助産師人口を増やす!


ロゴリニューアルの提案書には、そう高らかに宣言するWith Midwifeの代表・岸畑聖月さんのイラストがありました。


With Midwifeは、助産師に関する事業を展開するベンチャー企業です。


創業から約2年で事業を急拡大。次の成長を見据えて、コーポレートロゴのリニューアルをNASUにご依頼いただきました。


現状の大きな課題は、社外からの“誤解”。


助産師の会社であることを正しく伝えるには、ロゴに“企業らしさ”が必要でした。


正しい理解が広がり、事業が拡大すれば、助産師の活躍する場所が増え、助産師関係人口は増える。


100案以上のデザイン案の中から、選ばれた1案にブラッシュアップを重ね、With Midwife社の皆さんの意志、進むべき道を示した新たなロゴは産まれました。



助産“士”として道を切り拓く“攻め”感

前田:4回の提案を経て、岸畑さんに改めてヒアリングをさせてもらいました。これがロゴリニューアルの新しいスタートでもありました。


岸畑:はい。With Midwifeへの思いとか、目指したいロゴのイメージとか、結構ざっくばらんにお話しさせてもらいました。


前田:お話を聞いていて、割と僕らが守りに入ってたなって気づかされました。


岸畑:「守り」ですか?


前田:今回、“企業らしさ”が大きなポイントだったので、かっちりした伝統ある企業のようなCI(コーポレート・アイデンティティ)を作ろうとしていたんです。でも、そうじゃないなと。With Midwifeさんはこれから新しいことをガンガンやっていくんだから、ベンチャーらしい新しさも感じさせないといけないと思いました。なので、次のご提案では“攻め”が必要だというプレゼンをさせてもらいました。

久本:With Midwifeさんは「助産“師”」ではなくて「助産“士”」。侍のように時代を切り拓いていく力を感じられるロゴにしましょうという考えのもと、ロゴの方向性を少しずつ絞っていきました。


岸畑:最終的に2案まで絞って、もう1回、NASUさんと、うちのメンバー全員とでの打ち合わせの場を持たせてもらって、その場で1案「これやね」って決まりました。これが最終案の原型ですね。

実際に選ばれた1案

前田:この時に、メンバーの竹﨑(澪)さんが「マークが『道』にも見えますよね」っていう話をしてくれたんですよね。


岸畑:戦後GHQで変わってしまった助産師の在り方をまた変えて、新しい価値を創って進んでいくって。これは「ほんまやなぁ」って、みんな納得してましたね。


久本:この案をベースに、私たちのほうで2週間くらい、企業らしさと攻め感の最適なバランスを探りながら調整と検証をさせていただきました。


前田:「With Midwife」という綴りが、文字組み的に難しくて色々試しましたね。あと、“道”を生かしてマークはもっとなにかできないかなぁと。


久本:道と捉えた時に、元の案は左上に向かっていくので、最終的に戻っていってしまう印象になるのが懸念だったんです。前に向かって進んでいく印象にするには、右上に向かう形が良いんじゃないかということで、反転させました。

そうすると、意味づけもしっくり来るようになりました。200年前から続いてきた助産師という職業。しかし戦後、占領軍(GHQ)が入ってくると、自宅分娩でなく病院で分娩し、多くの助産師が病院で働くようになり、病院での出産が99% になりました。

そして、2019年。助産師に関する事業を展開する株式会社With Midwifeという会社が生まれます。創業から2年が経過し新しい道に向かって飛躍する。こんなストーリーができました。

前田:もう一つ、「I」を道に見立てるっていうのも加えましたね。

岸畑:この“攻め感”は絶妙でした。

久本:普通の「I」も試したんですけど、ちょっと物足りない印象だったんです。造形的に道にただ見立てるだけでなく、3つの「I」にも意味づけをさせてもらいました。

前田:ここでもWith Midwifeのメンバーの方が良い案をくださったんです。井本(達也)さんが「M」も「W」を反転させて構成すれば、3つの「W」になって、創業当時のロゴの意志も受け継げますねって。

