ライブ当日に記念で買ったTシャツが、その後はパジャマになっている……、なんてことありませんか?

イベントの特別感あるグッズは、ファンとしては手を伸ばしたくなるものの、イベントが終わって日常に戻ると、使いにくくなってしまうものです。

でももし、イベントグッズがカッコ良いだけでなく、普段使いもできるものだったら─。そのイベントを知らない人の目にも触れて、結果として広告としての役割も果たすことだってできます。

現在、CAMPFIREでクラウドファンディングの真っ最中の「街録ch 開設2周年記念ライブ」のグッズは、まさにそう。

任天堂で長らくプロモーションを手がけてきたデザイナー・前田高志が考える、イベントグッズのデザインには、広告の力が宿ります。



クライアントと関係を築きながらデザインの世界観を作っていく


─今回、前田さんは、人気YouTubeチャンネル『街録ch』の開設2周年イベントグッズをデザインされたと伺いました。どういった経緯で依頼があったんですか?

前田:去年、 『街録ch』のディレクターをしている三谷三四郎さんから依頼を受けて、チャンネルバナーをつくらせてもらったんですよ。

この「NASUメディア」にも出てもらいましたね。そのときのご縁で今回も依頼をいただきました。


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─三谷さんからの依頼はどういった内容だったんですか?

前田:イベントのノベルティとして、Tシャツとステッカーと缶バッジを作りたいっていうお話でした。それ以外 あんまり詳しい話を聞かずに動き始めちゃったんですけどね(笑)。


─えっ! そうだったんですか?

前田:三谷さんからは、周年ならではの限定感ある良い感じのデザインを目指したいっていうオーダーでした。それから、フィーも提示していただいたのですが、0円で全て任せてもらうやり方を提案して、了承してもらいました。


─『勝てるデザイン』「フィーの理想は100万円以上か0円か」の話で書かれていた信頼関係の築き方ですね。

前田:まさに、それです。最近社内でもよく言ってる話なんだけど、デザインの仕事って こういう小っちゃな信頼の積み重ねなんですよ。案件を重ねて クライアントと関係を築きながら 世界観をつくっていく。それが中長期的にブランディングにもつながっていくんで。


─三谷さんともそういう関係を築いていきたいということですね。

前田:そうですね。うちの会社でも、お付き合いが長いクライアントほど成果が上がってます。それは、僕らが仕事を重ねるなかでクライアントへの理解が深まっていくから、デザインの精度も上がっていくんです。僕としては今回、こうしてご依頼をもらえたことがまず嬉しかったですし、三谷さんとも関係を築いていくために、デザインの力を発揮させてもらうチャンスだなって思いました。


─案件を重ねることが大切だと。

前田:はい。デザインで世界観をつくろうと思うと、デカい単発の仕事ドーンじゃなくて まずは数を増やすことが大事なんで。むしろ案件一つひとつで確実に成果を出していけば、中長期的に大きな成果になる。それでグロースハックさせてもらえたらいいなと思ってます。


─それはどんなクライアントワークにも共通する考え方でもありそうです。

前田:はい、全く一緒ですね。クライアントの立場で考えてみても、いきなり大きな仕事は頼みにくいじゃないですか。むしろ小さな仕事から依頼してもらって、そこからプロダクトやサービス、経営者、社内の雰囲気とかをひっくるめて、僕らも理解を深めさせてもらう。それでデザインの精度も、成果も上がっていくと思ってます。



ロゴで『街録ch』のアイデンティティを表現する


─今回の依頼は、イベントグッズでありながら、チャンネル開設2周年という「周年記念」という側面もありますよね。

前田:そうなんです。僕は 任天堂にいたころから 周年関係のデザインをすることが何度かありました。

『スーパーマリオ』の20周年、30周年のロゴやったのとか僕なんですよ。ちなみに30周年のロゴの話は、僕の著書『勝てるデザイン』にも掲載しています。



─今回もロゴはつくったんですか?

前田:ロゴというか、グッズデザインのなかでメイングラフィックを作らせてもらいました。元々 2周年のイベントを開催したいっていうクラファンをすることが決まっていたんですよ。それで三谷さんがポスターまでは作られていて。こんな感じなんですけど。

前田:実は、三谷さんが自分でデザインされてるんです。僕、これを最初に見たとき、三谷さんのこだわりをめちゃくちゃ感じて。全体的な黒いダークなトーンに対して サムネイルの鮮やかな色使い。「episode.0」「笑える絶望」という言葉のチョイス。『街録ch』独特のカオス感がありながら カッコいい。イケてるフライヤーっぽいなぁと。三谷さんってデザインが好きな方なんだなと改めて思いました。


─カオス感とカッコ良さが絶妙に両立していると。

前田:はい。ここに三谷さんが大事にしたい世界観があると考えて、メイングラフィックをデザインさせてもらいました。実際の提案がこれなんですけどね。

前田:「episode0」という言葉はそのまま使いました。ちなみに 英字部分のフォントは僕の著書『勝てるデザイン』の初版についてくるオリジナルフォントになってます。


