デザインは、中学・高校で美術の成績が良くて、美大に進んだ人だけが持つスキル。だから「美術が苦手な私にデザインなんて…」と思っている人にこそ声を大にして伝えたいことがあります。

デザインは、誰にでもできる。むしろ、あなたも毎日デザインをしている。

例えば今、手に持っているスマホのホーム画面、パソコンならデスクトップ画面。自分が使いやすいようにアプリやフォルダを配置していませんか。それはまさに自らデザインした証。実は、私たちは日常生活のなかで、自然とデザインをしているんです。

もし美術への苦手意識だけで敬遠しているならもったいない。せっかくデザインするなら、ビジネスでも役立つ自分の武器にしませんか?

絵のうまさも、センスも必要ありません。すぐに実践できる「勝てるデザイン」を武器にする方法を伝授します。

※この記事は、10月1日(金)に香川県で開催された「はじめ方を学ぶ地域ド密着セミナーALKEKATA(アルケカタ)-Episode 02-『勝てるデザインを武器にせよ!』」を再構成したものです。


デザインは「勝ち負け」です


どうも、デザイナーの前田高志と言います。兵庫県伊丹市出身の44歳です。

今日は、株式会社人生は上々だの村上モリローさんに呼んでいただいたご縁で、神戸から高松までジャンボフェリーに乗って来ました。大阪と香川の距離であれば、フェリーの方が移動中仕事に集中できるかなと思って乗ってみたんです。でも、それ以上にいいですね、旅気分が味わえて、すっかりフェリーが気に入りました。今日は、よろしくお願いします。

さて、本題に入ります。僕は今年3月に『勝てるデザイン』という本を出版しました。実はすごい偶然なんですけど、そのタイトル候補に、今日の講座名と似た「デザインを武器にせよ」という案があったんです。

一見、全く切り口が違うタイトルに見えますよね。でも、なんでデザインを武器にする必要があるのかって考えると、“勝つため”じゃないかと思うんです。

「デザインに勝ち負けはない」っていう人もいますけど、僕はデザインそのものに勝ち・負けがあると考えています

じゃあ“勝つ”とはどういうことかと。その基準を決めるのは、他でもない自分たちです。業績や売上だけじゃなくて、どれだけのお客さんに響いたとか、社内で良い反響が得られたとか、判断基準はたくさんあります。

「勝てるデザイン」の第一歩は、どの価値・基準を指標にして、“何を勝ちとするか”を決めることにあります。作り手側で考えた判断基準をみたしたら、それは「勝てるデザイン」と言えます。

基準をみたすうえで、デザイナーがつくったかどうかは関係ありません。デザインは受け手の判断がすべてです。つまり、デザイナーじゃなくても、誰でも「勝てるデザイン」はできるっていうことなんです。

これから皆さんに「勝てるデザイン」ができるよう、考え方や武器を伝授していきますけど、一つ、絶対に守ってほしいことがあります。

この中に「私、絵が下手で、センスないんで…」って思ってる人いますか?

幼いころは絵を描くのが好きだったのに、中学校の美術の授業では上手い・下手で点数がつけられて、苦手意識を持ったと。こういう声、結構聞きます。ただ、その苦手意識がある限り、デザインを武器にすることはできません。

端的に言えば、デザインを武器にできる人とは、“デザインを自分ごと化”できている人のことです。

なにも、プロのデザイナーのようなデザインをできるようにならなくていいんです。「デザイナーじゃないから」、「デザインできないから」で諦めるんじゃなくて、デザインの良さを理解して、信じてください。その意識が「勝てるデザイン」を武器にするには必要です。

「デザインはデザイナーだけのものじゃない」。これだけは今日必ず持って返ってください。あ、ちなみに香川の特産品がオリーブので、このスライドの色にしています(笑)。


デザイン=美術じゃない


まずはデザインについて僕の考え方をお話しますね。

デザインは「思考」と「造形」から成り立っています。「造形」は、読んで字のごとく、形づくることを指し、美術の知識や技術が必要です。

一方で、「思考」は、考えること。これなら誰でもできますよね。むしろ、皆さんも毎日デザインをしているっていう話なんです。

例えばこれ。

弊社NASUにある茄子型のオブジェです。お客さんが来てくれたときに、写真撮ってSNSにアップしてもらいたいなと思ってつくりました。「社名にちなんでホントにナスつくっちゃいました」なんて話をして持ってもらうと、笑顔になってくれるんですよね。

