広告は私たちの日常に溢れています。

楽しく観ていたTVの途中に挟まれるCM。Twitterのタイムラインに流れて来るプロモーション。YouTubeの動画の途中に流れる広告。

正直「鬱陶しいなぁ…」と思ってしまうことも多いですよね。
一方で、広告が話題になる場合もあります。例えばこんな広告。



元気をもらったり、気づきを得たり、ときには広告が発端となって社会を変える一大ムーブメントに発展することも。

広告には人を動かす大きな力があります。ただ、その力を活かせるかどうかは広告に込められたメッセージ次第です。

SNSと共に育ってきたミレニアル世代、Z世代とも共存し、広告の力を最大限に発揮するにはどうするべきなのか。そのなかでデザインが果たす役割とは。

『広告がなくなる日』著者の牧野圭太氏と、『勝てるデザイン』著者の前田高志。初対面のクリエイターふたりが、「広告とデザイン」のこれからを語ります。

※本対談は、5月25日に青山ブックセンターで開催されたトークイベント【『広告がなくなる日』『勝てるデザイン』刊行記念「僕が聞きたい広告の話、僕が聞きたいデザインの話」牧野圭太×前田高志】を再構成したものです。

牧野 圭太さん(写真右)
DE Inc. Co-CEO
1984年生まれ。早稲田大学理工学部卒業。東京大学大学院情報理工学系研究科修了。2009年博報堂入社、コピーライターに配属。HAKUHODO THE DAYを経て、2015年独立し、株式会社文鳥社設立。1作品最大16ページという「文鳥文庫」を制作。2016年カラス設立、代表取締役就任。2017年エードット取締役、2019年取締役副社長就任。「Oisix」と『クレヨンしんちゃん』のコラボレーション広告、旬八青果店の立ち上げなど、話題性のある広告やプロモーションを手掛ける。2020年末にエードット副社長を退任。DEを共同創業。

前田 高志(写真左)
デザイナー/株式会社NASU代表取締役/ 株式会社VIEW代表取締役/前田デザイン室室長


SNSが広告のルールを変えた。必要な情報は「届ける」から「届く」時代


前田:Twitterではよく絡みますけど、リアルにお会いするのは “はじめまして” ですね。

牧野:そうですね。名刺交換から始めないと。

前田:改めましてよろしくお願いします。

牧野:よろしくお願いします。

前田:牧野さんはもともと、博報堂でコピーライターをやっていたんですよね。

牧野:はい。入社したのは2009年で、Facebookの創業をテーマにした映画『ソーシャル・ネットワーク』が公開されて話題になった年でした。日本でもTwitterをはじめ、SNSが一般的になってきたころでしたね。そういう意味ではビジネスパーソンとして最初の「SNS世代」でもあります。

前田:SNSの登場以降、広告のあり方は大きく変わりましたよね。それまではマスメディアを介した広告に頼らないと情報が得られませんでしたけど、今はSNSで誰かが伝えてくれる時代になりました。

牧野:広告のルールを変えてしまいましたよね。かつてはフィールドがマスメディアにしかなかった。テレビ、新聞、雑誌をはじめとした限られた中でクリエイティブを競い合ってきました。SNSは、その一定だったフィールドを無限に広げてしまったんです。一人ひとりが “情報を発信するメディア” になったわけですからね。

前田:一方で、広告クリエイターの存在感が薄くなった印象があります。2000年代には今なお語り継がれる広告クリエイティブがどんどん生まれ、クリエイターとして名を上げる人もたくさんいましたが、今はめっきりです。

牧野:最近はクリエイターよりも、PRやデジタル分野に詳しい人の方が活躍しています。結局、広告業界全体が、未だに変化に追い付いていないんだと感じます。「広告=マス広告」という意識が根強い。だから僕は新しいコミュニケーションのほうに挑戦したくて独立したんです。「マスメディアに頼らないコミュニケーションの領域にこそ、めちゃくちゃ面白いフィールドがあり、今の時代に合ったクリエイティブがある」と。

前田:そうだったんですね。確かに世の中の変化に合わせて、広告のあり方を変えていくべきだと感じます。

牧野:はい。ただ、残念ながら今の広告の大半は情報が届かないから、消費者に情報を無理矢理に届けようとしてしまっている。Web広告は最たる例で、ユーザーが求めていないのに勝手におすすめしてきますよね。いわば押し売り状態だから嫌われてしまうんです。

前田:SNSを見ていると、自分に必要な情報は自然と届きますからね。消費者の間でシェアされて広がっていく。それを踏まえてコミュニケーションを設計する必要があります。

