ふたたび生まれるアートプロダクト、ロゴの作り方 RENASCENCE編

『ふたたび生まれる』をコンセプトに、歴史や伝統を継承してきた素材を世界にひとつのアートプロダクトに生まれ変わらせることで、新しい価値を生み出していくブランド「RENASCENCE(レナセンス)」が発表されました。
日本時間の2月21日にはイタリアのマラネロにて、RENASCENCEのプレスカンファレンスが開催されました。レディオブック株式会社CEO/RENASCENE クリエイティブディレクターYUGOさんはRENASCENCEについて、こうコメントしています。
プロジェクトを始めるきっかけとなったスクーデリア・フェラーリが使用した素材を見たとき、何か大きなチャレンジが出来るのではと思いました。日本人特有の考え方である『もったいない』精神と「やりたくない事はやらない世界を作る」=「要らないとされるものも要るものに変える」発想から、これを利活用することで誰かが喜ぶものに作り替えることが出来たらこんなに素晴らしいことはないのではと考え続け、イタリアと日本の文化が融合した素晴らしいアートプロダクトの制作に至りました。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000031.000036536.html より引用

アートとして鑑賞するだけでなく、日々のライフスタイルに溶けこんで、普段使いできるいう、アートプロダクト。
プレスカンファレンスには、CEOのYUGOさんはもちろん、プロダクトデザイナーの新立明夫さん、レディオブック社のアドバイザーひろゆきさんなどが登壇し、世界的なプロジェクトの幕開けを感じさせる壮大なイベントとなりました。NASU代表の前田さんも登壇する予定だったのですが、諸事情により断念しました。

RENASCENCEは、スクーデリア・フェラーリが使用した素材に、日本の伝統文化を融合させて、スマホケースやアタッシュケースなど新たな形として命を吹き込み、蘇らせるブランドです。



このRENASCENCEのロゴをNASU代表の前田高志がデザインしました。

この記事では、RENASCENCEの軌跡とロゴの作り方をお届けします。
RENASCENCEの誕生
RENASCENCEの誕生は、レディオブック社が2020年3月にスクーデリア・フェラーリと公式パートナーシップ契約を結んだ時に遡ります。ちなみに、この契約のきっかけとなったのが、NASUでデザインした名刺でした。

また、同年1月よりレディオブック社のCBO(チーフブランドオフィサー)に代表の前田が就任。以降は、レディオブックのビジュアルの制作物は、NASUで制作・監修しています。
2020年の2月、パートナーシップ契約の調印のために、イタリアに渡航する直前、レディオブックCEOのYUGOさんより、前田さんに「スクーデリア・フェラーリ本社に行くので、ノベルティとしてオリジナルスマホケースを持っていきたいのですが、作れますか?」との相談がありました。そのとき、こんなやりとりがあったのだとか。
前田:できなくはないけど、イタリアに行くまで、時間が限られています。だからできたとしても既製品にプリントするとかですかね。それではYUGOさんが求めるいいものにはならないと思います。YUGOさんが前に話していたエアロコンセプトのマネークリップあるじゃないですか。あれ、いいですよね。
YUGO:あ!それだ!スクーデリア・フェラーリの素材でスマホケースを作ったらいいんだ!!
この会話が、のちのRENASCENCEに繋がります。
レディオブック社がパートナーシップ契約を結んだタイミングといえば、世界中でコロナウィルスが蔓延しはじめたころで、予定していた企画を泣く泣く断念せざるを得ない状況が続いておりました。そんな中でもスクーデリア・フェラーリの素材を使ったアートプロダクトを作るこの企画は、ずっと水面下で動いていました。
プロダクトデザイナー新立さんの登場で、一気に加速
2020年の当初から構想にはあったものの、プロジェクトが実際に動き始めたのは2021年の夏頃でした。新立明夫さんというプロダクトデザイナーに巡り会えたことで、プロジェクトは一気に加速します。
「スクーデリア・フェラーリが使った素材の特性と日本の伝統文化の融合を生み出し、ユーザーの五感を魅了する」というプロダクトコンセプトや「RENASCENCE」というブランドネームが決まりました。
「RENASCENCE」は「復興・復活」を意味している言葉で、最適なネーミングとなりました。
ロゴの作り方
前田です。ここからは、ロゴをデザインした僕が筆を執り解説します。
これまで捨てられてきた素材からの再生
2021年夏、新立さんからのプロダクトデザインの提案を見て感動しました。RENASCENCEというコンセプトからの日本の伝統工芸との融合。レディオブックらしい遊び心。ワクワクしました。このすばらしいアートプロダクトを伝えられるロゴにしようと意気込みました。
第一回目のロゴの提案です。RENASCENCEの文字にRENASCENCEを反転させた文字を重ね合わせています。

