前後編の対談記事でお届けする、サタケシュンスケ×NASU「サタケシュンスケを世界へ」プロジェクト。

前編の記事では、今回のプロジェクトが始まった経緯やきっかけなどをテーマに、サタケさんと前田さんの二人が対談。お互い、2023年の初めに共同で開催した「サタケシュンスケの必殺技展」がきっかけになったと言いつつ、実は前田さんからサタケさんへの熱烈な愛情が、プロジェクトの発端になっていることが発覚しました。

前編の記事はこちら

後編はプロジェクトのメインとなる、サタケさんのポートフォリオサイトをどうリニューアルしていくのかについて、サタケさん、NASUのWebデザイナーの中川(愛称はマッキー)さんの二人が対談。

引き続き、進行はNASU広報の浜田がお届けいたします。

サタケシュンスケさん

イラストレーター。主に、広告、雑誌・書籍などで使用するイラストレーションおよびキャラクターの制作を行う。人物や動物などのモチーフが中心で、得意ジャンルは子育てや教育、ファミリー向けのタッチ。神戸市在住、3児の父。



新しさではなく、作品をより良く見せるためのWebサイト

サタケさんの現在のWebサイト(トップ)

———サタケさんの新規の受注は、ほぼWebサイトからという話を聞いたんですけれども、それは本当ですか?


サタケ:実は、そうなんです。初めてご依頼くださる方は、ポートフォリオの過去の作品を見て、「これに似た感じのものを作ってほしい」という頼み方が多いんですよ。

だから、仕事を頼もうという方は、結構細かいところまでサイトを見てくれている気はします。


———サタケさんは、SNSのフォロワーさんもすごく多いですよね。例えばTwitterなんて5.9万人も!だからSNSから来そうな気はしますが……。


サタケ:SNSを経由して、Webサイトに来てくれる方ももちろんいます。ただ、今でこそツイッターは多くの方に見てもらえるようになりましたが、5年前はフォロワーが今の1/20くらいしかいなかったので、“そこから何かが生まれる”ようなことは一切なかったんですよ。

それでもちゃんと仕事ができていたのは、Webサイトがあったから、というのは実感としてありますね。

———今のポートフォリオサイトって、何年ぐらい前に作られたものなんですか?


サタケ:今のサイトは……もう10年近く前になるかな……。


———すごい! そこからアップデートし続けて、育ててるわけですね。でも10年前と言われても、古さをまったく感じないですよね。


中川:全然感じないですよね。おそらく、シンプルなデザインにしているので影響が少ないんだと思います。


サタケ:例えばWebでいま流行ってるタイプのデザインをがっつり当てはめてしまうと、5年後には「昔、流行ったページ」って見られちゃうと思うんです。だから、最初からシンプルに、というのは考えていました。

今回のリニューアルでも、“最先端”である必要はないと考えていて。「新しいWebサイトを見せたい」んじゃなくて、「作品をより良く見てもらえたら最高」っていう感じですかね。


———中川さんから見て、「もっとこうしたい」というのは、どういう点なんですか?


中川:現状のサイトは、“Webサイトという箱の中に、サタケさんの作品が入っている状態”というイメージなんですよね。

そうじゃなくて、“作品が前に立つ見せ方”ができるといいと思っています。

それと、今のサイトはWordPressのテンプレート機能で作られているんですが、これだと制限が多いので、そこも改善していきたいところです。

———どんな制限があるんでしょうか?


中川:機能面は充実はしているのですが、やっぱり表現の部分ですよね。これをオリジナルで作ると、よりサタケさんの表現したい世界観が打ち出せるようになります

個展に訪れて作品を見るのと同じように、「Webサイトを見る」という体験もサタケさんの印象に関わると僕は思っているので、Web上であってもユーザーが触れたときにその世界観をもっと濃く伝えられるといいのかな、と思います。


前田:まさに。サタケシュンスケの生の絵を見た感覚と同じ感覚をサイトを見てる人にも体験できるようなサイトにしたいよね。 例えば、Appleのお店は、ちゃんとApple製品を触った感触に近い設計されていて、CMを作るにあってもジョブズはそこにこだわっていたらしいよ。 サタケシュンスケのユーザエクスペリエンスアイデンティティを追求したいと思ってます。


