全ての人にデザインを武器にしてもらうために、経営者の僕たちが考えていること。
「すべての人にデザインを武器にしてほしい」
そんな思いを込めて、株式会社人生は上々だの村上モリローさんは、『勝てるデザインを武器にせよ!』という講演を開催し、ゲストとして前田さんが登壇しました。
全ての人にデザインを武器にしてもらためには? まずはデザインの力を多くの人に知ってもらわねばなりません。この講演会はそういう啓蒙活動の一環でした。でも、それだけではなく、デザインを味方につけてもらうためには、クライアントとの距離をいかに縮めるか、いかに本音を話てもらえるか?も重要です。そのためにデザイン会社の経営者として、日々何を考え、何に悩んでいるのか。本音は、ほっとしたときにこそ出やすいもの。このとき、香川県での講演での対談を終えた二人は、まさに一息ついたところでした。
株式会社人生は上々だの経営者・村上 モリロー。
株式会社NASUの経営者・前田高志。
おもむろに話し始めた二人に「NASUメディア」編集部が密着しました。話し始めたら止まらなかった、デザイン会社を経営する者同士の本音の雑談です。
※これは、2021年10月1日(金)に香川県で開催された「はじめ方を学ぶ地域ド密着セミナーALKEKATA(アルケカタ)-Episode 02-『勝てるデザインを武器にせよ!』」の終了後、村上さんと前田さんが普通に雑談した様子を、お二人の了承を得て取材した記事です。
↓本講演の内容はこちらから↓
前田さん、今日はありがとうございました! 来てた人には、デザインを武器にしようって感じてもらえたと思います。
こちらこそです。でも、僕はまだまだモリローさんと話し足りないです。
ホンマですか!?
デザイン会社の経営者同士、もっとお話できたらと思って。せっかくだからこのままいいですか?
全然オッケーですよ!
じゃあ早速。モリローさんと言えば、やっぱりブランディングの話をさせてもらいたいんですけどね。
それは……長くなりますよ?(笑)
がっつり話しましょう(笑)。モリローさんはブランディングをどう捉えてます?
ブランドは「記憶」。ブランディングは、記憶し続けてもらうための活動やと思ってます。
うんうん。実際、モリローさんがやってることは幅広いですよね。
そうですね。記憶し続けてもらうには何が必要なんかっていうのを考えるのが自分の仕事だと思ってるんで。
めっちゃわかります。「ロゴを変えたいです」って相談を受けても、話を聞いてみるとロゴの問題じゃない時とかありますよね。
そうなんですよ。クライアントが目指す姿を実現するのが最終目標なので、別の方法を提案することもあります。
ロゴよりも商品の売り方を考え直しましょうとか。
あります、あります! 社内の意思疎通がうまくいってないから、そこにもクリエイティブ必要やん!みたいなこともあります。
あるあるですね(笑)。そもそもモリローさんがブランディングをやるようになったきっかけってあるんですか?
地元の香川に戻ってきてからですかね。大学卒業して関西で色々仕事してたんですけど、父親が体調崩して25歳で戻ってきたんです。
そうだったんですね。
デザイナーやって、独立したんですけどね。このあたりは中小企業がほとんどで、色んなクライアントから、広告を打つって相当体力が要るっていう話を聞いたんですよ。
確かに打ち続けるのはしんどいですよね。
はい。だったら違うやり方をするしかないと。
それがブランディングだったんですね。
やり方はいくらでもあるし、中長期的に続ければ大きな力になる。地域の中小企業の役に立つのはブランディングだと思って始めて、もう10年になります。
10年前だとブランディングという考え方の認知もまだまだだったんじゃないですか?
