会社設立費用の大部分をデザインに懸けた、経営を遊んで学べるボードゲーム「マーケティングタウン」
「ボードゲームをやりたくなるかどうかは、デザイン一つで決まる。」
そう語るのは、株式会社NEXERAのCEO 代表取締役社長 飛田恭兵さん。
「ボードゲームでイノベーションを。」をミッションに掲げる株式会社NEXERA(ネクセラ)では、2019年1月30日に、マーケティングの基礎を体感できる学習用次世代ボードゲーム「Marketing Town(マーケティングタウン)」を公開。公開前に開催したプレイイベントでは、100名を越える申込があるなど、注目を集めるイベントとなりました。また、マーケティングタウンは、サイバーエージェントをはじめとした企業の社員研修にも多数導入されています。
このマーケティングタウンは、NASUの前田がデザインを手がけました。今回のNASUメディアでは、NEXERA CEO 代表取締役社長の飛田恭兵さんと、CBO 最高ボードゲーム責任者の山本龍之介さんと前田の鼎談をお届けいたします。
資本金の1.5倍のデザインフィーを払ってでも作る、本気のプロダクト
───NEXERAのお二人の出会いから伺います。ずっと昔から知り合いだというわけではなく、2018年6月ごろからの付き合いだとか。
飛田:そうなんです。最初は関西大学 梅田キャンパスにある「スタートアップカフェ大阪」で出会いました。僕はスタートアップカフェのコーディネーターをしていて、そこに山本がふらっと相談に来たのがきっかけです。
山本:ちょうど僕が、ボードゲームで食べていきたいと考えていた時でした。起業相談が無料の時があって、知り合いから飛田を紹介してもらった感じです。
───コーディネーターとクリエイターいう関係で、一緒に歩もう思ったきっかけは、どういったものだったのでしょうか?
飛田:あるとき、彼が作ったボードゲームを体験する機会があって。実際にやってみたら「めっちゃボードゲーム面白い!」って感動したんですよ。それで僕から「マーケティングとか経営のことを学べるボードゲームを作ろう」と、山本に相談しました。最初は「何かやりましょうよー」ぐらいの軽い感じだったんですけどね。
山本:そうそう。飛田からマーケティングを学べるボードゲームの相談を受けた時、僕自身も時間がたくさんあったんですよ。
ただ、まだこの時はマーケティングタウンを世の中に一気に広めていこうみたいなことを全然考えてなくて。こういうゲームできたら面白いよねっていうくらいでした。
───前田さんのことを知ったのは、いつ頃でしょう?
飛田:2018年の夏ごろですかね。僕らと前田さんの間に、当時前田デザイン室のメンバーで仲介して下さった方がいました。
もともとTwitterでは、前田さんのことを見ていたりしていたのですが、自分たちとは遠い世界の人だと認識していたので、まさか繋がれるとは思っていませんでした。
山本:前田さんと直接会っていたわけではないので、だいぶ遠くのものをつかみにいくみたいな感覚でした。
飛田:マーケティングタウンを始めたばかりの時だったので、資金が全くない状態で、こんな僕らが会って良いものなのかと(笑)。
山本:当時借りていた1Kの部屋で、低いテーブルにPCを置いて正座でZOOMをしたのを覚えています(笑)。
前田:あーそうだ。お互い大阪にいたのに、なぜかはじめての会話はZOOMだった(笑)。
───前田さんに伺います。デザインで協力をしようとした決め手はなんだったのでしょう?
前田:話を聞いたら、やろうとしていることがとにかく面白そうだったんです。すぐに「こちらこそお願いします」って、言った記憶があります。
当然、お金をもらってやるのですが、このデザインは金額を僕からは提示しなかったんですよ。いくらでもやりますみたいな。多分、面白いことにはいくらでもやるって気持ちでした。0円でもこの仕事は請けていたと思います。
飛田:デザインを依頼する時、当時雀の涙程度だった資本金の1.5倍の金額でお願いしましたね。ボードゲームを作るための印刷代や材料費よりも、デザインにかけるお金が一番多かったです。
前田:最初からデザインにかける想いが強かったですよね。その気持ちがビシビシ伝わってきたのでこちらも「より一層良いものをデザインしなければ!」という気持ちになりましたよ。
やりたくなるかは、全てデザインで決まる
───会社によっては、デザインの優先順位が低くなってしまう場合もあるようですが、御社が資本金の1.5倍をかけてまでこだわったのはなぜですか?
