NASU代表 前田高志がコンサルティング対談をおこない、その様子を記事にする企画「NASU CREATOR’S DIRECTION」12回目となります。

大阪・天満橋にある株式会社NASUのオフィスを「デザインのパワースポット」として完成させるために実施したクラウドファンディング。そのリターンの一つにクリエイターコンサルがありました。NASUが運営するクリエイターコミュニティ「前田デザイン室(以下:前デ)」の運営リーダーであるミッチーがリターンを支援していただき、対談を行いました。



ミッチーのプロフィール

ファンである任天堂について調べているうちに、元任天堂でNASUの代表・前田高志に辿り着き、前田デザイン室に参加。『マエボン3』制作の副編集長を務めたり、コミュニティ内で日々円滑なコミュニケーションを心がけているうちに、「コミュニティマネージャー」に興味を持ち、現在は運営リーダーに。「新しいことに飛び込みたい!」という気持ちをもって、クリエイターコンサルに。あまり知られていない「stand fm(スタンド・エフエム)」での前田のラジオを聴いたことがある、数少ないメンバー。



自主的な“いい場作り”に全力

ミッチー:前田さん、この間までボウズでしたけど髪の毛伸びてきましたよね?


前田:ボウズ少し伸びてきちゃったけど、ボウズ結構よかったよ。ミッチーもボウズにしてみたら? したことある?

ミッチー:中学生の頃に、1回あったような……。


前田:似合いそうやけどな。ボウズにしたら色々変わったよ。見た目から内面も変わっていくからね。


ミッチー:確かに、見た目から入るっていうのもアリなのかな。


前田:よし、じゃあボウズにしてみよう!


——なんのコンサル?(笑)


前田:髪型、短いほうがいいと思うんやけどなぁ。さて、じゃあコンサルに入っていこうと思うんだけど、ミッチーは前田デザイン室でコミュニティの運営のリーダーをやってくれているよね。前デに参加した当初は、どんな感じだった?


ミッチー:入ってからオンラインで色々見て回るのは面白かったんですけど、正直に言うと戸惑うことも多かったんです。例えば、プロジェクトの進行にはDiscordというチャットツールを使ってメンバー同士話をするんですが、その参加方法がわかりづらかったり、参加するハードルが高かったり……。

「みんなここに注意したらいいよ!」と思ったので、『はじめてのDiscord』という資料を作って、配布したのが一番最初でしたね。

実際の資料


前田:それ、ミッチーの活躍の始まりだったよね。


ミッチー:入会から1週間ぐらいでPDFを配布したので、今振り返ると自分でもびっくりしてますね。


前田:そこから『マエボン3』プロジェクトの副編集長もやってくれたよね。


ミッチー:そうです。『マエボン3』は、前デでの実績の代表だと思います。

完成披露会のnoteの中で、「5ヶ月間全力で駆け抜けた」と表現したんですが、まさにその言葉通りだと。

編集長とは、よく朝までZoomをしたりしながら、一緒に悩みながら走り続けて、戦友と言えるぐらい深く話しました。メンバーとも時に激しく、時にしょうもない話をしながら、とにかく走り抜けた。100人以上のメンバーと一緒に1冊を作り上げたのは、すごく濃い経験になりました。


前田:すごいなぁ。もう一回作れって言われたら、どうする?


ミッチー:得難い経験だったとは思いますけど、「もう一度やりたいか」と言われるとすぐの返事は戸惑いますね(笑)


前田:でも、ああいうモノづくりの「ヒリヒリ感」って時には必要だよね。それと、ミッチーといえば「アーカイブ」


ミッチー:ありがとうございます。入会時点で前デは丸4年経っているコミュニティでしたが、毎月の定例会やゲストを呼ぶイベントなど、頻繁にイベントを開催しているのでアーカイブがたくさん残ってたんですよ。

僕は、アーカイブを見るのが好きで、貪るように見ていました。ただ、めちゃくちゃ面白いのに保管場所が散在しているのが、惜しくて……。そこで、「一覧できる資料を僕が作れば、まだ見たことないアーカイブも誰かが見つけてくれるかもしれない」と思って一覧表としてまとめました。それをシェアしたら、思っていたより多くのメンバーに見てもらえた。

出してから1年と半年以上経ちますけど、いまだに更新は続けています。

2018年から現在まで全てのイベントが網羅されています!すごい!


