「父・田端信太郎、母・前田高志」。田端大学新ロゴの制作過程に見る、ロゴデザインに必要なもの
2月1日、令和の志士たちが集う現代の私塾「田端大学」がリニューアル。同時に、新ロゴデザインがこの世に産声をあげました。「これから育てていきます」と塾長の田端信太郎さんは言います。
今回、田端大学の新ロゴデザインをNASUが担当しました。切磋琢磨、少数精鋭、常在戦場、をコンセプトにした田端大学のロゴデザインは、どのような過程を踏み、生まれたのか。
NASUメディアでは、「ロゴの制作過程」をテーマに田端塾長と前田の対談をお届けいたします。
「田端大学」の概念を先に出すデザイン
───NASUにロゴの制作を依頼した経緯をお聞かせください。
田端:2021年1月に、株式会社田端大学校を設立して、そこにオンラインサロン「田端大学」の機能を移しました。新しい節目として、何かをやりたいと思い、ロゴも変えることに。それもただロゴを変えるだけではなくて、田端大学のステージがフェーズ2に移ったという意味を持たせました。
前田:以前、新しい意味を持たせたいっておっしゃってましたね。僕もクライアントさんとお仕事をする時「志の再定義をしましょう」と言うんですよ。ただただロゴを作るだけじゃなくて、本当に大事にできるロゴを作る。このことをクライアントに言い切っています。
───田端さんは前田のことはいつからご存知でしたか?
田端:前田さんを知ったのはオンラインサロン「箕輪編集室」のコミュニティ内ですね。ちゃんとお話をしたのは、2020年11月にオンラインサロン「前田デザイン室」で開催した定例会での対談です。正直、デザイナーの方って口数が少なくて、職人気質なところがあると思っていたのですが、前田さんと話して、ちゃんと話せる人なんだなと思いました(笑)。
前田:昔は人前に出て、話すなんてしてませんでしたよ。ここ2、3年でかなり変わったと思います。
田端:すごく大切なことだと思いますよ。変な言い方ですけど、相手と同じフィールドに立って話せる人は、それだけで興味が湧きますから。デザイナーさんと一緒に仕事をする時、最後の決め手はそこになるんです。この人おもしろいなって思えるかどうか。
単純にお金払うからデザインして下さい、というクライアントとデザイナーの関係性も悪くはないと思います。だけど、プラスでその人に対しての興味を持てることが良いのです。この興味がなければ、NASUにしていただく意味がありませんから。
前田:ありがとうございます。
今回の田端大学の新ロゴは、僕がアートディレクションとして考え方を組み上げて、NASUのデザイナーの水上さんと一緒に案を出したりしました。決定したロゴを先に見てもらいますね。こちらになります。
前田:考え方として3つ、「本物の私塾」であり「現代のような要素」を入れる、そして「私塾として全く新しいものを作る」を意識しました。
田端大学の掲げているコンセプトの一つに「少数精鋭」があります。これは、サロンに対して、本気の気持ちが入ってない人が入らないようにする。いわゆる敷居の高さを意識させるようにしました。あとは胡散臭くならないようにするのもポイントですね。
それと、田端さんが伺っていた脱・田端信太郎。「田端信太郎」という人物が先行しないようにして、田端さんの考えが前に来るようにしました。
田端:それが大切ですよね。例えば、ディズニーって言われるとミッキーマウスのイメージが先に来るじゃないですか。きっとウォルト・ディズニーを先に想像する人はいないと思います。人物ではなくて、概念を形にすることが大事なのです。
絶妙な違和感で引きつけるロゴデザイン
前田:ご依頼を受けて、ロゴデザインの制作をはじめたわけですが、最初にご提案したのがこの内容です。
───田端さんの中で、気になったロゴはありますか?
田端:最初はこのTのデザインが良いと思いましたね。
田端:田端大学のロゴは、誰でも分かるものじゃなくて、分かる人にだけ分かるデザインにしたかったんです。
文字にして「田端大学」と入れてしまうと、誰でも分かるじゃないですか。そうではなくて、ステッカーなどにしてPCやスマホに貼った時、田端大学を知ってる人がチラッと見て反応するようなイメージです。要は説明をし過ぎないもの。このデザインだと世の中で田端大学を知っている人と知らない人に、適切な距離感が生まれるような気がして良いと思いました。
あと細かいところでいうと「T」の左側にある跳ねが、棘みたいで良いですよね。この棘が田端大学は甘くないってことを表しているようで、良い塩梅で「らしさ」が出ているなと思いました。
前田:そういう着眼点は、ものすごくデザイナーっぽいですね。
田端:普通は左右対象にしそうなものじゃないですか?
前田:そうですね。
田端:見た時の「違和感」とか「引っ掛かり」が大事だと思ってます。違和感がなさ過ぎると目に止まらないし、逆にありすぎてもどこ見ていいか分からなくなる。だから、意識的に棘を付けたことで、主張し過ぎていないけどちゃんと主張してるところが、絶妙な違和感なんです。
前田:僕もこの跳ねは付けないかもしれないです。なんか家紋っぽいなーって言ったのを参考に、水上さんが付けてくれました。水上さん曰く、筆の動きらしいです。
田端:良いデザインです。正直、あと一押しで、こっちもあり得ましたね。
ダメでも残す、アウトプットは全てストックする理由
───最終的には、TBTのロゴを原型に作り込んでいきました。この案に決めた理由というのは?
