LINEスタンプで人気の「うさぎ帝国」。

この作者さんであるendoさんの会社「株式会社えんどろーる」のロゴデザインのプロセスをすべて公開する。

完成したロゴがこちら。

「うさぎ帝国」とは、イラストレーターendoさんが制作しているキャラクター。

うさぎ帝国のTwitterアカウントカバー画像をお借りしました

LINEスタンプから人気に火が付き、今やグッズ販売、個展の開催、図録集の発売までしている大人気キャラクター。歌まであるらしい。

その作者であるendoさんが法人化することになり、「前田さんにロゴをデザインして欲しい」と連絡をもらった。

endoさんとの出会いは、彼女が僕のオンラインサロン「前田デザイン室」に入ってきてくれたことがきっかけ。ちなみに宇野常寛さんの番組「HANGOUT PLUS」に出演させてもらった回を見て、僕のことを知ってくれたらしい。

前田デザイン室に入った時の彼女は、ただ「フリーのイラストレーターです。ゆるいキャラクターイラストを描いており、LINEスタンプ、グッズ展開、イベント出展などをメインに活動しています。」と自己紹介していた。

人気キャラクターの作者であることを思えば、謙虚すぎる自己紹介だった。endoさんと言えば、今年の1月に前田デザイン室に入り、その月の定例会での出来事が強烈に印象に残っている。

はあちゅうさんのサロンとの合同定例会で、本の装丁をメインに話をする会だったので、僕が

  • 板垣雄吾‎さんという人の本のデザインをやっていること
  • 本のタイトルが『やりたくないことはやらなくていい』だということ
  • 「やりやらおじさん」のようなキャラクターを作ろうかと考えていること

という話をした。

すると、その定例会の終わりに僕に声をかけてくれて、僕が話をしたばかりの「やりやらおじさん」のアイデアをすぐさま形にしてくれた。

アイデアを汲み取ってすぐ形にする力、動き方、さすがは人気イラストレーターさん。その早さとクオリティに圧倒されたことを今でも覚えている。

ちなみにこのイラストは著者の板垣さんが大変気に入ったので、前田デザイン室でプロジェクト化しLINEスタンプとして作ることになった。

担当編集の幻冬舎の片野さんには「ビジネス書と発売同時にLINEスタンプが出るってもしかしたら国内初かもしれない」とまで言っていた。

今は前田デザイン室を退会しているけれど、endoさんは前田デザイン室に大きな足跡を残した。

Step1:情報の整理

さて、そんなendoさんからのロゴ依頼なのだが、実を言うと最初は少し戸惑った。彼女はデザインもできるし、世界観もある。ファンもいる。

「僕がデザインしていいのかな?」というのが正直あった。話を聞いて見ると、本人も自分で作ろうとしてたけど制作時間がない。

どうせならプロに。「前田さんにお願いしたい」ということで僕にオファーが来た。

正直僕もスケジュール的に厳しかったけど、いちクリエイターとしてとても光栄なことなのでガチンコでendoさんとやろうと考えた。

endoさんにヒアリングをする

ロゴを作るにあたり、endoさんにいくつかヒアリングした内容は以下のとおり。デザインの答えはすべて“ヒアリング”にある。

・「えんどろーる」の名前の由来は?

endoさん:

「人生のエンドロールに載せられるような仕事をしていく」という意図です!死ぬときに「これが私の人生のエンドロールだ!」って言えるような。

あとは、人間は遅かれ早かれ死ぬので、そのことを忘れずに終わりを意識した生き方をしていきたい、というのもあります。

「今がいちばん若い!なんでもできる!」という前向きな生き方よりも、「どうせ死ぬことはわかっているのに、それでも生きるのはなぜか?やるべきことはなんなのか?」ということを考えていたいのです。
私の生き方のポリシーでもあります🐰

・具体的にイメージしているもの、キーワードは?

endoさん:

昭和邦画のタイトル。例えば「ゴジラ」みたいな。ゴツゴツした荒々しいロゴ

wikipediaより引用

・色のイメージはありますか?

endoさん:

色は使いたくないです。「白と黒」がいい。色を使うとしたら、ドラえもんのタイムマシンのようないろんな色が混ざったカオスな感じ。

ヒアリングを通して前田の所感:

キーワードは、
・雑草魂
・力強さ
・endo-roll
・転がって生きていく
・百姓

エンド感。終わりの悲しく刹那な感じにする方が、endoさん的には機能する。でもゴジラのようなという依頼は、荒々しさ、力強さを求められていて矛盾している気もする。おそらくendoさんの中で映画のエンドロールが悲しいと感じたことがあるからかもしれない。(もちろんダジャレもあるが)映画=昭和の邦画なんだろう。「終わり」「終わった」文字通りendを打ち出していく。

また「うさぎ帝国」以外にも、コンテンツを生み出していく「えんどろーる」は他のコンテンツが引っ張られないように色を使わない。終わり感を出すにはやっぱり「死」を想起させる、「黒」「白」がいいと思った。

Step2:ファーストラフ

「どういうロゴであるべきか」「何のためのロゴか」が明確になったのでファーストラフ。手描きでメモしながら、実際に使用される姿を想像しながら。時には何も考えず、ラフを描いた。

「えんどろーる」だから、映画のスクリーンのブラックボックスありだなぁ。「ブラックボックス」という呼び名もいいかも。「完」「おしまい」もせつないよね。

Step3:ひらがなのラフを作る

ラフの続き。「えんどろーる」さっきはカタカナをあえて作ったけど、オーダー通りひらがなで。やっぱりひらがなのほうがいい。そもそも何でひらがなにしたのかな?気になったので、このタイミングでendoさんに聞いてみる。

