若きクリエイターの皆さんへ。

自分のクリエイティブの強みが見つからない、誰にも評価してもらえない、クライアントとうまく関係が築けない……

もし今、何か悩みを抱えていても、それは決して悪いことではありません。イラストレーターとして20年超のキャリアを持つサタケシュンスケさんも、かつて10年近く、自らのスタイルがないことに焦り、悩んでいた時期がありました。

もがき、苦しみながらも絵を描き続け、今は自分のスタイルを確立し、全国区で活躍されています。

そんなサタケさんにご自身の経験を振り返ってもらったら、悩めるクリエイターの背中を押す言葉がたくさんありました。これは、若きクリエイターの方々に送る、クリエイティブ界を生き抜く道標です。



「伝わること」と「心を動かすこと」


前田:サタケさんは、自分のイラストのスタイルを確立するまでに10年かかったということでしたけど、これはやって良かった!と思うことってなんですか?


サタケ:なかなか難しい質問ですね(笑)。う〜ん……やっぱり大きいのは、仕事で依頼を受けて描くイラストと、僕が純粋に描きたいイラスト、どちらかに絞らず、両方やり続けたことですかね。


前田:うんうん。サタケさんは独立する前から20年以上、個展を続けているんですもんね。


サタケ:はい。個展をやるって決めると、「自分が本当に描きたいものって何だろう?」って思考も働きやすくなるんですよね。


前田:毎年やってたらテーマを考えるだけでも大変そうな……。


サタケ:実際めっちゃ悩みます(笑)。でも、僕は一つひとつ組み上げていくのが好きみたいで。


前田:あぁ〜なんとなくわかります。レゴみたいにユニットを組み上げていく感覚ですかね。


サタケ:そうそう! そういう感じです。テーマに沿って作品がどんどんできたり、逆に一つの作品がきっかけでシリーズができたり。最初は衝動的に描き始めるんですけど、それが連なっていくのが楽しいんです。


前田:それは完全にフェチですね。ユニットフェチですよ。


サタケ:かもしれないです(笑)。

前田:仕事と個展とで作品の違いってどんなところに出るんですか?


サタケ:伝わり方に違いはあるかなと思います。


前田:と言うと?


サタケイラストレート(illustrate)は訳すと「説明する」っていう意味なんです。だから、まず「伝わること」を一番優先しなければならない。過不足なく、たくさんの人に伝わるイラストは、良いイラストだと定義してます。


前田:確かに。ビジネスシーンでのイラストは特にですよね。


サタケ:そうですね。そのわかりやすさに加えて、見る人の心を動かせたら最高のイラストだと思ってます。


前田:伝わることと、心を動かすこと、両方が必要だと。


サタケ:僕の場合、両方を意識しながら、仕事では伝わること、個展では心を動かすことに重きを置いてイラストをつくってます。


前田:それぞれで使う力も違いそうですね。


サタケ:はい。案件が増えてくると、仕事に振り切っちゃうイラストレーターさんも少なくないんですけど、僕はどっちの力も意識して伸ばそうとしてきたのが良かったのかなと思います。


前田:イラストレーターとしての追求と、芸術家としての追求ですね。


サタケ:時間はかかりましたけど、僕はその両輪でやってきたから、自分のスタイルを見つけられましたし、表現の幅も広がったと思います。


評価してほしい人にSNSで作品を送る


前田:若いイラストレーターさんで、かつてのサタケさんみたいに自分のスタイルで悩んでいる人は多いんじゃないですか。


サタケ:そう思います。僕から言えるのは、最初から自分のスタイルを持てるイラストレーターは、本物の天才だけだということですね(笑)。迷うのは普通ですし、迷いながらでも描き続けていれば、いずれカチッとはまるときが来るはずです。


前田:うんうん。もしもの話、サタケさんが今、Twitterのフォロワー7人の若手イラストレーターだったらどうします?


サタケ:え〜どうしましょう(笑)。そうだなぁ……間違いなくSNSは使いますね。


前田:へぇ〜! サタケさんがどういう発信するのか、めっちゃ気になります。

サタケ:経験が浅いうちは、自分の作品を見て、評価してもらうのが大事だと思うんです。だから僕は公募に作品を出しまくっていました。今は公募がだいぶ減りましたけど、代わりに、自分が作品を見てほしい相手にSNSで直接近づけますよね。


前田:できちゃいますね。DMを送っちゃうとか、メンションつけるとか。


サタケ:ですね。人伝てでお願いしてもいつ返事がもらえるかわからないので、そこは自分から直が一番良いと思います。


前田:怖いもの知らずで行っちゃえ!と。


サタケ:それがいいと思います。フォロワー7人だったら、何も失うものがないですから。その7人も自ら失う必要はないと思いますけど(笑)。


前田:そこまでするクリエイターは多くないでしょうし、やってみたら本当に返事がもらえるかもしれないですよね。


サタケ:十分に可能性はありますよ。イラストレーターの中村佑介さんは、アジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)のジャケットを長く担当されていますけど、最初は自分からアプローチして描かせてもらったらしいんです。


前田:わぁ〜それはスゴい!


