目指すはレベル99。無数のアイデアでコミュニケーションを設計するデザイナーかもゆうこ。
NASU代表、前田高志の旧ブログより転載した記事です。「NASU CREATOR’S DIRECTION」は現在休止中のサービスですが、ご興味のある方はこちらよりお問い合わせください。
NASU-noteの新企画として「NASU CREATOR’S DIRECTION」コーナーを始めます。代表の前田高志がクリエイターと対談をしてコンサルをします。そしてその様子を記事としてご紹介します。
記念すべき1回目は、デザイナーのかもゆうこさんです。
デザイナー かもゆうこ
1984年東京生まれ。桑沢デザイン研究所を卒業後、広告制作会社を経てグッズ制作会社へ。グッズの企画から生産までトータルで請け負うデザイナー。 #今日のたまお #通り猫 の4コマ漫画を毎日更新中。
かもさんが、これまで手がけたグッズデザインのポートフォリオ。
詳しくはこちらから。
広告デザインからグッズの企画制作まで、多様で大量のデザインを手がける
前田:(ポートフォリオを見ながら)たくさんあるね!
こんなにたくさんグッズ作ってきたんだ。
カロリーウォークプラスのグラフィックデザイン
前田:あ、でもグッズじゃない仕事もやっていたんだ。
これは?はるな愛さん?
かも:はい、そうです。「カロリーウォークプラス」といって、シェイプアップ効果のある靴の広告のデザインです。このお仕事は、最初の広告制作プロダクションにいた時のもので、撮影からレタッチまでしました。
前田:そうなんだ。ディレクションは誰がやるの?
かも:この時は上司がやっていました。ただ、フィニッシュワークは私がやってました。
前田:写真のレタッチも?
かも:はい、レタッチしましたよ。
前田:僕も任天堂時代たくさん経験してきたけど、芸能人のレタッチって大変でしょ(笑)。
かも:そうですね。大変でした(笑)。
かも:あ、はるな愛さんご自身は、すごく感じのいい方でした。誰にでも分け隔てなくて、すごく低姿勢でした。
ただ撮影が終わってから、写真を仕上げるとなると、オーダーがたくさんありましたね。事務所の都合もあるからなんでしょうけどね。
前田:すごいな。これだけガチのグラフィックもやってたんだ。
モンスターハンター10周年記念展のグッズ制作
前田:あ、モンハンだ!
かも:はい、モンスターハンターの10周年記念展のグッズを作りました。
かも:カプコンの担当者さんが素晴らしい方で、こちらが提案したものに対して、プラスアルファで返してくれるんです。やりとりがしやすくて、どんどんよくなる感じが楽しかったです。
前田:僕も広告作ったことあるよ、モンハンの。なんだったかなwiiのやつ。
かも:そうなんですね。
前田:うん。これいいやん!この足跡の湯のみ。モンハンファンが見てもいいと感じるだろうね。
かも:この足跡は、ゲームに登場するものとちゃんと足跡の比率を合わせているんです。
前田:なるほどね。そこまで設計してるってことかぁ。
大河原邦男展の会場限定グッズ
かも:これは思い入れの強い仕事です。大河原邦男さんの展覧会の会場限定グッズを手がけました。
かも:大河原邦男さんって「科学忍者隊ガッチャマン」、「タイムボカンシリーズ ヤッターマン」、「機動戦士ガンダム」などのアニメ作品に登場するロボットなどをデザインするメカニカルデザインで有名な方です。
アニメーション制作会社サンライズさんの監修がしっかりされていたので、大変だったんですけどすごい楽しくて。監修の人はすごく厳しかったけれど、こちらがきちんと考えて作って持っていくと、そこを評価してくださる方でした。
前田:あぁ、良いもの作ったらちゃんと見てくれていたという感じかな。
かも:そうです。このお仕事では、すごく嬉しかったエピソードがあるんです。グッズ制作が全部終わって、イベント前日に関係者だけ集めて開催するイベントに呼んでいただきました。
そこで監修してくれた方に「今回は本当にありがとうございました」って挨拶したら「本当にいいデザイナーさんですよね」って言っていただいて。
グッズを作っている間は全然そんな事なかったんですけどけどね(笑)。
前田:サンライズの人ってこと?
