自分のスタイルがないと焦り続けた10年、その先に見つけたもの。

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神戸を拠点に、全国区で活躍するイラストレーター・サタケシュンスケさん。

企業や自治体をはじめ幅広いクライアントワークを手掛ける一方で、毎年必ず個展を開催。2022年3月19日(土)にオープンする「NASUギャラリー」では、その第一弾の企画展として「サタケシュンスケの必殺技展」を開催します。

イラストレーターとしてのキャリアは20年超。今や確固たるイラストのスタイルを持つサタケさんは、どのように現在のスタイルを確立していったのでしょうか。デザイナー・前田高志が迫ります。

焦り、失敗、コンプレックス、そして出会い──。葛藤の先に、揺るぎない自分を見出していました。

仕事とは別に、自分が本当に描きたい絵を描く

前田:サタケさんっていうと、動物をモチーフに、平面的で明るいイラストスタイルが特徴ですよね。今のこのスタイルを確立したのはいつごろなんですか?

サタケ:10年くらい前ですかね。実は僕、イラストレーターとして約20年のキャリアがあるうち、その半分はスタイルを模索していたんですよ。

前田:えっ、そうなんですか! 確立された世界観があるので、ずっと同じスタイルなのかと思っていました。

サタケ:いえいえ(笑)。むしろ、20代のころは自分のスタイルがないことにめちゃくちゃ焦ってたくらいで。

2020年のサタケさんの作品

前田:自分のスタイルは探しに行くか、ただ好きに描いているうちに見つかるか、人によって違いますよね。

サタケ僕は完全に探しに行ってました。スタイルがないとダメだと思い込んでいたんですよ。

前田:うんうん。どうやってスタイルを見つけたんですか?

サタケ:何か一つきっかけがあったって言うよりも、キャリアの中で徐々に「これ、自分に合ってるかも」という感覚が積み重なって、今に至るという感じですね。

前田:サタケさんが、今のサタケさんになるまでの10年にどんなことがあったのかめっちゃ気になります。

サタケ:もうホントに色々あって……何から話したらいいか迷いますね(笑)。

前田:じゃあ、そもそもの部分からまず聞きたいんですけど、サタケさんはどうしてイラストレーターになろうと思ったんですか?

サタケ:あぁ〜きっかけで言うと、高校生のときにキース・ヘリングに憧れたのが最初ですね。

前田:キース・ヘリングですか! 同世代なんでめちゃくちゃわかります。

サタケ:漠然と、絵を仕事にすることに興味を持って。でも、絵で食べていくなんて自分には無理だろうと思って、まずは手に職をつけようとデザインの専門学校に進んだんです。

前田デザインの仕事をしながら、イラストレーターとしての活動もしようと。

サタケ:そうです、そうです。入社が2002年。最初の1年は全く余裕がなくて、個人でイラストを描き始めたのは2年目からですね。

前田:絵を描くのは、平日の夜と土日ですか。

サタケ:そうですね。時々、会社でも描いて怒られてました(笑)。

前田:それは怒られてもしゃあないですね(笑)。歩道橋で作品を売っていたのもそのころ?

サタケ:はい。昼は梅田、夜は心斎橋でポストカードとか売ってました。今は規制が厳しいんで絶対ダメですけど、当時は結構流行ったんですよ。

前田:でしたね。大阪の路上からスターが生まれた時代でした。

サタケ:イラストレーターだと森チャックさんが心斎橋の路上から有名になって。一晩で何十万を売り上げるとか、夢のある話だったんです。

路上販売をするサタケさん(サタケシュンスケさんnoteより)
https://note.com/shunsukesatake/n/n764610047e80

前田:そのぶん競争も激しかったんじゃないですか?

サタケ:僕は小遣い稼ぎにもなりませんでした(笑)。でも、会社の仕事だけじゃいけないと思って。

前田:仕事とは切り離した活動が必要だったと。

サタケ:まさにそうです。自分が本当に描きたい絵を発信し続けたいと思ったんですよね。それで個展も始めました。

前田:そこはアーティストとしての側面ですね。純粋に自分の世界観を追求していくという。

サタケ:はい。意図的に仕事とは切り離した作品を描いています。2003年から始めて、最低でも年1回は続けています。結果的に、今では仕事で「個展で描くようなイラストを欲しい」という依頼をいただけるようになりました。

前田:ちゃんと今に繋がっているんですね。

サタケ:このやり方が自分には合っていたんだと思います。毎回大変ですけど、今となっては続けてきて良かったと実感しますね。

「闇堕ち期」から救われた“コンプレックス”への評価

前田:会社員でデザイナーをやりながら、個展も始めて、少しずつ自分のスタイルは見つかってきたんですか?

サタケ:いや、それが最初の数年はさっぱりで……。自分では「闇堕ち期」って呼んでます(笑)。

前田:えっ、サタケさんにそんな時期が!?

