コンセプトとデザインの作り方 「かわるフェス」編
2019年5月11日(明日!)大阪、中之島にある大阪市中央公会堂で「かわるフェス」というイベントが開催されます。
このイベントのロゴ、イベントバナー、フライヤー、チケットをNASUで制作しました。
依頼を受けたのはグラフィックデザインだったのですが、主催者さんと最初に打ち合わせしたのがイベントの名前を決める段階でそこから参加することになった。実は「かわるフェス」というネーミングも僕が提案したものが採用された。(ちょっとうれしい。)
今回はデザイン以前のコンセプトの部分を言語化するのに良い機会なので、コンセプトメイクについてしっかり解説します。
イベントはデザインが命!?
イベントのおさらいをするとイベント名は「かわるフェス」。
家入一真さんや箕輪厚介さん、イケダハヤトさんなどの著名ゲストが大阪に一堂に集結するお祭りイベント。会場は大阪市中央公会堂。この会場は1000人規模なので、かなり大きなイベントでそれこそ「フェス」と呼ぶにふさわしい。
このイベントの主催者は「結」代表 寺嶋みほさん。
彼女とはオンラインサロン箕輪編集室の忘年会で知り合った。彼女が2018年に主催したイベント「箕輪ユニバース」のグラフィックも僕がデザインした。ゲストの箕輪さんはもちろんのこと、寺嶋さん自身も気に入っていただけたらしい。その後、僕が漫画家に転身すると言ったものだから「前田さんにデザインしてもらえないのは困ります!」と焦って今回あわてて連絡をしてきたようだ。
イベントにおけるデザインの重要性は大きい。いかに明快でメジャー感を打ち出すことができるか?それ次第で集客すらもかわる。このことに関しては数々のイベントを手がけてきた寺嶋さんも同意見で、打ち合わせでこう言っていた。
「イベントの勝ちパターンは、企画・キャスティング・デザイン、この3つを大事にすること。3つのうちデザインを軽視している人が多いように思う。イベントの中身はイベンターの力量だけど、集客にはデザインの力が相当大きい。だからこそ前田さんに依頼したい。」
こういう依頼のされ方が一番うれしい。「前田さんのデザインが必要なんです」という依頼のされ方は一番テンションがあがる。やるからにはがっつり関わると決めた。
最初のミーティング、ありそうでなかったイベント
最初の打ち合わせは2018年12月の初旬。
僕のオンラインサロン「前田デザイン室」でも打ち合わせの様子を公開した。
社会をエンタメで変える
寺嶋さんが参加しているコミュニティ「NPO未来ラボ」代表の今井紀明さんがイベントを希望したことが直接のきっかけとのことだが、それ以前から以下の想いがあったらしい。
- 人と人を結び合わせ「社会をエンタメで変える」ことをミッションとしている
- 東京の方がイベントが多い、いい講演聞くなら東京に行かないとない。だから大阪でもいい講演をしたい。大阪の文化との化学反応を楽しみたい
- 堀江さんが主催するオンラインサロンHIUで「ホリエモン祭り」というイベントがある。全国で開催されているが、大阪で開催されているときは中之島公会堂。このイベントへの憧れがあり、自分でも中之島公会堂で1000人規模のイベントをやりたいと思っていた
「気軽な寄付体験」を
今井さんと言えば、高校生の時に紛争地域だったイラクへ渡航。その際、現地の武装勢力に人質として拘束された経験を持つ。帰国後、心ないバッシングに苦しんみそこを乗り越えて今の今井さんがある。そこのとから、同じように親や先生から否定された若者に何かできないか?とNPOの普及を推進している。そんな今井さんの想いがあることもあり、このイベントの隠れた目的に実は「寄付」が含まれているようだ。
「気軽な寄付体験」「楽しいソーシャルグッド体験」をしてもらうことが隠れたテーマ。
「寄付してください」「いいことしてください」では堅苦しい。気軽に寄付する文化が根付いてほしい。「寄付しに来ました」ではなく、「楽しそう」と思ってふらりと立ち寄ったイベントが実は寄付に繋がっていた。そんなイベントにしたいらしい。実際このかわるフェスは収益の一部が寄付に回るようだ。
「参加者の心に火を灯す」
「イベントに参加してくれた人にどうなってほしいか?」寺嶋さんに聞いてみたところこんな答えが返ってきた。
「参加してくれる人の心に火を灯したい」
「東京のインフルエンサーの話を聞いて今すぐ何か変わってほしい、変えた方がいいと強要はしたくない。そこまでじゃなくて、人の心に火を灯すようにほんの少し変わるきかっけになればいい」とのことだった。
そしてターゲットは、東京までインフルエンサーの講演を聞きにいくいわゆる「意識高い層」ではない。普段こういうそうに興味がない人に足を運んでほしいとのこのこと。
すばらしい理念だ。この理念が伝わるイベントのグラフィックを作る。燃えてきた。ここで大事なのがイベントの名前。だが、この時点では確定してなかった。
イベントタイトル決め、前田も参戦!