牧野:まさにそうですね。ただし、短絡的に「どうしたらSNSでバズるか」を考えても意味がなくて、本質的には放っておいても消費者にシェアされる “求心力を持ったブランド” に育てるしかないんです。そこにこそクリエイティブの価値を発揮すべき時代になっていると思います。


物事の見せ方を変え、価値を与える─クリエイターの真価は“視点”に現れる


前田:広告のあり方が変わるなかで、「広告」という名称が変わらないのはミスリードかもしれませんね。

牧野:言われてみるとそうですね。ちょっと代替案が思いつかないですけど(笑)。

前田:広告の変化に合わせてクリエイターの役割も変わってきているものの、意外と固定観念が根強くないですか? デザイナーと言うと、見た目を整えて、きれいに見せる仕事だと思われがちです。

牧野:それはありますね。コピーライターは、キャッチコピーや短い文章を書く人だと思われています。

前田:デザイナーもコピーライターも、結局は「つくる」っていうところにフォーカスされているからだと思うんです。間違ってはいないんですけど、それだけじゃないんですよね。

牧野:めっちゃわかります。コピーライターの仕事の価値はなんだろうって考えたときに、最近話題になった「闇落ちトマト」が良い例だと思うんです。熟しすぎて売れなくなったトマトを逆手にとって、むしろ今が食べごろだと謳いました。見せる世界を一気に変えましたよね。これがコピーライターの仕事だなと。つまり、言葉を起点に物事を考え、価値を変換することに意義があるんです。

前田:グラフィックデザイナーに関して言えば、ありたい未来を形で見せるのが仕事だと僕は思っています。広告にしても、クライアントが企業としてどうありたいのか、社会にどう見られたいのか、本質を捉えることを大切にしています。

何となく良い見た目でも、きちんと意味が備わっていないと本来伝えるべきメッセージが全く伝わらなくなってしまいます。そういう点では、意味をデザインするのもデザイナーの仕事だと考えています。


牧野:結局、クリエイターの捉え方、伝え方次第なんですよね。アイデアひとつで物事の見せ方を変え、新しい価値を与えられる。広告クリエイティブで解決できる課題は、まだまだたくさんあると思います。

前田:「闇落ちトマト」然り、アイデア一つで一発逆転できるわけですからね。どこに焦点を当て、価値を見出すかという部分に、クリエイターの真価が問われると思います。


学生に文系/理系“デザイン系”という選択肢を


前田:広告クリエイティブにおいてデザインが担う役割は非常に大きいです。広告に限らず、ほかにもデザインが活躍できるフィールドはたくさんあるんですけど、なかなかその可能性を感じてもらえていないんですよね。

牧野:めちゃくちゃ面白いし、可能性を秘めた領域なんですけど、僕自身も社会人になるまで全く興味がなかったのが正直なところです。でも、社会人になると絶対に必要なスキルじゃないですか。資料づくりにもデザインが求められますし。それなのに美大を除けば、ほとんどの大学にデザインの専門学科は存在しない。高校生のときに、美大への進学を志した一部の人だけ学ぶのが実情です。

前田:僕はデザインの専門学校で講師をしていた時期があります。そのとき実感したのは、数少ないデザイナー志望の人たちに教えているだけでは抜本的な解決には至らないということです。デザイナーを志望する人以外にも、デザインの価値を知ってもらう啓蒙活動が必要だと思いました。

牧野:僕は学生時代にデザインを学べたらどんなに良かっただろうと思うんですよね。本来は、文系・理系・デザイン系から進路を選ぶくらい学ぶ価値がある分野だと思っています。いずれ幼少期からデザインを学べる仕組みを作りたいんですけど、まずは社会人向けに地道に啓蒙していくのが先決だと考えています。だから、前田さんがやっている「前田デザイン室」は、すごく意味がある活動だと思います。

前田:そう言ってもらえると嬉しいです。正直、教育が一番の目的というわけではなくて、最初は仕事の閉塞感を解消する場所をつくりたかったんです。ひとりで仕事をしていると、思うようなクリエイティブができなかったり、周りのクリエイターの活躍に焦りを感じることがあるじゃないですか。

牧野:ありますね。周りに話せる人がいないと特に感じます。

前田:僕は「クリエイターストレス」と呼んでいます。これを解消するには、誰かと出会うのが一番だと考えています。コミュニティの中で色々な人と出会うと、普段の仕事では得られない “気づき” があります。それが自分の成長にも、閉塞感の解消にもつながると思うんです。