サタケ:当時から平面的な表現は得意にしていたんですけど、それ以外は何をやってもしっくり来なかったんです。

2003〜2004年のサタケさんの作品

前田:その闇堕ちを抜け出すきっかけってあったんですか?

サタケ:色んな活動をして、色んな人と出会えたからではあるんですけど。背中を押された出来事が一つあって。当時、よく公募にも作品を出していたんですよ。

前田:あぁ〜アート系の雑誌でよくやってましたよね。

サタケ:2カ月に1回くらい、作品をつくって応募して。2年くらい出し続けたんですけど、全く引っかからないわけですよ。

前田:めちゃくちゃ意外です。絶対通りそうなのに。

サタケ:当時の応募作品を見返すと、何となく薄いなぁと思うんですよね。自分が描きたいっていうより、入賞を意識して「こういうのを求めてますよね」っていう視点を感じてしまうというか。

前田:なるほど。察しが強くて、かえって上手くできすぎちゃったのかもしれないですね。

サタケ:良く言えばそうですね(笑)。審査する側からすれば、描き手の心というか、その人が何を表現したいのかっていう部分を見たいじゃないですか。正直、僕の絵は生意気に見えたと思います。それでも、たった1回だけ入賞したことがあるんですよ。

前田:おぉ〜! ついにですね。

サタケ:会社員を辞めた後の2006年。イラストレーション誌の『ザ・チョイス』の公募でした。入賞作品がこれなんですけどね。

前田:えっ! 全然今と雰囲気が違うじゃないですか!

サタケ:まさに闇堕ち感がある真っ黒な背景で(笑)。

前田:見方を変えると、今に通ずるシンプルさも感じますよ。

サタケ:そう言っていただけるとちょっと救われます。でも、当時は背景を描けないことをすごくコンプレックスに感じていたんです。だから真っ黒に塗りつぶした作品になっていて。

前田:そういうことだったんですね。ただ、そこも評価されたわけですよね。

サタケ:審査員を務めていたのが、当時、博報堂にいた佐野研二郎さんで、コメントをくださったんですよ。それが「一切状況を説明する気がない気概が良い」と。

前田:おぉ〜!佐野さんもシンプルな構図のクリエイティブが多いですし、通ずるものがあったのかもしれませんね。

サタケ:僕としては佐野さんに評価してもらえたのもそうなんですけど、「背景が描けない」ことを認めてもらえたのが大きくて。コンプレックスをむしろ前向きに捉えられるようになったんです。

前田:自分の強みにもなり得るって思えたんですね。

サタケ:はい。あの時「背景も必要だ」と言われていたら、未だに迷っていたかもしれません。

前田:まさにシンプルの原点ですね。

サタケ:今思えばですね。それと、公募に出して落ち続けたことも大切だったと思うんですよね。

前田:この時期の作品から学ぶこともあったと。

サタケ:落選するということは、これではダメだと言われているのと同じだと思って、毎回、違うスタイルを試していたんです。

前田:個展もやりながらですよね。相当な数を試したんじゃないですか?

サタケ:数えたことはないですけど、何をやってもしっくり来ないし、評価もされない。ただ、成熟していない当時の僕が、高く評価されてしまっても、多分戸惑ったと思うんです。

前田:確かに。自分が自身のことをよく分かっていないのに、周りからはそのスタイルを期待されちゃいますからね。

サタケ:そうなんです。実際、それで後々に追い詰められてしまった人も見てきたんで。

前田:サタケさんの場合、たくさん試しまくって行き着いたのが良かったと。

サタケ一つひとつ自分の足で踏み締めて確かめる時間が、僕には必要だったんじゃないかなと思います。ちゃんと試して失敗したから、今のスタイルに自信が持ててますし。焦って迷った時間も無駄じゃなかったと胸を張って言えますね。

「好き」には抗えない

前田:動物のモチーフはどんなきっかけで始めたんですか?

サタケ:明らかな転機があったわけじゃなくて、本当にたまたまです。ずっと人物を描いていたんですけど、試しに動物も描いてみようかなって思って。実際に描いてみたら、しっくり来た感じがあったんです。

2010〜2011年のサタケさんの作品

前田:そこから段々と自分のスタイルができてきたわけですか。

サタケ:動物って色が様々なので、自然と色使いも増えて。平面的な構図もうまく掛け合わさって。一個ずつ花が開いていく感覚でしたね。

前田:ちなみに、元々動物好きだったとか?

サタケ:いやそれが正直、特段好きでも、詳しくもなかったです(笑)。それでも、描いていくうちに「動物を描くのが好きになった」のは確かですね。

2012〜2013年のサタケさんの作品

前田:尊敬するイラストレーターさんとかいるんですか?

サタケ:たくさんいますけど、一人挙げるとしたら、大阪在住のイラストレーターの寺田順三さんですね。

前田:へぇ〜! 大阪在住なんですか。

サタケ:はい。実は、20代のときに、イラストレーター仲間と一緒に、寺田さんの事務所に突然訪問したんです。

前田:めっちゃアグレッシブ!

