本日6月6日は『宇宙兄弟』の主人公・南波六太(なんば むった、以下ムッタ)のムッタの日!

ムッタの日を記念して、前田高志を含む3名のデザイナーがTシャツとキャップをデザインしました。

早速完成したTシャツとキャップをご覧ください。

さかのぼること2ヶ月前、株式会社コルクさんからこんな依頼がありました。

「Design for Mutta」と冠し、様々なデザイナーのみなさまに「ムッタ」をテーマにTシャツ及びキャップのデザインをしていただき、ムッタ祭りを開催できたら、と思っています。

依頼内容の資料より。

「コンテンツの魅力を伝えるデザインは任天堂時代からずっとやってきたことで、僕がもっとも得意なデザイン。だからこの依頼が来たときは嬉しかった」

と前田さんは言います。

キターーーーーー!!

今回は「Design for Mutta」のデザインができるまでの制作過程についてお届けします。

おさらい。ムッタとは?

ムッタとは株式会社コルクに所属するマンガ家、小山宙哉先生の代表作『宇宙兄弟』の主人公。

[ムッタのプロフィール]
本名モジャモジャの天然パーマが特徴。弟の日々人(ヒビト)はJAXA最年少宇宙飛行士。幼い頃から兄弟そろって宇宙に憧れていた。工学博士の資格を持ち、大学卒業後は自動車設計会社に勤務。受賞歴もあったが、ヒビトを侮辱した上司に頭突きをしてクビに。その後、紆余曲折を経て宇宙飛行士選抜試験を受け合格。アメリカに渡り数々の訓練を経て宇宙飛行士に認定された。


小山先生の公式ファンクラブ「コヤチュー部」では、ムッタのラッキーナンバー「6」にちなみ6月6日を「ムッタの日」に制定。毎年さまざまな企画を読者と一緒に楽しんでいます。

コヤチュー部6周年記念特設ページ | 『宇宙兄弟』公式サイト


客観視することで「勝てるデザイン」に

Design for Muttaは「株式会社NASU」ではなく「デザイナー前田高志」への依頼でした。普段の仕事と違い、自分の作品を提供するケースです。

こだわりの詰まった思い入れのあるデザインを、客観的に判断するのはなかなか難しいですよね。

前田さんの著書『勝てるデザイン』には、客観視に関するアドバイスをつづった「あなたが一番嫌いな人が作ったデザインとして見よ」という章があります。

ムッタTシャツの制作過程では

  • 嫌いなデザイナーが作ったものとして見る
  • 壁に貼る
  • 自分の手から離す(ツイートする)
  • 人に聞く
  • 本来の目的に立ち返る

などの策を講じました。もっとも有効だったのが「人に聞く」だったそうです。一番シンプルな方法ですが、人の視点に勝る客観視はありません。

デザインに意見をくれたのは、前田さんが主宰するコミュニティ「前田デザイン室」のメンバーと依頼元の株式会社コルクのみなさんです。

前田デザイン室での投稿では、こちらの4案に対して「どれが欲しい?」と投げかけてみました。

その結果、コミュニティ内で一番人気があったのはB案でした。D案を気に入っていた前田さんにとっては、かなり意外な結果だったそうです。

ここから「何がいいのか、どこに魅力を感じているのか」を言語化してデザインの核心に迫っていきます。



ムッタと「勝てるデザイン」が融合する!

宇宙兄弟から適度に離れているのがいいのかも?と、B案の魅力に気づいた前田さん。

今回の「勝てるデザイン」は、「いかにもな宇宙兄弟感がなくて着やすいデザイン」という考えは間違っていなかった!と確信を得ます。

では、なぜ前田さん自身はB案を気に入っていなかったのか?
その原因はムッタの髪型を現しているモジャモジャ部分の形にあると気がつきました。

モジャモジャの大きさやバランスを整え、より気持ちのいい造形になったB案がこちらです。


自分が向かっている方向と世間から求められているものがズレていないか、人に聞くことで答え合わせができます。

方向性を定めてデザインを磨き上げた結果、当初は1案の依頼でしたが2案の採用が決定しました。

そんな経緯を経て商品化されたのが、C案の『ファミコン風ドットムッタ』とD案の『勝てるムッタ』です。

しかも前田デザイン室で人気だったB案の『NO.6ムッタ』も「別企画のプロダクトとして作りたい」と言っていただけたので、提出した4案のうち3案の採用を勝ち取りました!めっちゃ勝ってます!

B案のブラッシュアップ前、シルエットが洗練されていない。(前田)

前田さんの中だけで完結していたら、NO.6ムッタはお蔵入りになっていたかもしれません。

これはまさに客観視の力。
デザインは、デザイナーだけのものではない。
これぞまさに「勝てるデザイン」です。

勝てるデザインは日々成長し、アップデートしていきます。

ここで前田さんから一言…「デザインは楽しい!」


ムッタTシャツが超えた、勝つための5つのハードル

「勝てるデザイン」を実現するには、超えるべき5つのハードルがあります。

①一撃でわかる
②ポリシーがある
③ならでは
④興味を奪う
⑤捨てられない

今回のムッタをテーマにしたデザインは、どうやってすべてをクリアしたのか。
ひとつずつ解説します!

