動物や人物をモチーフにした、明るく可愛らしいイラストで、子どもから大人までを惹きつけるイラストレーター・サタケシュンスケさん。

2022年の初めには、サタケさんとNASUで「サタケシュンスケの必殺技展」を共同開催し、そのコラボは、デザイン業界の内外を問わず、多くの反響を呼びました。

そしてこの度、本日2023年6月2日(サタケさんの会社、株式会社ひととえの創業2周年)より、サタケシュンスケさんとNASUの新たなプロジェクトが始動いたします!その名も、「サタケシュンスケを世界へ」……!

プロジェクトを始めるに至ったきっかけや経緯、そしてどんなポートフォリオサイトにしていくのかについて、対談形式の前後編でお届けします。

前編ではサタケさん代表の前田さん、後編ではサタケさんまっきーことWebデザイナーの中川さん、そして、進行は広報の浜田でお届けいたします!



サタケシュンスケさん

イラストレーター。主に、広告、雑誌・書籍などで使用するイラストレーションおよびキャラクターの制作を行う。人物や動物などのモチーフが中心で、得意ジャンルは子育てや教育、ファミリー向けのタッチ。神戸市在住、3児の父。



もう一回、一緒に何かをやりたい!

———今日はよろしくお願いいたします! 今回は、サタケシュンスケ×NASUの新たなプロジェクトが始まるということで、前田さんとサタケさんのお二人にお話していただきます。

早速、きっかけからお聞きしたいと思います。


前田:最初は、純粋にサタケさんと「もう一度、何かを一緒にやりたい!」って思ったのがきっかけかな。


サタケ:僕もそうです。「サタケシュンスケの必殺技展」みたいなことを、もう一度やりたいという気持ちは、同じくありました。

サタケシュンスケの必殺技展の様子(サタケさんより、画像をご提供いただきました)

———サタケさんは普段お一人で個展をやられていますが、「サタケシュンスケの必殺技展」でNASUとコラボすることで何か自分の中で新しく生まれたものもありましたか?


サタケ:もちろんありました。能力や武器って、自分では意外とわからないじゃないですか。

「必殺技展」では、自分が言葉で言い表せない部分を引き出してもらった感覚があって。1回持っているものを全部出して、別の角度から眺めて、まっさらにしてもらって……。今まで気づいてなかったことや、思ってもなかった能力が、自分の中にあることに気づけた気がします。

あのやり方は一人では無理だと思うんですよね。

———“必殺技”という切り口で、サタケさんの手法を全部さらけ出したわけですもんね。

サタケ:クリエイターとしての自分のやり方、考え方に名前を付けて解説するわけですから、ふんわりとイメージしていたものが具体的な形になって意識できるようになったというのはありますね。


前田:「必殺技展」の後、個展ではそれまでと全然違うことやってますよね。


サタケ:そうなんですよ。それも、一度全部出し切って「もういいかな」と思えたからなんです。達成感も満足感もあって、気持ちよく次に行って「新しいことをしよう」という気になれた。

そして次のステージでまた一から作っていこう、と。それは今でも思っています。


前田:でも、作家さんの中には自分の中をさらけ出すことを嫌がる人もいますよね。やってきたことが分解されるわけだから。土足で「見せて見せて!」って言われている感じが……。


サタケ:僕自身、怖さもありましたよ。もちろん、強みを出せばそれが伸びるとも思いますが、強みは同時に弱みでもあるじゃないですか。弱みを見せることには怖さもあるので、「人とはできない」と感じる方もいるかもしれません。

前田:そういう意味では、サタケさんはちょっと特殊なのかな? 多分、デザイナーとしての経歴もあるからだと思うんですが。


サタケ:今だから気持ちよく一緒にできたというのはあると思います。これがキャリアが足りていない時期にやっていたら、やっぱり怖かったと思いますよ。自分の中でも答え合わせができていないのに、丸裸にされるというか……。