「感覚的にひらがながいいなと思ったんですけど、本来のエンドロールが持つ意味を見た目で中和させようとしたのかもしれません。」との回答があった。

endoさん自身も肩の力が入り過ぎていない印象なので、ひらがなの方がいいのだろう。 ラフを描いていて、手描き感がいいなとおもった。イラレで作ったあと、また手描きに戻して荒くするといいかもしれない。

Step:4 ラフの解像度を上げる

より、ラフの解像度を上げていく。提案できそうな案ができてきたので、STEP5は一旦提案書を作る。頭の端っこで案を考えながら

提案書を先に作ることで最終イメージが見えてくるからおすすめ。

Step:5 提案書を作る

endoさんからの回答:A案は文字のバランスが良いなと思いました。えんど、で右上がりになったあと、ろーるでやや下がる感じに、ネガティブさを感じて親近感が湧きました。

前田の返事→なるほど。右上がりからの下りね。

endoさんからの回答:B案の「終」のフォントがイメージしていたものに近いです。太さや若干の歪みなど、不器用ながら懸命そうなところがとても可愛いなと思いました。

前田の返事→漢字のフォント?ひらがなのフォントか。「太さや若干の歪みなど、不器用ながら懸命そうなところ」あぁ、綺麗にしすぎなくてよかった。こういうendoさんの感性好きだわ。

endoさんからの回答:C案の「スキップ」というのも、ぐっときました。終わりとか死とか、背負うテーマは重いのに、当の本人はスキップしてる……という状況が、禅僧っぽくて好きです。

前田の返事→ギャップね。重いこと言ってるのにウキウキ。「C」のマークにもそこは感じられるかも。

endoさんからの回答:

・D案は線の不均一さと、文字の丸さがすごく良いです。遺影の中にいるのにめっちゃころころしてる……

endoさんより、全体的な感想:

B案、C案のようなマークはぜひ欲しいなと思いました。Bのわかりやすさ、唯一無二の感じも魅力的なのですが、Cのシンボリック?抽象的?な感じも捨てがたいです。

私の表現が全体的に抽象的で、具体的すぎる描写が苦手であることも関係しています。

前田の返事→

マークあったほうが間違いないね。エンドロールらしさもでるし。「B」の終(え)はできた時、「キターー!」と思ったけど、コーポレートロゴとしては使いにくいかもね。

それに現実を抽象化するのがendoさんだから直接すぎるかも。伝わる解像度を粗くして言ったほうがいいね。「C」のマークで詰めていきましょう。

「C」マークは、endoさんの「え」でもあるし、「◯」はろーるだし、「絵に◯」だし、「人が妄信的に歩いている」シルエットにも見える。

endoさんの感想を受けて前田の所感:

endoさんは考え方が明快でわかりやすく、デザインしていて心地よい。彼女は「かわいいけど儚い」「重いのにふざけている」「不器用で一生懸命」なフォルムが好きだということがわかってきた。 

重いような軽いような、なんだかとても悲しいような。endoさんの作品自体がそう。「死を意識させるロゴ」にすることがendoさんの力になると確信した。

というわけで、まとめると

・ひらがなフォントやベースは「B」方向
・マークは「C」

で、作ってみることにした。

ブラッシュアップの前に……いくつかの変更点。

通常はここからブラッシュアップして納品のケースが多い。ただ今回は少し変則的で、どうしてもロゴの納品までに名刺が必要だと聞いていた。

そこで現状の案での仮名刺データを一旦お渡しした。その後正式なロゴ納品に向けてendoさんと話をしていたところ「今のロゴは可愛すぎるので、もう少し不器用な感じは出せますか?」との要望があった。

というわけで、ロゴを再度検証する。

この結果endoさんもFを気に入ってくれた。また採用にはなっていないけど、線画をモチーフにしたドローイング案も考えてみた。

それから、大きな変更点。これはこちらからの提案。 当初は、信頼性の獲得・昔からある企業のただずまいを目指してい

たけど、大切なところは「え」(え)マークでこれを見せるべきだと判断した。Co Ltdと表記しているので、ロゴの上の「株式會社」を取っても株式会社であることは伝えられている。

ロゴの耐久性を考えたら、削ぎ落としたほうがいいと考えendoさんにも了承していただけた。

試行錯誤の繰り返し

ここからはNASUのアシスタントデザイナー吉田にも手伝ってもらった。たくさんのやりとりをしているのだけど、例えばこういうロゴの微調整。

前田:えんどろーるのロゴ、「ろ」のこの部分、「る」にならって膨らみ若干持たせたくて。お願いできない?

吉田修正後↓

前田:「ど」のアール、気持ち丸く。「ろ」の○部分、ちょっと右に移動したほうがいいかも。

吉田修正後↓

それから名刺も。細かな修正を何度かお願いした。

これもそう。つらをデータ上で合わせるのではなく、見た目優先であわせてもらった。

最終的に納品したデータはこうなっている。

こんなモックアップも一緒にご提案した。

また一緒に依頼していただいた名刺も完成した。

最近のendoさんはというと、

ラジオ番組をやったり(ちなみに僕がゲスト出演させてもらった回もあります)

ファンクラブを開設したり

とにかく精力的で、いい刺激を受けている。いろいろやってておもしろいね。

endoさん、この度はロゴのご依頼本当にありがとうございました!ちなみに僕のオンラインサロン前田デザイン室内では、このやりとりをもっと詳細に全公開しています。

NASUでのロゴ制作のご依頼はこちらまで。




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