1000年先まで残るデザインで、「リファインメタル」をジュエリー界のAppleに。
「リファインメタル」は、ジュエリー産業に一石を投じる。
2021年5月に立ち上がった一般社団法人日本リファインメタル協会(以下、日本リファインメタル協会)は、発起人の貞清さんのもと、リファインメタルを業界全体で広める活動に取り組んでいます。
その活動をさらに加速させるため、協会の広報担当である小西さんは、NASUに協力を依頼。2022年6月14日付けでNASUの代表・前田とチーフデザイナー・水上が、協会の理事に就任しました。
廃棄物などに含まれている“都市鉱山”を再生してつくられる貴金属「リファインメタル」。新しいサステナブルな仕組みを形にすることで、ジュエリー業界にどのような未来がもたらされるのか。その未来を実現するために、デザインに何ができるのか。
1000年先をも見据えたデザインの原点となるストーリーの一片がここにあります。
衰退している産業でこそできること。
前田:そもそもの話を伺いたいんですけど、貞清さんがリファインメタルを広めようと思ったのはいつ頃だったんですか?
貞清:ちゃんと考えたのは独立して、自分の会社をつくってからですね。僕、大学受験に失敗して、浪人してた時に、ジュエリーをつくる会社でアルバイトをしたのが、この業界に入るきっかけなんですよ。
前田:そうだったんですね。
貞清:それでアルバイトしながらジュエリーの専門学校に通って、結局別のジュエリー会社に就職したんですけどね。勉強して働くうちに、鉱山由来のものと都市鉱山由来のものとが混ざっていることも知って、うまく使えないかなっていうのはずっと思ってました。
前田:アイデアとして温め続けてきて、今具体的に動き出しているわけですね。そこまで貞清さんを動かすリファインメタルに対する思いをお聞きしたいです。
貞清:う〜ん……これは言葉を選ばないと説明が難しいんですけど(苦笑)、僕なりにジュエリー業界をアップデートできたらっていうのはありますね。
前田:業界全体をもっと良い方向に持っていくためにということですね。
貞清:そうですね。最近「プロセスエコノミー」って言われるじゃないですか。誰がどういう工程でモノをつくったか、その過程に価値があるっていう。ジュエリー業界もそうしていきたいんですよね。
前田:逆に言えば、今はそうなっていないと。
貞清:はい。それこそ地金が、鉱山由来か、都市鉱山由来かもわからない状態なので。だから、誰がどうやって作ったかが分からないものがない状態にしたいんです。それができなければ、産業として、このまま衰退していってしまうんじゃないかっていう危機感を持っています。
前田:ジュエリー業界に携わる者としての使命感みたいなものが貞清さんを突き動かしているんですね。
貞清:そう言い換えていただくと聞こえは良いんですけどね。かつてと比べれば、業界的に今はだいぶ落ち込んでいるのも確かですし。一方で、衰退する産業でこそできることがあるとも思ってるんです。だって、僕らみたいな、業界的にはいわば“変なやつ”が現れているくらいなんで(笑)。
前田:むしろチャンスという捉え方もできるんですね。
貞清:ところで、話は全く変わるんですけど、僕は将来、自転車屋さんを作りたいんですよ。
前田:え、えっ!?(笑) 。なんでまた急に?
貞清:もちろん今は全然うまく作れてないですけど、トライはしていて。
前田:ホントにものづくりがお好きなんですね。
貞清:そういう性分なんでしょうね。作っていて自分で気づいたんですけど、全く新しい自転車をつくるよりも、今あるものを直して価値を出すほうが自分には向いてるなって。ゼロイチじゃなくて、中古で自転車を買ってきて、作り替えて価値を出したいと思ってます。これって、まさにリファインメタルとやろうとしていることと一緒なんですよね。
前田:おぉ! 貞清さんのモノづくりにはブレない軸があるんですね。その点では、NASUも似ているところがあります。最近、パートナー企業の人に「NASUさんは、元々クライアントさんが持っている魅力を磨いていいデザインをつくる会社ですよね」って言われたんですよ。その言葉がすごくしっくり来てて。
貞清:確かに、通ずるものがありますね。やっぱりこうして集まってくるのは、偶然ではないのかもしれません。
前田:小西さんは、どういう経緯で協会の活動に参画されたんですか?
小西:私は元々別のジュエリー会社で働いていたんですけど、阪急梅田店のhum(ハム)の店長にスカウトされまして。
貞清:阪急梅田店で一番いい販売員さんをスカウトしてきてって、僕が当時の店長にお願いしたんですよ。
前田:それが小西さんだったと。
小西:ありがたいやら恐縮やらなんですけど、それで貞清がやっているhumに入社したのが2015年でした。2年くらい経って、リファインメタルっていうので「何かやってるなあ」っていうのが社内でも分かるようになってきて。いよいよ一般社団法人を立ち上げるから、やりたい人は手挙げてって言われて「はーい」って元気よく手を挙げたのが私だけだったという(笑)。
前田:何でそのとき立候補したんですか?