だから、これはオフィスという場所のデザインであり、人を笑顔するデザインとも言えます。

もっと身近な例で言えば、買い物だってデザインです。

皆さんは、箱のティッシュを買うとき、どうやって選びますか? 価格帯とか、何枚入りでどれくらいの大きさかとか、箱の見た目が部屋に合うかとか、自然と色んなことを考えながら選んでるはずなんです。なんとなく選んでいるように見えて、そこに思考が働いているわけです。

僕は、選択肢を増やして、その中から一番目的に合ったものを選ぶ行為はすべてデザインだと言っています。そう考えたら、自分たちが毎日いかにデザインをしているかって実感しますよね。

デザイン=美術じゃない。もっと身近な存在なんです。

じゃあ、そのデザインを自分の武器にするにはどうしたらいいか。方法は2つあります。一つが、見た目のクオリティ判断。これは良いデザイナーを見極めることでもいいです。もう一つが、コンセプトです。順番に説明しますね。


見る“目”を鍛えよ!

クオリティ判断ができるようになるには、デザインの良し悪しを見極める“目”を鍛える必要があります。いきなり言われても難しいと感じるかもしれませんけど、デザイナー以外の人向けのおすすめワークを3つ紹介します。


この3つのワークを選んだのには理由があります。

僕はデザインの受け手を「デザイニー」って呼んでいます。造語なんですけどね(笑)。広告なら消費者、プロダクトならユーザーが受け手にあたりますけど、デザインはケースバイケースですし、多岐に渡ります。

だから、デザイニーが誰か。その人たちをターゲットにする場合の良いデザインとは何か。きちんと説明できないといけないんです。

このワークをやってみるだけで、だいぶ意識が変わると思います。ワーク①をやるだけでデザインに意識が向きますし、ワーク②とワーク③をやるうちに良いデザインについて言葉で説明できるようになるはずです。時間は掛かるかもしれませんけど、デザインを武器にするためにぜひ試してみてください。

言葉で哲学を作れるようになるべし!

数々の大企業のブランディングを手がける佐藤可士和さんが、仕事を請けて最初にすることって何だと思いますか? 

まずは一緒に組むコピーライターを探すんだそうです。そこから「哲学」を構築する。デザインでも、コピーでもなく、「哲学」っていうのがポイントだと思うんですよね。あくまで僕の想像なんですけど、その対象となる企業や商品の本質、過去・現在・未来と“変わらない何か”を言葉にすることから、始まっているんじゃないかなと。

僕は、ものづくりは言葉から始まると思っています。だから、なにかをつくるときも、自分たちが大切にしたいことを「コンセプト」として、言葉にするようにしています。

例えば、この連続講座「はじめ方を学ぶ地域ド密着セミナーALKEKATA」は、「地方」がテーマになっていますよね。

僕の個人的な考えですけど、「地方」っていう呼び方がイマイチじゃないですか? この名称自体が、「地方」の一般的なイメージを総称したコンセプトのようになってしまっていて、もったいないなぁと思うんです。この呼び名である限り、凝り固まったイメージを変えられない。

名前もコンセプトであって、デザインできるものです

ということで、今日は僕なりのアイデアをちょっと考えてきちゃいました(笑)。

個の魅力が立つという意味を込めて「個市」。「個都」、「個町」なんていうのもどうかなと。個市の武器は、その土地ならではの歴史とかコミュニティとか、都市には無い、固有の部分にこそあると思うんですよね。実際、そこに魅力や価値を感じてる人はたくさんいるはずです。

だから、個市はコンセプト次第で、もっとデザインからその地域の発展を引っ張っていくこともできると思うんです。

とはいえ、いきなりコンセプトを巧みに操れるようになるのは難しいです。コンセプトのつくり方には色々な手法があって、自分に合う・合わないもあります。

僕は本を読み漁って独学で勉強したんですけど、個人的に一番参考になったのは、元・任天堂で、Wii開発者の一人の玉樹真一郎さんが書かれた『コンセプトのつくりかた』です。

コンセプトワークの進め方が細かく書かれていて、実践でもすぐに活用できます。これ以上にちゃんと説明できている本はないと思います。コンセプトづくりの知識や経験がある人も、ない人も、ぜひこの1冊は読んでみてください。

「見た目のクオリティ判断」と「コンセプト」。どっちもデザイナーじゃなくてもできますよね。皆さん自身もデザインを武器にできるって感じてもらえましたか?

だからここで今一度、刷り込んでいきます(笑)。デザインはデザイナーだけのものじゃない。


自分なりの「勝てるデザイン」の武器・必殺技を身につけよ! 


