても映えるんですよ。その点でも自分の中でしっくりきました。


前田:水上さんとデザインの話をした時に、世の中に出ている既存のゲームデザインに引っ張られたくないって伝えた。なので、まずこのゲームは何なのかって根本的な部分から話し始めたよね。

アイデア出ししていく中で「人」は絶対に外せない要素で、じゃあその人をどうするかっていう流れだった。表情だったり、頭身だったりを何パターンも試しましたね。


水上:はい。キャラクターの方向性が決まったので、次はパッケージを軸にボードやカードデザインに進みました。楽しさもあるけど、子どもっぽくなりすぎない様にデザインしました。

水上:見方によっては海外の子ども向けゲームのような雰囲気もあったので、ロゴは「研修ツール」として少し硬さが欲しかったんですよね。

なのでクセのないゴシック体をベースとした、キューブを連想させるカクカクした形のロゴにし、加えて「研修ツール」として少し知的な雰囲気が出るようムードイングリッシュを加えた形に最終的に決まりました。

水上:パッケージの絵柄が決まってからは、シートやカードなどの中身のデザインが決まるのは比較的早かったです。

水上:ゲーム内に「ライフイベント」と「ワークイベント」という2種類のイベントカードがあるのですが、この2つはコントラストが感じられるデザインにしたかったので、初めは建物だけだったところに、犬やポストを置いて雰囲気の差別化を測るなどの工夫をしました。

飛田:キャラクターも、カードのデザインも本当に可愛いんですよ。グッズ展開したいです。


「楽しそう」を形にしたゲームの効果をより引き出すデザイン

――水上さんはジニーに引き続き2回目のボードゲームデザインでしたが、いかがでしたか?

水上:慣れはしないですね。パッケージが決まってからはスムーズに進んだんですけど、パッケージとなるメインビジュアルの方向性を決めるまでの産みの苦しみが半端なかったです。


前田:今回ジニーから生かされている部分は絶対にあるよ。
「なんとなくいい感じ」にするのではなく、メインビジュアルやカード含めてゲームの効果を最大化できるデザインになっていると思う。
アイコンやゲームシートなんかはUIUXデザインに通ずる様な点もしっかりと構成されてる。


山本:うんうん、受講者側はもちろん僕らも愛着が湧く様なデザインに仕上げてくださったのがとても嬉しいですね。


飛田:前回のマーケティングタウンもそうだったのですが、「本物感」をしっかりと作ってくださったなと強く思いました。

我々は企業研修を行う事を商材としていますが、まだまだ会社としては若いので、依頼をする企業からすると「NEXERAってどんな会社なの?」と多少なりとも不安を持たれる部分もあります。

そんな中で、ゲームの内容が面白いのはもちろんなのですが、これだけプロダクトのデザインのクオリティが高いと、お客様に安心感を持ってもらえる材料の一つになります。そういった点でデザインに助けられているなと感じます。

水上:初見から「研修の堅苦しさを忘れていかに楽しめるか」という事を、自分の中で大切にしながら進めてきたので、完成した商品を見てそれがデザインで形にできたのではないかと思っています。


前田:「キャリアメーカー」は、本当にいいプロダクトなので、どんどん広がって欲しいですね。それと僕も会社の経営者なので、NASUでもこの研修をやりたくなりました。


飛田:ありがとうございます! 今回もデザインとともにこのゲームを多くの企業に届けていきたいと考えています。






〈文=ワタナベミユキ(@wata_m_sn)/  編集=浜田綾(@hamadaaya914)/ 撮影=ただの ちひろ(@chihiro146)、久本晴佳(@hi_sa_ko__)〉