「おだいじに」。


たった5文字の中には、日本人の思いやりが詰まっています。その人の健康状態を慮り、早く治るように願いを込めて伝える言葉だからです。「徒然草」や「平家物語」といった文献にも見られる、古くから大切にされてきた美しい日本語です。

令和の今、その言葉を冠した薬局が“おっ”と目を惹いています。

「おだいじに薬局」は、GOOD AID株式会社(以下「GOOD AID社」)が展開する新しいスタイルの薬局です。そのロゴと、同社のコーポレートロゴの制作をNASUが担当しました。

おだいじに薬局 ロゴデザイン
GOOD AID株式会社 ロゴデザイン



GOOD AID社の代表取締役である服部雄太さんは「薬局は体調不良のときに行く場所なので、気持ちも暗くなりがちです。私たちが目指すのはその逆、“楽しさ”を大切にしています。これまでと一線を画す薬局のイメージを打ち出すには、デザインの力が不可欠でした」と力を込めます。

薬局からヘルスケアの新たな未来を切り拓くGOOD AID社。楽しみながら、面白いデザインでサポートするNASU。これは、ビジネスにクリエイティブで寄り添うパートナーシップの一つの形です。



医療と薬局のイメージを変えるデザイン


───今回は、「おだいじに薬局」とGOOD AID社2つのロゴをご依頼いただいた話なので、御社の事業内容を伺っておいた方がスムーズかもしれませんね。

服部:確かにそうですね。当社は2016年3月に愛知県名古屋市で創業しました。実は、私は経営者であると同時に、薬剤師の資格も持っていまして、最初は調剤薬局を立ち上げました。ただ、社名にあえて「薬局」と入れていないとおり、多くの人の助けになる “GOOD AID”を目指した会社です。薬局をコア事業としながらも、広くヘルスケアを通じて地域に貢献したいと考え、現在は調剤薬局のほかにも、訪問看護、ECなど、健康に関わる様々な事業を展開しています。

───今回、ロゴの制作をご依頼いただいた「おだいじに薬局」についてお聞かせください。

服部:「おだいじに薬局」は、国内で注目が高まる「零売(れいばい)」を手掛ける薬局です。病院で医師による処方箋が必要な薬を取り扱っているのは「調剤薬局」に分類されます。病院で処方される薬は約15,000種類ありますが、実はそのなかでも制度で認められ、処方箋なしで販売できる薬があるんです。その数は約7,300種類。こうした処方箋なしでも取り扱える薬を販売することを「零売」と言います。当社では、調剤と零売の機能を併せ持った新しいスタイルの薬局として、中部・関西を中心に「おだいじに薬局」を展開しています。

───お客様からすると待ち時間が減るのは嬉しいですね。

服部:そうですよね。体調が悪いなか、病院で診察を待って、さらに薬局でも薬をもらうのも待って。ちょっと体調が悪かったり、いつもと同じ薬が欲しいだけでも、病院に行かないと処方箋がもらえません。その点、零売であれば病院での診療が必要ないので、そのぶん身体的な負担も少なくて済みます。
お客様にとってのメリットだけではありません。私は、零売薬局は薬剤師にとっても新しい希望になると考えているんです。

───薬剤師の方にとってどのような意義があるのでしょうか。

服部:病気で苦しむ人を救いたい。社会の役に立ちたい。そういう志を持って薬剤師を目指して資格を取得し、調剤薬局で働き始めますが、多くの人がギャップに直面します。なぜなら薬剤師として働くと、実際最も求められるのは“早さ”だからです。

服部:日本には国民皆保険制度があるので、医療費の自己負担が少なく、病院に相談しやすい点では恵まれています。病院のサービスも良く、医師は薬の効能や飲み方まで丁寧に教えてくれます。そのためお客様が調剤薬局に期待するのは、薬を渡してもらうことだけ。そうなると一分一秒でも早く薬を出してもらって家に帰りたい、と思うのはごく自然なことです。

