持続可能な社会の実現に向けて、世界が一丸となって歩む今。日本のジュエリー業界でも新たな試みが進められています。


それが「リファインメタル」


廃棄物などから抽出された、いわゆる“都市鉱山”由来の貴金属のみで再び製品化された貴金属と定義されています。


このリファインメタルを活用することで、業界全体を巻き込んだサステナブルな仕組みの構築を目指し、2021年に誕生したのが一般社団法人日本リファインメタル協会(以下、日本リファインメタル協会)です。


2022年6月14日付けで、この日本リファインメタル協会の理事に、NASUの代表・前田とチーフデザイナー・水上が就任しました。


ジュエリー業界で立ち上がった協会に、デザイン会社のNASUが関わる理由は、ただの偶然ではありません。産業を、社会を変える試みにも、デザインが力になれるからです。


SDGsを見据える時代に、新たな価値観を提示するファインメタル

前田:このたび、僕と水上さんが日本リファインメタル協会の理事に就任させていただきました。改めましてよろしくお願いします。


貞清:こちらこそです。僕は理事長と名がついていますけど、協会に関わってくださる皆さんの意見の調整役。要は雑用係なんで、困ったことがあれば何でも言ってくださいね。


小西:またそういうこと言って(笑)。


前田:リファインメタルを広めようという協会の発起人じゃないですか。

貞清:まぁ言い出しっぺではありますね。


小西:私は、貞清が経営するハムで販売員をやりながら、協会の広報を担当しています。もっとリファインメタルを広めるためにどうしようかなって考えるなかで、ご縁があってNASUさんにご相談させていただきました。


前田:正直言うと、僕はご相談いただくまでリファインメタルっていう存在を知りませんでした。この記事で初めてリファインメタルを知る方もいると思うので、ご説明をお願いできますか。


小西:リファインメタルは、再生された貴金属の一種です。ジュエリーの主な素材となる貴金属には、大きく2種類の調達方法があります。一つは、自然の鉱山からの採掘。もう一つが、廃棄されたパソコンや携帯電話などから抽出される、いわゆる都市鉱山からの再利用です。リファインメタルは、後者の都市鉱山由来で、かつ出処が明らかなものだけで再製品化された貴金属を指します。

出典:https://refinemetal-a.com/


前田:出処が明らかというのもポイントなんですよね。


貞清:はい。実は世の中にある貴金属のほとんどは出処が不明確なんです。鉱山由来でも、都市鉱山由来でも、結局はジュエリー用の素材にする過程で混ざってしまうんですよ。


前田:なるほど。一般のお客さんには、素材が何由来かなんて全くわからないですね。


貞清:そうなんです。しかも、鉱山由来だと、どこでどうやって採掘されているかわからないものもあります。海外では人道的な問題をはらんだ採掘活動もあると言われています。なので、知らず知らずのうちに、そうやって採掘された素材を使っているかもしれない。


前田:「だったら出処が明らかなものを買いたい!」っていうお客さんも絶対いますよね。


小西:はい。リファインメタルを“都市鉱山由来で出処が明らかなものだけ”に絞ったのもそういう理由からなんです。


前田:うんうん、どこの鉱山から発掘されたかわからないものは排除できますもんね。


小西:特に今はSDGsに代表されるように、社会の持続可能性が求められています。その点、リファインメタルには、サステナブル(持続可能)とトレーサブル(追跡可能)という2つの価値があります。この2つの価値を打ち出せると、ジュエリー購入時の新しい選択肢になりますし、ジュエリーにあまり関心がなかった方にも「そういう価値があるなら、ジュエリーにお金を掛けてみようかな」と思ってもらえるきっかけになると考えてます。

貞清:僕らのようなジュエリーを作って売る側としても、再生された貴金属を活用できるならどんどん使いたいですし、それ自体がプロモーションになるんだったら、業界全体で取り組む価値がありますから。


前田:それで協会の立ち上げにつながっていくわけですね。


貞清:元々は2018年に、僕の会社であるハムの社内プロジェクトとして「リファインメタルプロジェクト」を立ち上げたのが最初です。でも、業界全体でリファインメタルの活用を進めていくために、あえてハムとは切り離した形で、2021年5月に一般社団法人としてこの協会を立ち上げました。


同級生の縁から生まれた惹き付け合い

前田:今回、NASUからは僕と水上さんが理事として関わらせていただくんですけど、そもそものご縁っていうのは、小西さんと水上さんから始まっているんですよね。


水上:そうなんです。同じ中学校に通っていて、吹奏楽部で3年間一緒でした。


貞清:ちなみにそれぞれパートは?


水上:小西さんがフルートで、私がテナーサックスでした。


前田:へぇ〜。記事では、この下に当時の写真を入れたほうがいいんじゃない!?


水上:えっ! (笑)。 あったかなぁ……探しときます!(この取材のあと、写真を探してもらったのですが、見当たらずとのことでした。)


貞清:当時はなんて呼んでたんですか?


小西:私は「はつこ」って。


水上:私は「こに」って呼んでましたね。帰り道が一緒やったんで、よく一緒に遊んでました。


小西:八幡町のほうで一緒でね。


水上:そうそう! ってめっちゃローカルな話(笑)。

前田:中学校を卒業してから交流は?


水上:Facebookで繋がっていて、大阪の阪急梅田店でhumの販売員をしているのも知ってました。私の母親がジュエリー好きなのもあって、お店に伺ったこともあるんです。とはいえジュエリーって高価ですし、なかなか買う機会もなかったんですけど、今年2月に私が結婚しまして。


前田:おめでとうございます! 新婚さんですよ。


水上:ありがとうございます。もう半年以上経ったので新婚と言っていいやらですけど……(笑)。それで結婚指輪を買うことになって、だったら小西さんのところで買おうかなって思ったんです。


前田:そのときはリファインメタルのことは知ってたの?


