気軽には触れにくい繊細な話題にもテレビでは踏み込めない際どい背景にも、躊躇うことなく切り込んでいく痛快さ。生々しいほどの “人生のリアル” が詰め込まれているYouTube番組『街録ch』。他人の人生を覗き見しているかのような軽妙な切り口でヤジウマ心を惹きつけ、興味を奪われる人が続出しています。

今回、街録chの撮影から編集までを手がける三谷三四郎さんを、NASU代表の前田高志がインタビューしました。登録者数45万人超えの人気番組に伸し上げた街録chのデザインと、前田がデザインした新しいバナーの「勝てるデザイン」について語り合った内容をお届けします。

効率化をデザインして毎日投稿を実現

前田:街録chって、毎日投稿してますよね?すごいなと思って。ストックどれくらいあるんですか?

三谷:今で2ヶ月分、だいたい60本くらいですね。今日も3本撮ってきました。

前田:この暑いなか(この日の最高気温は37℃)すごいな〜。それだけの数になったら、編集するだけでも大変ですよね?

三谷:いや本当、ひとりだったら絶対無理ですね!アルバイトさんにかなり助けてもらってます。アルバイトさんは40人くらいいて、LINEグループに僕が撮った動画を共有して「誰かやってください」って呼びかけて手伝ってもらう感じです。

前田:具体的にどういう部分を手伝ってもらうんですか?編集とか?

三谷:編集は僕がやるので、アルバイトさんに頼むのは基本的に文字入れですね。何も手をつけてない状態の動画から、会話の内容をすべて文字にしてテロップを入れてもらう作業をお願いしてます。これはもう完全に僕の効率だけを考えているスタイルです。

前田:文字が入ってるだけでも、そんなに効率に影響あるんですね。

三谷:もう全然違いますね!文字が入ってない状態からだと、最低でも3回は動画を観ながら使うシーンを決めていくので、めっちゃくちゃ時間がかかるんですよ。全体の効率を考えたら、僕がある程度いらないシーンを削ってからアルバイトさんに共有したほうがいいんですけどね。毎日投稿するために、とにかく自分がいかに効率よく作業できるかっていうのを重視して、今の形になりました。

前田:文字入れ以外の作業もやってもらえたら、もっと効率は上がりそうですけど、そこまでは求めてない感じですか?

三谷:基本的にこちらからお願いしてるのは文字入れだけですけど、一応LINEのノート機能を使ってマニュアルは共有してあります。「音楽入れてくれるなら、こういう感じでお願いします」とか。なので、向上心のある方はそこまでやってくれますね。最近は結構いい感じに仕上げて来てくれる人もかなり増えて、本当に助けてもらってます。

前田:三谷イズムを理解してくれる人が増えてきたんですね。作業の効率をかなり重視してるなって感じたんですけど、それはテレビ番組のディレクター時代からですか?

三谷:仕事には効率がすごく大事だっていうのはかなり前から思っていて、これは高校時代にバイトしていたマクドナルドの影響が大きいですね。例えばテーブルを拭きに行ったら、その帰り道でゴミを片付けてイスを直すとか、とことん無駄なく動くように指導されるんですよ。ハンバーガーを作るのにも、パンを用意する人、具をのせる人、ソースかける人って分かれて、1秒でも早く作れるように考えられてたり。

前田:マクドナルドのバイトってそんな感じなんですね。テレビ業界でも役に立ちそうな気がする。

三谷:それはありましたね!「効率よく、無駄なく」を徹底的に教え込まれたおかげで、今でも「無駄をなくすにはどうしたらいいか」っていうのは常に考えてます。

サムネのデザインで事件性を感じさせる

前田:街録のサムネ(サムネイル画像の略、番組一覧に出てくる画像)は、よくできてますよね。なんか惹きつけられるというか。あれかな、週刊誌の中吊り広告っぽいのかも。

三谷:意識してたわけじゃないんですけど、だんだん中吊りっぽくなってきちゃったなっていうのは感じてます(笑)。

前田:どことなく事件っぽいような感じもして、「なんか気になる」と思わせるのが上手いなって思う。ちょっと言い方が悪いかもしれないけど、容疑者感があるというか。

三谷:人によって陰影を濃くしたり薄くしたりしながら、ほどよい容疑者感が出せるように調整してます(笑)。内容がどんなに面白くても、やっぱりサムネで惹きつけられないと見てもらえないので、スタート地点に立つための工夫ですね。

前田:文字の配列も印象的ですよね。画像の半分くらいが文字で埋まってるのは、動画のサムネであまり見ない気がします。

三谷:YouTubeのセオリー的にはあり得ないんですよ。文字が多すぎて画像がよく見えないっていうのはマイナスになる場合が多くて。だから僕も最初は2行だけ文字を入れてたんです。そのほうがかっこいいとも思っていて。

初期のサムネ

前田:そこから今のデザインになったきっかけって何かあったんですか?

三谷:会話の中から強いワードを抜き出してサムネに入れるんですけど、強いワードを連発する人が出てきたんですよ。2行に絞ろうと思っても捨てるワードがなくて。「セオリーには反するけど、面白いからいいや」って4行にしてみたら、めっちゃ再生されたんです。街録chに限ってはこれが正解なんだって気づいて、そこからはこのデザインになってます。

前田:縦4行でこの大きさはインパクトありますよね。あと出演者の顔が大きいのもインパクトあるなって思うんですけど、それも意識的に大きくしてるんですか?

