ロゴの本質は〇〇から見抜ける!? カリスマ保育士 てぃ先生「こいくファミリー」のロゴデザイン
これほど注目を集める保育士は、今まで日本にはいなかったのではないでしょうか。
現役の保育士でありながら、約50園の保育園で顧問保育士を務めたり、YouTube・SNSで情報発信したり、著書を発行したり、TVやラジオに出演したり……と、挙げていくとキリがないほどマルチに活躍している、その人こそカリスマ保育士・てぃ先生です。
そんな、てぃ先生が昨年11月に立ち上げたオンラインサロン「こいくファミリー」のロゴをNASUがデザインさせていただきました。
子育てに保育の要素を取り入れてもらう「こいく」を提唱するてぃ先生。その“らしさ”を、デザイナー・前田高志はどう汲み取り、デザインしたのか。一見何気ない“趣味趣向”に関する質問への答えから生まれた、「こいくファミリー」ロゴの“勝てるデザイン”を二人が語ります。
LINEのメッセージに現れる、てぃ先生の人柄
前田:今日はよろしくお願いします。直接会ってお話しするのは初めてですね。
てぃ先生:そういえばそうですね!ロゴ制作のときはずっとオンラインでのやりとりでしたし。改めましてよろしくお願いします!
前田:てぃ先生は、共通の知人より、僕を紹介していただいたんですよね。
てぃ先生:はい。そうでしたね!
前田:僕がてぃ先生から連絡いただいた段階では、オンラインサロンをやることが決まっていて、ロゴのイメージもありましたね。
てぃ先生:そうですね。「こいくファミリー」という名前は決めていて、ロゴも最初は自分で作ろうかなと思ってたんです。
前田:そうだったんですか。自分でもデザインされるんですか?
てぃ先生:いやいや! ありもののフォントでちょっと影つけるくらいですよ。そういう手作り感でもいいかなと思ったんですけど、せっかくサロンを立ち上げるのでちゃんとプロの方にお願いすることにしました。
実は、前田さんにお願いする前に、何人かデザイナーの方に提案をもらったんです。でも、正直あんまりしっくり来なくて。その話を知り合いにしたら、「めっちゃいいデザイナーさん紹介してあげるよ」って言われて、前田さんをつないでもらいました。
前田:めちゃくちゃありがたいんですけど、本音を言うと紹介って一番しんどいです(笑)。期待値のハードルが高いんで。
てぃ先生:ですよね(笑)。
僕の場合、前田さんを紹介してくださった共通の知人から、デザインを変えたら仕事でいい結果が出たと聞いていましたからね。そんな前田さんを紹介してもらえるんだったらと、先にご依頼していた方々にはお断りを入れたうえで、全てお任せしようと決めました。
前田:ご相談いただいたときは、制作スケジュール的にちょっと厳しいかもという不安はありました。制作期間として取れるのが3週間くらい。でも、てぃ先生とLINEでやりとりさせてもらっているうちに、一緒に仕事やりたいって思いが勝ってきたんですよね。
てぃ先生:おぉ!それは嬉しい!
前田:やりとりがめちゃくちゃ丁寧なんですよ。質問したことへの返し、その言い回しもわかりやすい。爽やかでやさしさを感じました。てぃ先生の人柄なんだと思います。そこに惹かれて、最後は僕のほうから「ぜひやらせてください!」ってお願いしちゃいました。
てぃ先生:そんな褒めてもらっちゃって何て言っていいのかなぁ(笑)。当たり前のことですけど、「はじめまして」からだったので、聞かれたことには素直に答えようとは意識していましたね。
“らしさ”は無意識の中に
前田:オンラインサロンの構想はいつごろからあったんですか?
