渋谷と表参道のまんなかに位置するビルの、半地下にひっそりたたずむ「青山ブックセンター(以下、ABC)」。

ネオンの看板が目印のABC外観

中規模な書店ながら、ワンフロアの店内でいろんなジャンルを回れるという強みを持ち、ABC独自の基準による棚づくりにも力を入れています。

そんなABCのアップデートを企てているのが、店長の山下さん。本の販売事業だけでなく、独自の工夫をこらした棚づくりや、あるときはひと月に数十本のイベントを開催するなど、書店の新しいあり方を模索してきました。

そして新たに足を踏み入れたのが“コミュニティ”。以前からABCと関わりのあったNASUは、「青山ブックセンターコミュニティー支店(以下、ABCコミュニティー支店)」の運営をサポートしています。

今回はABCの「ABCコミュニティー支店」を軸に、書店がコミュニティをつくる意味や、NASUの運営サポートについて語っていただきました。



もう一歩踏み込んだ、お客さんと“共犯関係”になるための「青山ブックセンターコミュニティー支店」

ABC店内 – 広々としたワンフロアにもABCこだわりが詰まっている


コミュニティを始めようと思ったのはなぜですか?

これまでABCでは数多くのイベントを開催してきて、書店としては珍しい取り組みに注目もされていました。しかし最近はもう、他の書店でもイベントの開催がスタンダードになってきていて……。リアル店舗を持つ書店のなかで、お客さんの時間を奪い合っているなと感じたんです。

イベントの開催もいいですが、ABCはそこからもう一歩踏み込んで、お客さんとさらに深い関係になりたかった。「書店に足を運び、本を買う」で終わってしまうのでなく、いわば“共犯関係”になれたらいいな、と。そしてまた、新たな角度から本屋を“拡張”できるんじゃないかとも思い、始めたのが「ABCコミュニティー支店」です。



ABCコミュニティー支店での活動はどんなものですか?

月1回、コミュニティメンバーの交流の場を設けていますが、現在はコロナウイルスの影響でオンラインでの開催となっています。他には、テーマに合わせた選書や、イベントのレポートなど。活動については、提案があればどんどん進めていく自由なスタイルです。

今までの活動で最も規模が大きいものでいえば、コロナ禍のなかオンライン上で開催した「AOYAMA BOOK CARNIVAL」

ABC・各業界で活躍する12企業・全国各地のみなさんがつながり、文化祭のような交流の場をつくりました。この「AOYAMA BOOK CARNIVAL」こそ、コミュニティのみなさんが運営に携わってくださって開催できたものです。

コミュニティにはいろんな業種の方がいらっしゃるので、ものごとの進め方も多様で、そして丁寧。自分も関わりながら見ていておもしろかったし、学ぶことも多い活動でした。



「青山ブックセンターが好き」という共通項でつながり、人と人との絆がさらに深まる

山下さんと「前田デザイン室」が出会うきっかけとなった「マエボン」


前田やNASUとのつながりは、SNSで発信していた「マエボン」(前田デザイン室で作った雑誌)をきっかけに生まれましたよね。やはり、SNSはよく活用しているんでしょうか?

特にTwitterは頻繁に使っていて、ABCの公式アカウントで周りのみなさんに絡んだりしています(笑)。 前田さんとのつながりも、“「マエボン」を書店に置きたい!”とツイートしていたのを見かけて、こちらからお声がけしました。SNSはいろんなきっかけを生んでくれています。

もちろん、SNSだけでなくリアルでの関係性も大事ですね。ここ最近は出会う方々同士が共通の知り合いだったりするので、どんなことでも、ひとつひとつ誠実に向き合っています。



つながりという面でも、コミュニティは活きていますか?