前田:運営チームに入る前から、そういうコミュニティにとって“いい場作り”みたいなことを積極的にしてくれていたよね


——こんな人いないですよね、いい意味で。


ミッチー:ちょっとしたことなんですけど、そういうのが、自分が楽しくコミュニティを過ごすための工夫でもあるんですよね。

コミュニケーションの取り方もそうです。初めて自己紹介をしてくれた方には返信するし、質問があったら答えられなくても解決できるようになるべく会話をする。

自分自身が、ほかのメンバーとの会話を楽しみながら続けていたら、そこからどんどん輪が広がっていって、すごく多くの方と繋がりができました。今は「そうやって動いて良かった」と自分がいちばん思っているかもしれません。



働くことが、ずっと苦しかった


前田:前デのことばかり訊いたけど、それ以外の部分でミッチーはどういう人なんだろう?


ミッチー:じつは、前デ以外はあまりいい記憶ではないことも多くて。例えば、東京に出て慶應義塾大学に入るんですけど、卒業後、SEとして3年間勤めて病んでしまったり……。


前田:慶應って、すごいね!学部はなんだったの?


ミッチー:文学部で、ほんとたまたま……。


前田:たまたまで慶應には入れないよ。ただ、社会に出てから病んでしまったと。何があったんだろう?


ミッチー:ある先輩に、「こんなに使えないやつ見たことない」とか散々に言われて。でも僕を散々に言う先輩も、その上の先輩からまた言われていて。時代的にそういう会社も多かったとは思うんですけど。


前田:今いくつだっけ?


ミッチー:1985年生まれで、37歳です。


前田:確かに、その時代だとまだそうだったかもね。「お前が甘い。お前がしっかりすれば何も言われない」みたいな。


ミッチー:そうです。今、「退職代行」ってありますよね。当時あったら絶対使ったと思います。精神的に相当追い込まれて、とにかく仕事から逃げたかった。


前田:心配な状態だね。


ミッチー:そんな調子だったので、親が心配して来てくれて、無理やり退職して逃げるように実家に帰りました。

その後は、少しずつでもなじめるように静かな環境の職場で働こうと思って、図書館で1年間アルバイトをしました。

図書館の仕事はすごく良くて、だんだんと周囲からも評価されるようになったし、実際うまくいっていたと思います。1年経ち、「これを一生の仕事にしよう」と思って、司書の資格まで取りました。


前田:すごいじゃん!


ミッチー:図書館司書としての採用も無事決まって、働いていた図書館の方々にもそれをお伝えしたらすごく喜んでくれて。

それで司書として働き始めたんですが、1〜2週間であまりの業務の難しさに「とてもついていけない」と感じてしまって。最後は「もう無理です」と泣き崩れてしまいました。

何よりきつかったのが、お世話になった図書館の方に謝りに行ったとき。応援してくれたのに、すぐに辞めてしまったことが申し訳なくて謝りに行ったんですけど、その反応がすごく冷たくて。口を聞いてくれない人もいれば、「すごく怒ってる」っていう人もいて、それが本当にショックで。

それで、「自分は、何かおかしいんじゃないか」と思って、発達障害者支援センターにも通い、そこで悩みを聞いてもらったりもしていました。


前田:仕事や学力とは別の能力で、「何か、自分が足りない」という気持ちになってしまった。


ミッチー:そうですね、それで塞ぎ込んでる時期がありました。

今は、近くにある洋菓子工場で5年半ほど働いているんですが、元々「単純作業で誰でもできる」ということで応募したんですけど、経歴を見ていただいて「これなら単純作業よりも、生産管理系の部門のほうが向いている」と言われて、原料管理の仕事をしています。


前田:色々あったんだね。


ミッチー:だから、過去を話すと“失敗の連続”というか、ちょっと話しがややこしくなるので、自己紹介のときにはその辺は省いてお伝えしていることが多いですね。


前田:話がややこしくなるとは思わないけど、さっき「自分が、何かおかしいと思って」という話しをしてくれたときに、そういう風に考えるんだなぁとは思った。自分のことを追い込みやすいと言う意味では、やさしすぎるのが弱点になっている部分はあるかもね。



コミュニティと、書くこと


前田:それで、クリエイターコンサルに申し込んだ理由を、改めて教えてもらってもいい?


ミッチー:元々は、自分がKindleで電子書籍を何冊か出版しているので、そのことについて相談しようと思っていたんです。クリエイターコンサルを受けるまでには、「代表作」と言えるものを作って、それでこの場に望もうと思っていたんですよ。


前田:文学部の経験、生きてるじゃん!それは完全に一人でやってるの?どんな本?


ミッチー:先生というか、一対一で教えてくれる方がいてその方から色々教わって、税金や年金に関する本を出版したんですよね。(ミツル著『iDeCoの話』)そこそこ買っていただいて、印税が入ったりもするんですけど、今は執筆を止めていて。


前田:それはどうして?