てぃ先生:元をたどると3年くらい前に一回やったことがあるんですよ。
前田:結構早い。まだオンラインサロンが今ほどは浸透していないときですよね。
てぃ先生:そうそう、そうなんですよ。保育士さん専用のサロンで、僕が会員の方の相談に乗る形だったんですけど、結局1年くらいで閉じちゃったんです。そのときは、自分のスキルもアウトプットも追いついていない反省もありました。
前田:今回の「こいくファミリー」は、保育士さんだけじゃなくて、保護者の方も会員になる形になりましたよね。
てぃ先生:はい。僕は保育士として仕事をする中で、子育ては保育の要素を取り入れたらもっと楽になるんじゃないかと実感してきました。でも、子育てに保育の要素を取り入れましょうって言われても、何となく敷居が高く感じますよね。
だったら「子育て✖️保育」=「こいく」っていう新しい概念をつくっちゃって、保育士さんと保護者の方たちが同じ輪の中で助け合えるコミュニティにしようって思ったんです。
前田:このネーミングめちゃくちゃいいですよね。ひらがなにしたのもあえてなんですか?
てぃ先生:漢字で「子育」だと、“子”どもに“育”てると書くので、ぱっと見で何のこっちゃ分かんないですよね。小難しい印象にもなりそうだったので、ひらがなでいこうと決めてました。
前田:そうだったんですね。僕はひらがなだからこそ新しい感じがするし、てぃ先生っぽいなと思いました。そもそも「てぃ先生」っていう名前もひらがな表記ですし。その理由も、ロゴ制作にあたってお聞きしましたね。
てぃ先生:そうでしたね。個人として活動を始めるときに、当時は現役保育士が本名で活動することに不安があったので、名前のイニシャルで「T」にしようと思ったんです。でも、アルファベットで「T先生」だと容疑者っぽいですよね(笑)。それで柔らかさも感じられる、ひらがな表記で「てぃ先生」にしました。
前田:随所に「ひらがな」を選ぶところに、こだわりが感じられて、僕はそれこそ“てぃ先生らしさ”だなと思ったんですよ。だから、「こいくファミリー」のロゴを考えるうえでも、「ひらがな」が生きるものにしようと考えました。
てぃ先生:言われてみれば!っていう感じでしたね。最初から狙って何でもひらがなにしようというつもりはなかったので、僕自身にとっても発見でした。
前田:もう一つ、ロゴに関してポイントにしたのが、「NHKのEテレ」感ですね。実際、てぃ先生はEテレの番組に出られてますけど、すごいピッタリだなと思って。かわいいけど、幼稚でもない。子どもにも大人にも通じるメジャー感が、てぃ先生らしさだなと思いましたね。
てぃ先生:これ、提案のときに言われてびっくりしました! てぃ先生として活動を始めて、数年経ったタイミングで、ちゃんと目標があった方がいいなと思ったんですよ。それで考えたのが、Eテレでやってる「歌のお兄さん」の保育士バージョンみたいな存在になるってことだったんです。
前田:ホントですか! じゃあ大正解でしたね(笑)。僕の中では「ひらがな」と「Eテレ感」っていう2つのポイントがバチっとハマったときに、ロゴの方向性も一気にクリアになりました。
相手の想像にないものをつくるのがプロのデザイナー
てぃ先生:そうそう、この機会に一つお聞きしたことがあって。ロゴの制作にあたって、前田さんからたくさん質問をしてくださったじゃないですか。
前田:そうですね。「こいくファミリー」やロゴに関すること、それ以外のことも結構お聞きしました。
てぃ先生:ちょっとびっくりしたのが、「アクセサリーはしますか?」とか、「どんなインテリアが好きですか?」とか、正直、これがデザインにどう関係するんだろう?と思うこともあって(笑)。
でも、何か意図はあるに違いないと思ってお答えしてたんですけど、実際はどんな意図があったんですか?
前田:一言で言うと、てぃ先生の人となりを知りたかったんですよね。
てぃ先生:あぁ〜なるほど! そう言われるとしっくりきますね。
前田:「こんなデザインが好きですか?」って直接的に聞くのは、あんまり好きじゃないんです。そのイメージに寄せて作るんだったら、僕じゃなくても作れちゃうじゃないですか。
クライアントが描いているものを再現するんじゃなくて、提案したときに「こういうのが欲しかったんです」って言ってもらえる仕事をしたいんです。たくさん質問は、そのヒントを探るためですね。
てぃ先生:お客さんや案件ごとに聞く質問も変わってくるんですか?