今回のアートプロダクトの背景には、これまで捨てられてきたスクーデリア・フェラーリの素材の利活用があります。そのような素材、つまりジャンク品に日本の伝統文化や技術という新しい要素を重ねることで新しく生まれ変わる、つまりジャンク品と新しいプロダクトを重ねることで新しく生まれ変わる=RENASCENCEを現しています。
世界的プロジェクトですし、想いをデザインで表現するというよりは、誰にでも伝わりやすいシンプルな考え方や構造が良いと思っていました。


通常、NASUでロゴをデザインする際は方向性を決めるまでの段階で、かなりの案を出します。ロゴと同時に最適なコンセプトを依頼者様と一緒に作り上げていきます。複数の案を出すことで最適な1案に辿り着くために、それだけ数が必要なんですね。しかし、今回はすでにコンセプトが明快でシンプル。ただ、それを最も体現するものを目指していきました。
「ふたたび生まれる(new born)」を形にする。ラフで数種類、造形を試しました。最初から考え方が定まっていたので方向性はすぐに決まりました。「スクーデリア・フェラーリが使った素材に日本の輪島塗りで命を吹き込み、新たなアートプロダクトとして再生する」という素晴らしいコンセプト。今回僕が為すべきことは、RENASCENCEの最適な造形を探る。コンセプトを最大化するデザインを成すことです。
特別な暗号である
最初の提案では、文字に和の要素を取り入れていました。
しかし制作中ふとこう考えました。「和」の要素は1要素として素晴らしいが、前に出たら「ふたたび生まれる(new born)」の要素と重なり複雑になてしまうのではないかと。
今回の主役はあくまでプロダクトであり、世界中の人に届けることが目的。だから、「和」の要素を取り入れるのはやめました。変にオリエンタルな要素とか、個性的なものを入れることで世界感を狭めない方がいいという理由もありました。
確かに届ける対象は世界なので狭めないほうがベターです。しかし、それと同時に世界中のあらゆる人がターゲットではありません。RENASCENCEは一個一個職人が手作業で作られます。全世界に広く向けたものだが、実際にこのアートプロダクトを手にする人は極々限られているのです。
このロゴは、RENASCENCEの文字に反転したRENASCENCEの文字を重ねています。それゆえ、パッと見では、読めないし、何かわかりません。

通常ロゴを作るときは、もちろん視認性を重視します。それはメジャーにするのが目的なことが多いからです。しかし、RENASCENCEは、知る人ぞ知る隠れた名店のイメージを出したかった。先ほど記述した通り、RENASCENCEは誰しもが手にするわけじゃないものです。MajorよりもSpecial。だからこのロゴに関しては、読めなくてもいんじゃないか、むしろ読めない方がいいんじゃないかという結論になりました。
今までなかった文字を組む
この今までになかった文字によるロゴという点で、文字と文字の間の調整、いわゆる文字組みにかなりの時間がかかりました。20年以上デザイナーをやってるのになんで!? 本気で焦りました。

