「良い武器」を扱うには、それを持つだけの「理念」が必要です――。

そう語るのは、レディオブック株式会社のYUGOこと、板垣雄吾社長。

NASUとは『やりたくないことはやらなくていい』(幻冬舎)をきっかけに、スクーデリア・フェラーリ社(以下:フェラーリ社)とパートナーシップ契約、完全会員制〆パフェバー「Remake easy(リメークイージー)」のプロデュースなど、さまざまな活動を共にしてきました。

今回のNASUメディアでは、前田がCBO(チーフブランディングオフィサー)を務めるレディオブックのYUGOさんに、「NASUのデザイン」について語っていただきました。


名刺をプレゼントに。デザインはカッコよさを伝えるための方法

―――YUGOさんにとってデザインはどのような認識ですか?

YUGO:デザインの持つ力はビジネスにおいて、とても重要な役割を担っていると考えています。

僕が作り出すプロダクトには、常にデザインの持つ「画像優位性効果」を意識しています。これは届けたいものを言葉や文字だけで届けるのではなく、ヴィジュアルと一緒に届けることで、受け手の記憶に残りやすくするということです。例えば、スティーブ・ジョブズの、iPhoneのプレゼンテーションがあります。文字をほとんど使わずに画像を大きく見せて、受け手に大きな印象を与えました。


―――起業当時からデザインの重要性は認識していたのですか?

YUGO:そうですね。自分がサービスを作る際、キャッチャーなロゴが絶対に必要だと考えていました。イメージしてすぐに印象に残るというのは、ビジネスにおいて重要なことで、デザインは一番適切な伝達手法なんです。印象に残らないものをいくら打ち出しても、見てる側に届かなかったら意味がありませんからね。


―――YUGOさんにとって、デザインの力を強く感じた経験はありますか?

YUGO:たくさんありますが、ここ最近一番大きかったのはフェラーリ社とのパートナーシップ契約です。これは間違いなく、前田さんがデザインしてくれたレディオブックの名刺とロゴのデザインが良かったから、フェラーリ社と出会うことができました。

レディオブックのメンバーがフェラーリ社に関連する人と名刺交換する機会があって、そこからフェラーリ社に名刺を見てもらえました。そうしたら、レディオブックのロゴと名刺をカッコいいと言ってくれたんですよ。

だから、名刺交換を皮切りに、フェラーリ社と出会い、パートナーシップを契約するまでいたったんです。


―――名刺がきっかけになるのはユニークな体験ですね。

YUGO:僕の中で、名刺の役割は「プレゼント」だと思っているんですよ。

名刺交換の本来の目的は、相手の役職や名前を知るための「情報の交換」です。僕は、これはわざわざ名刺でやらなくても、SNSで良いと思ってます。Facebookなんかを調べれば、相手の情報はすぐに分かるし、その人がどんなことをやって来たのか、さらに一緒にいる人まで分かりますよね。だから、情報を取得するだけの名刺交換というのは必要ないんです。

でも、名刺交換というビジネスの慣習は残っています。なので、レディオブックの名刺をプレゼントのように、もらったら嬉しいものにしました。ビックリマンチョコのビックリマンシールをイメージしたら良いかもしれませんね。レア度の高いシールってもらったら嬉しいじゃないですか。それと同じです。

前田高志さんに名刺をお願いする時に、「情報は必要最低限で、前田さんが思う一番カッコいい名刺を作ってください」とオーダーしました。それが今回、良い方向に働きました。

デザインは「武器」、持つ者の理念が伴わなければ扱えない

―――では、デザインのおかげで、フェラーリ社とのパートナーシップが結べたのですね。

YUGO:はい、きっかけはデザインの力です。ただデザイン“だけ”でもダメです。


―――“だけ”というのは?

YUGO:デザインも理念もどちらも伴わなければいけません。分相応で、いくらデザインを良くしても、企業理念が伴っていなければデザインを持て余すだけ。今回も、僕がフェラーリ社の理念に強く共感したから、フェラーリ社とのパートナーシップ契約をしようと思いました。

そもそも、企業理念が不明確な企業に、良いデザインはありません。デザイナーさんにとりあえずかっこいいの作ってくださいとオーダーしても、企業の理念や企業の目的が分からないままではデザインのしようがない。いくら前田さんレベルの人でもデザインできないと思います。仮に僕がデザイナーだったら、僕はやりたくないですね。


―――「デザイン」には、それにともなった「理念」が必要なのですね。

YUGO:そうです。デザインそのもの自体は「武器」です。そして、それを「使う側」の理念が伴わなければいけません。

前田さんがいくら優れた人だったとしても、前田さんのデザインを扱う側が相応ではなかったら、利用できないんです。初めから良い武器を使おうと思っても、腕力が足りない。


―――では、YUGOさんも昔、前田と会っていてもデザインを頼んでいなかった?

YUGO:そうだと思います。僕が起業した当時は、前田さんは任天堂という大きな会社にいらして、僕とは月とスッポンです。僕自身が、前田さんのデザインを扱うにはレベルが足りませんでしたし、前田さんも今の前田さんのレベルではありませんでしたからね。仮に、その頃の僕らが出会っていたところで、前田さんから「いやー、副業禁止なんで」と断られていたかと思いますよ。


―――前田に初めてデザインを依頼したのはいつですか?

