こんにちは!株式会社NASUでチーフデザイナーをしている水上です。

毎日暑いですね。私は一年の季節を通じて夏が一番苦手です。汗かきなので(主に顔面)外に出てしばらくするとシャワー浴びたん?ってなるくらい汗をかいてしまいます。ほんと勘弁して欲しいです。自家発電のシャワーなんていらんねん。でも夏の陽気な雰囲気は大好きで、気分だけパリピになれます。

ジムではウォーミングアップですでに汗だく。

そんなことはさておき。

みなさんは「ヒラギノ」というフォントをご存知でしょうか。デザイナーの方だったらそれくらい知っとるわ!とツッコミが入るくらいオーソドックスなフォントです。身近なところでは高速道路のサインにも使われています。

Mac OS、iOSにも標準搭載されており、いまや多くの人が持っているiPhoneで毎日見ていると思えば、かなり生活に根付いたフォントと言えます。

 

いろんな種類があります

わたしはこのフォントが大好きです。
もちろん、出会っていきなりフォーリンラブになったわけではありません。今から4年前、当時デザイナー6年目に差しかかったときにデザイナーとして転職した化粧品メーカーで、ヒラギノ縛りでデザインをすることになったのがきっかけでした。

 

ヒラギノの魅力に目覚める

転職したメーカーでは、私が入社する前から主力製品(基礎化粧品)のパッケージデザインのフルリニューアルが進んでいました。

それまでの販促物には主にリュウミンという明朝体を使っていましたが、新しいデザインに合わせフォントを変更することに。そこで定められたのが「ヒラギノ角ゴシック」(以下ヒラギノ角ゴ)です。

ヒラギノ角ゴシックの一例

社員の名刺から店頭POP、クリスマスコフレのパンフレットなど、どんな販促物であってもヒラギノ角ゴを使用。それによって、統一された世界観が作られ、ブランドのイメージが保たれます。また、同じフォントを使用するので他のデザイナーがデザインしても表現に差が出にくく、同じブランドに見えるという利点もあります。

もっとオリジナリティを追求すれば、メルカリやcookpadのように、企業でオリジナルのコーポレートフォントを開発することもあります。ちなみに弊社NASUでは「勝てるフォント」をコーポレートフォントとして、このWEBサイトでも見出しなど随所に使用しています。

勝てるフォントは代表前田の著書『勝てるデザイン』の初版に特典として付いています。弊社のECサイトで購入できるので気になる方はぜひ。


入社する前までは様々なフォントを使ってデザインしていましたが、この時はヒラギノの魅力を分かっていませんでした。転職前の会社であまり使っていなかったこともあると思います。正直私のヒラギノに対するそれまでの印象は、よく見かけるけど使う機会のあまりない、いい人止まりなフォントでした。なのでヒラギノ角ゴでフォントを統一すると聞いたときは「よく見かけるフォントではあるけど、これをブランドの定番にするって実際どうなん?」という感想でした。(すみません)

デザイナーとして使用するフォントを定められることは、醍醐味がひとつ減ったような感覚。でも、こうして“ヒラギノ角ゴシック縛り”でデザインをし続けた結果、気づいていなかった魅力に気づき始めました。

 

長文で組むと読みやすい

ヒラギノ角ゴは大きめの字面で、フトコロという文字の内側にできる空間が広めに取られています。

そのためヒラギノ角ゴで文字を組むと、漢字、かなの黒さのムラがなく、文字が潰れません。パッと文字の塊で見たときの印象もスッキリしています。また、造形にクセがなく、目に引っかからないので読みやすいです。

ヒラギノ角ゴ W3で文字組

クセがなく読みやすい!

 

収録されている文字の数は膨大。どれだけ調整したんだろう、、と想像するだけで拝みたくなります。

 

ウエイトが豊富。どんな場面でも使える

ヒラギノ角ゴだけでも10種類のウエイト(文字の太さ)があります。

綺麗なグラデーション

デザインしていると、ここの見出しに太いウエイトをもってきたい!と
思うときがよくあります。そんなとき、書体にウエイトの種類が少なく希望のものがない場合は、イラストレーターで文字の輪郭にアウトラインをつけて太らせたりします。

なんか形が違う…。

 

この方法はやりすぎると書体が元々持っていた骨格がぼやけて印象が変わってきます。例えば上の画像、アウトラインで太らせた右側の「勝」は鋭角がするどくなり、本来より尖った造形になります。余白が狭くなり潰れる箇所が出てきたり、形のメリハリがなくなったり…。

そんな時、ヒラギノならフォントの骨格を崩さずに書体を太らせることができます。なにせ10種類もあるのですから、選び放題です。ここまでウエイトの種類が多い日本語書体は他にないとどんな場面でもばっちこい!な心意気を感じます。

 

文字サイズが米粒ほど小さくても読みやすい

働いていたメーカーでは販促物として大小様々なグラフィックを作っていました。中でも一番小さかったのが、名刺サイズほどの優待チケットや紹介チケット。そこに文字をテトリスのように詰めて、文字を組んでいました。

このとき、一番小さい文字で4pt(1.4mm程度)ほどの注釈を入れます。

名刺サイズで想像してください

米粒やんと思うほどめちゃくちゃ小さいです。が、読めるんです。印刷しても潰れないんです。(インクジェットプリンタは厳しいかな)

 

読める!読めるぞ!!!

