「デザインを依頼する時、何が良いのか、何がダメなのか、ちゃんと理由を付けて言わないとデザイナーも分からない。クライアントとして、デザインを頼むからにはしっかり伝える義務があるんです。これがクライアント側としての筋だと、僕は思いますね」と田端大学の塾長、田端信太郎さんは言います。

今回のNASUメディアでは、前回「ロゴの制作過程」の続きとして、「クライアントとデザイナーの関係」をテーマに、田端塾長と前田の対談をお届けいたします。

クライアントがデザインを依頼する際のお作法、そしてクライアントとデザイナーの理想の関係はいったい、どのようなものでしょうか。



シンプルかつパワフルなデザインが持つ、ワンメッセージ

───以前、田端さんはクロネコヤマトのロゴデザインが良いとおっしゃていましたね。それは、なぜですか?

田端:僕はデザインを手段、もしくは言い方が悪いかもしれませんが「機能・ファンクション」と捉えています。

企業が持つ理念や姿勢を言語より早く伝えられる手段。クロネコヤマトは、企業姿勢の中に「常にまごころを込めた良質のサービスを提供し、お客様に満足をお届けします。」や「商品・サービスの情報を適切に提供します。」と書いてあります。ロゴには「母親猫が子猫を運ぶように、あなたの荷物を大切に運びます」という、意味が込められていますよね。

要は、良質なサービスを母親猫に変換して表しているんですよ。それを感覚的に伝えられているのがすごいんです。

前田:ほとんどの人間が同じ感情を抱ける、ワンメッセージが込められていますよね。

田端:単純に運べばいいってわけではなくて「大事に運びます」という、クロネコヤマトが持つホスピタリティを表せている。それが20万人ぐらいのスタッフさんに伝わっているのも実感していますし、一気通貫で実現しているクロネコヤマトのパワーはすごいと思います。


───デザインがビジネスに与える影響が大きいのですね。

田端:デザインって、カッコいいかどうかを抜きにして見ると、手段としてすごくパワフル。

例えば、ユニクロ。ファッショナブルなのか、という議論をたびたび目にすると思います。ですが、ユニクロの良いところは、シンプルで伝わりやすいところ。なんとなく、今流行りのファッションデザインを取り入れて、時代の雰囲気に乗ったものじゃないんです。

「今、これが流行りなんです」っていわれるより、「寒いからヒートテックどうですか?」と言った方がシンプルかつパワフルに伝わるじゃないですか。仕事としてのアウトプットは良いものだと思います。結果的に見ても上手くいっているのだから、その点は誰も否定できませんよ。

前田:確かに、曖昧な物よりも絶対的なものの方が大事にされますね。

田端:それこそ、任天堂だって、ファミコンに角がないのは、子供に当たってケガをさせないためのプロダクトじゃないですか。しっかりとした理由がある。雰囲気でデザインしないのが、プロのデザイナーだと僕は思います。



クライアントとしての筋を通すべし


───デザインの教養は、どこで学んだのですか?

田端:実は、これまで僕がデザインに意見を言うことはなかったのです。プロジェクトチームの中で、営業という立場で所属することが多かった。

前田:そうなんですか? 田端さんの仰ることは、すごくクリエイティブですけどね。

田端:これまでの経験で多かったのは、ブランド側とデザイナー側の間に入って進めること。よくブランドサイドとクリエイティブディレクターでも揉めているところを、見てきましたからね(笑)。 気を付けていたことはたくさんあります。

前田:それは聞きたいです。クライアント側として、いつもどんなことを気にしているのですか?

田端:昔から「もっとカッコよく」とか「もっと面白く」、「なんとなく、これは良くてこれはダメだ〜」というような、抽象的なデザインの発注をたくさん見てきた来たんですよ。発注でお互いに意思疎通できていない状況。

前田:あー、よくありますね。「良い感じにお願いします」なんて言われたら、デザイン側は困りますよ。好き勝手やりたくなります(笑)。

田端:「カッコよくってなんやねん!具体的に言ってもらえませんかね!」ってなるじゃないですか。見てるこっちもヤキモキしてしまう。だから、僕はそういう抽象的なことを、絶対に言わないようにしてます。何が良くて何がダメなのか、有りか無しを理由を付けて言うようにしています。


───指示の仕方は意識されているんですね。

田端:もちろん、デザイナー側しか分からない領域ってあると思うんですよ。そこは尊重するべき。ただ、発注する側も言語の解像度が上がってないとダメなのです。

前田:確かにそうですね。自分のカッコいいと相手の人が思ってるカッコいいは全然違いますから、しっかり擦り合わせしないといけないですよね。僕もメーカーでクライアント側に立つことあったので、感覚的なことでは喋らないように気を付けていました。

田端:これは発注者としての筋でもあるんですよね。一緒に一つの制作物を作るチームですから、曖昧なことを言ってデザイナーさんのモチベーションを下げない。常にバランスを取る。クライアントとして、チームをまとめ上げるための筋だと思います。


決定権は、少人数にするべし


───そのほかにも、気をつけていることはありますか?