(前田デザイン室Webサイト)
https://whats.maeda-design-room.net/

牧野:確かに。誰と会うかってそんなに重要じゃないですよね。どんな人からでも気づきは得られますから。

前田:そうなんです。意外なことに「前田デザイン室」にはデザイナーの人は半分もいないんですよ。

牧野:むしろデザイナーじゃないほうが、デザインに触れることで得られる気づきも多そうです。

前田:そうかもしれませんね。改めて思うのは、デザインはデザイナーだけのものじゃないってことです。これは『勝てるデザイン』でも特に伝えたいことでした。僕はデザインの概念を広く捉えて、「ある目的を達成するために選択肢を増やし、その中から最適解を選ぶ行為」と定義しています。だから、その日に着る服を選ぶのも、夕食の買い物をするのもデザイン。みんな何かをデザインしているんです。それだけ身近なことなのに、専門性が必要な分野だと思われて、デザインを語ることを敬遠されてしまうのが残念で。

牧野:おそらく前田さんも僕も見据える先は一緒で、もっとデザインの価値をたくさんの人に知ってもらうことにありますよね。

前田:まさにそうですね。僕はもっと色々な人のデザインの話が聞きたいんですよね。色々な人の意見が飛び交うことで、デザインはもっと進化していくはずです。可能性を秘めた領域だからこそ、その価値をたくさんの人に伝えていくのが、自分の役割でもあると思っています。


社会性あるクリエイティブは、“個がやりたいこと”を突き詰めた先に生まれる


前田:最後に、これからの広告の話をしましょう。今やテレビでもSDGs(持続可能な開発目標)が頻繁に取り上げられるようになりました。これから企業には、社会のために自社が提供できる価値を明示することが一層求められるようになるはずです。広告も、社会性を持ったものにさらにシフトしていきそうですね。

牧野:そうですね。3年ほど前、アメリカの大手資産運用会社が女性の地位向上を訴えた「Fearless Girl」キャンペーンが世界中に広まりました。広告効果もさることながら、同社の投資先で女性取締役が約300名も誕生しました。これは僕自身が一番好きな広告で、今の時代に求められる広告の役割を示していると思います。



前田:良い事例ですね。メッセージを伝えるには、広告という制作物をつくるのが最適解とは限らない。クリエイターには従来のやり方にとらわれない発想が必要になりますね。

牧野:はい。僕も防災・減災の普及啓発を目的に、渋谷区を巻き込んで「もしもプロジェクト渋谷」を立ち上げました。課題を解決できるなら、仕組みをつくったっていいんです。



前田:クリエイターとしては、クライアントと社会との間に立ったうえで、メッセージ発信を支えることが大切になりますね。

牧野:一つ留意しなくちゃいけないのが「倫理観」です。社会が凄まじいスピードで変化するなかで、何が人々に受け入れられるか。正しい倫理観を持たずにつくった広告は炎上してしまいますから。

前田:逆に、その倫理観をきちんと持ち合わせていれば、社会性あるクリエイティブが生まれると思います。でも、実際そういうクリエイティブは意識するだけでできるほど単純ではありませんよね。

牧野:そう思いますが、「世のため人のため」と心から思える聖人君子は滅多にいないですよ。僕も、あくまで自分が良いと思うやり方が、結果的にたまたま社会性を持ったクリエイティブになっているだけですから(笑)。

前田:そうなんですね。普段から意識されているのかと思いました。

牧野:映画監督のポン・ジュノ氏がオスカー賞を受賞した際に、崇拝するマーティン・スコセッシ氏からもらったお祝いの手紙に「最も個人的なことが最もクリエイティブなことだ」という言葉があったそうなんです。これが真理だと思うんですよね。個人のやりたいことを追求することが一番なんじゃないかなと。前田さんも社会課題を解決しようと思って「前田デザイン室」をつくったわけじゃないけど、現に社会性あるコミュニティになっていますよね。

前田:変なクリエイティブばっかりやっているので、あんまり社会性を認められていないかもしれないですけど(笑)。その人なり、その企業なりが、本当に実現したいことに、広告クリエイティブを通じて伝えるべきメッセージがあるのかもしれませんね。広告におけるデザインは、その未来を見せるうえでの力になります。

牧野:デザインと一口に言ってもジャンルは多岐に渡り、その可能性は無限にあります。デザインの力を味方にできたとき、社会からも支持される求心力を持ったクリエイティブが生まれると信じています。

前田:そうですね。僕もデザイナーとして、ビジネスに価値あるクリエイティブを生み出していきたいと改めて思いました。今日はありがとうございました。

(終)







青山ブックセンター本店でのNice to meet you企画、今月も開催します。今月は、『13歳からのアート思考』の著者である末永 幸歩さんとの対談です。詳細はこちらから。

〈文=木村涼 (@riokimakbn)/ 編集=浜田綾(@hamadaaya914)/ 撮影=ただの ちひろ(@chihiro146)〉