ミッチー:その先生から「税金や年金が好きで興味があるの?」と質問されて、一般よりは詳しいし、「稼げたらいいかな」くらいの気持ちだったのでそう答えたら「それじゃあ続かないよ」と。「稼げなかったとしても褒められなかったとしても、好きで続けられるようなテーマじゃないと熱量が保てない」と言われたんですね。

年金や税金って、制度自体が更新されていくものですけど、確かにそれを熱心に調べて発信する気力は自分にはまったくない。かといって、熱が込もるテーマも見つかってない。「しょうもない本を量産しても」というのが、率直に執筆を止めてしまった理由です。


前田:じゃあ、本当に今相談したいことは別のこと?


ミッチー:そうですね。Kindle執筆中は一時離れていたんですけど、今いちばん力を注いでいるのはやっぱり前デのコミュニティ運営なんです。それをやるなかで「プロでもやっていけるんじゃない?」というお話ももらったりしたんですが、実際自分の中ではイメージがあまり湧かず……。

前デでの経験しかないのでその延長でやっていたらいつかは頭打ちになるし、それでプロを名乗るのは難しい。もっと活躍したり、役に立つならば、どんなことをやっていけばいいのかは悩んでいるところです。


前田:ここまですごく色々な話しをしてくれたので、すごく言いたいことがあるんだよね。まずKindle。その先生的な人が言う「好きなものをテーマに」は確かにその通りなんだけど、逆に全然興味もない分野のテーマを出版してお金にしてるというのは、普通できることじゃないと思うんだよね。

ミッチーって人が嫌がりそうとか、つまらそうということを結構淡々とやり遂げる能力がすごい高いと思っていて。前デでも、さっきのアーカイブを一覧にまとめるとかね。誰もやりたがらないようなことを一人でやっているじゃない?


ミッチー:誰も見ていないところで1年と半年以上、毎日続けてたりします。


前田:その根源って何に突き動かされているんだろう。誰かに喜ばれると思ってはやってないよね? 勉強するとかも「なんのために?」とか考えてやめたくなるじゃない。“しんど”って。淡々とコツコツとやってるときはどんなことを考えてるの?


ミッチー:あー……単純に「ほっとけない」という気持ちが強いかもしれないです。例えば、合ってるかわからないけど道に落ちているゴミは拾いたくなるし、アーカイブ動画の「抜け」が気持ち悪いので埋めたいとか。

……それをしないと落ち着かないのかな。


前田:ってことは、やってる時は落ち着くってことだよね。気持ち悪いことを潰していく感じというか、それが実はすごいことなんじゃない?

つまりミッチーが「ほっとけない状況」があれば、「それを良くするための作業は淡々とできる」。それってコミュニティマネージャーにはすごく向いている要素だよね。

ただ、会社に入ってコミュニティマネージャーをすべきかどうかは別の話で、それだと過去と同じことを繰り返してしまうとも思う。


ミッチー:そうですね。自覚しているのは、「時間に追われると焦るタイプ」で、仕事に時間をかけてしまうので、そこを求められるとうまくいかないかもしれない、と思います。


前田:それでKindleの出版だけど、執筆とかって自分のペースで作品が作れると考えたら、それは追われることなく、自分でやり切ることができるわけだよね。

かつ、コミュニティについても興味があって、コミュニティマネージャーの適性もある。だから、フリーランスとしてコミュニティマネージャーをやりながら、コミュニティについてKindleの出版を続けたらいいんじゃないかな。色々な著名人が発信している、過去のコミュニティについての情報を全部調べて、まとめていってもいいかもしれない。


ミッチー:電子書籍を出版して、100円でもいいから自力で稼ぐということを達成したときの手応えが、すごく大きかったんですよ。電子書籍の個人出版が今でもうまく稼げるのかはわかりませんが、過去の経験のノウハウはあるのでそれでコミュニティをテーマにまとめていくというのは挑戦してみたいです。


前田:電子書籍もいいし、コミュニティのWikipediaのようなものを作るのもいいと思う。色々な人の発信をアーカイブにしていくイメージ。コミュニティ・アーカイバー。どう?