サタケ:それから展示会にもお邪魔したりして、段々と仲良くしていただいていて。面倒見の良い方で、若手を集めてご飯食べに連れて行ってくださったりもしますね。

前田憧れの存在が身近になるって良いですね。

サタケ:そう思います。寺田さんはきっと僕に何か技術的なことを教えたつもりはないはずなんです。でも、会ったときの何気ない話や行動を通じて、イラストレーターとしての道であり、生き方を示してもらったと思っています。

前田:それを20代で経験できたのは大きいですね。

サタケ:ですね。思い切って突撃して良かったなと思います。

前田:イラストのスタイルという意味では寺田さんにも影響を受けた部分はあるんですか?

サタケ:もちろんあります。でも、若いころは意図的に見ないようにしてました。

前田:あぁ〜尊敬するほど自然と引っ張られちゃいますからね。

サタケ:はい。自分のスタイルがないうちに近づきすぎると、自分も納得できないし、寺田さんにも失礼だなと思ったんです。だから、あえて見ずにイバラの道を選びました

2015年のサタケさんの作品

前田:なるほど。それで10年掛かったんですね。

サタケ:かもしれないです。でも結局、好きなものは好きだったんですよね。色々なスタイルを試してどれもダメで。自然と心の中で、もう意固地にならず、自分を許すことにしたんだと思います。

前田:好きなものには嘘をつけなかった。

サタケ:後に聞いたら、寺田さん自身も影響を受けたイラストレーターはいるんだそうです。だから、イラストレーターの歴史は、実は“好き”でつながっているんだなって。イラストレーターも人間なんで、好きには抗えないんです。

20年前の自分には想像もつかない展示会が始まる

前田:まもなく「サタケシュンスケの必殺技展」が開催されます。今のスタイルを確立したサタケさんの必殺技って、純粋に楽しみでしかないです。

サタケ:僕自身も「必殺技展」なんて考えたのも初めてなので、ご覧になる方々の反応が楽しみです。

前田:NASUが立ち上げた「NASUギャラリー」最初の展示会になります。デザインと楽しさという、NASUとの関連性を感じてもらえる展示にしたいと思ったら、サタケさんしか考えられませんでした。

サタケ:ありがとうございます。光栄です。

前田:この場所をギャラリーにしたのは、場所というものに価値を生み出してみたいと思ったからなんです。その一発目として、一番価値を上げてくれる方を考えたら、やっぱりサタケさんしかいなかったです!

サタケ:嬉しい反面、すごいプレッシャーですね(笑)。

前田:(笑)。実際、NASUと一緒に展示会をつくってみてどうでしたか?

サタケ:僕もこれまで数々の展示会を開催してきましたけど、こんなにギャラリーの方々と密にやらせてもらったのは初めてですね。

前田:そうなんですね。その点、今回は企画の部分からゼロベースでご相談させてもらいましたね。

サタケ:普段は自分一人で考えて決めるのがほとんどなんですよ。今回NASUの皆さんには、打ち合わせ中からたくさんアイデアを出していただいて。

前田:うちとしても一発目なんで相当気合い入りました。

サタケ:めっちゃありがたかったです。一人で準備していると、アイデアを思いついても、実現性とか手間を考えて諦めちゃうときもあるんです。

前田:あ〜もったいないですね。

サタケ:今回は色々シミュレーションをしながら、実現可能な方法を考えてくださったので、安心して準備を進められました。

前田:良かった! そう言ってもらえると社員も喜びます。

サタケ:何より「必殺技」で括る展示会なんて自分一人では絶対思いつかなかったです(笑)。

前田:確かに、展示会として聞いたことないタイトル(笑)。

サタケ:僕のことを知っている方にも驚いて、楽しんでもらえる自信はあります。ぜひ楽しみに観に来てほしいですね。

前田:20年前のサタケさんが、この展示会を見たらどう思うでしょうね。

サタケ:間違いなくびっくりしますよ。「こんな感じで描いてええんや!?」ってなると思います(笑)。

(後編へ続く)

お知らせ

2022年3月19日(土)より「NASUギャラリー」にて開催
「サタケシュンスケの必殺技展」

開催日時:
2022年3月19日(土)〜3月27日(日)

開催時間:
13時〜19時 ※ただし、最終日は16時まで

開催場所:
NASUギャラリー
大阪府大阪市浪速区難波中3丁目6-3 T4 BUILDING OSAKA 602

大阪メトロ御堂筋線 なんば駅5番出口より 徒歩5分
大阪メトロ四つ橋線 なんば駅31番出口より 徒歩5分

お問い合わせ:
info@nasu.design

〈文=木村涼 (@riokimakbn)/ 編集=浜田綾(@hamadaaya914)/ 撮影ー久本晴佳(@hi_sa_ko__)、バナーデザイン=バナーデザイン=小野幸裕(@yuttan_dn52)〉

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