創業当時のロゴ


久本:はい。このご提案のあとに最後の調整と検証させていただいて、最終的には3つの「W」で構成することになりました。

完成した新しいロゴ

岸畑:私たちのほうでも検討して、3つの「I」と、3つの「W」を行動指針として意味づけをさせてもらいました。「I」は社会に向けた行動指針として「image(想像する)」、「interact(協力する)」、「innovate(革新する)」。「W」は社内向け、チームに向けた「way(道)」、「worth(価値)」、「wisdom(知性)」という意味を込めました。こうして明文化できたのは、このロゴがあってこそです。


前田:1回目の提案から数えると100案以上をお見せしてきて、そこから選ばれた1案。その案にもブラッシュアップを重ねて、意味づけをして、僕個人的にはこれ以外にないと思えるロゴになったと自信を持って言えます。ついさっきの打ち合わせでタグラインも僕からご提案させていただき、正式に決まりましたね。


岸畑:はい。「Old with new.」。当初は、以前NASUさんから提案いただいた「Old meets new way.」で進めようと考えていたんですけど、With Midwifeのアイデンティティである「寄り添う」を大切にしたいという思いもありました。これまでの歴史を基盤として私たちが新しい価値を付加していく存在でありたいということも考えると、「with」という言葉を使いたいなということで決めました。

前田:今後、助産師を一言で表したタグラインとかも考えていけたらいいかなって思ってます。


岸畑:たしかにそうですね。タグラインも時代とともに変わっていいと思うんです。だから、自分たちの存在意義をどう表すかはこの先もずっと考え続けていきたいですね。


名刺からも伝わるWith Midwifeらしさ


前田:今まさに新しいロゴにあわせたWebサイトのリニューアルも進めさせてもらっていますが、先行して名刺はすでに新しいのができたんですよね。


岸畑:はい。これも久本さんに色々話を聞いてもらって、デザインしてもらいました。


久本:最初にヒアリングさせてもらったときに、名刺で大事にしたいことをお聞きしたら、「名刺はギフト」っていうお話をいただいたんです。渡した相手のテンションを上げることを一番大事にしたいと。


岸畑:前の名刺もギフト感を意識して、折りたたみ式でちょっとしたメッセージを書けるようなものにしていました。今回のリニューアルでも何か仕掛けは欲しいなという思いはありましたね。


久本:その思いを踏まえて、デザインとしてはロゴと同じように企業らしさや攻め感は意識しました。助産師トリビアが書かれているエンタメ要素が強い案とか、逆にシンプルにカッコいい印象のものとか、切り口を変えて色々提案させていただきました。

岸畑:私も最初はエンタメ路線がいいなって思ったんです。発見とか面白さがあった方が、感情の動きを生み出しやすいんで。でも、社内で話していて、あんまり自分から押し出していくのもどうかなって思い直したんです。むしろ、相手を知ることが一番大事だから、名刺で自分を主張しない方がいいんじゃないかなって。


前田:まさに“with”の姿勢ですね。


岸畑:そうですね(笑)。相手に寄り添う姿勢を示すには、シンプルでありながら丁寧な印象を与えるべきだろうと。それで情報はシンプルにする代わりに、小口染めにしたり、柔らかくて上品な印象の紙質にして。丁寧なご挨拶を印象付ける名刺にしてもらいました。

前田:反響はどうですか?


岸畑:前の名刺はお渡しすると「珍しい」とか「変わってる」って言われたんですけど、この名刺にしてから「かっこいい」って言われます。


前田:おぉ〜! ちょっと手前味噌ですけど、凛とした印象があって、With Midwifeさんらしいですよね。


岸畑:そうなんです。今のWith Midwifeにはこの名刺が一番合ってるなって実感します。


社外に漏れ出るアイデンティティが企業ブランディングにつながる

前田:改めて今回のロゴリニューアルを振り返ってみていかがでしたか?


