2023年3月の、とある日。

一人の営業さんが、NASUを訪ねてきました。

その方が持ってきたのは、広告出稿に関するお話。

おそらく、NASUが事務所の近くに出している電柱広告を見てくれて、やってきたのであろうその営業さん。「この会社ならこういうローカルな媒体にも出してくれるに違いない!」という希望をもっていらっしゃったことと思います。


なぜならその広告は……

そう、回覧板広告だったからです……!

 

ん?回覧板広告って何?

この記事を読まれている方の中には「令和の時代に回覧板て!」「ていうか、回覧板に広告なんてあったっけ?」「ソモソモカイランバンッテナニ?」などと思われた方もいるのではないかと思います。

 

大丈夫。みんな同じ気持ちです。

 

この先の記事をスムーズに読んでいただくためにも、まずは回覧板広告の基本についてどんなものなのか、おさらいしておきましょう。

そもそも回覧板とは、クリップボードなどに必要な連絡事項の書類などをとじて、それらを順々に回して見ていくタイプの情報伝達ツールです。

とくに自治会・町内会などが地域の家庭に回すものが一般的で、ゴミ収集日や防犯情報から総会の日時、予防接種や健康診断のお知らせ、さらにはお祭りスケジュールまで。地域で暮らしやすくなる情報が詰まっています。

回覧板広告は、その中に挟み込まれる書類の一つ。街に暮らす人たちが見るものだけあって、広告主はいずれも街に根付いた会社ばかりです。


回覧板広告例

どうですか? 路線バスで見かける中吊り広告のような、ローカル感に溢れていませんか? 広告の奥に、この街で働く人たちの姿が見えてきそうな気がしませんか?



えっ、やるの!?

さて話しは最初に戻って、NASUに回覧板広告の営業さんが訪ねてきたときのこと。

お話を聞いてみると、費用はさほど高くなく問題なさそうでしたが、どうしてもネックになってしまうのが回覧板が回るエリアの狭さ。どれだけ見てもらえるかわからず、期待できる広告効果は未知数です。

それに加えて、ちょうど前田さんが不在のタイミングでの訪問営業だったこともあり、社内にはなんとなく「まぁこの話は受けないだろう」というムードが漂っていました。


営業さんが帰り、前田さんが戻ってきたところで、一応詳細を伝えてみました。

前田さん、回覧板に広告出しませんか?って売り込みがあったんで断っておきますね。

いや、いい案があれば出すよ。みんなでデザインコンペやろ!

このやりとりをきっかけに、事が動き始めました。



回覧板のデザインコンペ開催!

やるとなったら何事も面白がってしまう、NASUのメンバー。

まずは、営業対応もしてくれたまっきーこと中川さんがスケジュールや要件をとりまとめて、詳細を把握していないメンバーにもわかるように改めておふれを出してくれました。

NASUのみなさんへ

本日、町内会の方が回覧板の広告枠の営業に来られました。
1年間契約で2万円(+税)です。ただ広告を載せても効果が低いため、おもしろいアイデアを募集します。

[期限]
3月22日14:00まで

まっきー


「おもしろいアイデア募集します」。


クリエイティブに前のめりなデザインウォリアーたちが集まるこの会社で、それは「社内コンペ」を意味します。

しかし、先ほどのメッセージが流れてきたのが3月20日19時頃なので、締切までに与えられた時間は、実質1日とちょっと。この短い時間で、一体どれだけのアイデアが出てくるというのか。

いつもクールにメガネの奥から未来を見据えているまっきーの鋭い眼差しも、さすがに今回ばかりは締切の目測を誤ったかもしれません……

 

……と思ったら出る、出る。わんさかとアイデア。

 

締切時点までに、前田さんを含む全メンバーがアイデアを出し、なんと最終的に36ものアイデアが集まってきました。嘘だろおい!

……というわけで前置きが長くなりましたが、今回はNASU社内で行ったデザインコンペで集まったアイデア、そしてそこからどのようにして最終的なデザインができあがっていったのか、その模様をNASUメディアライターの郡司がお伝えしていきたいと思います!



引き続き中川から、コンペ詳細

NASUコンペ期間
・3月22日 14:00まで
・15時に前田さん報告
・17時に営業さんへ電話

回覧板エリア
大阪市中央区の中大江西・中大江東・北大江

カラー
深いブルーのモノクロです

ルール
枠の中は、公序良俗に違反しなければ何を書いても問題ないです。

審査
とくになしです。求人、イベントのお知らせ、ロゴだけでも、基本的に何でもいけます

原稿納期
載せることが決まった場合、4月10日までに原稿が欲しい。より早いと嬉しい

期間
4〜5月から1年間(不備がなければ4月あたりから1年間)

掲載後の広告の変更
できない

広告サイズ測ったら、横87mm・縦35mmでした! 共有です

ひちゃここと久本さんより、前のめり感&フェアプレーなナイスな補足共有がありました。



出てきたアイデア、全部見せます

さて改めて、ここで回覧板広告がどんなものだったか、もう一度見てみましょう。

……うん、ちょっとレガシー感は否めない。新時代は、この未来じゃなさそうですよね。しかし、時代がどうのと理由を付けて正面から向き合わずにいて、この世とメタモルフォーゼできるでしょうか?