そうですね。説明しても「何それ?」「関係あるん?」って(笑)。
最近は言葉自体は浸透してきましたけど、僕は見た目にこだわること=ブランディングみたくなってきていると感じてるんです。
あぁ〜!それはありますね。
ブランディングやりたいっていうデザイナーも結構いるじゃないですか。
ですね。
でも、そのほとんどが「VI」、ビジュアルアイデンティティのことをイメージしていると思うんですよね。
それは大間違いですね。見た目は、あくまで結果ですから。
まさにそうで、VIはあくまでブランディングの手段の一つなんですけどね。見た目重視で“デザインっぽいデザイン”をしがちだなって。
わかります。言い方悪いですけど、クライアントのお金を使って自分の作品をつくっちゃうんですよね。
そうなんです。ただ、それだと自己満足になって、デザインもブランディングもいずれ信用を失うと思うんです。
何かを作ることを念頭に置くんじゃなくて、本来はまずクライアントが何に困っているのかを見極めることから始めないといけないですから。
ホントそう思います。実際、モリローさんは、クライアントから相談を受けたら何から着手するんですか?
経営者に話を聞きますね。案件の9割以上は、直接やりとりさせてもらいます。
なるほど。NASUもそうですけど、モリローさんの会社も、代理店を挟まず直接クライアントと取引されてるんですよね。
はい。だから、クライアントを理解しようと思ったら、経営者に聞くのが一番いいんです。それでブランディングを本気でやるってなったら、社内外の両面から改革をさせてもらいます。
最終的にデザインしないっていうケースもあるんですか?
そうでもないですね。会社の現状、課題を言葉で示したうえで、こういうビジュアルを作って、こういう結果を狙いましょうっていう提案になります。
それで初めてビジュアルに行き着くと。
はい。クライアントと一緒になって課題を整理していった後なので、「これはあなたにしかできないですね」って言っていただけます。
ビジュアルに行き着くまでの課題発見のプロセスを共有しているからこそですね。
仰るとおりです。その過程をすっ飛ばしてビジュアルだけ提案しても、納得感がないですよね。クライアントと一緒になって本質を見つけることが、ブランディングの本当の始まりだと思います。
クライアントのことを理解しようと思ったらヒアリングが重要になりますよね。
はい、ここの時間は惜しんだら絶対ダメですね。
僕も最初のヒアリングをめっちゃ大事にしていて、クライアントに合わせて色んなこと聞くんです。
全く一緒ですね。僕は相手によって聞くことを変えてます。メモとりながらひたすら質問しますね。
モリローさんがよくする質問ってありますか?
そうですねぇ……「なんで?」っていうのはめっちゃ聞きます。
あぁ〜! それは大事ですね。
何をしたかっていう行動よりも、その裏にある潜在的な思いの方にこそ本質があると思うんですよね。
めっちゃわかります。本人よりも他人の方が気づきやすいときもありますよね。
そうなんですよ。取材のインタビューでもめっちゃ良いこと言ってるんですけど、終わった後に「実はあの時、本当はこう思ったんだよね」ってポロって出たのが本音だったり。
隙ができたときこそチャンスですよね。僕は、あえてデザインとは関係ない質問をすることもあります。
へぇ〜! それ面白いですね。
本人が無意識に選んでいるものにも、その人の考え方や大切にしていることが現れると思うんですよ。
確かに、ありますね。だから、デザインのコンセプトって、つくるというより、探る・探すっていう表現が適切やなって思います。
そのぶん見つかるまで時間が掛かることも多いですよね。
はい、僕は結構しつこいタイプだと思います(笑)。見つかるまで何回でもヒアリングさせてもらうんで。
経営者の方に、「ヒアリングの時間ください」って依頼するんですか?
はい、遠慮せずに言いますね。
何回聞いても本音を出してくれない方も時々いません?
います、います。
そういうときはどうするんですか?
先に自分から本音を話しますね。
へぇ〜!
僕がなんでここまでしつこく話を聞きたいかとか、あなたのためにこう役に立ちたいと思ってるっていう話をします。
そこから信頼関係をつくるってことですね。
まさにそうです。デザインの仕事だけ請けられればいいなんて思ってないって、はっきり言います。
そこまで自己開示しちゃうんですか。
自分の“はらわた”見せるのが一番早いです。やたらに出すんじゃなくて、自分が信頼できると思った相手に全部出す。
そこは相手を見極めながら。
はい。それで相手が本音で話してくれるようになって、話の中からブランディングの本質になる部分を見つけたら、今度はその流れをロジックでまとめて、ビジュアルに落とし込みます。
そのときにはクライアントと同じ目線ですよね。
そう思います。デザイン提案したら一発で通ります。複数案出しても、僕が一番良いと思ったやつに決まります。
すごい!