一方で、薬剤師としては複雑な思いがあります。現行制度では薬剤師になるまで最低6年は掛かります。志を持って、やっと薬剤師になれても、お客様とのコミュニケーションもなかなか図れない。早さだけを求められるのであれば、自分ではなく、他の誰でも取って代われると感じてしまうんです。

───元々イメージしていたように、お客様に寄り添う仕事はしにくいと。

服部:そうなんです。高齢社会がさらに進めば、処方箋が必要な薬を求める方が増えるでしょう。他方で、国全体で見れば、医療費の高騰という大きな社会問題にも向き合わなくてはなりません。医療費を抑えるためにも、病院に頼らない「セルフメディケーション」が重要になります。その一翼を担うのが、零売であり、薬剤師です。

服部:ちょっとの傷や病気は薬局を頼り、薬剤師に相談して薬をもらう。薬局で解決できなければ、病院やそれ以外の治療法を紹介する。さらには病気を治すだけでなく、健康維持や予防のためのアドバイスもする。薬剤師はお客様とのコミュニケーションを図りながら、その方の健康に欠かせないパートナーにもなれます。そうなれば薬剤師も一層やりがいを感じられるでしょう。薬剤師と薬局を主役として、生活者・病院・社会全体にとって、まさに“三方良し”を創ることに、零売というビジネスの意義があると考えています。

楽しいデザインは、仕事を楽しむデザイナーから生まれる

───では、NASUのことを知ってくださった経緯について聞かせてください。

服部:お仕事をお願いする以前から、Twitterで前田さんのことは存じ上げていました。面白いデザインをされているだけでなく、いつも楽しそうに仕事をされているデザイナーさんという印象でした。

とはいえ、ご依頼して本当に請けていただけるのか最初は不安もありました。私は気になる方がいたら、面識がなくても思い切ってTwitterでDMを送ってしまうのですが、このときばかりはNASUさんのホームページのお問い合わせフォームから連絡しました(笑)。自分なりに礼儀をわきまえて、カジュアルすぎないようにと思いまして。

前田:そうだったんですね。TwitterのDMでも全然問題ないですよ(笑)。僕はあのときのご依頼の文面が印象に残っています。デザインのことだけでなく、“楽しく仕事がしたい”と書いてくださっていて、それがすごく嬉しかったんです。価値観で繋がるって、こういうことなのだなと実感しました。

服部楽しいデザインは、楽しんで仕事をしているデザイナーさんに頼むのが一番だと思いました。

一般的に、「医療」に「楽しい」というイメージはないですよね。薬局もそうで、薬をもらうのが楽しいと感じる人はまずいません。でも、行くのが辛い場所だからこそ、お客様には、空間や雰囲気から少しでも楽しさを感じてほしい。前田さんとご一緒できたら楽しいデザインをつくれると確信していました。

服部:それに、前田さんは楽しさのなかに、デザインのプロフェッショナルの矜持をお持ちだと感じていました。私は当社を世界に誇るヘルスケアカンパニーに成長させたいと思っています。その大きな目標に向かってチームで歩んでいきたい。私たちが目指したい世界観と、プロとしての価値観を共にできるパートナーとして、NASUさんとは中長期的なお付き合いを前提に依頼させてもらいました。

前田:僕たちも、クリエイティブを通じてビジネスを成長させるお手伝いをしていきたいと考えています。服部さんにそういうパートナーシップを期待してもらえたのは本望です。

服部せっかく長いお付き合いになるので、私たち自身も楽しく仕事がしたいという思いもありました。結果的に、NASUさんに依頼して本当に良かったと感じています。1年前に、勇気を持って問い合わせフォームから連絡した自分を褒めてあげたいです(笑)。



後編では、おだいじに薬局とGOOD AID株式会社のロゴの制作過程について、お話しします。


お知らせ:GOOD AID株式会社の子会社、セルフケア薬局でも零売で薬を販売しています。


〈文=木村涼 (@riokimakbn)/ 取材・編集=浜田綾(@hamadaaya914)/ 撮影=前田高志(@DESIGN_NASU)〉