 

これはヒラギノを使いはじめて一番の感動でした。
4ptなんてできれば使いたくないし、それだったら他の文字を調整してなんとか5pt以上は確保したいところ。でも仕方ないときだってあるじゃないですか。めちゃがんばってテトリスしても、もうこのサイズ以外受け付けられない!というときもありますよね。

その点、ヒラギノ角ゴは「あ、うち大丈夫です〜」ってサラッと言ってくれるんです。いや、言ってくれたような気がしました。心強すぎる。

 

シンプルなレイアウトもクールに決まる

当時私が制作していた多くの販促物は写真中心のレイアウトでした。

また、ブランドの見せ方としてグラフィック的な装飾は極力入れず、写真プラス文字だけ、というレイアウトがほとんど。装飾を入れても罫線を引くくらい。そんなミニマルなレイアウトでもヒラギノ角ゴはばっちり決まるんです。

主張が強すぎず、弱すぎない。前述の通りクセが少ないので、写真のよさが生きます。逆に言うと、写真がよくないと生きないですが…。 

なのでこの頃は必死で写真のクオリティを上げてました。入稿間近で撮り直しになった日には目の前が真っ暗になっていました。

思い出して胃が痛くなってきました。

 

全部計算されてた 

ここまで当時のことを思い出しながら、ヒラギノ角ゴのここがよかったな〜と使っていて感じたことを書いてみました。それと同時に、この記事を書くにあたってヒラギノ角ゴのことについて調べてたのですが…

上に書いてたこと全部計算して作られてました。

ヒラギノ角ゴに詳しい方が見ていたらそんなん知っとるわ!!の連続だったかもしれません。本当に予備知識なく書いていたので信じて欲しいです。

でも普段何気なく使っていても制作意図やフォントのコンセプトを感じるのは、それだけ徹底して作り込んだフォントであるということ。また拝みたくなりました。

 

フォント縛りで得られたこと

そうそう、フォントを限定されることによって得られたことも多々ありました。

 

・レイアウトが上手くなる

フォントに左右されない&誤魔化されないので、余白の取り方、文字間などを今まで以上にシビアに見るようになりました。
 

・フォント選びに悩まなくていい

フォントを選ぶ必要がないので割り切ってデザインに取り組むことができます。その分時間ができるので、他の要素のクオリティアップに時間を割くことができました。

 

他にもあったような気がしますが、この二つは特に大きかったです。制約を設けることで、新しい発見があったり、自分に足りていないところを見つめ直すきっかけにもなりました。

フォント選びに悩まなくていい、はポジティブに書いていますが、しばらくしてほかのフォントを使ってデザインしたい!!!という当たり前の禁断症状が出たので、前田デザイン室などで何か作って発散していました。笑

 

反動で個性的なフォントを使いたくなっていました。

  

 

鳥海先生のはなし

余談ですが、ヒラギノフォントをデザインしたのは私が大学生の頃の先生で、鳥海修さんという方です。字游工房という書体をデザインする会社で当時代表を務め、ヒラギノフォント以外にこぶりなゴシック、游明朝体などデザイナーをしている方なら誰もが知っているフォントを制作していました。

二年生のころに鳥海先生の書体デザインの授業があり、そこで基礎のレタリングから、グループでオリジナルフォントを作っていました。

今思うとかなり贅沢な授業だったな…。先生が目の前で筆を使って文字を書いているところを見て、すげー!めっちゃうまい!!と小学生並みの感想を漏らしていました。もっと他に言うことあるやろ。

中でも一番印象に残っていたエピソードがあります。

レタリングで自分の名前の漢字二文字と、好きなひらがなを二文字作って添削してもらったときです。

実家から奇跡的に当時のものを発掘

ある程度できあがったので、一度見てもらおうと先生に見せました。

レタリングを見て開口一番

 

親に愛されて育ったんだね〜。

 

ドキっとしました。なぜならその通りだったからです。

なぜそんなことがレタリングから分かるのか。。今思うと、レタリングする筆の運びやラインを修正するためのホワイトの入れ方など、「文字を書く」という行為はその人の感覚や感性、個性そのものが現れてるのでは、と思いました。デッサンも同じで、観察して描くというシンプルな行為ですが、仕上がりに個性が現れます。

先生は何十万と文字を作ってきた経験からそれを感じ取ってたのかもしれません。

そういえば他の学生もレタリングから性格当てられてたな〜

 

個人的に忘れられないエピソードでした。

 

まとめ

話が脱線してしまいましたが、とにかくヒラギノ角ゴシックはおすすめです。

デザイナーではない方で、もしフォントを持っていたら資料作成の際に使われてはいかがでしょうか。見違えるほど読みやすい資料になると思います。

これは!!!というおすすめフォントがあればまた紹介したいします。

ではでは。