いや、10年やってきて、やっと最近のことですよ。
信頼関係っていうのはホントその通りだなと思います。NASUもお付き合いが長いクライアントほど成果が出ています。
わかります。うちも一緒ですよ。
ヒアリングして、アウトプットして、その繰り返しの中で同じ目線になっていきますし、アウトプットも磨かれていくんですよね。
僕は常々言ってるんですけど、デザインは究極のサービス業なんですよ。
わぁ〜めっちゃ的確な表現ですね。
目の前の人のためを思ったら、相手の立場に立とうとするし、勉強もしたくなる。その気持ちが強いかどうかで結果が変わってくるんです。
結果は後からついてくるものですよね。
絶対そうです。
だから、デザインって専門性が高いと思われて、テクニックばかりが注目されますけど、結局は姿勢が全てなんですよね。
ホントそう思います。デザイナーに一番必要なのは、サービス精神ですよ。
社内でのコミュニケーションについても聞かせてください。デザイン会社は経営者の色が結構出ると思うんですけど、モリローさんはどういう方針なんですか?
難しい質問ですね(笑)。少なくとも、見て覚えろっていうタイプではないですね。
むしろがっつり?
かもしれないです(笑)。
たまに厳しいことも言ったりするんですか?
それはありますけど、むしろ結構褒めますね。良い案あげてきたら「天才ちゃうん!?」とか。
ホントですか? 僕は絶対言えないです(笑)。
言い方は、相手と場合によりけりですけどね。褒めて高め合って、みんなで結果を出す方が結果的にチームとして成果が上がりやすいんじゃないかなと思ってます。
なるほど。僕は、デザインとか行動とか「コト」を見ますね。全員に対してフラット。良いと思ったらコトは褒めますし、イマイチだったら指摘します。
それは明快ですよね。公平性も保たれますし。
一方で社員全員への期待値が高いので、ダメ出しに偏っちゃうことがあるのは気にしてます。
それで伸びるタイプもいると思います。実際、僕らの世代はそうやって育ってきてますからね。
そうなんです。先輩に10案くらい作ったのに全部ボツにされて「考え直し」って言われたり。
経験あります(笑)。
それって自分で答えを見つけてきてほしいからなんですよね。のちにその先輩に聞いたら、期待してる人ほどそうするって言われて。そのイメージがあるかもしれないです。
その期待に気づくとなんとか食らいつこうとしますからね。
はい。厳しいと感じることもあるはずなんですけど、期待の現れでもあるので。モリローさんは、普段は社員の皆さんとどうやってコミュニケーションをとってるんですか?
僕は、一人ひとりに合わせて変えるタイプなんですよ。
へぇ〜。社員の性格・個性に合わせるってことですか。
はい。例えば、ある社員は考えさせた方が伸びるので、良い方に導けるように要所でヒントだけ与えてみたり。別の社員は感情の起伏がデザインの質に直結するので、生活習慣の指導もします(笑)。
すごい! めっちゃ見てますね。
単純に好きなんですよ。小ちゃいころから学級委員とか、監督とか、“長”がつくことをやってきたせいか、その人の性格を見て、どうしたら一番力を発揮できるかをめっちゃ考えるんで。
普段から声かけたり、仕事する様子を見て、コミュニケーションの取り方を考えるんですか?
そうですね。仕事中だと本音が出にくいと思ったら、飲みに行ったりもしますよ。
飲みも!?
普通に行きます(笑)。仕事でちょっと凹んでいる社員がいたら「今日ちょっと行くか?」って。
えぇ〜! そういうのはドラマの世界だけかと思ってました(笑)。
これも、人と場合によりますけどね。結果的にモチベーション上がるかなと思ったら行きます。前田さんはあんまり飲みは行かないですか?