岸畑:最初に希望としてお伝えさせてもらったとおり、まさにみんなでつくることができたなって感じます。実は、メンバーの一人が、最終案に決まったあと、4月から育休に入ったんです。その子がお休みに入る直前に、「このロゴには自分のDNAも込められているから、自分が帰ってこられる場所ができた」って言ってくれたのが嬉しくて。


前田:そういう言葉をお聞きできると僕らも嬉しくなります。


岸畑:この取材に同席してくれている松本さんもずっと関わってくれていたので、せっかくだから感想を聞いてみていいですか?


松本:えっ! 私ですか?(笑) そうですね……私たちからたくさんの思いや意見が出てきて、まとめるだけでも大変だったと思うんですよね。でも、NASUさんはコンセプトワークから膨大な情報から、私たちの言いたいことを的確に整理して、毎回想像を超える数とクオリティの提案をしてくださって。もう毎回「はぁ〜すごい!」って感動しながら、どんな形になるかワクワクしながら参画させてもらいました。

前田:急なフリにも完璧なコメントですね(笑)。ロゴを作るなかで皆さんとお話ししていて感じたんですけど、一体感が強いですよね。皆さんが同じことを考えて、同じ方向を向いているなって感じてました。


松本:メンバー全員が助産師の資格を持っていて、業界への課題意識、With Midwifeのビジョンへの共感があってジョインしてきているからかなと思います。なので、ロゴを検討するうえでも意見が割れることはなかったですね。


前田:普段から皆さんで、こういう会社にしていきたいっていう話をしたりするんですか?


岸畑:頻繁ではないですけど、ありますね。あとは、私が一方的に言っていることに、共感しながら聞いてくれるというのもあります(笑)。「それは違うんじゃない?」って言われることもあるんですけど、そういう時は大体私のミスジャッジが原因なんです。必要なときに私にブレーキをかけて、軌道修正させてくれるのも、全員で同じ夢を見ているからこそだと感じるんですよね。


前田:企業ブランディングは、まさにそういうことから始まると思いますよ。社内を同じ考え方・価値観というガスで満たしていく。いずれ充満したガスがロゴやデザインとして社外に漏れ出て行くことで、「With Midwifeってこういう会社だよね」というイメージが自然と確立させていくのが一番だと思います。

岸畑:そういう意味ではだいぶ社内での共有はできてきて、すごく良いチームだと思うんです。新しいロゴをきっかけに、今後は社外に向けて私たちのアイデンティティも意識的に出していきたいとは考えてます。


前田:NASUも社員が増えて、だいぶチーム感が出てきたんです。今回も、途中から久本さんにメインでプレゼンを担当してもらいました。感覚的なことになっちゃうんですけど、With Midwifeの皆さんに合うような気がしたんですよね。


岸畑:うちのメンバーも女性中心で、年齢が近いこともあって、久本さんに親近感が湧きやすかったかもしれないですね。デザインの技術ももちろん素晴らしいんですけど、柔らかい雰囲気で話を引き出してくださって。久本さんにも加わってもらったからこそ、生まれたデザインでもあると思うんですよね。前田さんにディレクションしていただきながら、久本さんにデザインを担当いただいたのは良かったんじゃないかなって思います。

久本:そう言っていただけて嬉しいです。これからもよろしくお願いします。


前田:チームNASUとしての強みも生かして、With Midwifeさんにデザインで寄り添わせてもらいます。これからも一緒に勝っていきましょう!


岸畑:ぜひよろしくお願いします! 勝てるデザインの力、これからも楽しみにしています。

新しいロゴとWith Midwife社の皆さん



(終)




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〈 文=木村涼 (@riokimakbn)/ 取材・編集=浜田綾(@hamadaaya914)/撮影、バナーデザイン=小賀雪陽(@koga_bai)/ レタッチ=水上肇子(@mi_ha_ko)〉