レガシーとは、良くも悪くもまだ手付かずの部分が残されているということ。それはつまり、“伸びしろがある”ということでもあります。

「回覧板広告はまだ、デザインで面白くなる余地がある!」


そう信じた、NASUのメンバーたちは限られた時間の中で、どのようなアイデアを生んでいったのでしょうか……!NASUメンバーからの提案を見てみましょう。



小野さんのアイデア(締切28分前 提出)

他の広告の情報量が多いので、一つのことだけを伝えようと意識しました。 あと見た時に「ん?」と少し考えてしまう引っ掛かりを作りたいなーと思って作ったのがこの3案です!

① 記号的に読ませる

② 為した数(制作したデザイン数)+QRコード

※株式会社NASUの社名は、物事を成しとげる意味の「成す・為す」から来ているので、これまで「成(為)してきた数」に着目。

③ 指名手配



水上さんのアイデア(締切22分前 提出)

見てすぐに意味が伝わるか?という点と、回覧板なので場所を意識してアイデアを出しました!

①直球

②大阪城にのっかる

③リピートしたくなるデザイン

④中央区のみなさんに呼びかけ



中山さんのアイデア(締切20分前 提出)

広告案考えました!

①あえて読めないくらいの大きさの文字で背景をびっちり埋めて、白抜きのロゴを載せる

②あえて斜めにレイアウトを組んで、違和感で興味を惹く

他の広告に埋もれないためには?と考え、違和感を出せるアイデアを考えて出しました。



浜田さんのアイデア(締切18分前 提出)

限られたスペースで、いかにいい意味の違和感が出せるか?を考えて形にしました。

①茄子の会社と覚えてもらう

②幼児手描き風

③粗ドットフォント

④こうざぶろう的インパクト

※こうざぶろう社長さんは、大阪を拠点に活動するホストの社長さんです。

⑤デザインの会社の認知



久本さんのアイデア(締切3分前 提出)

自由度の高い条件だったので、「おもしろい」「認識してもらえる」コミュニケーションのあるデザインをしたいな〜と思って、とりあえず頭に浮かんだものを形にしてみました!

① フレンドリー

② 勝つ前に惚れさせる(指の骨は折れないようにね!)

③ まず勢いで勝つ!

④ テッテレ〜

自己暗示

⑥ トン勝つ!

⑦ 書籍で勝つ!

⑧ 引越しのごあいさつ

⑨ ナサルくん(泣)

⑩ どきっ

⑪ NASUって、こんなタイプの会社

⑫ やりたい仕事

⑬ 「お茶の間にデザインを」を軸に



前田さんのアイデア(締切2分前 提出)

時間ないので切り口だけ書いていきます。

①「BreakingDownのデザインやってまーす!」みんな輩になる
BreakingDownは、世の中で知っている人が多いので、反応でやすいかなーと。みんなでBreakingDownごっこするのが楽しそう。

②「勝てるデザイン書店です。」の本いっぱい。サイン入り書籍販売中
「勝てるデザイン専門書店」って見え方が面白そうとおもって。レトロな昭和の街の書店風のデザインするの楽しそう。

③ナスビの写真、そこに文字を彫る
ナスの写真が広告枠にドーンとあったら絶対目を止めるでしょう。存在を知られないとなんの意味もない。最も存在が大きい広告案。



村山さんのアイデア(締切ぴったり 提出)

ギリギリでテキストベースですみません、アイデア共有させていただきます。

①デザインを身近に感じてもらう。何事もデザイン。買い物もオナラも何でも
勝てるデザインから派生していくマインドマップ的なものを記載して、これもデザインなのかと、NASUの存在を身近に感じてもらう。

② 一家に一冊「勝てるデザイン」
この広告からの購入で家で使用できるシークレットグッズをゲット

回覧板ということでしたので「お茶の間にデザイン」にぴったりだなと思い、その方向性で案出ししました。



中川さんのアイデア(締切7分後 提出)

前田さんがラフにツイートしそうな文章を考えました。周りの広告がガチガチに情報を載せている中でラフなツイート文章を載せるって贅沢だな~など考えながら作成しました。

48万円クラファンにつなげる。

② アンチテーゼ

③ 2枠使い

※広告掲載面の裏面の同じ枠を抑え、表裏をデザインする。



小賀さんのアイデア(締切翌日10:41 提出)

すみません!
時間間にあってないんですが、電車の中で考えた物を一応貼っておきます🙇‍♂️ テキストベースで失礼します。

①実は、こんなにいる。
中央区のデザイナーの方のサインを集める
お茶の間にデザインを
NASU Co., Ltd.