それから、「S」の文字に注目してください。

通常のSと反転したSを重ねただけでは、上下対称になっていないので隙間が必ずできます。フォントはバランスを保つため錯視調整をしているからです。「S」は重ねた時に無限(∞、インフィニティ)マークのようになるので、あえて「S」を上下対照のものにしました。このアートプロダクトが無限の価値をもち、素材を利活用するサイクルが無限に続いていくことを象徴的に示しました。
金、銀で特別感を打ち出す
文字の色は、最終的に金と銀になりました。
このロゴはRENASCENCEのパッケージに使われることになっていたので、金と銀のロゴにして、箔押しにすることで特別であることを打ち出せると思いました。金と銀の箔押しって実は印刷会社泣かせであります。しかも細いライン。印刷会社に断られることがほとんどでした。かならず、印刷する時にズレるので。それを実現しているところも特別なことなんです。
グラフィックデザインは全ての起点になる
2021年の秋に僕はじめ、レディオブック社のメンバーは、再びイタリアを訪れました。

YUGOさんがプロジェクト全体の話をして、新立さんがプロダクトデザインをプレゼンをしました。僕はロゴの魅力を伝えるために、箔押しのサンプルカードを作り持参しました。お客さんが最初にロゴに出会うはパッケージ天面のロゴだから、それに近いイメージを見てもらうのが一番だと思ったんです。

スクーデリア・フェラーリ本社にて、このサンプルとロゴを使ったムービー、ちなみにこのロゴムービーはデザイナーの渡辺炎如さんに依頼しました。彼はグラフィックデザイナーで動画も作れるクリエイター。ロゴの意図を最大限に引き出してくれた動画になっています。
プロダクトを見てもらっているときは和やかな雰囲気でしたが、パッケージのサンプルを渡して、ロゴムービーを見終わった瞬間に空気キュッと引き締まるのを感じたんです。「あれ、なんかまずかったのかな?」と焦りました。
これは推測なのですが、思考のスイッチがビジネスモードに切り替わったんだと思います。ロゴはマーケットとの接点になるものだから。「これが世の中出ていくのか」とリアルにイメージしてもらえることができたからだと思います。
グラフィックデザインはエンドユーザーとの一番最初の接点で使われます。Webサイトや広告のイメージです。プロジェクトの途中でもリアルに展開イメージを想起し、プロジェクト全体の推進力の起点になる力がある。僕自身がデザインの力を再認識した瞬間でしたね。
ふたたび生まれて世界へ
RENASCENCEの軌跡とロゴの作り方についてお届けしました。
僕の著書『勝てるデザイン』のはじめにには「良いデザインは誰が見ても良いものです。Apple製品のデザインってだいたいの人が良いって言うじゃないですか。フェラーリは誰が見てもかっこいいって言うでしょう」と書いています。手前味噌ですが、今回のRENASCENCEのロゴは、誰が見てもかっこいいデザインができたのではないでしょうか。(補足しておくとカッコイイデザインを目指したわけではないです。正確にはコンセプトの体現と特別感)
これは、ひとえにコンセプトの素晴らしさのおかげです。いいデザインはいいコンセプトからしか生まれない。また、こんなふうに世界的なアートプロダクトのロゴデザインを手がけることができたこと幸せを感じています。改めてレディオブック社のYUGOさんに感謝です。
今回は、イタリアでのカンファレンスに行くことは叶いませんでしたが、世界中の人がレナセンスを手に取る姿を目にできたらいいなと思っています。
追記:レディオブックのアドバイザー ひろゆき、RENASCENCEについて語る。
3月下旬の某日、レディオブック社のオフィスにひろゆきさんの姿を発見しました。