飛田:いくつかポイントあります。
一つは、そのボードゲームをやりたくなるかどうかは、デザイン一つで決まると、僕の中で確信があったからです。
ボードゲームって、やってみないと面白いか面白くないか全く分からないんです。でも、時間も掛かるし人数も必要。実際にやってみるまでのハードルがとても高いのです。
だから、やってみたいと想起させなければいけません。そうなるとボードゲームをパッと見た時に、やってみたいと思うかどうかは、フロントに出てくるビジュアル。デザインが一番大切になるのです。
逆を言えば、しっかりデザインにこだわれば、興味を引くことだってできるし、今後のビジネスとしてのプロモーションや営業活動も全てスムーズになっていくと考えてました。そういった点でデザインは非常に重要でしたね。一番お金を掛けるべきポイントだと認識していました。
山本:もう一つは、単純にカッコいいボードゲームを世の中に広げたいと思ったからです。
既存のビジネスを題材にしたボードゲームって、世の中にたくさん存在するのですが、カッコいいものが少なくて。パワーポイントなどでいろんな機能を詰め込んで作ったようなデザインのものが非常に多いんですよ。全然スマートじゃない。
個人的には、ビジネス的な考えを一旦置いて考えた時に、やっぱりボードゲームを日本文化にしたいみたい想いがあって。ならば、カッコいいものが広がらなければいけないのです。ただでさえ、研修と言われると堅苦しい感じがあるじゃないですか。僕らが広めるマーケティングタウンは、そうではないカッコいいものにしたかったのです。
飛田:研修に使うものがセンスのいいカッコいいや可愛いものなら、触れている人たちもテンションが上がるじゃないですか。逆にデザインが良くなければ、やっている人たちのモチベーションが上がりません。
そもそも触ってもらえなかったら、研修に使えるかどうかすら考えてもらえないですからね。それはどうしても避けたかったのです。
山本:そう考えると理由はいたってシンプルですよね。広まるならカッコいいもの。絶対それが良いのですよ。
飛田:だから、前田さんにデザインを依頼する時、40年経っても廃れないデザインにしたいって言ってたんですよね。
前田:確かに、言っていましたね。
飛田:ゲーム自体の思想も、そのまましっかり語り次がれるようなものになってほしかったのです。人目を引こうと、今流行っているデザインを取り入れれば、いずれ廃りも訪れてしまう。そうではないデザイン、白黒の線を使ったシンプルなデザインは、何年経ってもなくならないデザインですよね。
前田:これはまさに「勝てるデザイン」の一つですよ。それが「捨てられないデザイン」。このマーケティングタウンのデザインは、これが体現できている良い作品だと思います。
自己表現から役に立つボードゲームへ
───マーケティングタウン世の中に広く届けたいと、思うようになったきっかけはあったのでしょうか?
山本:やっぱり単純にこのボードゲームがすごいとなった瞬間があったんですよ。
飛田:経営者の仲間とか、周りの人たちとかもにもやってもらったのですが、誰がやっても反応が良かったんです。ビジネスパーソンがこれをプレイすることで、しっかり学びになるのをゲームをプレイした瞬間にめちゃくちゃ感じました。その時には、しっかりと研修サービスとして提供できると思いましたね。
山本:自分たちが想像していたよりも、ずっと良いプロダクトができたと思いました。
飛田:「ちょっとできるかな?」ぐらいの感覚で作ってみたら、すごく手応えのあるものができたので、「これは大阪だけに留めておいたらアカン!」って思って。しっかりプロダクトとして、もっと世の中に広めていかなければと感じるようになったのです。
───山本さんは今までもボードゲームを作ってこられましたが、作ってきた中でもやっぱマーケティングタウンは一味違うと思いましたか?
山本:そうですね。これまでボードゲーム作りって、本で書かれていることをゲームにする、自己表現みたいな感覚でやっていました。だから、サービスとしてボードゲームを提供するという観点はなかったんですよね。
でも、このボードゲームを作って、飛田から誰かの役に立てるボードゲームなのだと、教えられました。最終的には、これが研修サービスとして広がると良いなと思ったので、自分でも「よしやろう!」と気合が入りましたね。
───実際にマーケティングタウンを見せていただきたのですが……、
───これが実際に作ってできたものですね。
飛田:はい。これができた瞬間は本当に感動しました。駒なんかは机の上にずっと置いて眺めていました。
前田:実際にこれ使って企業の方々が研修をするわけですよね。想像したらめっちゃテンション上がりますよ。
───デザイン制作の中で苦労した点はありますか?