イベント名がまだ確定していないらしい。デザインをする上で、イベント名は必須だ。せっかくの機会だから、僕もブレストに参加した。
「〜フェス」「〜祭」というような感じで、20〜30台の若者に届けたい、アクションを起こさせたい。人の心が動くフェスのネーミングを考えた。
今井さん(NPOや未来ラボ)から想起して
・寄付フェス
・チャリティフェス
・ラボフェス
寺嶋さんより:このフェスは次に繋げたい、誰かにバトンを渡したいと考えている。今井さんが前面に出すぎると次の人が怖気づいてしまうかもしれない。
東京のスター軍団が来ることから
・インフルエンサーフェス
「インフルエンサー」の言葉自体が大阪ではそこまで浸透していないかもしれない?
働き方、お金の話をするとのことなので
・銭(ぜに)フェス
・働きフェス
僕個人は「銭フェス」が面白いと考えた。グラフィックまですぐ浮かんだくらい。「お金」とはっきりいえば気になる人は相当多いはず。もちろんイベントの真意はそこではないことは承知の上で、「銭フェスと言いながら本当はお金じゃないんですよ!」ってイベントで言うオチはどうかな?なんてストーリーまで考えていた。
他にも
・ヤングフェス
・ファイヤーフェス
などなどたくさんの案が出たが決め手に欠ける。そこでもう一度企画に立ち返ることにした。なんのためのイベントか?
それは「人の心に火を灯す」こと。
もう少し具体的に話を聞くと、
「みなさんの働き方をガラッと変えろ」とは思ってない「あなたの働き方をちょっとだけ変える、サロンに入ってみるのもそう。それだけで大きくかわるかもしれない」らしい。
すばらしい考え方だ。
ただ僕は正直それだけでは人は来ないと感じた。なぜなら今の僕は箕輪さんやインフルエンサーの考え方を知っているし、新しい働き方、価値観をインストールすることでより楽しくなることを知っていて、アップデートし続けている。でも仮に20代の僕にはこの話は通じないと思う。今の働き方で「僕は楽しくやってるよ」と答えるんじゃないかな。
情報を得ることで変わるきっかけになる。そのことをそもそも知らない状態の人がまだまだ多いってこと。首都圏以外は特に。この状態で「ちょっと変えるといいですよ」と言っても絶対届かない。
もちろん寺嶋さんの理念である、「変われ」と強要しないことは素晴らしいし、それはイベントで伝わるはず。まず足を運んでもらうための仕掛けが必要で、イベントタイトルや僕がデザインで担うのはこの部分である。
「かわるフェスは?」と言ってみたところ盛り上がった。
「価値観がかわる、動き出す、ここに来たら変わる。そんなイベントになればいいと思っているのでいいですね!」と寺嶋さんの反応も上々だった。打ち合わせから数日後、寺嶋さんからイベント名が正式に「かわるフェス」に決まったと聞いた。
ロゴを作る
イベント名が決まったので、早速ロゴの制作だ。
熱量アピールにならないように細い線を使う
ロゴを作るにあたり考えたこと。
・かっこい普通のイベントロゴは簡単に作ることができる。ただ僕がツイッターを見すぎているせいかもしれないけど、普通のイベントバナーに見飽きていた。不思議な感じにしたい。
・「かわるフェス」というネーミング、そして東京のインフルエンサー集団のキャスティング。とってもいいけれど、熱量ゴリゴリの感じはしんどいなと感じた。寺嶋さん自身もヒアリング段階から「狙いは心に火を灯すこと、かわるきっかけになればうれしいけど強要したくない」と言っていた。
なんか楽しそうな、おかしなフェスがありますよって伝えたかった。そこからグラフィックは細い線で表現しようと決めた。太い線=力強さ、熱量を感じさせるのでそれを避けるためだ。
「かわる」の表現
煙
