「どう教えていいかわからない」と躊躇っているうちに、我が子が傷ついたら?誰かを傷つけてしまったら?

性教育ボードゲーム『ジニー』の開発は、助産師である岸畑聖月さんの「誰の未来も傷つけないために、13歳までに正しい性の知識を持ってほしい」という思いから始まりました。

ジニープロジェクト立ち上げまでの経緯が書かれた[前編]はこちら

性教育の必要性を理解しながらも、子どもに教えることに抵抗を感じる大人は少なくありません。ジニーは性の知識や体験を比喩的に表現し、性教育を学んでいる・教えていると意識させず「楽しく遊んでいるうちに気づいたら学んでいた」を実現します。

後編となる本記事では具体的なゲーム内容の解説、ジニーのための「勝てるデザイン」について、プロジェクト主要メンバーがお話します。

勝ち負けをゴールにしたくなかった

岸畑:ジニーは協力型のゲームで、仲間と協力しながら一人前の魔法使いを目指すストーリーです。最初にひとりずつ配られるゴールカードの内容は、本人にしかわかりません。使命を達成するために仲間と協力しますが、ゴールカードを見せ合うのは禁止です。

ゴールカードのイメージ(デザインはこれから)。
人生におけるゴールはそれぞれ違うので、一人ひとりに配布される。
このカードの場合、♡…妖精生成(妊娠を目的とした性行為)、◇…宝石交換(妊娠を目的としない性行為)の比喩表現。


ゴールカードがチームに1枚ではなく一人ひとりに配られるのは、使命が “生まれ持った大切な個性” を表現しているから。自分で使命を設定する案もあったんですが、生まれ持ったジェンダーや意志を大切にしてほしいと考えてランダムに配られる形にしました。自分のコマが止まる箇所や他のコマとの位置関係でイベントが発生して、性教育の知識を比喩的に表現した経験ができます。

山本:コミュニケーションをとりながらチーム全員で協力して、ゴールカードに書かれた数の妖精を集めたり宝石を集めたりしながら、追いかけてくるおばけから逃げ切ればゴールです。誰より早く、誰より多くっていうのが良いわけでもないし、ゴール設定は難しかったですね。勝ち負けを決めるゲームにはしたくなかったので。

岸畑:「コミュニケーションを取りながら」というのがポイントで、お互いの同意が得られなければ協力カードを引くことができません。これには性的同意の比喩も含んでいて、何事においても自分にイエスかノーかを決める権利と責任があることを表現しています。

飛田:当初は宝石や妖精をたくさん集めていくストーリーでした。宝石や妖精は、その人の大切なものや、するべき体験を表現しています。でもそれだと伝えたいメッセージとズレを感じて変更しました。多く集めたらすごい、多く経験したらえらいっていう伝わり方をしたら違うなと。最初はプレイヤーにジェンダーの設定がありましたが、多様性を重視してそこもなくしました。

山本:性教育においての大切なものって何だろうって考えていて、その人の心だと気づけたのは自分の中で大きな発見でした。集めるものじゃなくて最初から持っているもので、それをおばけから守ったり仲間と交換していくのが性の知識や性体験なんだなって。

岸畑:おばけに追いつかれて食べられてしまう体験が、大切な心を奪われてしまう意味を持ちます。おばけが表現しているのは、凝り固まった価値観や概念、偏った性教育などの社会的な課題です。ゲームには助言をくれる先生や、知識を授けてくれる本も登場するので、しっかり味方につければ逃げ切れる率も上がります。

山本:先生は助産師、本は正しい知識やメディアの比喩表現です。他にも妖精は子ども、エリクサーというアイテムカードは避妊具を意味していて、まだ望まないときにはエリクサーを使って妖精の生成をおさえられます。

ゲーム中にひけるアイテムカードのイメージ(デザインはこれから)。
先生…助産師、本…正しい知識、エリクサー…避妊具の比喩表現。

岸畑:さまざまな比喩表現を使って、性教育を学んでいると意識させない工夫をしています。正しく学ぶ以上に、楽しく学んでもらいたいんです。それぞれの多様性を認めながら、協力して仲良くハッピーに生きる。そういう体験をしながら知識を身につけて欲しかったので、勝ち負けをゴールにするのはやめました。それにきっと、家族で勝ち負け系のゲームをしたら一番年下の子が負けちゃいますよね。みんなが分け隔てなく楽しめるものにしないと、リビング性教育のシーンで活躍できないと思うんです。

山本:楽しく遊んで、気づいてたら学んでたという体験をしてほしい。それが理想ですね。

必要なときに必要な知識を届ける

岸畑:ジニーには「セックス」や「男子・女子」など、性を連想する言葉は出てきません。ゲームの中の言葉はあくまで比喩表現です。でも魔法が解けるように、必要なときがきたら本当の意味を紐解いていけるようになっています。

飛田:適切な時期に知識を得られるように、あとから「ゲームでした体験はこういう意味があったのか」と紐解かれていく『賢者の書』を作りました。ゲーム内での比喩や出来事の解説書です。