①キャラ感を残して一撃でわかるデザインに

デフォルメしたり抽象化したりしつつも、「それ」だとわかるキャラ感を残すのが前田さん流。

これはキャラクターの魅力を最大化することが、グッズデザインの目的だからです。
もとのテーマから大きくかけ離れてしまうと本末転倒になってしまいます。

今回もムッタのトレードマークのモジャモジャ頭や「6」などの素材が、どのデザインにもきちんと活かされていますよね。

キャラの魅力を詰め込み、そのキャラのグッズだと伝わったうえで、ファッションとして成立するものを狙っていきます。

デザインが人の目に映るチャンスは一瞬です。

その一瞬を逃さず、大量の情報を一気にぶつけなくては興味の入り口に立ってもらえません。

情報をバズーカのように打ち込んで興味を引きつけ、商品の魅力に気づかせる力を持ったデザインが「勝てるデザイン」になります。


②ポリシーを持った深みのあるデザインに

ポリシーは目的に向かうために必要な、譲れないブレさせない絶対的な軸。
『勝てるデザイン』の書籍では、この大事にすべきものを「印ろう」と呼んでいます。

今回の印ろうは「『宇宙兄弟』の主人公ムッタをテーマに、6回目のムッタの日を盛り上げるためのデザイン」です。

『ファミコン風ドットのムッタ』は、月にムッタが着陸した姿を望遠鏡で遠くからのぞいているイメージを表現しています。

ちなみにこれは作る過程で必要な印ろうとなる情報であって、ユーザーに伝わる必要はありません。

企画の趣旨や世界観などの大事にすべき部分を守り抜きながら、攻めるところは攻めて崩すところは崩す。

このバランス感覚がデザイナーの腕の見せどころです。

なぜ「Design For Mutta」が企画されたのか、なぜこれまでグッズをデザインしてきたデザイナーではなく外部のデザイナーたちに依頼したのか。

企画や商品にどんな狙いがあるのかを深く考えて汲み取り、デザインに反映させます。

「印ろうを守りながらも新しい切り口のムッタが求められている」という前田さんの判断が正しかったからこそ、実質3案ものデザインが採用されました。


③「ならでは」で唯一無二のデザインに

この企画でしか通用しない、主語が変わったら成立しないデザインになって初めて意味と価値が生まれます。

今回のTシャツとキャップは、記念すべき6年目のムッタの日を盛り上げるためのグッズです。

他の漫画のグッズにも転用できるようなデザインではなく、宇宙兄弟「ならでは」とムッタ「ならでは」を組み込んで唯一無二のデザインに仕上げました。

面白いアイデアが浮かんだ!と思っても、「企画の本質や商品の魅力を置き去りにしていないか?」と自問自答して軌道修正をします。

④コンテンツ力で興味を奪うデザインに

情報や娯楽が溢れている世の中に向けて「こんなデザインをしました!」と発信しても、埋もれてしまう可能性があります。

その他大勢から抜け出して興味を引くには、いいデザインであることはもちろん「無視できない何か」が必要です。

前田さんは依頼を受けてすぐに、自身のTwitterや前田デザイン室のFacebookページを通じて発信しました。

デザイン案をラフ段階から共有し、制作過程をまるっとコンテンツ化しました。

デザイナーが悩む姿、デザインが変化していく様子をリアルタイムで見られる機会はそう多くないため、反響が期待できる方法です。

更にデザインに対する意見を募り、参加型のコンテンツにしていくことで期待値を高め、他へ向かうはずだった興味を奪います。

また、アルファベットや記号のように抽象化された『勝てるムッタ』のビジュアルも、目を奪って興味を引き寄せる造形をしていますよね。

興味を奪うコンテンツとデザインで「なんか気になる」を提供できれば “勝ち” が見えてきます。


⑤「いかにも」を捨てて、捨てられないデザインに

4つのハードルを乗り越えても、簡単に捨てられてしまっては意味がありません。捨てられないデザインはクオリティの高いデザインです。

ここで言うクオリティには、かっこいいとか洗練されているといったビジュアル的な要素だけでなく、シーンに適しているかどうかも含まれます。

その商品がどんなシーンで使われるかまで想像力を働かせ、「いかにお客さん目線になれるか」が大事です。

今回の場合、どんなデザインなら長く愛用してもらえるかを考えました。

Tシャツはいつでも気軽に着られる普段着で、何にでも合わせやすい優秀アイテムです。

ムッタの顔がそのままドーン!ロケットがバーン!というデザインも、ムッタファンにとっては素敵なデザインです。

でも今回の企画の趣旨は、ムッタの魅力をより多くの人に届けること。

ムッタへの愛を抑えて、さまざまなシーンで着用してもらえるデザインが必要でした。

だから外部のデザイナーである前田さんに依頼が来たのでしょう。

そこで前田さんは、抽象化させたムッタを普段から取り入れやすいシンプルなデザインと融合させました。

どんなシーンでも活躍するアイテムになれば、人の目に触れる機会も増えて商品の周知にも繋がります。

ムッタをストレートにデザインせず「宇宙兄弟ファン以外の方でも着やすいデザイン」としてクオリティを高め、捨てられないデザインのハードルも無事に乗り越えました。


勝てるデザインのムッタTシャツ&キャップで圧勝の夏

前田さんがNASU代表としてではなく、「デザイナー前田高志」として挑んだ今回の「Design For Mutta」企画。

「勝てるデザイン」が詰まったムッタTシャツ&キャップは、着ているだけで勝てる気がしてくるラッキーアイテムです!

2021年の夏、素敵に着こなして圧勝しましょう。

「Design For Mutta」企画のTシャツとキャップは、期間限定の完全受注生産です。6月16日までなので、気になる方はお急ぎください。

「Design For Mutta」商品の購入はこちらから。

この夏は、ムッタTシャツで勝てる!

買ってね〜!





〈文=成澤綾子(@ayk_031)/  編集=浜田綾(@hamadaaya914)/ 撮影=前田高志@DESIGN_NASU)モデル=ふみ(@fumi_survival)〉