YUGO:2019年に、僕の中でも大きなイベントとなったのですが、『やりたくないことはやらなくていい』という本を幻冬舎から出版しました。

僕、ゲームが好きで、弊社のスマホブランド「i+Remaker (アイリメーカー)」のロゴデザインは元ゲームメーカーの人に作ってもらいました。前田さんも任天堂出身で、このストーリーって面白いと思ったんですよ。だから、ぜひ前田さんにデザインを手掛けてほしい、そう思ってTwitterのDMで直接、装丁の依頼をしたところが始まりですね。前田さんは幻冬舎の編集者、箕輪厚介さんと繋がりがあって、幻冬舎の繋がりの元、お話しをしたら承諾してくれました。

僕が幻冬舎で本を出せたのは、起業してから7年間の間で僕自身の理念が確立されて、ストーリーも築けたからです。そして、そのタイミングで近くに前田さんがいたから実現したわけで、いろいろなタイミングが重なって今があるんだと思います。

前田高志の真骨頂は「62:38」の黄金比と、振り幅の広さ

―――前田のことは何で知ったのですが?

YUGO:Twitterで箕輪さんの講演会のバナーデザインが流れてきて、それを見たとき純粋にデザインがかっこいいなと思ったんですよ。このデザインを作ったのは誰なんだろうと調べたら前田さんに行き着きました。それから、前田さんの作ってるデザインをいろいろ見た時に、この人なら自分の作りたい世界感をデザインしてくれそうだなと思ったんです。


―――具体的に前田のデザインのどこに魅力を感じたのですか?

YUGO:僕がデザインに求めるこだわりとして、「かっこよさ」の中にある「おもしろさ」のバランスを非常に重視してます。ポップ過ぎるデザインも嫌だし、いかにもかっこつけてる感じも嫌で、僕がデザインに求める黄金比が、かっこよさが62%、おもしろさが38%のバランスなんです。前田さんのデザインがこのバランスにぴったりハマりました。

前田さんのデザインはたくさん見てますけど、バランスを自分のさじ加減で調節できる人ってこれまで会ったことなかったので、そこは単純に感動しています。

―――バランス感覚に魅力を感じたのですね。

YUGO:前田さんの良さってこのバランスに感覚だけじゃないんですよ。デザインの振り幅が非常に広いことも魅力です。

音楽でいうと、ハードロックしかできないわけでは全然なくて、ポップなものもいける。うちの社員が独立した時にデザインのディレクションに入ってもらったんですが、レディオブックのデザインとは、また違ったものをデザインしてくれました。

それでいて、前田さんらしさは出ているのも魅力ですよね。例えばB’zの曲やサザンオールスターズの曲って聴いたらすぐに本人たちだって分かるじゃないですか。漫画で言ったらドラゴンボールの絵を見たら鳥山明先生の絵だって。それと同じで、前田さんのデザインは前田さんが作ったっていうのがすぐに分かります。

レベルをカンストさせるための相乗効果

―――レディオブックとNASUの関わり方は、現在どのようになっていますか?

YUGO:レディオブックでは今4つ新規事業を打ち出してて、前田さんはレディオブックのCBO、チーフブランディングオフィサーとして世界観を作ってくれています。

現状、今はNASUさん以外のデザイナーにもお願いしている状態で、当然、NASUさん以外でデザインを依頼すると意思疎通の面でワンステップ、ツーステップ遅れがちです。スピード感が遅くなるのが非常に勿体無いと思っています。

今後もレディオブックではいろいろなことにチャレンジしていくので、デザイン面もリソースが足らなくなるはずです。ぜひ前田イズムを自分のものにしたデザイナーが1人でも2人でも増えてくることを望んでいます。もっとNASUの皆さんにレディオブックのプロジェクトの全てをお願いできるようになれば、プロジェクトにスピード感が出ますからね。


―――では、今後NASUのメンバーに期待することがあれば、ぜひお願いします。

YUGO:レディオブックには「仲間のバリューを高めるためにまずは自分のバリューを提供せよ!」というメンバーの行動指針があります。これは、常に自分のレベル上げていけば、結果として仲間のレベルも上がっていくということです。

そして、自分で自分の限界を決めないでほしいです。レベル99では終わらないで下さい。ゲーム用語で言うとカンスト。レベル100にも120にもなってもらいたい。そのために、お互いの引きつけ合いから相乗効果を生み出してほしいのです。

僕が言うのもおこがましいのですが、前田さんも常にレベルを上げている。そのおかげで僕のレベルも上げてもらっているんです。

僕らもそこのアクセルを緩めないで、もっと走らなきゃいけない。そのためには、皆さんのレベルアップが必要です。僕は基本的にどんな形でも長い付き合いを考えてます。一発だけでは終わらない。だからこそ、皆さんのレベルアップを期待しています。


〈取材・ 文=菅井 泰樹(@gas_sugai)/ 撮影=ただの ちひろ(@chihiro146)〉