水上:Facebookの投稿でなんとなくは知ってました。一生ものの買い物なんで、せっかくならストーリーがあるものを買いたかったですし、純粋に友達の活動を応援したいっていう気持ちもありました。それで小西さんがいるお店に行きまして。


小西:何の前触れもなく急に来てくれたから、めっちゃびっくりした!


水上:連絡くらいすれば良かったよね(笑)。そのまま即決で買った指輪がこれです。

小西:水上さんにはこれが絶対似合うと思って、おすすめさせてもらいました。


水上:実際につけてみた感じもすごく良くて。リファインメタルが使われていて、彫りも他にないデザインで気に入りました。


小西:この時にリファインメタルについてもお話しさせてもらったんですよね。


水上:リファインメタルのこととか、協会の活動についても詳しく教えてもらいました。色々課題があると伺って、これはNASUとしてできることがあるかもしれないって思ったんです。

小西:私も、水上さんのTwitterを通じて、NASUさんや前田さんのことを知っていたんです。4年前くらいだったかな。水上さんが前田デザイン室に入ってから、充実してる感じがすごく伝わってきて。水上さんのTwitterはよくチェックしてました。


前田:へぇ〜! 直接的なやりとりはなくても、SNSを通じてお互いがやってることが、惹きつけ合うものがあったんですね。


小西:そうかもしれないです。それが今こうして繋がってきていると思うと感慨深いですね。


前田:僕は水上さんから話を聞いて、関わりたいって率直に思いました。業界のため、社会のために取り組まれている活動に、デザイナーとしてできることがあると感じたんで。それで詳しくお話を聞かせてくださいということで場をつくってもらって、一気に話が進んでいきましたね。


同じ志を持つ者として中長期的にデザイン・コミュニケーションのサポートを

水上:最初は、協会のロゴを作り替えようかなっていうご相談だったんですよね。


小西:はい。元々はハムの社内で生まれたプロジェクトが発展して社団法人化したので、当初のロゴを使い続けてきています。でも、協会として公共性がある活動をしていくにあたって、作り替えた方がいいんじゃないかなと考えてましたね。

貞清:ただ、ロゴ1つ作ってもらって、何かが劇的に変わるものでもないですよね。だったら、ロゴだけじゃなくて、継続的に広く協会の活動に関わっていただける形でお願いできたらと思って、理事への就任を打診させてもらいました。


前田:僕は全然問題なかったんですけど、ジュエリーに詳しいわけじゃないので「本当に良いのかな?」っていう思いもありましたね。


貞清:むしろ、僕らは色々な分野の仲間が欲しかったんですよ。小ちゃいジュエリー業界の中の人間だけでやっていても、協会としての公共性ある活動は難しいんで。


前田:そういう意図もあったんですね。SDGsも見据えた、中長期的なスパンで社会を変えていこうとする取り組みですし、継続的に関われるのは僕らにとっても嬉しいオファーでした。同じ志を持つ理事として協会の中にいれば、できることもグッと広がるんじゃないかと思います。

水上:実は、小西さんからは、貞清さんと前田さんが会ったら、きっと何か化学反応が起きるって言われていたんです。


前田:へぇ〜!


小西:勝手ながらすみません(笑)。専門分野は違いますが、お二人とも根っこに強い信念を感じるんです。一方で、貞清はジュエリーという分野に特化して人に深く刺さるものづくりをして来ていて、前田さんはさまざまな分野でポピュラーなものをつくられていますよね。似ている部分と、対比した分があるお二人が会ったら何か起きるんじゃないかなって。


貞清:なるほどね。今NASUさんと出会えたのは、ベストタイミングだと感じてます。ここから先の活動で重要になるのは、コミュニケーション。消費者の方であり、社会一般という“マス”に対して、リファインメタルを知ってもらうことなんです。だからNASUさんには公共性あるデザインをお願いしたいと思ってます。

前田:僕自身も、今回のご縁でリファインメタルを知って、もっと世の中にも広く知れ渡ってほしいと思ってました。お話を伺って、改めて目指す方向を確認できましたし、デザインとコミュニケーションは僕らの専門分野なので、俄然挑戦したいという気持ちが湧いてきましたね。


貞清:僕らにはそういうマス向けのことには知見がないんで、その分野のプロであるNASUさんに力を貸してもらえるのは非常に心強いです。


前田:こちらこそ、デザインで世の中に貢献したい、何か残したいっていうのは常々思っていたことなので、こういう機会をいただけたことに感謝しています。貞清さんが目指す未来の実現にデザインで寄り添わせてください。


NASUが参画し、デザインの力が加わった日本リファインメタル協会。
その中枢を担う貞清さんと小西さんにはどのような思いがあるのでしょうか。
次回、リファインメタルから目指すジュエリー産業の未来に迫ります。


(次回に続く)




【お知らせ】

10月19日(水)から11月1日(火)まで、【責任ある調達 アクセサリーフェア】と題した、リファインメタルプロジェクトのイベントが、阪急うめだ本店で開催されます。

「ハム」、「ロウジェ」、「ヴァンドーム青山」、「カオル」、「ストーリー」
5ブランドがリファインメタルを用いたジュエリーを販売するほか、ジュエリー職人によるワークショップやデモンストレーションなどのスペシャルコンテンツもあるとのこと。

ぜひ、阪急うめだ本店に足を運んでみてください。イベントの詳細について、ホームページはこちらから、インスタグラムかこちらからご覧になれます。






〈 文=木村涼 (@riokimakbn)/ 編集=浜田綾(@hamadaaya914)/撮影=ただの ちひろ(@chihiro146)/バナーデザイン=水上肇子(@mi_ha_ko)〉