かも:はい。
前田:それは嬉しいね。
かも:日頃全然褒めたりしない人なんですけど、そこで初めて「よくやってくれましたね」みたいなこと言ってくれて「頑張って良かったー!」って思えました。
前田:ポートフォリオ見せてもらったけど、すごいね。
前田:まず物量、これだけの量と種類をこなしてきてるって、すごいパワフル。それから基本的なデザインも出来ている。アイデアもあって、ちゃんといいものを作ってくれる安心感がある。
かも:ありがとうございます。「企画段階からグッズをまるっと任せたい」と思われたいんです。
かも:ものを作るだけなら、インターネットで探したほうが安いです。「1個何百円からできます〜」というやり方と比べられると、やはり価格では勝てないんですよね。
でもそこじゃなくて、デザイン・企画を含めた付加価値を感じていただけるようにしたいと考えています。
転機となったボードゲームの仕事
前田:かもちゃんは、僕のオンラインサロン「前田デザイン室」メンバーで、もう1年弱くらいの付き合いになるのかな。僕からすれば、かもちゃんはグッズデザインの人なんだよね。でもポートフォリオを見ると最初は広告のデザインの仕事が多かったんだ。いつからグッズデザインの人になったんだろう?
かも:これがグッズへの転機となったボードゲームの仕事です。
前田:たまごっちだ!
かも:はい、たまごっちのボードゲームを作りました。広告制作会社にいた時バンダイ出身の人がいたんです。その人が「ボードゲームを作りたいんだけど、誰かできる人いない?」と言ったときに、ゲームが好きとか、アニメが分かる人が会社に私しかいなかったんです。だから引き受けたんですが、本当に他にできる人いないから、全部1人で作ったんですよ。
前田:1人ってどういうこと?マスに何があってとかのレベルから?
かも:それもそうですけど、
ゲームのルールを考えるところからです。
前田:えっ!ルール!そこから?
かも:そうです。
バンダイさんに担当の人もいたんですけど、その人と一緒にどういう素材が使えて、どういうゲームにしてっていうところから考えました。
前田:それはすごい。
かも:今思うとそうですね。
前田:こういうゲームを3つ作ったってこと?
かも:はい。これが、形になったやつです。
前田:これって1つのゲームにつきどれくらいの期間でやるの?半年ぐらい?
かも:いや、もっと短かったはず。
前田:そうなんだ。めっちゃ大変じゃない?
かも:はい、1人でクライアントのところに行って、1人で打ち合わせして、1人で作る感じでした。すごく大変でめっちゃ徹夜もしたんだけど、でもすごい楽しかった。
多分、初めて1人で全部やった仕事っていうのが大きかったのかな。あと、細かい作業が好きだから。他にできる人がいないってなって燃えてたのもあるし。
前田:これだけやっていたら、今物足りないないんじゃない?もう一回やりたい?
かも:もう1回やれって言われたら…うーん、ちょっと、きついかもしれない。この仕事だけやってていいよって言われたらいいですけどね。
前田:この仕事は何歳のとき?社会人何年目?
かも:一番初めのボードゲームが2009年発売なんで、4年目ですかね。初めて「自分の実績」と言えるものができました。
前田:ちょうどいい頃にやっているね。基本的なことができるようになって、そのタイミングでこの仕事がきたってことだよね。これは一気に成長するよ、こんだけやっていたら。
アイデアがピタッとハマった瞬間が快感
前田:今回対談を申し込んでくれた経緯として「自分の解像度を上げたい」ってことだったけど。好きなことは、やっぱりグッズなのかな?ボードゲームが転機でグッズをたくさんやるようになったんだっけ?
かも:この広告制作会社には5年くらい働いていました。グッズデザインやるようになったころ転職活動し始めたら、グッズでつながりのあった会社から「うちに来る?」と声をかけていただきそこへ転職しました。
前田:なんで転職しようと思ったの?