三谷:基本的に一般人の方を撮ることが多いので、顔が大きいほうがインパクト出せるなと思ったんです。有名人じゃないから当たり前なんですけど、まず顔面に情報がないんですよ。サムネ見ただけだと誰なのかわからないし、どんな話が聞けるのかも想像できないから、観たいと思ってもらえないんですよね。だからまずは気になってもらえるように、顔面の大きさと強いワードで、顔に足りない情報を補足してる感じです。

前田:確かに一般人の顔面に情報はないですね(笑)。それもデザインだと思います。世間的には「かっこよくするのがデザイン」みたいなイメージがあるんですけど、目的を回すためのデザインもあるので。

三谷:目的で思い出したんですけど、最初の5つまでの動画はサムネの文字が細かったんですよ。それをスマホからちょっと引きで見たら、全然文字が読めなくて。「サムネで気になってもらうのが目的なのに、読めないと意味ないな」と思って、次の動画から太いゴシック体に変えました。

前田:それもめちゃくちゃデザインですよ!デザイナーはそんな感じの試行錯誤ばかりしてます。

三谷:デザインって、してるつもりなくても結構やってるものなんですね!前田さんと話さなかったら、自分がデザインしてるなんて気づかなかったな。

前田:僕も三谷さんの話を聞いて「デザインはデザイナーだけのものじゃない」っていうのを、改めて感じました。

新バナーのデザインコンセプトは「パワーアップ」

三谷:街録chのバナーデザインを前田さんに依頼した際にお願いしたのは「パワーアップさせてください」だけです。前のバナーに不満があったわけじゃないんですが、ステージを上がったなって思わせられるような、パワーアップしたデザインをお願いしました。

前田:僕も前のバナーは良かったと思うんですけどね。ただやっぱり、デザイナー目線で見ると気になる部分はありましたね。文字間とか文字がつぶれているところがあったり。パワーアップするなら、そこを直すのが大事だなと。

以前のバナー
新しくデザインしたバナー

三谷:新しいバナーを「かっこいいね」って言われるのも嬉しいんですけど、僕の満足度が上がったのが何より大きいです!確実にパワーアップしてます。

前田:テレビを超える番組になるっていう意味を込めて、カラーバー(放送終了後の試験用の映像)をイメージしたデザインにしました。たくさんのカラーを使って、街録chの出演者の多様性も表現してます。あとは「街」を感じられるように、建物がずらっと並んでいる雰囲気も出しました。

三谷:街録chに出てくれる方って本当にタイプも人生もいろいろで、当たり前なんですけど誰ひとり同じような人生の方っていないんですよね。同じ理由でサムネの色も一人ひとり変えていたので、バナーでもそれを表現してもらえて嬉しいです。

前田:カラーを入れ替えるだけで、イメージを大きく変えずに変化をつけられるのも、このデザインのポイントなんですよ。

例えば、こんな風に

パッと見て「街録chだ」ってわかる印象はそのままに、何か変わったなっていう新鮮さも感じてもらえます。

三谷:それめっちゃいいですね。ただ綺麗でかっこいいだけじゃなくて、意味とかアイデアがたくさん込められていて、前田さんにお願いして良かったです。やっぱり「餅は餅屋」だなと改めて思いましたね。

前田:その業界のプロに頼むっていうのは、クオリティの面ではもちろんですけど、結果的にめちゃくちゃコストパフォーマンスがいいですよね。時間的にも。

三谷:それは本当にそう思いますね。以前、プロの方に曲のアレンジ依頼したときには、すごく細かくお願いしたんです。僕が言ったことを全部そのまま実現してくれたんですけど、動画に入れてみたら…なんか違うんですよ。イメージしていた感じに全然ならなくて。

前田:その現象はデザインでもあるあるですね(笑)。

三谷:それで「すみません。僕の言ったことは忘れていただいて、全部おまかせするので作り直していただけますか」ってお願いしたら、すごくいいものができたんです。その経験もあって、自分の専門分野じゃないところに細かく言うのは違うなって思うようになりました。

前田:僕の場合、具体的に「こういうデザインにしてください」と言われたら、その通りに作ります。もちろん素晴らしいアイデアの場合もあるし、そうでないこともあるけど、作らずに否定するのは良くないと思っているので。ただ、必ず2パターンは提案します。クライアントの希望通りのものと、僕が考えたもの。

三谷:イメージを伝えるくらいだったらいいと思うんですけどね。やっぱりその道のプロにまかせたほうが確実だし自分も納得するし、成果も出ると思います。

前田:最近は三谷さんのように全面的にまかせてくれる方が増えてきました。デザインでクライアントを勝たせるのがデザイナーの仕事なので、そこを信じてまかせてもらえるのは嬉しいですね。

三谷:街録chは新しいバナーで確実にパワーアップしましたよね。もちろん番組にも合っているし、何より僕自身がすごく気に入ってます。

前田:街録chがもっと勝てるようにデザインしました。登録者数100万人、200万人を目指して頑張ってください!




〈企画・編集=浜田綾(@hamadaaya914)/  取材=前田高志(@DESIGN_NASU)/文=成澤綾子(@ayk_031)/撮影、バナーデザイン=小野幸裕(@yuttan_dn52)〉