サタケ:僕も憧れたエピソードなんですけど、今はSNSを使ってそういうアプローチがしやすいと思うんです。あとはやるか、やらないか最短距離で独り立ちを目指すなら、僕は迷いなくやります

前田:サタケさんも今はSNSは活用されていますよね。


サタケ:そうですね。3、4年前にnoteにはまってから使うようになりました。


前田:noteはどんな記事を?


サタケ:僕個人の考え方や経験に寄ったパーソナルな記事をアップしていました。文章は稚拙ですけど、恥も含めて全部さらして。そうしたら意外と「スキ」をもらえたんです。それが嬉しくて、頻繁に更新してたら書きたいことがなくなって今は全然更新できてないんですけど(笑)。


前田人間性の部分も、クリエイターの情報発信としては必要になってきてますよね。


サタケ:そう思います。実際、noteがきっかけで僕のファンになってくれた方も多いんです。人と繋がりたいと思ったら、まず自分から“人となり”をさらけ出すのは大事だと思います。


ツールを食わず嫌いしない


前田:SNSがあるのもそうですけど、制作ツールも僕らが若かったころとは全然違いますよね。


サタケ:デジタルツールの進化が凄まじいですからね。iPadとかタブレット端末が出てきて、イラストも一気に描きやすくなりました。最近だとBlenderなんかも便利です。


前田:さすが、詳しいですね。新しいツールが出てきたら試してみるんですか?


サタケ:そうですね。まずは試してみてから、自分に合うか合わないかを考えます。そこは食わず嫌いせずにまず取り入れてみるようにしてます。


前田:それは好きでやるのか、訓練的にやるのかで言うと、どっちですか?


サタケ:好きだからというのもありますけど、とにかく試したいという気持ちが強いですね。ツールが増えたら、描けるイラストのバリエーションが増えることもあるので。そこは積極的に学ぶべきかなと思っています。

前田:この先、制作ツールも何がスタンダードになるかわからないですしね。


サタケ:紙と絵の具が中心だったのに、数十年で状況は一変しているわけですからね。今日の描き方が、20年後、30年後に通用しない可能性が高い。世の中の変化に応じて、自分も変化していこうと意識しています。


前田:そこは経営者としての目線ですね。


サタケ:そうですね。長くイラストレーターを続けるには、経営者的な目線も必要かもしれないです。


料理人(デザイナー)の目で、素材(イラスト)を捉える


前田:僕、サタケさんのキャリアの中で、個人的にめっちゃ気になることがあって。社会人になって最初はデザイナーをしていたんですよね。


サタケ:はい。5年くらい広告の制作会社でグラフィックデザイナーをしてました


前田:そのころの経験って今に生きてたりします?


サタケ:それは間違いなく生きてますね。なんなら、僕のキャリアで絶対に外せない経験の一つです。


前田:おぉ〜! デザイナーとしてはなんだか嬉しいです(笑)。

サタケ:感覚的な部分もあるんですけど、デザイナーとしての自分を憑依させるとイラストも見え方が変わるんです。


前田:あぁ〜わかります。デザインの中でどうしたらイラストがもっと生きるかっていう目線はありますよね。


サタケ:そうです、そうです!


前田:料理人さんと農家さんの関係性みたいですよね。農家さんとしては、せっかく作った食材を最大限に活かした料理をつくってほしいっていう。


サタケ:その比喩はめっちゃ的確ですね(笑)。イラストの仕事でも、広告とかはデザイナーさんと組んでやることがほとんどです。そういう時にデザイン全体を考えながら「このイラストはこう活かしてほしい」って自分から言えるのは、デザイナー経験があったからこそだと思います。


前田:デザインとイラストをセットで考えられるのは、間違いなく強みになりますよね。


サタケ:そう思います。イラストレーターとして仕事をするうえで、デザインはクリエイティブの視野をグッと広げてくれましたね。


納品は「終わり」ではなく「始まり」


前田:クリエイティブに対する考えについても聞かせてください。サタケさんの肌感覚として、もっとビジネスでイラストを活用しようという機運は高まっていると感じますか?


サタケ:少しずつ価値は感じてもらえるようになっていると思いますけど、まだまだハードルは高いかなと。ただ、そのぶんアプローチのやり方次第で、未開の地を拓ける可能性があると思ってます。


前田:なるほど。価値を感じてもらうために工夫されていることってあるんですか?