そうですね。今までは、お客さんと直接コミュニケーションを取れる場があまりなくて……。SNSに感想やメッセージを書き込んでもらっても、やっぱりすべてを確認するのは難しくて流れていってしまうんです。

コミュニティではそういった部分をしっかり可視化できたり、近い距離で意見をいただけたりして、人と人とのつながりが強まっているなと感じます。

あとは、メンバー同士の新しい出会いもありますよね。「本屋が好き」「ABCが好き」という共通項があるからこそ、より深い絆が結ばれるのではと思います。



コミュニティを始めてみて感じた良さと、青山ブックセンターの新たな挑戦


コミュニティ運営も1年が経過しました。ここまでを振り返り、ABCにとってプラスになったことを教えてください。

なにより、「お客さんの顔が見える」って大きいメリットですよね。実際のお客さんはどんな方で、なにを考えているのかが、お互いに確認できるんです。しかもそれが、ポイントカードを見てわかる「よく来てくれるお客さん」でなく、もう一歩踏み込んだ関係を築けるようになりました。

もうひとつは、コミュニティメンバーが協力してくださるおかげで大きなイベントが開催できること。正直、どの書店も社員やスタッフが少なく、あまり手のかけたイベントはできません。そんな中、ABCではメンバーの力を借りて、イベント自体も“拡張”していってます。

メンバーのみなさんは、遠すぎず・近すぎずのほどよい距離感で意見をくださるんですよね。匿名のアンケートでいただく意見とは異なり、顔を合わせる関係性ができている方々からの意見は、ABCにとっても大きなプラスです。



逆に、反省点やこれからの課題はありますか?

コミュニティの運営自体、走りながらも模索している状態なので、一緒に築き上げていく良さもありつつ、「どういう関わり方をしたらいいんだろう……」と戸惑う方もいたのではと反省しています。

ただ、「もうちょっとどうにかできたんじゃないか」と思う部分はあっても、そこに正解はなくて。もしちがった形でやっていたら、今残ってくださっているメンバーはいなかったかもしれないですよね。「コミュニティは生き物だ」とよく言いますが、そういったところにこの言葉の意味をすごく実感しました。



これからのABCコミュニティー支店は、どのようなあり方を大切にしていきたいですか?

僕が旗振り役になって活動していくよりかは、集まったメンバーによって方向が変わっていくほうが望ましいです。つまり、コミュニティそのものが“自走”できる状態。

前者だと、例えば僕が「こうしたい」「こうありたい」ともっと強く道を示すこともできます。誰かが旗を振ってくれているほうが集まりやすくて、向かう方向も明確。コミュニティのあり方としてはわかりやすいですよね。

でも長期的に考えると、自分がいなくなったり動けなくなったりした瞬間にコミュニティも止まってしまうことを危惧していて。そもそも、僕個人のコミュニティになってしまうと「本屋がコミュニティを持つ」という趣旨から外れてしまいますし……。

だから、旗振り役がいなくても活動がつづいていくコミュニティにしたいんです。実際に自走できているところって、まだないんじゃないかな。前田さんのコミュニティも、基本的には「前田さんがいる」という前提が大きいですよね。でも、だからこそ、ABCが挑戦していく意味があります。



“コミュニティメンバーがオーナーを務める書店”へと生まれ変わったのはなぜ?



9月からはコミュニティのあり方をさらにアップデートしたのだとか。どのようなところで変化があったのですか?

これまで僕が務めてきたABCのオーナーを、コミュニティメンバーに任せています。名称も、「青山ブックセンター」から「青山ブックセンター コミュニティ支店」に変わりました。

先ほどの話のように、僕や会社の都合でコミュニティの動きが止まってしまったこともあり……。独立するというわけではありませんが、今よりもう少し明確にお店とコミュニティの立場をはっきりさせていきたいです。今後はコミュニティメンバーが中心となってどんどん動いてもらえたらと。



“コミュニティメンバーがオーナー”ってイメージしにくいんですが…… どういったものですか?