かも:最初の会社は3年でやめるつもりでした。いろんな会社を経験したかったんです。ただ3年経ってみたとき、まだボードゲームのような「これが実績です」と言えるものがなかった。だからこのまま転職しても特にアピールできるものがないなと思って、踏ん張っていました。
前田:グッズの会社に転職してるけど、それはグッズをたくさんやりたかったから?
かも:意識してグッズをやろうとは思っていなかったけれど、やってみたら面白かったって感じです。
例えば美術館の物販コーナーを見ていて「もっとこんなの欲しいな」と勝手に妄想はしていたので。
前田:今までのキャリアってすごく素晴らしいと思うんだけど、一回ゼロにして、今本当に純粋にやりたいことって何?どんな仕事でも来るっていったら何をする?ギャラもいいと仮定して、これだけに専念できるの。
ちなみに僕だったら…バトル漫画を描きたい!そういうの。
かも:うーん……それで突き詰めると、やっぱり、モノというよりは、デザインをしていたいですね。画面でいろいろパターンを探ったり「あ、うまくはまった!」みたいな瞬間が一番楽しいんですよ。
前田:具体的には、どういうデザイン?イラスト描いてるときとか、ロゴ作ってるときとか。
かも:やっぱりこれ…ボードゲームに戻ってくるのかもしれないです。
とにかく時間がなくて、作っている時はすっごい辛かったんですけど、その分すっごい楽しかったから。
前田:「モニター上で考えてピタッと来るときが気持ちいい」って話があったけど、それはグラフィックという意味でなくて、遊びを考えてるときってことかな?
かも:そうですね…。遊びのルールとグラフィックをベストな状態に組み合わせる作業が楽しいのかも。
前田:グッズもそんな感じだよね、アイデアとの組み合わせ。
かも:そうかもしれないです。グッズってモノによって制約があるじゃないですか、予算もあるし最小ロットもある、仕様も。それに対して、どういうグラフィックがベストで、どういうやり方がふさわしくて…っていうのを組み合わせる作業が好きなんです。
前田:僕のオンラインサロン前田デザイン室でやっていたプロジェクト「#やりやらグッズ化計画」とかぴったりだったよね。
『やりたくないことはやらなくていい』(以下 #やりやら)という本の装丁を僕が仕事でやらせてもらった。本のプロモーションに関しては、前田デザイン室のみんなとプロジェクトとしてやってみた。
グッズは、アイデアを思いついたら #やりやらグッズ化計画 のハッシュタグを使ってみんなにどんどん呟いてもらったんだよね。
かもちゃんは、その中でも群を抜いて動いてくれていた。実際にグッズ化することになった案の見積もり、これかもちゃんの案以外もやってくれたみたいだね。
あと何と言ってもマグカップだよね。
かもさんが提案してグッズ化されたマグカップ。お湯を注ぐと「やりたくない」を示す黒のアイコンが消え、全て「やりたい」のアイコンのみが残る。本のタイトル『やりたくないことはやらなくていい』とマッチしていることもあってtwitter上でも話題に
かも:あれは自分の中でも、「これだー!」って思いました。
前田:それがアイデアがはまった瞬間ってやつかな?
かも:そうですね。 #やりやらグッズは私にとっても気付きが多かったです。
このマグカップはメタモインクというものを使っています。普段グッズを作ってるとメタモインクの仕掛けって、当たり前なんですよ。でもみなさんが「この仕組みすごい面白い!」と感動してくれたことが私はにとっては新鮮で嬉しかったんです。
前田:メタモインク、知らなかったよ。
普通にマークが消えて出てくるだけだったら、そんなに感動しない。
なぜあれが素晴らしいのかと言えば、本の意味に落ちていて企画の筋が通っている。だから反応もいいんじゃないかな。それがかもちゃんの「コミュニケーションを設計」している部分。
#やりやら グッズを一例で話ししたけれど、これだけグッズを作ってきたなら、こんな事例が無数にあるんじゃないかな。それを発信することがよさそうだね。
かも:はい。まさに、ブログで仕事の記事を書こうと思って、第1弾を「やりやら」の話にします。
(公開された記事「これほしい!」と言われて嬉しかった #やりやらグッズ化計画)
タフ、鉄人、コツコツ積み上げる
前田:かもちゃんのタフな部分も掘り下げたいな。noteで毎日4コマ漫画書いているよね。あれはどういう目的でやっているの?