田端:制作において決定権を多く人に持たせないことは大切ですね。

田端大学の新ロゴを作る時は、僕と前田さんの2人でほとんど進めたと思います。僕は田端大学の取締役陣には、ちらっと見せたぐらいです。こういうものは最初から合議で決めるべきではない。

前田:それは、デザイナー側としてもありがたいですね。実は合議でめちゃくちゃになるケースが意外と多いんですよ。合議をした結果、あれもこれも入れようと全ての要素を取り入れて作ったものが「結局なにを作りたかったんだっけ?」というものになってしまう。

田端:あるあるですね。絵の具を全部混ぜて、結局黒になったみたいな。結局、全部を継ぎはぎしたものを作っても、誰もハッピーになりませんからね。

前田:デザイナー側も自分のデザインに不安になると、色んな意見聞くようになってしまうんですよ。

田端:逆に決定権が自分より上にある時に、上の一言で全部なしになるってことがありますね。ちゃぶ台返しが起こった瞬間に、作ってる方が「じゃあ、今までのなんだったの?」って絶対になる。いくらクライアント側がお金を払っているからって、マナーというものがありますよ。

前田:今回、田端さんとご一緒して、より良いものを目指す意識ができました。鋭いクリエイター目線が新鮮でしたし、こう言ってはなんですけど楽しかったですよ。

田端:そうですか? ありがとうございます(笑)。



オリエンテーションから本気に取り取り組むべし


───クライアント側にも、良いデザインを作ってもらうための振る舞いが必要なのですね。

田端:僕も分かったつもりで偉そうなことを言えませんが、これは誰も教えてくれない難しいところですね。

デザイナーさんは、ある程度教育システムが整っていたり、昔ながらの師弟関係があると思うのですが、クライアント側は正しく発注するためのマニュアル的なものはありません。本当に難しいところです。

前田:確かに。


───具体的にデザインを頼む時は、どのような工程を踏むのですか?

田端:ロゴデザインの依頼だけではなくて、広告でCM、PRの制作物を依頼する時は、オリエンシートというものを書きます。これがプロジェクトの始まりに必要なものなのですが、みんなちゃんと書けないんですよね。

良い営業マンは、しっかりオリエンテーション重ねて、抽象的な話を徐々に明確にしてオリエンシートに落とし込んでいく。そして、それを元に適切なスタッフを選ぶのです。声が掛かったスタッフも、自分が必要だと言われたら気持ちいいじゃないですか。モチベーションの高いスタッフを集められるから、結果としてクライアントが満足する物が作れるのです。

実は電通、博報堂のイケてる営業マンは、これが上手に書けるんですよ。

前田:そうかもしれないですね。任天堂の時に、元広告代理店のスーパークリエイターの方がいて、すごくいい感じにまとめてました。

田端:僕がなんとなく思うのが、サントリーや資生堂みたいな会社はディレクション能力が伝統的にズバ抜けて高い。

逆にそれって、単にうるさいクライアントという訳ではなくて、受注するクリエイター側にとっても「あそこは良い意味で手強いから手が抜けない」「本質的なところまで見てくれるからやりがいもある」と思わせられるのです。これって凄く美しい関係だと思います。単にお金があればできることではありませんし。

前田:そういった存在がクライアント側に一人でも居るだけで違いますね。

田端:良い意味の緊張感が持たせられますね。



経営の傍にデザインあり、両輪の関係であるべし

田端:僕の経験上思い返すと、リクルートの営業と亀倉雄策先生の関係が一つの雛形だと思っていますね。

前田:最強ですね。


───どういった関係ですか?

田端:リクルートの創始者の江副浩正さんって基本的にやり出したら止まらない人なのです。部下に「ちょっとお金使いすぎじゃないですか?」って言われても止まらない。

で、リクルートの前のロゴ、カモメのデザインは亀倉先生が手掛けたものなんですが、デザイナーという立場を超えて、今でいう社外取締役的なポジションの役割を果たされていたんです。江副さんは部下が何を言っても耳に入らないけど、亀倉先生に言われると「確かになぁ」って言って止まるんですよね(笑)。

要は、亀倉先生は単なる「企業ロゴをデザインしたデザイナー」という枠を超えて、会社としての在り方をしっかりと見てくれる存在になっています。

前田:モスバーガーでも似たところがありますよね。デザインを担当するDRAFTの宮田識さんは、デザイン以外のところで怒ったりするんですよ。例えば、店舗の掃除が行き届いていないとか。

田端:そもそもデザインに関係ないことは無いと思います。どんなに看板を良くしたって、お店の中が汚かったら嫌じゃないですか。

前田:会社によってはクリエイティブディレクターがスタッフのネクタイの色まで決めていますからね。そういう関係になれるのが理想だと思います。

田端:クライアントとデザイナーの関係って、お互いが見えないところを見てくれる関係で、経営者とデザイナーが共に歩める存在だと最高ですね。

前田:経営の傍にデザインあり。

田端:そうです。両輪ですね。



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〈取材=浜田 綾(@hamadaaya914) / 文=菅井 泰樹(@gas_sugai)/ 撮影=ただの ちひろ(@chihiro146)〉