前田:多分、「必殺技展」ってクリエイターとしての余裕がないとできないものなんですよね。全部さらけ出しても「自分にはこれがある!」っていう武器をちゃんと持っている人じゃないと。


サタケ:しかも、歩んできた道をしっかり把握できてないといけない。そういう意味でも、個人的にはすごくいいタイミングでした。「必殺技展」でそういう体験をさせてもらって、楽しいのもそうですし、すごくいい印象がありました。


前田:その体験が、今回の話しにつながってくる。最近だとエクスペリエンス・アイデンティティといって、例えばApple StoreのMac Bookを開く角度とか、ユーザーにとって心地よい体験のデザインのことを言うんです。

「必殺技展」もそうで、そのイベントがサタケさんとNASUの心地よい体験として合致した。だから、お互いに「もう一回、何かやりたい」と思ったんですよね。

サタケ:僕も「信頼できる」と思えたことは大きかったです。普通、デザイン会社とイラストレーターの関係でいうと、イラストレーターは“仕事をもらう側”であることが多いんですよね。クライアントは別で、デザイナーとイラストレーターがチームで動く。

だからNASUと関わるといっても、「僕から声をかけてやれることはないな」と思っていました。でも今回のプロジェクトの内容を聞いて、「そっか、自分のことをやってもらえばいいんだ」というのは、気づきとしてありました。



サタケさんは、もっとやばいことになるはず

———忘れてはいけないのが、元々、前田さんがサタケさんのイラストが好きで、その気持ちからこのコラボが始まっているということですよね。


前田:そうそう、元々僕がサタケさんのイラストが好きなんですよね。前から言ってる、トイチック(カラフル、丸い、ポップなどのイメージ)っていう僕が好きな世界観があって、そのツボを抑えられている感じ。

それでNASUでも、サタケさんのホームページを見ていて社内で話をしてたんですよ。「これ、サタケさんめっちゃ一人でやってんのかな?」とか、「WEBのプロであるまっきーから見て、どう思う?」とか。

現在のサタケさんのWebサイト

———そして今回のプロジェクトでは「サタケシュンスケを世界へ」ということで、その大事な役割を担うサタケさんのポートフォリオサイトを、NASUが新たに作る、というのをメインに進めていくことになりました!

最初、この提案をされたときはどんなふうに感じましたか?


サタケ:よく考えてみれば、じつは「必殺技展」の段階ですでにまっきーさんにお話をいただいていたんですよね。

その時はサイトを褒めていただいて、僕としてはホクホクしてたんですけど、まっきーさん的には“こうしたらもっと良くなる”とか、すでに思うことがあったらしく、「今度お話させてください」と展覧会中に言っていただきました。

そこから数ヶ月経って、本気で今回の話しを持ってきてくれた。思い付きの話しではなく、ずっと考えていてくれてたんだな、というのが伝わってきて、すんなり受け入れられました。


———確かに、いきなり「Webサイト変えませんか?」って言われたら「急に!?」って感じしますよね。


サタケ:そうそう。今回は数ヶ月前に話しが出ていたので、そこから自分でもWebサイトのことを考える時間ができたんですよね。

それで、今まではこれでやってきたけど、今後5年、10年とこのサイトで戦っていけるかというと、だんだん厳しくなるだろうと。サイトを作ったときから、だいぶ時代の変化もありますし。

でも、自分一人で時間をかけて改善するとか、もう一度Webを学ぶというのは、どう考えても難しいなと思いました。

前田:今のサイトは、お一人で作られてるんですよね?


サタケ:そうなんですよ。その時は、誰かに頼もうというよりは自分でやっていました。


———え、写真もですか?


サタケ:写真もそうです。実績やプロフィールの写真もセルフで……。


前田:なんでもできちゃうんだよなぁ。


サタケ:本当は誰かに頼んだ方が、もっといい写真になるというのもわかってるんです。専門じゃない分、時間もかかるし、「もうちょっとこうしたい」という部分までは手が届かないですし。

できる範囲で“やってみよう”という気持ちになってしまうのが、自分でもよくないクセだな、と……。


前田:できてしまうからこその弊害、というのはありますよね。前にサタケさん、カワグチマサミさんとトミナガハルキさんと、トークイベントで話をしたことがあるじゃないですか?