このフォントを選んだ理由を知りたいです。

前田:カッコ良くするっていう目的に合致すると思って選びました。実は、前に作らせてもらったチャンネルヘッダーの「GAIROKU CHANNNEL」という部分にも同じフォントを使ったんです。あれは英語が小ちゃくて、フォントでそこまで印象が変わるものじゃなかったんですけど、話のネタになると思って使いました。実際、僕が言うまで三谷さんは気づいてなかったです(笑)。


─今回のロゴでは、そのフォントがかっこ良さを引き立てているわけですね。

前田:文字以外の部分は 長方形のグラフィックを組み合わせて構成しているんですよ。『街録ch』のサムネが、週刊誌の中吊りみたいになっているのと、実際に街中で収録しているから、ビルの合間という意味を込めたグラフィックです。これとフォントの相性がとても良かったと思います。


─カラーのパターンだと、長方形のグラフィックのなかにあるのは、ポスターと同じように動画のサムネイル画像ですか?

前田:そうです、そうです。あの鮮やかな色味に三谷さんのこだわりも感じましたし、『街録ch』に出てくる人が十人十色であることを表現するポイントにもなると考えました。だから、グラフィックも色味も、実は『街録ch』のアイデンティティを表現しているんです。

『街録ch』が有名になればなるほど 似たような後追いコンテンツも出てきちゃうと思うんですよね。そうなっても、デザインからアイデンティティを示しておけば それだけで差別化ができて、まさにブランディングになりますから。


─なるほど。このロゴは“『街録ch』らしさ”を意味づけるデザインがされているんですね。

前田:そういうことです。この提案の後、文字とか色味とかを微調整させてもらって、最終版としてはこんな感じになりました。より鮮やかな色味になっています。


普段使いできるイベントグッズは広告にもなる


─このロゴをもとにグッズをデザインしていかれたんですか?

前田:そうですね。Tシャツはこのカラーロゴをそのままドーンと使ってます。生地は黒にしてポスターと同じカオス感を演出して。

──ぱっと見では、『街録ch』のイベントとはわからない、おしゃれなグラフィックTシャツみたいですね。

前田:はっきりロゴが入っちゃうと、イベントの後に着にくいじゃないですか。だから、よぉく見たら『街録chのTシャツやん!』ってわかるくらいがちょうどいいし、普段使いしてもらえると思ったんです。ステッカーと缶バッジも同じような考え方で、こんな感じに作りました。

前田:ステッカーはシルバーにしました。パソコンとかに貼ることを考えたら、ギラっと存在感あるくらいがいいなと思って。

缶バッジは白。バッジ自体が小さいから カバンとかに付けた時に ある程度見やすいくらいがちょうどいいと考えてのチョイスです。


─用途も考えてデザインされているんですね。

前田:僕は任天堂にいた頃からずっとプロモーションをやってきたんで、そういう思考が働いちゃうんですよね。どうせならイベント後に普段使いしてもらうことで、さらに多くの人に知ってもらう機会をつくろうっていう。カッコいいとプロモーションは両立できるんで、イベントグッズ自体が広告にもなり得るんです。


─イベントグッズというと当日に使って、それっきりになってしまうイメージです。

前田:そうなんですよ。今回も、参加した人だけが満足するアート寄りなデザインにもできたんです。でも、やっぱり無意識のうちに、プロモーション的な思考が働いちゃいました。このグッズがきっかけで「『街録ch』っていうチャンネルがあって〜」って 『街録ch』を知らない人に紹介してもらえたらめっちゃいいじゃないですか。


─確かに。ファンが広がるきっかけになりそうです。

前田:もちろん、ファンの方の間でもコレクションとして、毎年周年のたびに話題にしてもらうこともできますしね。ちゃんと「2ND ANNIVERSARY」って文字が入ってるんで。


─そこまで先を見据えてデザインされているんですね。

前田:目的に沿って機能を果たしてこそデザインには意味があるんで。依頼としてはグッズのデザインでしたけど、プロモーションやコミュニケーションと 自分なりに目的を設定してデザインをさせてもらいました

これでまずはイベントがうまくいくのが第一ですけど、僕はデザイナーとして、『街録ch』の成長に並走させてもらえたらと思ってます。この先、『街録ch』がどんどん人気になっていった後でも、この2周年のグッズが意味を持つデザインであったら嬉しいですね。


お知らせ

『街録ch』2周年イベントのクラウドファンディングは4月4日まで!
支援はこちらから。

「街録ch 開設2周年記念ライブ」を開催したい!

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〈文=木村涼 (@riokimakbn)/ 編集=浜田綾(@hamadaaya914)/ 撮影、バナーデザイン=水上肇子(@mi_ha_ko)〉