前田:いや、最初からなんとなく目指したいデザインがハッキリしていたので、作りやすかったですね。自分が好きなデザインの感じと近かったですし。飛田くんがデザインしてた元々のプロトタイプモデルから良かったですよ。ゲームのシムシティというか。ポケモンでいうマサラタウンという感じですかね。
山本:プロトタイプのデザインは、これですね。
前田:そうそう、これ。すでに世界観がはっきりしているよね。デザインをする中で、お二人に話を聞いていくと「もっと街の感じを出したい」とのことだったので、ビルや建物、窓の数を増やし、都会的なイメージに仕上げました。
───マーケティングタウンの反応というのはどういうものがありましたか?
飛田:いくつかいただいた言葉があるんですよ。
私が研修を提供してる研修担当者さんが、このデザイン見て「めちゃくちゃ可愛い!」と言って下さいました。こういうデザインだったら、普通の研修とかゲームとかと比べても今っぽいし、みんなも楽しんでやってくれるんじゃないかって期待を掛けてくれましたね。
それと、実際に研修の受講者さんが部屋にバーっと入って来た時に、テーブルに並べてるこれを見て第一声に「えー!可愛い!」みたいな。女性の方とかはそんな反応されてましたね。
受講後にも、「目の前にあったデザインが良くて、研修に対してのモチベーションが沸きました!」って言われたので、デザインの力を体感しました。
前田:狙い通りです。研修って大体机の上に資料が置いてあって、「さぁ、学んでください」みたいな、勉強嫌いな僕は嫌なイメージしかなくて。でも、会議室に入ってこのデザインが机の上においてあったら、テンションが上がると思うんです。その気持ちをデザインしています。研修の憂鬱さに「勝てるデザイン」。
飛田:まさに「勝てるデザイン」ですね。
「ボードゲームをメディアにする」NEXERAの展望
───今後のNEXERAの事業がどのように展開していくか、それとNASUに求めているものがあればお聞かせ下さい。
飛田:事業展望的なところでいくと、まずマーケティングタウンをしっかり伸ばしていきます。もっと多くの企業に、マーケティングタウンの良さを知ってもらい、使っていただきたいです。ここは一つ、大きく伸ばしていくところですね。
もう一つは、私たちビジョンである「体験による学びの場を作る」をもっと表現していくことです。
山本:ボードゲームが、本や動画のような情報を伝達するメディアとしてあるかのように、表現や学びのボードゲームがあっても良いと思うんですよ。
飛田:マーケティングを学ぼうと思う時に本を読んでもいいし、人の話を聞くのでも良いかもしれません。そこにボードゲームで学ぶという選択肢が出て来るようにしていきたいです。
もともと自分自身がビジネスゲームで経営を学んだので、めちゃめちゃ効果的だったっていうのも分かるんです。自分で体感したからこそ、世の中の人にもっとボードゲームを使って欲しいと思います。
だから、マーケティングタウン一つを進めていくのではなくて、ボードゲームを広めていくためのチャレンジをしていきたいと思っています。もっとボードゲームを作っていきます。
研修の領域の中で新たなボードゲームを作るのこともするでしょう。BtoC向けにも作っていくかもしれません。
飛田:それこそ、前田さんの『勝てるデザイン』から生まれたボードゲーム「DESIG-WIN」(デザウィン)プロジェクトにも、僕たちが監修させてもらってますからね。
前田:めちゃくちゃ心強いです。ありがとうございます。
───では今後もデザインに力を入れていくのでしょうか?
飛田:はい。デザインとの関わりでいくと、今以上にデザインに予算が掛けられれば、プロダクトの全てを洗礼されたデザインを求めていくと思います。ホームページなども含めて全体的なディレクションとかもできたら良いなと思っています。
前田:やっぱり僕はデザインだけじゃなくて、コンテンツを作るその魅力も伝えていきたいですね。
NASUはいわゆるデザイン会社ですが、ライバル会社は漫画や映画だと思っています。心を掴めるかどうか。ブランディングの仕事とかもやってるけども、ベースにはコンテンツの魅力を伝えたいって気持ちがあるので。将来的には、ブランディングの話もして、一緒にコンテンツを作っていく感覚でやっていきたいですね。
飛田:ぜひ。NASUさんと一緒に作っていくことで、僕らのボードゲームが正しく世の中に広まっていくと実感できましたから、今後もNASUさんの作るデザインでボードゲームを世の中に広めていきたいなと思っています。
〈文=菅井 泰樹(@gas_sugai)/撮影=森川亮太(@Morley_CGentle)〉