僕、あのとき「サタケさんって本当になんでも一人でやってるんだ」と思って。

サタケ:初めて、前田さんとゆっくりお話したときですよね。


前田:そうです。あの時、ちょうどNASUで「法人をデザインで支援する」という仕事で結果が出始めたときだったんですよ。3〜4年付き合っている会社がぐんって伸びてきていて。

法人にも“人”という字が入るじゃないですか? 


サタケ:入りますね。


前田:同じ“人”なら、法人だけじゃなくて、「個人のクリエイターをデザインで支援したらどうなるんだろう」という仮説を立てていた頃だったんです。それで、やってみるならサタケさんがぴったりだなって。

サタケさんは、もちろん一人でも伸びていくとは思うんですが、逆に一人でやっていることが壁になっている部分もあって、NASUが入ることでそれを一気に加速させられる

例えば、今の仕事の中に、やらなくてもいい仕事がきっとあると思うんです。それを任せられる人がいれば、もっとイラストの仕事に時間が使えますよね。サタケシュンスケを会社に見立てればもっと可能性があるし、それをデザインでいい感じにできるんじゃないかって。それで、お話しに会いに行ったっていう。


———前田さんはサタケさんのこと、すごく好きですね(笑)。


前田:はい! それはもう、僕のこのnoteを見てもらったら!

———「もっとすごくなるクリエイターさんだから、NASUが一緒になってお互いがハッピーになったら嬉しい」という気持ちがありましたよね。それが、今回のプロジェクトの出発点にもなっていると思います。


前田:そう、もっとぐんって伸びて行った方がいいと思うし、ダイヤの原石っていうか。いや、サタケさんはすでに輝いているのはわかってるんですが、「サタケさん、もっと世界でやばいことになるんじゃないか!?」っていうのが、頭の中で見えてるんですよ。


サタケ:いやいやいやいや。


前田:だからこそ、こんなに色々なことを一人でやらなきゃいけない状況っていうのが、もったいないと思ったんですよ。サタケシュンスケは、サタケシュンスケにしかできないことに専念するっていうのが、僕はいいと思うし、そうあるべきだと思っています。

生涯で作れる作品点数は、限られてきますからね。


サタケ:確かに、時間も力も有限ですよね。ここ最近、2〜3時間、みたいな時間がうまく使えていない、というのは感じていて。


前田:もうちょっとレバレッジをかけるというか。一つに専念する分、もっとリターンが大きなことにも挑戦する。

サタケさんは多くのクリエイターとしてのロールモデルになると思っていて、後から来る下の世代のクリエイターにも、夢と勇気を与えるようになると考えているんですよね。



デザインは、“変化を起こすこと”

前田:それこそNASUでは、「企業や個人の魅力を見つけてコンテンツ化して広げる」ことをコンテンティゼーション(Contentization)と呼んで、大事にしているんですよ。

今回のサタケさんのプロジェクトもまさにそうで、結果が出るのは3〜4年後だと思うんですけど、その土台作りに協力させてもらいたいな、と。

僕、昔から結構おせっかいなんですよ。(本記事インタビュアーの)綾さんにもそうだったもんね、初対面の時から、何も聞かれてないのに「もっとこうしたらいいんじゃない?」みたいな。


———そうでしたね。「見出しと一行目の間、もう少し開けた方が読みやすいですよ」と初対面で言われて。「あ、ありがとうございます」みたいな(笑)。


前田:サタケさんもデザインをやられていたから、きっとそういうことに気づくんじゃないですか?