小西:ずっと販売員としてジュエリーに関わってきたんですけど、地金がどこから来ているかなんて考えたこともなくて。リファインメタルという概念にハッとさせられましたし、純粋にこの新しいチャレンジが面白そうって思ったんですよね。正直、「社内でこれやれんのも私くらいしかおれへんやろな」って思ったのもあります。
水上:かっこいい!
小西:今年で入社して7年ですけど、知らぬ間に貞清に洗脳されたんだと思うんですけど(笑)。
貞清:いやいや! これはね、元々小西さんの中に感化されるエッセンスがあったからですよ。じゃないと洗脳はかからないから。
前田:確かに(笑)。何か通ずるものがあったんですね。
小西:まぁ今となっては、片足突っ込んだからには中途半端にはやりたくないと思ってます。全力でやった方が絶対面白い。それが自分のためにもなるし、世の中も変えていけるかもしれないですから。NASUさんが参画してくれたのもそうですけど、たくさんの人が関わってくれるようになって「良い活動ですね」とか、「興味あったんです」とかって言ってもらえると、どんどん楽しくなってきて。応援してくれる人がいる以上、私にできることは全部やりきりたいですね。
文脈を大切に、意志と見え方が一致するデザインで輪を広げる
前田:ご依頼にあたって、今後は「コミュニケーション」が活動テーマの一つになってくるというお話はありましたけど、これまでの活動についても教えていただけますか。
貞清:今までは主にルールづくりを進めてきました。リファインメタルとは何かという定義づけ、リファインメタルであることを証明する仕組みづくりといった部分ですね。まずはルールを作りなり、変えるなりしないと、世の中は変えられないんで。
小西:以前、貞清が、ある国内トップクラスのジュエリーブランドを展開する会社の社長にお会いする機会があって、そこで言われたという言葉が私は印象に残ってます。
リファインメタルを自前でつくろうと思えばつくれるから、一緒に組むメリットがない。でも、社会的にリファインメタルの信用を高める仕組み・システムを作ってくれるなら、乗っかる意味があるかもしれない、と。第三者目線でそういうことを言っていただいて、ルールをつくって一般化することの大切さを実感したんです。
貞清:iPhoneをイメージしていただくとわかりやすいです。OSという大きな皿があって、そこに誰もがアプリケーションで乗っかれるようになってるじゃないですか。僕らがやっていることも一緒で、誰もがリファインメタルを使えるように大きな皿をつくってきたわけです。
前田:きちっとしたルールが確立できれば、業界全体にメリットを波及できると。
貞清:はい。1社が単独で取り組むんじゃなく、業界全体で共通のルールを持っていた方が、仕組みとしても強固になります。そうして誰もが活用できる状態であることが、引いては産業の発展にもつながっていくんです。
前田:ルールづくりはある程度、形にはなってきたということですか?
貞清:まだ、独立した認証機関をつくる必要があったりするんですけど、着実に進んではいます。それと並行しながら、誰もが乗っかってもらえる状態だっていうことを知ってもらう活動も進めようと。どんなに仕組みができても、リファインメタル自体が世の中に知られていないと、使ってもらえないですから。
前田:なるほど、これからはコミュニケーションが重要だと強調されていたのはそういう経緯があったからですね。
小西:はい。もちろん、ロゴとか、コミュニケーションの軸となるもののデザインもお願いしたいと思っています。でも、新しいものをつくるだけが全てじゃないということを協会ロゴの件で前田さんに教えていただいて。
前田:そうでしたね。当初、協会ロゴをリニューアルしたいという話でしたけど、話し合いを進めていくうちに、今のロゴを使い続けることになったんですよね。
小西:そのとき前田さんが、既存のものを少しアレンジしてブラッシュアップすることもできるっていう提案をくださったじゃないですか。私たちにはその発想がなかったんで、すごく勉強になりました。
前田:お話を伺って、その方がいいかなと思ったんですよね。リフォームの「ビフォーアフター」的なTV番組でも、元々あった思い出の品をベースに新しいものをつくったりするじゃないですか。協会のロゴデザインも同じ発想で、今までのロゴやそこにある意志も大切にできたらなって。
小西:あのご提案を受けて、NASUさんに関わっていただくことで、新しいアイデアや展開が生まれるんだと実感しましたね。
水上:あと1つ、大きなものとしては、リファインメタルの認証ロゴのデザインですね。
小西:そうですね。リファインメタルのアイデンティティになるものなので、前田さんと水上さんとコミュニケーションをとりながら、時間をかけて公共的なものを作り上げていけたらと思ってます。