ミッチー:「一覧にする」は、得意というか趣味でもあるからすごくいいかもしれません。



本当は人気者になりたい


前田:コミュニティ・アーカイバーはめちゃくちゃいいアイデアだと思うんだけど、ただ、ミッチーが今後どうなりたいのかにもよるんだよね。


ミッチー:それがはっきりしていないのが、僕もダメなところだという自覚があって。


前田:野望はないの? あるいは羨ましいと思う人とか。


ミッチー:うーん……ぱっと思いつく人だと、規模は色々ですが「人気者」と呼ばれる感じの人は羨ましいですね。


前田:人気者になりたいんだ。


ミッチー:そうですね。案外単純かもしれないですけど、結局モチベーションってそこに近いところにあるような気がします。ドラえもん的になれれば……ドラえもん、アンパンマン……。


前田:人気者はシンプルでいいけど、それだったらさっきのコミュニティ・アーカイバーは全然違うかも。


ミッチー:そこがブレブレなんで……。


前田:うーん……「コミュニティ」と「書くこと」が軸になるのは変わらないんだけど……。


前田:例えば、前田デザイン室って結構色々な人が見てくれていて、思っている以上に注目度が高いんだよね。それこそSNSで何万人というフォロワーがいる人たちも見ている。もし前デがコミュニティとして突き抜けて「めちゃくちゃ盛り上がってるじゃん!」っていう状況を作れたらミッチーにとっても絶対いいし、僕も嬉しい。

今も十分、前デの至らない部分を埋めてくれていると思うんだけど、ちょっと視点を変えて保守・運用じゃなくて、「攻めのコミュニティマネージャー」になるのはどう? ミッチーが得意なことで人気者になるとしたら、そこな気がする。


ミッチー:「攻めのコミュニティマネージャー」は、いいですね。


前田:前デが盛り上がれば盛り上がるほど、名指しで「あの人すごい!」という情報も出ていくし、自分でも「書くこと」で発信するわけだから、絶対ミッチーにもリターンが来るよね。

ただし、ミッチーの弱点はさっきも言ったように“やさしすぎる”こと。コミュニティマネージャーとしては今日、進行をしてくれている浜田綾さんのように、時には厳しいことも言う必要があるし、「前田デザイン室はそういう場じゃない」とはっきり言わなければいけない場面もある。


ミッチー:なるほど……。

「攻めのコミュニテマネージャー」を目指すにあたって、とくに綾さんを見ていて感じる自分の弱点があって。オンラインでのイベントは大丈夫なんですけど、リアルな対面イベントの企画・運営にはすごく弱いと感じているんですよ。


前田:どういう意味で、“弱い”と感じているのかな?


ミッチー:圧倒的に経験がないというか、仕切ったことがほとんどなくて。自分がやるとなったときのことを想像すると、多分足がすくんでしまうと思うんです。オンラインとは明確に差がある感じがして。それがすごく大事なスキルのような気がしているんです。


前田:そんなの全然気にしないでいいわ。ミッチーに、俺が1回目にやったリアルイベント見せてあげたい。


——前日に発熱して、当日めちゃくちゃ緊張してて、一番コメントしづらいタイミングで「浜田さんはどう思いますか」みたいなフリを私にしてきましたよね(笑)


前田:それが5〜6年前くらいだったかなぁ。今はさすがに緊張しないけど、でもそれってうまくなったからじゃなくて諦めたからなんだよ。

「こういうのは場慣れだから」って言われるけど、そんなのないから。うまくならないけど、でもいいじゃんそれで。それが自分なんだから。

俺が出ていたラジオ「stand.fm」を聴いてたって言ってくれたけど、俺、まったりと眠そうに喋ってたでしょ。別にラジオうまくないのよ。もっとシャキシャキ喋れる人はいくらでもいるし。でも、そこを直す必要はないと思う。うまい人はうまいでいいし。


ミッチー:諦める……ですね。


前田:リアルイベントの弱さなんて感じなくていい。ミッチーにはミッチーにしかできないことがあるんだから、それをやればいいだけ。苦手と決め込まなくても、慣れで解決する部分もあるから、前デでどんどん失敗を気にせずやってみよう。で、その成果をどんどん発信していく。


——前田さんのSNSのタイムラインは、“広告スペース”だと捉えて、「前田さんの周りにいつもいるな、この人」って思われるくらいやってもいいと思いますよ。


前田俺のタイムラインは、広告スペースっていいな(笑)。とことん利用してくれれば!


ミッチー:クリエイターコンサルの答えとしては、「攻めのコミュニティマネージャー」を意識して、それを発信をしていくこと……。


前田:うん、そうだね。それと髪型をボウズにすること


ミッチー:その案、まだ生きてるんですか(笑)。


前田:(笑)。どんどん攻める姿勢が大事。ミッチーは、前田デザイン室の中では既に人気者だけど、外から見ても「前田デザイン室にミッチーあり」と言われるくらいのコミュニティマネージャーを目指していこう!





〜クリエイターコンサルを終えた、その後のミッチーの様子〜




〈 文=郡司 しう(@Ushi_Jinguu)/ 編集=浜田綾(@hamadaaya914)、中山乃愛(@noa_liriope)/ 撮影・バナーデザイン=小賀雪陽( @KOGAYUKIHARU)〉