サタケ:見出しと一行目が近くて、わかりづらく読みづらくなっていたっていうことですよね。でもね、それを言うか言わないかを結構、人によって分かれると思いますよ(笑)。

前田:僕はガンガン言います(笑)。そうそう、今回もそういうおせっかいの気持ちから始まってるのかもしれないな。


サタケ:今回みたいに、提案してもらうような切り口で言ってもらうのって実は初めてで、NASUに関わってもらうことによって、自分がどう変化するのかを見たいという気持ちが出てきたんです。

今まで一人で走ってきたけど、40歳を超えて、このままのペース・方向スピードで残り20年。元気で動ける残りの時間を後半戦と考えたら、今ここで何かを変えなきゃいけないと思っていたところでもあって。


———40歳、というのは一つの節目ですよね。


サタケ:自分の中では一番脂が乗ってきたかな、という年齢なんです。ようやく色々できるようになって、自分で稼げて、法人化もして……。だから、まだまだ下り坂のような気持ちでは全然いなくて、もう一山、もうちょっと高いところに登ってみたいと思います。


前田:ありがとうございます。いいタイミングだったんだ。


サタケ:多分、5年早く同じ話しをいただいていたら「いや、まだ」とか「自分でやるので」とか言ってただろうし、逆に5年後、10年後だとそれまでやってきたものの余力で食い繋いでいけたら、ぐらいの守りに入っていたかもしれません。


前田:デザインって“変化を起こすこと”だと思うんですよ。これは、体現してみんなに伝えたいんですけど。

クリエイターって、ただ目の前の仕事をやっちゃうことがあるじゃないですか。今回のサタケさんとのプロジェクトを、こうして対談を記事にして、というのも誰かに変化を起こすことだと思うんですよね。

ただ、今回のプロジェクトの根幹としては、サタケさんに変化が起こること。

———そういう意味では、今回の目標の一つに「次は世界で個展をやる」というのがありますね。


サタケ:必殺技展の時に前田さんに話したんだと思います。ただ、「生きているうちにやりたい」ぐらいにしか思ってなかったんですけど、人に話したことで、より現実味というか具体的に考えるようになったというか。


前田:“今一番やりたい仕事”と聞かれたら、なんて答えますか?


サタケ:そうですね。やっぱり色々な分野に携わってきて喜びを感じるのは、子供に関わる仕事ですね。教育とか、育児とか。

前田:仕事の規模感でいうとどうですか? 例えば、行政の仕事とか。母子手帳や、幼稚園で支給されるような道具とか、ぴったりだと思うんですけど。


———母子手帳にサタケさんのイラストが描いてあったら、もらっただけでめっちゃ上がりますね……!


サタケ:今は、神戸に住んでいるので神戸市の仕事はあまり金額は関係なく、できるだけ関わりたいと思っていますね。子供向けのものは、とくに。なので、じわりじわりとではありますが、僕のイラストを使ってくれるところは少しずつ増えてきてる状態です。

社会と密接に関わるものには積極的に携わっていきたいと思っているので。


前田:てぃ先生が、保育園をつくるっていう話しもあったよね?


———確かに、てぃ先生が「保育園を作る時は、ぜひデザインを前田さんに」って言われていましたね。

前田:てぃ先生というカリスマ保育士の方がいて、保育に子育ての考えを取り入れる「こいく」という教育を提唱しているんですね。

「今後、5年以内に保育園をつくりたい!」という目標も掲げていらっしゃて、てぃ先生のロゴ制作をきっかけに、僕もお付き合いしてるんです。


サタケ:すごい! 二人が本気でやったら面白い幼稚園になりそうですね!


前田:イラストレーターは、ぜひサタケさんで。


サタケ:いやそれはもう……手伝えるところがあればと思いますし、最高の形ですね。


(後編へと続きます……)







〈 文=郡司 しう(@Ushi_Jinguu)/ 編集=浜田綾(@hamadaaya914)、木村涼(@riokimakbn)、中山乃愛(@noa_liriope)/ 撮影=中川誠也(@choooose_org_)、バナーデザイン=小野幸裕( @yuttan_dn52)〉