それから「かわる」が一目で伝わるグラフィックを考えた。かわると言えば変化(へんげ)。忍者ハットリくんの「ドロン!」という変化の術。
巻物も考えたが、これは最終のグラフィックには使用していない。
「そうだ、煙玉だ!」
実は僕は中学生の時に爆発の煙の絵を描くことにハマっていた時期があった。イメージはドラゴンボールで悟空が舞空術をする時にでる、勢いがある煙。こんな感じ。
変化している様子を煙で表現した。
「ドロン」と変身する指も入れてみた。
カエル
このイベント「かわるフェス」は、ネーミング段階では「かえるフェス」の案もあった。その時に「カエルがいたら可愛いかも」というアイデアが打ち合わせであったけど、その時点では僕はピンと来なかった。実際名前も「かえる」ではなく「かわる」になったわけだし。ただ最初に書いた通り、よくあるかっこいい感じのグラフィックは見飽きていたので、いい意味で違和感を覚えるものにしたくて。だったらカエルを入れてみたらいいのかもしれないと考えた。
煙のグラフィックは半円と直線のみで構成されている。半円と直線というルールを制限することで、見え方がおもしろくなる。
かえると煙の融合もテスト。これは即却下。
文字
僕は最初「変わるフェス」の表記がいいと考えていた。単純にわかりやすいから。変化する印象を感じさせられる。ただ主催者の寺嶋さん曰く「かわる」がいいとのこと。明確な理由がわからなかったので質問して納得した。「変わるきっかけになればいいけど、強要したくない。それにひらがなだと“変わる”だけでなく、”代わる”“替わる”いろいろな意味で捉えることができるから、多様性にも繋がる」ということだ。
暑苦しい感じを下げるために細い線で表現することは決めていたし、そこに加えてひらがなで「かわる」の表記。
こんな表記や、
こんな表記を検討した。
カプセルに入って変化するのはどうかな?という案。
煙をモチーフに別バージョンも作って検証。
最終的には、狙いは文字をしっかり読んでもらうこと。煙はかえると同じ細い線の半円で表現することにしたので、メリハリつけるためにあえて普通の書体を選んだ。「かわる」をしっかり読ませたい。フックになるよう3色の色をつけた。
一文字一文字色が違うので、変化していく様とも捉えることができる。
背景のボーダー
細い線で構成したグラフィックは確定していた。しかし、細い線にした分、弱々しく元気がない。イベントに来て元気になってほしい。そういう想いから背景はPOPなボーダーにした。
以上を踏まえて最終的に完成したロゴはこちらだ。
キャスティングが確定したのちイベントバナーも作った。
フライヤーのデザイン
フライヤーのデザインは、4月からNASUにアシスタントとして入ってもらった吉田にお願いした。
最初に提出してくれたデザインはこちら。
悪くない。ただ両サイドのコピーが強く長いと感じたので、コピーを少しけずり入れる位置を変えてもらった。
それから情報の優先順位も大事にしたいと伝えた。
まずは「こんなイベントありますよ!」ということが一番に伝わって欲しい。そのあとに、いつで、会場はどこで、どうやって申し込むのか、情報がスムーズに伝わる優先順位をつけてと指示した。
それを踏まえて完成したのがこちら。ロゴの中にコピーを内包し、スッキリさせている。
最後に
かわるフェスのネーミングコンセプト、デザインの話をまとめた。
イベントは明日、中之島公会堂。大阪でこのキャスティング、この規模のイベントは今までなかったんじゃないかな。
僕が主宰する「前田デザイン室」のブースも出店します。
このかわるフェスのグラフィックも掲載している僕の本『NASU本 前田高志のデザイン』も販売します!
明日、時間を作って、ぜひ僕に会いに来てください!