かも:「今日のたまお」ですか?
(かもさんが毎日欠かさず更新している四コマ漫画。note編集部のおすすめに掲載されることも多い。)
かも:前田デザイン室で一時期「毎日何か更新してみよう」って流れがあったじゃないですか?
前田:あったあった。
かも:それを見て「自分にできることあるかな?」と考え「絶対毎日続けられるものをやろう」と決めて今に至ります。
前田:…すごいやんか。根性ありすぎやな(笑)。
かも:ありがとうございます(笑)。深い理由で始めたわけでは全然なくて「毎日続けてたらいいことあるかな」ぐらいなんですよ。
前田:なかなかできることじゃないよ。苦ではないの?
かも:ないですね。「今日は投稿やめようかな」って日もありました。でもそれで今まで続けていたものが途切れるのが悔しいんです。
すると200回ぐらい超えたあたりから、逆に今度息抜きになってきたんですよ。
前田:はぁ!息抜き!タフやなぁ(笑)。
何日更新しているの?
かも:今日で322です。(取材の日時点の投稿数。)もうすぐ1年ですね。
前田:すげぇ!そこも特徴だよね。
鉄人さ。じっくりコツコツ努力するところ。
すごいよ。
かも:確かに。私ゲームも格闘ゲームよりレベル上げが大好きです。
前田:それ言おうと思ってた。クリアしてからも、99までレベル上げをやる人?
かも:そうそう(笑)。
前田:見えてきたな。淡々と、己を鍛え上げるのが好きなんだ。
筋トレも好きって言ってるもんね。
かも:はい(笑)。
レベル99まで鍛え上げ、調べ上げ、最適なアイデアを導き出す
前田:よしっ、キャッチコピーを考えてみようか。
「私はこうです」っていうの。
僕なら「デザインで成す」。「為せば成る」から来ていてそれが屋号のNASUになっている。屋号って自分の志、大事にしているものにするといい。
だから屋号を考えてみたらいいのかもしれないよ。
かも:あ、ただ副業は禁止なんです。
前田:でも考えるのは自由だから今から考えてみたらどうかな?僕は任天堂にいる時から考えてたよ。最初の屋号の候補は「block」だった。20代後半くらいのときかな。
かも:今日のお話の中で言っていただいた「コミュニケーションを設計する」とかでしょうか?
前田:そうなんだけど、それ自体がグラフィックデザインなんだよね。アイデアを結ぶみたいな。…だから結局は本当にいいグラフィックデザイナーなんだと思う、かもちゃんは。
かも:にやってしてしまう。嬉しいです(笑)。
前田:前田デザイン室で、その要素が出てこなかったのか不思議で。遠慮していたのかもしれないね。
うーん、屋号だよね。
それが答えな気がして。
信念…。
前田:レベル上げデザイナー。
いや、でも屋号だからなぁ…。
うーん。レベル99は?
かも:おもしろいですね!!
いいですねレベル99!!!
前田:これやな!レベル99。
体力があって、常にコツコツ上を目指す意味。とことん調べるところも。アイデアのところがないかなぁ。あ、でもレベル99=ゲームを表すから、ゲーム=いろんな条件の中で答えを導き出す。つまりアイデアにもつながるかな。
よかった、いい屋号ができた。
「レベル99まで高みを目指す」ってことで、かもちゃんの志にしてください!
かも:はいっ、ありがとうございました!
かもさんへグッズの相談、制作依頼はこちらまで。
かもさんが勤務している会社を通して、かもさんが制作を担当してくださるとのことです。
<後日談>
唐突に浮かんだとのことで、後日レベル99のロゴも誕生しました!
*この対談は『NASU本 前田高志のデザイン』クラウドファンディングの購入者特典として実施しました。
<聞き手=前田高志/書き起こし=加藤茜、のざかゆきこ、河嶋優伸、ツチダマミ/撮影・構成・執筆・編集=浜田綾 >