ひとことではイメージしにくいですよね。でも実は、これこそが前田さんのご提案によって実現したことなんです!コミュニティが自走していくためにおこなう取り組みのひとつで、これからはコミュニティメンバーが交代でオーナーになっていきます。自走させることに加えて、他には類を見ないやり方・コミュニティのあり方です。

青山ブックセンターコミュニティー支店 募集ページより

ただ、コミュニティの活動を仕事のような感覚にはしてほしくなくて。例えば「スキルを得たい」といったことでなく、「ABCを拡張したい・応援したい」という目的で集まってくださっているので、その良い関係性は崩さずに継続していただけたらと思います。

僕らも少しは関わりを保っていきますが、一歩方向を間違えるとオーナーが下請けのような状態になってしまう。そのあたりのバランスをとっていくことが次の目標です。

最初にお話したとおり、あくまでも目的はABCの“拡張”。従来のように「本を置く」だけでは書店を続けるのも難しいので、それ以上になにができるか。まだまだ模索中ですが、リニューアルした体制で新たに見えてくる課題もあるはずです。



第三者の客観的な視点から、コミュニティ運営をサポートしてもらって見えた展望



NASUの運営サポートでよいと感じる点は?

NASUさんの運営サポートでは、実際に運営に携わっていただきながらご意見をいただいたり、方向性について一緒に話し合ったりしています。あと、僕がくじけそうな時は勇気づけていただいたり(笑)。 そもそもコミュニティをやろうと決めたところからサポートしていただいてるので、「ABCコミュニティー支店」が立ち上がったこと自体、NASUさんとの連携で実現したことです。

実際に成長し続けているコミュニティを運営している方に、培ってこられた経験をもとにサポートしてもらえることはかなり大きいですよね。僕自身、NASUさんの活動をずっと見てきたからこそ、信頼を置いています。前田さんも、ABCのコミュニティをサポートしながらうまくいったところは取り入れているだろうし、うまくいかなかったところは改善していけますよね。お互いに活かし合える関係がとても貴重です。

あと、ABCの魅力って当事者の自分たちではわからなくて。そういった部分を客観的に見てくださるので、「自分たちからしたら当たり前なことも、外から見たら良さに見えるのだ」と気づきました。



今後、どのようにコミュニティを運営していきたいですか?

今はNASUさんにがっつり絡んでいただいてますが、コミュニティも「自走する」ことを目標に掲げているので、いい意味でNASUさんから「卒業」できたらいいなと思っています。もちろん、お別れという意味ではないですよ!(笑)。

飛行機で例えるなら、今は発射台から滑走路を一緒に走ってもらっている状態。これからは「自分たちでどのように飛べるか」を考えていきます。正解がどこにもない難しい道だからこそ、実現できたらお互いにとって大きな一歩になりますよね。自走までの道のりを、引き続き一緒に進んでいただければと思います。



コミュニティが、青山ブックセンターの未来を担っていく。

ABC外観 – あたりが暗くなるとネオンが一層際立つ


書店という枠にとらわれず、あらゆる取り組みを生み出し続ける山下さん。最後に、今後やりたいことはあるのかとうかがったところ、「イベントはもうたくさんやっているので…… 次は、スタッフを育てられる環境を作りたいです。自分がやらせてもらったことを、今度はスタッフに伝えていきたい。」と教えてくださいました。

コミュニティの話でも「自分が旗振り役でなく」とおっしゃっていたのと同じように、「ABC=山下さん」といったイメージをうまく中和したいとのこと。そんな想いが伝わっているのか、ABCではこれからも書店員を続けたいというスタッフが増えているそうです。取材後にも、山下さん自ら売り場に出て、スタッフと棚を見ながら話されている姿が印象的でした。

これからも、生まれ変わった「青山ブックセンター コミュニティ支店」や、オーナーとなるコミュニティメンバーにも目が離せません。もちろん、NASUも全力でサポートしていきます。


〈取材・文=小泉京花(@koizumi0518) / 撮影=西形美穂(@min0237)〉