ここからは、いよいよ僕が考える「勝てるデザイン」の5つの武器を皆さんに伝授していきます。今回は、ホントに“武器”に見立ててみました(笑)。


①一撃でわかるデザイン「情報バズーカ」

ビジュアルは、“狙いを定めて、わかりやすく”が基本です。文字情報をきれいに整理して置くだけじゃなくて、かっこいいとか、楽しそうとか、感覚的なことも含めて、ぱっと見でたくさんの情報が伝わるビジュアルが一番です。ただし、ただ単に情報量を盛り込むだけじゃなくて、狙いに合わせてきちんと精査する。それでバズーカの威力が変わってきます。


②ポリシーがあるデザイン「一貫レーザー」

大事にすることを明確にして徹底する。つまり、コンセプトですね。最初から最後まで判断軸がブレずに、レーザーのように貫き通すことで、訴求力が強いデザインになります。


③ならではのデザイン「必然性アーマー」

「ならでは」とは主語が変わったら成立しないということです。そのものの価値を向上させてしまうオリジナリティを持ったデザイン。必然性を担保する=守る意味合いなので、防具です。ちょっと厨二病っぽい名称ですかね(笑)。


④興味を奪うデザイン「物語マシンガン」

今、世の中の情報量は凄まじいですよね。Twitterだけでも、タイムラインにブワッと情報が並んで、そうそうクリックしてもらえない。興味を奪いにいかないと、何をやっても無視されちゃいます。

効果的な方法の一つが、コンテンツ化することです。「コンテンティゼーション」って呼んでます。

僕がやっている『鬼フィードバック』はその良い例です。デザインをブラッシュアップするまでの過程を全部ネットで公開していったら、ものすごい反響があって、今年本にまでなりました。

プロセスエコノミーなんて言われるように、コンテンツを惜しみなく連射する。つくっておわりじゃなくて、企画と届け方もデザインの一環なんです。


⑤捨てられないデザイン「魅力ガス」

「捨てられない」の基準として僕が思っているのが、「そのデザインをTシャツにして歩けるかどうか」。少しでも恥ずかしいと感じたら、クオリティが足りていないはずなんです。心から良いデザインだと思えるまで諦めずにブラッシュアップした方がいいです。


武器の名称はともかく(笑)、どれもさっきのワークで紹介した「デザインの必殺技をつくれ」から生まれた必殺技です。この5つの武器が揃うと「勝てるデザイン」になります。

誰でも真似して装備できる武器ですけど、これが全てじゃありません。何を勝ちとするか、どんなデザインを良いと思うかも、人によって違います。必殺技は人それぞれでいいんです。皆さんには、さっきのワークを通じて、ぜひ自分なりのデザインの必殺技を見つけてもらえたらと思っています。

デザインを武器にしてビジネスを牽引せよ!

ここまで皆さんに伝えてきたとおり、誰でも「勝てるデザイン」を武器にできます。業種や職種にかかわらず、「勝てるデザイン」は必ず役に立ちます。

ぜひ皆さんにはそれぞれに、デザインを武器にすることでビジネスを引っ張っていってほしいなと思っています。

そろそろセンスとか気にならなくなってもらえましたか?

最初に言いましたけど、デザインを武器にできる人とは、デザインを自分ごと化できている人のこと。苦手意識やネガティブな感情を持ったままでは、相手にも伝わっちゃいます。

だから、皆さん一人ひとりが、自分なりに楽しんでデザインするのが一番なんです。絶対的な正解はありません。自分なりの「勝てるデザイン」を実践していってもらえたらと思います。

最後にもう一度だけ。デザインはデザイナーだけのものじゃない。

イベントに呼んでいただいた、株式会社人生は上々だの村上モリローさん、会場のみなさん、視聴してくれたみなさん、今日はありがとうございました!




イベント主催者の村上モリローさんより

「勝てるデザインを武器」にせよというイベントタイトルに寄せてスライドを構成してくれたり、香川だからオリーブ色のスライドにしたり。至るところに前田さんのサービス精神を感じました。自分が楽しんで人を喜ばせる。それが自然とできているところが勝てるデザインを武器にできているのだと思いました。



前田さんとモリローさん、お二人の対談は、このイベントの後半でもあったのですが…それとは別のデザイン事務所の経営者同士による対談を記事制作中です。




この記事がきっかけで、デザインを武器にしてみたいと考える方がいたら、ぜひお気軽に問い合わせください。また、前田さんの著書『勝てるデザイン』から生まれたメソッドに基づく、「勝てるデザインサービス」は、こちらからサービス資料をダウンロードすることができます。




〈文=木村涼 (@riokimakbn)/ 編集・撮影=浜田綾(@hamadaaya914)/ バナーデザイン=吉田早耶香(@_re44)〉