うちは「サシメシ」っていう制度を作ったんです。
へぇ〜面白い!
社員に行きたいお店を予約してもらって、僕が一緒に行くんですけどね。正直言うと、自分から誘ったら社員も断りにくいし、誘われなかった社員のことを考えると、制度化した方が公平かなって。
なるほど。だったら、サシメシ制度は社員の皆さんの権利として、それとは別に前田さんからも誘ってみてもいいんじゃないですか? 喜ばれると思いますよ。
モリローさんの話を聞いて、試しに言ってみようかなと思いました。でも、「今日ちょっと行くか?」は言えないなぁ(笑)。
そこは言いやすい言葉で(笑)。行ってみたらどんな感じだったか今度教えてくださいね。
結構話しちゃったんで、そろそろ最後にしますけど、クリエイティブのこれからについても話をさせてください。
ぜひぜひ! 僕もお話ししたいテーマです。
今日の講演テーマのとおりで、僕はデザインはデザイナーだけのものじゃなくて、すべての人に武器にしてほしいと思ってるんです。
その通りやと思います。クリエイティブは絶対すべての人の武器になり得る。人の役に立ち、幸せを実現するためにあると僕も考えてます。
ただ、まだまだデザインは一般の方には遠い存在なのも事実ですよね。
実態としてはそうですね。
だから、僕らクリエイター側からもっと発信していかないといけないと思ってるんです。
わかります。クリエイティブの価値と使い方を伝えるのも、クリエイターの役目ですよね。
そう思います。ただ、今は第一線にいる一部の人たちしか発信していないのが課題に感じていて。
2000年代のデザインブームで出てきた方々が偉大すぎますからね。その人たちに憧れてデザインを始めた人も多いので、恐れ多くて何も言えないっていう風潮はあると思います。
『勝てるデザイン』も、今日の講演もそうですけど、僕は自分から発信することで、業界全体でもっと発信するきっかけを作っていきたいとは思ってるんですよね。
それはめっちゃ大事ですね。そのためにも僕らはクリエイターとして、普段からクリエイティブの価値を実感してもらえる仕事をしないといけないなって思います。
仰る通りですね。ただデザインするんじゃなくて、目の前のクライアントを良い方向に導くクリエイティブを提供し続けるパートナーでありたいって常日頃から意識してます。
わかります。僕は香川県に来て、デザインであり、クリエイティブで街の課題も解決できるって実感してるんですよ。
うんうん。ある意味、街全体もクライアントでもあるわけですね。
はい。この香川をもっと良い街にしたいですし、そのために各地のクリエイターを巻き込んで、新しいクリエイティブの仕組みを作れたらって考えてます。
モリローさんのように素晴らしいクリエイターが各地にいることで、デザインの力で日本をもっと良くできると思います。
クリエイターが、先導してクリエイティブと地域とを結びつける存在になれば、街づくりの大きな力になれると僕は信じてます。
モリローさんのお話を伺って、デザイン、クリエイティブが持つ可能性を改めて強く感じて、めっちゃ元気出ましたよ!
こちらこそです! ところで、講演の時も思ったんですけど、前田さんはサービス精神がめっちゃ旺盛ですよね。
そうですか? あんまり自分で意識したことはないんですけど。
スライドで「デザインはデザイナーだけのものじゃない」のキーメッセージを香川県らしくオリーブ色にしてくれたりとか、講演テーマに合わせて武器作ってくれたりとか。
あぁ〜! 面白いかなと思ってやってるだけなんですけどね。武器のネーミングもきっと反応に困るだろうなっていう空気感も想像したうえで、面白いと思ってやりました(笑)。
さすが(笑)。デザインは究極のサービス業なので、サービス精神旺盛な前田さんはやっぱり生粋のデザイナーですね。
ありがとうございます!! モリローさんとじっくり話ができてよかった。
〈文=木村涼 (@riokimakbn)/ 編集=浜田綾(@hamadaaya914)/ バナーデザイン=バナーデザイン=小野幸裕(@yuttan_dn52)、久本晴佳(@hi_sa_ko__)〉