貞清:ロゴをつくる時は文脈を大事にしたいです。ブランドもデザインも、背伸びして見た目だけカッコ良くしても、中身が伴わないと一瞬で壊れちゃうんで。
前田:仰る通りですね。僕らとしても形にするのを急ぐつもりはなくて、もっと理解を深めたうえで、リファインメタルの世界観が世の中に伝わり、残り続けるデザインをさせてもらいたいと思っています。
貞清:今回サポートいただく範囲にコミュニケーション領域を含んでいただいているのは、協会のビジョンや考え方をきちんと共有したいという意味合いもあります。デザインからどうコミュニケーションを広げていくかっていう部分ですね。
小西:一般の方に伝えるのはもちろんですけど、まずは協会に関わってくださるすべての人が、貞清が描いているビジョンを理解して、同じ言葉、同じテンションで伝えられてこそ、活動の輪は広がっていくと思うんです。貞清が今回のようにわーっとお話をできれば一番いいんですけど、これだけ見ればわかるという1枚ものの資料でもあれば、もっと簡単に理解していただけますから。
前田:確かにそういうものも必要ですね。血が通ったストーリーから生まれたデザインにこそ、人も引き込まれていきます。貞清さんの思いや考えがあってリファインメタルであり、協会の誕生につながっているんで、これからデザインやコミュニケーションを設計していくうえでも、貞清さんの熱量が伝わることを大事に検討していきたいと思ってます。
小西:NASUさんはコミュニティの作り方も上手だなと感じてます。前田デザイン室は、参加されている方々が一様に楽しそうで、その輪が広がっていますよね。ぜひ、リファインメタルのコミュニティも同じように広げていくサポートをしていただけたらと思ってます。
1000年先にも残るデザインをここから。
貞清:散々喋っておいて、こういうのも何なんですけど、最終的にはモノを見て、お客さんがどう思うかが全てでもあるんですよね。作り手としても、できたモノを見て理解してもらいたいっていうのは本音ではあります。
前田:わかります(笑)。僕も任天堂にいた頃は言葉で語ろうとしてなかったです。デザイン案を出して「以上!」みたいな。当時は、僕の言葉不足を補完してくれる人もいたんですよ。でも、任天堂を辞めて一人になって、それじゃアカンって感じて、今は編集者の方ばっかり追っかけてますね。言葉からモノをつくる技術がすごいんで。
貞清:あぁ〜なるほど。これからの日本リファインメタル協会に必要なのも、一言で言えば「編集」かもしれませんね。でも、今日これだけ話した世界観を一般の方にもわかりやすく編集するって、絶対大変ですよね。
前田:簡単ではないですけど(笑)、じっくりやらせてもらいます。公共性があって、後世に残り続けるものがつくれるって、デザイナーとしてはめちゃくちゃ光栄なことです。もしかしたらこの先1000年使い続けられるかもしれないわけですよね。大変だとは思いますけど、やりがいしかないです。
水上:これまで何度か打ち合わせさせていただいて、私はイギリスのホールマークのお話がすごく印象に残ってるんです。イギリスでは、ジュエリーのホールマークを見ただけで、何年にどこでできたかが一目でわかるようになってるっていう。それ聞いて、リファインメタルでも同じようなものがつくれたらいいなって思いました。
前田:うんうん。僕が提唱してる『勝てるデザイン』でも、「捨てられないデザイン」っていうのを要素の一つに挙げてるんですけど、今回デザインするのはその最上級のものになると思います。
水上:時代が変わっても継承される、普遍的なものをつくりたいですね。
貞清:数十年後に振り返った時に、壮大なプロジェクトだと胸を張って言えるように僕らも頑張ります。なので、途中で嫌にならないでくださいね。
小西:最後にまたそういうことを(笑)!
前田:もちろん、末長く一緒に頑張らせてもらいます。こちらこそ、よろしくお願いします!
『NASUメディア』もまたプロセスエコノミーの一環。今後も、日本リファインメタル協会でのデザイン活動を逐次お伝えしていきます。
【お知らせ】
11月1日(火)まで、【責任ある調達 アクセサリーフェア】と題した、リファインメタルプロジェクトのイベントが、阪急うめだ本店で開催されます。
「ハム」、「ロウジェ」、「ヴァンドーム青山」、「カオル」、「ストーリー」
5ブランドがリファインメタルを用いたジュエリーを販売するほか、ジュエリー職人によるワークショップやデモンストレーションなどのスペシャルコンテンツもあるとのこと。
ぜひ、阪急うめだ本店に足を運んでみてください。イベントの詳細について、ホームページはこちらから、インスタグラムかこちらからご覧になれます。お近くの方は、ぜひ足を運んでみてください。
〈 文=木村涼 (@riokimakbn)/ 編集=浜田綾(@hamadaaya914)/撮影=ただの ちひろ(@chihiro146)/バナーデザイン=小賀雪陽(@koga_bai)〉