ひろゆきさんは、レディオブックのアドバイザーとして2021年より参画。せっかくの機会なので、ひろゆきさん、YUGOさん、前田さんにRENASCENCEについて語っていただきました。
YUGO:ひろゆきさんのことは、ひろゆきさんのモノマネをしているひろゆかないさんに紹介してもらいました。弊社のアドバイザーとして入っていただくことになったのですが、うちって事業がたくさんあるんですよね。だから、ひろゆきさんに弊社の事業の中で何に興味があるか聞いてみたうえで、格闘技のBreakingDownとこのRENASCENCEのアドバイザーとして弊社に参画してもらうことになりました。
日頃はオンラインミーティングやLINEのチャットグループでの会話が主なのですが、昨年のアブダビグランプリの際は、対面でお会いしましたね。
ひろゆき:そうですね。YUGOさんを見ていてすごいなと思うのは、YUGOさんの仕事のやらないっぷりです。最高責任者=全ての流れを把握してますが、YUGOさんの場合はそうではない。

YUGO:(爆笑)。
ええっ、もちろん流れは知ってますよ!ただ、僕の場合、プロジェクトメンバーに全てを任せるんです。うちはプロフェッショナルな集団の集まりなので。
ひろゆき:じゃあ、YUGOさんは何のプロフェッショナルなの?
YUGO:「いいね〜」のプロですかね。
一同爆笑
前田:YUGOさんは常々「僕はポケモントレーナーのサトシくんだ」と言ってるんですよ。YUGOさんのすごさは、サトシくんとしてのすごさです。だから我々はポケモンなんですよ(笑)。
ーーーここまでのお話を伺った感じでは、ひろゆきさんはRENASCENCE事業において、プロジェクトのミーティングに参加してアドバイスをいただくという関わり方であっていますか?
ひろゆき:うーん、何もしてないですよ。
YUGO:「何もやってない」って言ってますが、僕の中ではひろゆきさんは、コンセプトやビジョンの周波数を相談できる存在です。僕ってさっきも話にあった通り、ポケモントレーナーのような存在で、ビジョンとか大局について考えるわけです。でも、ときにその周波数があってないなと感じる場合があるんですよね。そんなときは、ひろゆきさんに相談させてもらって周波数をあわせることが度々あるんですよ。
それから、RENASCENCEにおいてのひろゆきさんと言えば、なんと言ってもローンチの際のプレスカンファレンスですよね。イタリアの現地にも来ていただいたんですが、とにかく一番動いてましたからね。ひろゆきさんがいなかったらどうなっていたことやら。あんまり詳しくは書けませんが、現場の指示やファシリテーションがすごかった。

前田:それはすごいですね。ひろゆきさんは、どこでそういうノウハウというか経験を積んだんですか?
ひろゆき:ニコニコ動画の公式放送をやってたことがあるので、裏方は得意なんですよ。
前田:そうでしたか。現場までやられてたとは。
YUGO:せっかくの機会なので、RENASCENCEのロゴの感想をひろゆきさんに聞きますか?
前田:ええっ。ドキドキしてきた。

YUGO:どういう答えが返ってきても「それはあなたの感想ですよね」って言えばいいんですよ(笑)。
ひろゆき:うーん、率直に言うと(ロゴのスペルが)長いかなぁと。ルイヴィトンも、製品に入っているロゴ自体は短いじゃないですか?
ロゴの中に無限のマークが入ってたり、コンセプトはいいですよね。それから動画で見たときにすごく映えるロゴですね。
ただ、やはり製品のことを考えたら、この長さを載せるのは難しいだろうなぁ。
前田:なるほど。短くするのを躊躇したのは、並のブランドにしたくない。特別感、限られた人しか手に持てない、読めないようにしているんですよね。でも確かに短いロゴも今後必要になってきますね。
ひろゆき:イヴ・サンローランは、ロゴを短くしましたよね?あんな感じで短くするのが今の流れなのかなぁと思います。

前田:たしかになぁ。次のアップデートとして考えていきます。
RENASCENCEは、ロゴデザイン含め今後も進化してゆきます。ブランドの今後については、公式Twitterや公式ホームページの情報を随時チェックしてみてくださいね。