前田:そうですね。ロゴだったら、背景や目的といった基本的なことは必ず聞きますけど、それ以外は結構ざっくばらんに質問しますね。普段の好み、趣向にこそ、その人の“らしさ”が一番出ると思うんで。だからと言って、そのままデザインに何かを取り入れようとは考えていなくて、あくまでエッセンスであり、イメージに合うかどうかの判断軸にさせてもらっていますね。
もし、てぃ先生が普段はドクロの服を着てたりしていたら、今のロゴにはなっていないと思います(笑)。
てぃ先生:僕からすると、ただ質問に答えただけなのに、プレゼンでいただいた案がどれも「これいいじゃん!」っていうものだったので驚きました。
前田:提案書の流れとしてはラフスケッチからお見せして、そこから実際のデザイン案をお見せする形をとらせてもらいました。実際、僕の思考の流れは提案書のとおりですね。
てぃ先生:実は、ラフから起こしてもらった中に「これ良い!」っていう案があったんですよ。でも、前田さんが「これも良いと思ったんですけど…」って別の案の紹介に進めようとされて、「これでいいのに、なんだ違うんだ」と内心では思ったんです。
それで、次にでポンって出てきたのが、実際に決まった案なんです。見た瞬間に「こっちの方がいいじゃん!」って思いました。心を読まれてたんじゃないかなって感じましたよね(笑)。
前田:カッコいい感じにしたり、知る人ぞ知る感を出したり、やりようはいくらでもあったんです。でも、「こいくファミリー」は、てぃ先生がやりたいことのスタートラインでもあるので、最後はてぃ先生らしさ、本質がきっちり伝わることを重視しました。
てぃ先生:子どもに関わるデザインって、僕は二つしかないと思ってたんです。一つは、いかにも子どもっぽいもの。もう一つは、あえてスタイリッシュで子どもっぽくないもの。前田さんが提案してくださったデザインは、全部がそのどちらでもない。「こういうデザインもあるんだ」っていう新しい気づきがありましたね。
前田:最後は、これしかないと思って提案させてもらいました。どんな案件でもそうなんですけど、考え方についてはこれ以外にないと思って提案しています。今回もし何か要望を言われても、「いや、この案の方が、てぃ先生っぽいですよ」と言ったと思います。
ちょっと言い過ぎかもしれないですけど、それだけ自信を持ったデザインを提示するのがプロのデザイナーだと常々思っていますね。
先々の使用を見据えたデザイン
てぃ先生:水色とピンクの規則的な配色もすごく良くて。なんだか安心感があったんですよね。それはたぶん、子どもたちと触れ合っているからだと思います。
例えば、保育園でのお散歩で言うと、子どもたちにはお散歩中に電車を見るとか、自分なりのルールがあるんです。だから「今日は急いでいるから電車は見ないで戻ろうね」なんて言っても、誰も納得しない。子どもたちにとっては“いつもと同じ”が大事なんです。その感覚が僕にも染み付いているので、このロゴにも安心感を感じたんだと思います。
前田:バラバラな配色も検討しているんですよ。でもやっぱり同じ配置に落ち着きました。なぜなら……、子どもは、いつもと同じが安心するからです。
てぃ先生:それ今言ったやつ……。さすが前田さんは、なんでもご存知ですね(笑)。
前田:もともとは、ファミリー=家なので、表札をイメージして作り始めたんです。でも、木の表札にするとガチャガチャした印象だったので、シンプルなブロックにしました。
配色も同じ理由で、上が水色、右がピンクという規則性を持たせました。色々検証した結果、「家庭のしんどいをなくす」というコンセプトにあわせて、ロゴもできるだけライトな印象にしました。
前田:「こいくファミリー」のWebページもつくると聞いていましたし、他にも色々な展開がしやすいよう配色や線も再現しやすいつくりにしました。実際、完成したWebページも、意図を汲み取っていただけた印象でしたね。
もちろん、この先の「こいくファミリー」、てぃ先生の状況次第では、チューニングが必要になるときが来るかもしれません。ただ、今回のロゴは、ある程度、中長期的に汎用的に使ってもらえるものに仕上がったんじゃないかなと思います。
てぃ先生:あれだけすごいものをもらったら、僕から言うことは何もなかったですね。「これで!」ってなりましたよ。
前田:最後は僕のほうで細かい部分バランスの調整と検証はして、納品させてもらいました。当初の想定通り、3週間ギリギリでしたね(笑)。
てぃ先生:ロゴができてすぐInstagramで、「こんなロゴになりました」っていう報告したら、色んな人から「いいですね」って連絡をもらいました。
きちんと筋を通そうと思って、最初にお願いしたデザイナーの方々にも報告しました。連絡前は気が引けるところもあったんですけど、皆さんが「すごくいいですね」って言ってくださったんです。良いものを作ってもらったんだなと改めて感じたのと同時に、これが『勝てるデザイン』か! と思いましたね。
この対談は記事になると聞いているので、前田さんのプロフィールの表記を「株式会社NASU 天才代表取締役」と書いて欲しいくらいです。
前田:やった~!