サタケ:それで言うと、仕事でつくった作品を自分のSNSで発信して、フォロワーさんからもらったコメントをクライアントにフィードバックしたりしています。


前田:あぁ〜それいいですね!「お客様の声」的な。

サタケ:まさにそういう感じです。“納品して終わり”じゃなくて、本来は“納品が始まり”じゃないですか。イラストを見た人がどう感じて何を思ったか。その反響こそがイラストの効果なので。クライアントに頼まれなくてもやります。


前田定量的な効果に匹敵するくらい、実際の声は嬉しいですよね。


サタケ:はい、反響が良ければクライアントも喜んでくれます。余計なお世話かもしれないですけど、せっかくなら僕もクライアントと一緒に喜びたいんですよね。だから、僕からのプレゼントとしてお渡ししています。


前田:プレゼントってめっちゃ素敵ですね。クライアントとの関係性も深まりそうです。


サタケ:イラストレーターって、まだ参入障壁が高いと思うんですよね。どんなにツールが発達しても、結局手を動かすのは自分自身なので。そのうえでプロとして一つひとつの作品に満足してもらう。クライアントとも関係を深めながら、クリエイティブの精度を上げていきたいと思っています。

前田:僕も全く同じ考えですね。クライアントとは長くお付き合いさせてもらいながら、クリエイティブの価値を感じ、成果を挙げてもらえる仕事をしようと常日頃から思ってます。


サタケ:価値を感じてもらうには、まず何に価値を求めるかという、目的の部分も大事になりますよね。


前田:ホントにそうですね。今は、企業がブランディングを進めて、“らしさ”を表現したいというニーズが高まってるじゃないですか。そのぶん高度で複雑なクリエイティブが求められていますよね。


サタケ:わかります。プロとしての仕事が問われる時代になってきますよね。


前田:まさにそうです。クライアントと一緒に、目的に沿ったクリエイティブを生み出し、期待を超えていくことが、プロのデザイナーとしての仕事だと僕は考えてます。


サタケ:それはクリエイティブに関わるすべての人に共通する考え方ですよね。1回何かを作って終わりの関係性じゃなくて、クライアントのパートナーとして、継続的にサポートしていく関係性がもっと求められていくんじゃないかなと思います。


“説明不足”を解決するイラストの真価


前田:サタケさんはイラストレーターとして、これからクリエイティブの価値をどうやって提供していきたいと考えていますか?


サタケ:僕が目指したい方向の好事例として一つあるのが、「浸水どうぶつものさし」という取り組みです。大阪市西区からの依頼で、南海トラフ地震が起きた場合の津波の高さを、動物の身長にたとえてイラストで伝えるっていう試みなんですけどね。

南海トラフ地震の津波による浸水の深さを示すための、 大阪市西区のオリジナル「浸水深サイン」デザイン。 そのどうぶつのイラストレー...

前田:へぇ〜面白い! 「何m」と書いてあってもなかなかイメージつきにくいですもんね。


サタケ:そうなんですよ。これが好評で、グッドデザイン賞も獲得したんです。津波が何mの高さに来るかを伝えることは一緒でも、イラストによって見せ方とアプローチをちょっと変えるだけで、課題解決につながるんだなって。すごく手応えを感じたんです。


前田:イラスト本来の意味である「説明」の価値ですね。


サタケ:はい。公的機関を含めて社会全体の中で、説明不足なことってまだまだあると思うんですね。その解決のためにイラストは絶対に役に立てると感じています。

前田:一般的にイラストと言うと、かわいい世界観や柔らかい印象を作るための手段と考えられがちですけど、それだけじゃないですよと。正しく情報を伝えることこそが価値だと捉えると、もっともっと活用が広がっていきそうですね。


サタケ:仰る通りですね。情報を必要としている人に、必要な情報をわかりやすく届けるって、シンプルでありながら難しいですから。イラストの活用シーンが広がって、たくさんの人の役に立つのであれば、イラストレーターとしてこんなに嬉しいことはないですね。


前田:それは、めっちゃやりがいになりますよね。いやぁ〜! 今回の対談を通じて、サタケさんのお話が若手のクリエイターの背中を押してくれてるんじゃないかなって感じます。


サタケ:えっ! そう言っていただけるのはありがたいんですけど、僕としては前田さんに聞かれるがままに、自分の失敗と考えを話しただけですからね(笑)。


前田:むしろそれがいいんですよ。若いときって、結構悩みを抱え込んじゃうじゃないですか。サタケさんにさらけ出して話してもらったおかげで、きっと自分の悩みを許してあげられるし、前に進むヒントにもしてもらえるんじゃないかなって。


サタケ:なんだか恐縮しちゃいますけど、もし本当に何か力になれていたら嬉しいですね。


前田:僕、こういう時につい大きく言っちゃうんですけど(笑)、この対談は「若きクリエイターに送るクリエイティブ界を生き抜くバイブル」として伝えていきたいと思います。今日はありがとうございました!

(終)





お知らせ

2022年3月19日(土)より「NASUギャラリー」にて開催中
「サタケシュンスケの必殺技展」

開催日時:
2022年3月19日(土)〜3月27日(日)

開催時間:
13時〜19時 ※ただし、最終日は16時まで

開催場所:
NASUギャラリー
大阪府大阪市浪速区難波中3丁目6-3 T4 BUILDING OSAKA 602

大阪メトロ御堂筋線 なんば駅5番出口より 徒歩5分
大阪メトロ四つ橋線 なんば駅31番出口より 徒歩5分

お問い合わせ:
info@nasu.design






〈文=木村涼 (@riokimakbn)/ 編集=浜田綾(@hamadaaya914)/ 撮影ー久本晴佳(@hi_sa_ko__)、バナーデザイン=バナーデザイン=小野幸裕(@yuttan_dn52)〉