天満橋はデザイン会社が多いです。 それを可視化できれば親近感を持ってもらうことができ、 お茶の間にデザインを届ける一歩になるかも、と思いました。

※今回は急なコンペだったため、一部、締切時刻を過ぎてからの提出者がいましたが、普段の仕事では遅れは絶対にありません!



これらのアイデアから選ばれたのは……

締切30分前から、やや過ぎてしまうまでの怒涛のデザインラッシュ。

さまざまなアイデアが飛び出し、見ているだけでも楽しい。やっぱり回覧板広告には、いろんな可能性が秘められているような気がしてきます。


これらの案を前田さんがチェックし、どのアイデアを軸に進めていくのかを決めていきます。運命の結果発表……!

全部見た!それぞれ、おもしろかった!はっちゃん(水上)の「リピートしたくなる」もよかった。

ビジュアル面白いのもいっぱいあるけど、NASUらしい切り口、ビジュアル、媒体のならではという基準でいちばんは、まっきーの「②アンチテーゼ」かな。

NASUっぽいし、デザインの仕事に落ちてるし、媒体活かしてるしめちゃくちゃいいなと思った!

ビジュアルは今のでもいけそうやけど、いろいろ検討したい!ケンカ売ってるからやさしい感じなのがいいかも。あと、なんで「NASU」なのか補足。「デザインで成す」は入れたい。



見事「NASU回覧板広告コンペ」を制したのは、中川さんことまっきーの「アンチテーゼ」案。

確認いただきありがとうございます!
結構、面白かったですね。僕もクスってなりました。

僕の「②アンチテーゼ」の方向性で、見せ方や文言を磨いていきます!




さらに、ここから、まっきーと前田さんのやりとりで、この広告にさらなるデザインブラッシュアップが加えられていきました。


試行錯誤を経て、完成したのがこちら。

回覧板のデザイン ブラッシュアップ案です。

前田さんからのアイデアで矢印を追加しました。全方向に向かってのコピーなのでその方がコピーが活きてくるし、一気に動きが出ます。僕は、Webデザイナーをやっているのでとくに動きを感じ取ります。矢印があることで、動画のエンディングみたいにも感じています。矢印の向きやフォントもたくさん試しました。

グッジョブ!バズりそう!

早く反応見たいね!




……こうしたやりとりを経て、回覧板広告が完成しました!!!



日常に隠れている面白さの種を見逃さない

今回、結果的に大いに盛り上がった回覧板のコンペ。この盛り上がりを最初から予測していたのか? そもそもなぜ広告効果が決して高いとは言い切れない回覧板広告を出稿すると決めたのか? その理由を代表の前田さんに聞いてみました。

過去にも社内でコンペをやった際盛り上がったし、日頃から皆がアイデアを出すが好きなのは知ってたので盛り上がるだろうなとは思ってた。でもこの盛り上がりは予想以上だったかな。

広告を出すのを決めたのは、日常の面白くなる可能性があることを見逃したくない、思考停止したくないという気持ちから。本当にやってみることで面白くできる! を体現する。NASUはそういう会社でありたいと思ってます。

クリエイティブの出発点はいつだって、自分がワクワクする気持ちや、誰かをワクワクさせたいと思う気持ち。そういう気持ちで回覧板広告をとらえ直してみると、なんだか新しいアイデアがどんどん出てくる気がしてきませんか?

じつは、回覧板広告のような“面白さの種”は、日常のいろいろなところに隠れています。NASUのメンバーは、その種をできるだけ多く見つけたいと思っています。

そして種を見つけたら、まず自分たちが面白がって楽しむ。みんながやらなそうなこと、逆にみんなが同じようにやっていること。それを本気で面白がったら何かが生まれて、世界が変わるかもしれません。


「これって、こんなに面白くなんの!?」


NASUは、そんな最高の褒め言葉をこれからも欲しがっていこうと思います。






〈 文=郡司 しう(@Ushi_Jinguu)/ 編集=浜田綾(@hamadaaya914)、木村涼(@riokimakbn)、中山乃愛(@noa_liriope)/ バナーデザイン=小賀雪陽( @KOGAYUKIHARU )〉