田端:兜、武士、侍の感じが出てたことです。昔の戦国時代って戦場で相手と対峙した時に、相手の鎧に付いている家紋とか装飾で相手の強さを判断するんですよ。出てきた時にバーンって「あいつやべぇ!」って思わせたい。瞬間的に認知させることができれば有利なので、分かりやすいってことが重要です。
田端:この過程を上の段と真ん中の段で見たら、Tに見えなくもなくて図形としての分かりやすさが出ている。最終的には印籠なのか手裏剣なのか、色んな見え方ができる。それが良いですね。
───前田さんは、このロゴが選ばれた瞬間に「やっぱりこれが選ばれたか」と思いましたか?
前田:「本当の私塾」という本物感みたいなところで、僕もこれを選ぶと思います。最終的にはディティールが洗練されて縦のラインが末広がりになってるんですけど、やっぱりエッジが効いてる方が田端さんっぽいなって思いますね。
───ここから完成形に向けて、どう磨いていきましたか?
前田:本当に細かいところです。横の棒を曲線にしたところとか。最初はもっとデジタルだったものを実際の筆で書かかれた素材を利用して、輪郭のディティールに毛筆のアナログ感を出しました。縦ラインも、パッと見では分からないぐらい徐々に広げました。
───途中色を付けている案もありましたね。
田端:結果的には無しになったのですが、これは検証でした。
───検証?
田端:例えばなんですけど、僕が「色付けましょう」と提案した時に、前田さんが「色付けない方が良いと思いますよ」と言ったら確かにそうかなって思うんですよ。けど、モヤモヤは残ります。
実際に色を付けて見せてくれると、確かにこれは違うなと。僕らクライアント側からしたら、見てみないと分かんないですよね。
前田:それでいうと、デザイナーって頭の中でイメージできるから、アウトプットをショートカットできちゃうんですよ。これをやってもクライアントも絶対に戻すと、分かってるからやらない。だけど、僕は若いデザイナーに、絶対にダメなことでもやっておいてストックしておこうと言います。ダメなことを実感しておかないと、本当に良いものが分からなくなってしまいますからね。
それと、デザイナーが一番嫌うのが、提案後に「こうした方が良かったんじゃないの?」と言われた時です。「え、そうかも?」ってなると自己嫌悪してしまうんですよ。だから、言われた時に「試したけどこういう理由でやめました」って、言って見せることは、自分のためでもあるのです。
田端:発注者側からしたら、そのアリバイ作りは大事ですよ。実際に、試したものを見てみて「あぁ、やっぱりだめだな」って一緒に納得できるじゃないですか。言われて納得するのと、見て納得するのは全然違いますからね。
デザインは「思考」と「造形」の掛け算
前田:今回TBTのロゴがどんどん形を変えていき、今のようなデザインになりました。でも、これは形がそう見えるだけではなくて、しっかりと意味を持たせないといけません。
───意味というのは?
はじめにロゴデザインで「志の再定義」をすると言いましたよね。「なんとなく田端さんっぽいでこのデザインなった」ではなく、この形になった理由をしっかりと説明できるようにしました。それがこの説明文が入ったものです。
前田:令和の志士が集まり一切忖度のない、キレのある叱咤が飛び交うような場所という想いで、ロゴを金の鳥居にしました。そして赤いハンコは田端さんの田。ここに田端さんの考えとか思考とか信念があることを表しています。
田端:兜の前立てにも見えますね。線の部分が田端のTですし。
前田:たしかに。デザインって「思考」と「造形」の掛け算なんですよ。たしかになんとなく田端さんっぽくて良いなと思った時に、あとから「なぜそうなのか」というところまで考える。今回は造形からロゴが生まれたので、最後に思考を、意味づけ部分を込める。逆の作り方をするときもあります。順番はどちらからでもいいけど、必ず「思考」と「造形」二つの間の往復する。どちらが欠けてもだめなんです。
田端:この説明文と後ろの画像を、前田さんが入れたのですか?
前田:説明文は僕が入れました。後ろの画像は、水上さんがパブリックドメインの写真に顔だけ合成して作ったもの入れた感じです。
田端:本当にすごいですよ。良い味出ている。ちなみに、これを見た人から「これ撮影したんですか?」って言われました(笑)。
前田:日に日にこれで良かったなって僕は感じてます。田端さんはまだ不安かもしれませんが。
田端:これを見るまではドキドキでしたよ。でも、理由を一つひとつ聞いていく中で、確かにこれだなって確信ができています。
作って終わらない、ロゴデザインを育てていく
───グッズ展開はするのですか?
田端:します。ロゴだけ作って終わりってことはないですから。まずはステッカーを、田端大学に新しく入って来る方に向けて配ろうと思います。それからパーカーです。フードのおでこの部分にあのロゴ付けたら、現代の兜の前立てみたいになってかっこいいじゃないですか。これは原価が掛かるので、販売しようかなと。
前田:Tシャツや扇子もありですね。
田端:扇子はいいですよね。これでパタパタしてたら味が出ますよ(笑)。
前田:どのグッズになってもたぶん良いと思います。
田端:置物みたいな物も作りたいんですよ。田端大学でMVPを取ったり活躍してる人だけが貰えるもの。これを持っていると一目置かれるようなものが欲しいですね。
このロゴも出来立てで、まだまだ赤ん坊のようなものなので、これからどんどん目に触れる機会を増やして愛着を持たせたい。これから、このロゴを愛されるものにしていきます。
前田:赤ん坊ですか。田端さんがお父さんで、僕がお母さんかもしれないですね(笑)。
田端:そうかもしれないですね(笑)。 それでいったら、デザイナーとクライアントの理想の関係です。せっかく、お腹を痛めて産んだ赤ん坊なんだから、これから育てていく。
前田:そうですね。
田端:このロゴが大義を表せるかは、これからの田端大学という家庭で決まっていく。面白いですね。
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〈取材=浜田 綾(@hamadaaya914) / 文=菅井 泰樹(@gas_sugai)/ 撮影=ただの ちひろ(@chihiro146)〉