大人も子どもも幸せになる「こいく園」にもデザインの力を
前田:オンラインサロンのほうはどうですか?
てぃ先生:11月に開設してまだ日は浅いんですけど、めっっちゃ面白いです! サロン内では、お子さんの年齢別でクラスを分けて、自由にコミュニケーションをとってもらっています。正直、僕がやることってほとんど無いです(笑)。
前田:へぇ〜そうなんですね。運営側は大変なイメージがあるので意外な感じがします。
てぃ先生:会員さん同士で結構活発に悩み相談とか情報交換をしてもらっています。そういう中に時々僕が現れるくらいです。それでもサロンとして回っているのは、会員の皆さんのおかげですね。
前田:僕がやっている「前田デザイン室」とは真逆ですね、僕は年中いるんで(笑)。「こいくファミリー」が秩序を保ちながら回っているのは、てぃ先生を見て集まってきた方々が会員だからだと思いますよ。これからもっと大きくなっていくんじゃないですか?
てぃ先生:積極的に大きくしたいっていう考えはなくて。それこそ、うちに合わない人が入りやすくなっちゃいますしね。てぃ先生としての活動に興味を持って入ってくれる人だけが集まって、喋れる場であり続けられればいいかなと思ってます。
前田:なるほど。まずはこのコミュニティから「こいく」で救われる人が増えていくといいですよね。
てぃ先生:そうですね。そうそう! 前田さんに一つお願いしたいことがあって。
前田:おぉ、なんですか?
てぃ先生:僕、5年後以降をめどに保育園をつくろうと思っているんです。その時は、ロゴだけじゃなくて園全体のデザインをお願いしてもいいですか?
前田:えっ本当ですか!? めちゃくちゃいいですね、ぜひやらせてください! てぃ先生の保育園だから、「こいく園」になるんですかね。
てぃ先生:名称はそうするつもりです。
前田:これで救われる親御さんがたくさんいますね。僕も空間デザインに力を入れていこうと思っていたところなんです。空間デザインって、何をどう置くかで人の行動を変えていく、いわば行動のデザインだと考えています。昨年は自社オフィスで色々実践してきたので、これからさらに腕を磨いておきます。
てぃ先生:ありがとうございます!
僕は、お父さん・お母さん、保育士も幸せになれる保育園にしたいなって思っています。言ってしまえば、大人が幸せだと、子どもは何となく幸せに感じられて、それが一番良かったりするんです。そういう保育園が経営的にもうまくいったら『勝てる保育園』っていう本を出せますかね?(笑)。
前田:最高ですね。出しましょう(笑)。
てぃ先生と前田さんの対談は、後編に続きます。
※こいくファミリーは、現在は運営されていません。
〈文・取材=木村涼 (@riokimakbn)/編集=浜田綾(@hamadaaya914)/撮影=ただの ちひろ(@chihiro146)/ バナーデザイン=小野幸裕(@yuttan_dn52)〉