岸畑:賢者の書は、10歳以上、15歳以上、大人向けと3種類あります。それぞれの年齢に必要な知識を段階的に得られる仕組みです。2009年にユネスコが発行した『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』の年齢別学習目標を指標に制作しているので、お子さまにも安心してお読みいただけます。ただ、賢者の書はボードゲームのセットの中には入っていません。ご家庭で必要だと感じたタイミングでご連絡をいただいてからお送りします。

前田:最初から解説書が入ってたら、結局直接的に言ってるのと同じになってしまう。かと言って、本当の意味をぼかしたまま伝えないのも違うからね。

岸畑:適切な時期に必要な情報にアクセスできるように、時間差で本当の意味を伝えていく形です。現状案としてはボードゲームに3枚の返送はがきを付属して、必要だと感じたときに送付・配送できるシステムや、電子版をインターネットで公開して、パスワード制にする方法などを考えています。

でも、お子さまへの教え方や実際に起きたトラブルなど、賢者の書では解決できない問題もありますよね。ゲームを渡して終わりではなく継続的にサポートするために、With Midwifeの既存のリソースを使ったオンライン相談システムの構築を目指しています。

前田:教え方、伝え方というのは親にとってかなり大きな問題。そこをサポートしてもらえるのは心強いです。

ジニーのための「勝てるデザイン」とは

前田:まずクラウドファンディングのデザインは、広く認知してもらうことを意識して作りました。とにかくわかりやすく伝わりやすく。ボードゲームのデザインはこれからブラッシュアップしていく段階だから「こういうデザインをします」とはまだ言えないけど、目指しているのは すべての人に当事者意識を持ってもらうデザイン ですね。

例を挙げるとしたら、やっぱりポケモンかな。ポケモンって男女関係なくみんな好きなんですよね。小さな女の子も小学生の男の子も、中高生でも半々は好きっていう感じ。誰にとっても好感が持てる、性別も世代も超えて受け入れられるデザインが、ジニーのための「勝てるデザイン」だと考えています。

岸畑:まさにそれが私が求めているジニーのデザインです。子供のころにピンクか青かって選ばされた経験を持つ方は多いと思うんですが、2つしか選択肢がないことがそもそも違うなと感じていて。そこに黄色があってもいいし白があってもいいんですよね。多様性を認め合うジニーの世界観を実現するには、誰が手に取っても受け入れられる、決めつけないデザインが必要だと思っています。

前田:ポケモンは「可愛いでしょ?」って媚びてるデザインじゃないんですよ。こういう世界にいるこういう生き物で、たまたまかっこいいヤツも可愛いヤツもいるっていうだけ。子供も大人も人間以外の生き物もいて、登場するキャラクターの属性はバラバラ。その多様性がゲームを面白くするゲーム性にもつながっている。ジニーのデザインも同じ発想で突き詰めていきたいです。

クラウドファンディング最終日の7月30日まで、00:00 Studio (フォーゼロスタジオ)を使ってデザインの制作過程やミーティングを公開しています。試行錯誤しながらみんなで頑張ってるので、気軽に見にきてほしいです!アーカイブもあります。

ジニーは日本の性教育を変えます。

岸畑:前田さんに出会っていなかったら、クラウドファンディングでの資金調達はしていなかったかもしれません。クラウドファンディングしかないかなとは思いつつ、目標を達成する自信がなくて。でも前田さんが参画してくださって、もうこれはどんどん発信して世の中に広めていかないと!って切り替わりました。

前田:クラウドファンディングは知ってもらうきっかけだよね。もちろん資金調達の手段ではあるけど、それだけじゃない。「今の性教育を変えなくちゃいけないんだ」って認知を広げる役割を果たしてる。

岸畑:認知を広げるって本当に大切ですね。どれだけいいものを作っても、まずは知ってもらわないと意味がないので。最近はメディアに取り上げていただいたり、イベントやセミナーでお話させていただく機会も増えて、少しずつジニーの認知が広がっていると感じています。クラウドファンディングでは270名以上の方にご支援いただいて第一目標を達成できました。でも、たくさんの方にジニーを届けるためのファイナルゴールにはまだ届いていません。どんなバックグラウンドの子どもにもジニーを届けたいと思っています。

ジニーが日本の性教育を本気で変えていくので、引き続き応援していただけると嬉しいです!

ジニーのクラウドファンディング は、こちらから。

また、このクラウドファンディングのリターンの中には、児童養護施設や学童などに今回作成するボードゲームを届けるプレゼント型のものがあります。2021年7月15日(木)~ 8月31日(火)まで、プレゼント先を募集しています。詳しくはこちらから。



〈文=成澤綾子(@ayk_031)/  取材・編集=浜田綾(@hamadaaya914)/ 撮影=吉田早耶香(@_re44)バナーデザイン=小野幸裕(@yuttan_dn52)〉