サタケ:それは嬉しいですね。それとWordPressのテンプレート機能だと表現が制限されてしまうっていうのも、まさに思っていたことです。できることが限られた中で、見映えを整えて、少しずつ付け足して……ってやっていたので、早々に限界を感じていました。ここから大きくは変えられないな、と。


中川:でも、同じ制約があるとしてここまで作れる方がどれくらいいるのかというと、すごく少ないと思っていて、サタケさんは限界まで駆使しているというのが、Webサイトからも伝わってきます。

もっと言えば、かけた時間、熱量、こだわりみたいな、サタケさんの内側にある思いがめちゃくちゃ伝わってくるサイトなんですよね。単に、更新頻度が高いとかだけではなくて、サイトの細かい工夫から見て取れます。


サタケ:周りにもWebサイトを自作する人はいますけど、まめな更新・運用、という意味で自負心はあります。事あるごとに更新して、できる限りやれることはやってきたので、おっしゃるようにWebに対しての愛情もあるし、大切さもわかっているつもりです。



ここにくると必ずなにかを見つけて帰れるサイトに

———現時点で、具体的な見せ方が決まっていたりもするんですか?


中川:より便利でユーザーが使いやすくという意味では、今は載っている作品点数は多いんですが、どうしてもページ下部にある古い作品が見てもらえないと思います。掲載作品数に応じて、必要な機能の提案ができるのではと感じています。

サタケさんの現在のWebサイト(作品アーカイブ)

———それは、過去の作品を探しやすくしたり、見やすくしたり?


中川:例えば、ソート機能やタグの工夫もそうですね。現状、作品にタグ付けはされているんですけど、色別、丸み、角っぽい、アナログ、デジタル……といったような作風のカテゴリを加えることで、よりユーザーがイメージに近い作品を探しやすくなると思います。

リニューアル時点で、“どこまで作品を載せるか”も精査しなければいけないとは思います。


サタケ:作品数が結構あるので、探す方がイメージしてる作品にすっとたどり着けるような動きができて、「ここにくると必ず何かを見つけて帰れる」と思ってもらえたら最高ですね。


———「網羅」よりも、「伝えるべきものが伝わる」ほうが大切なんですね。


サタケ:これからも積極的に受けたいジャンルのお仕事の露出を増やしたり見つけてもらいやすくしたりと、コントロールしているつもりですが、もっとわかりやすくできると嬉しいですね。


———中川さんとしては、何か大胆に変えたいポイントはありますか。


中川:さっきサタケさんがおっしゃっていた「Webサイトじゃなくて、作品を見せる」を表現するために、やっぱりトップページの印象はすごく慎重になりますね。


サタケ:中川さんが言う「作品が前に立つ見せ方」をトップページで表現したときに、「どんな見せ方ができるんだろう」っていうのが今から楽しみです。

(ここで話しを聞いていた前田さんから——)

前田:コンセプトワークをやってみたら、どう?


———確かに! 「コンセプトワーク」とは、NASUでデザインを作る際に、クライアントさんへのヒアリングを兼ねて行なっているフレームワークの一つです。

例えば同業者を見渡して、うらやましい部分、ねたましい部分、悪口とか……サタケさんは優しい方ですけど、そこは心を鬼にして挙げてもらって、本当の「こうなりたい!」を見つけてコンセプトを固めていきます。


前田:そのコンセプトを、言葉と絵で表しておくんです。そうすると、デザインの方向性が迷わなくなるんですよ。


中川:クライアントさんとNASUでの認識のズレも少なくなります。コンセプトワーク、楽しみですね。


サタケ:なるほど。確かに、1回、自分が考えていることを棚卸しして、整理したいと思っていたので、ぜひ試してみたいですね。



お問い合わせフォーム」から考える、コミュニケーションのデザイン

中川:サタケさんの今のポートフォリオサイトの大きな特徴の一つなんですが、実はお問い合わせフォームがないんですよ。多分、スパム・迷惑メールを懸念してのことだと思いますが……。


———そうなんですか!? それなのに、お仕事の依頼がほとんどサイトからってすごくないですか?


サタケ:いや、問い合わせフォームがないとはいえ、メールアドレスは載せているので、基本的にはメールでご依頼いただくことが多いんです。

もちろん、メールでの問い合わせがしやすくなるように、「仕事の相談なら、こういうことを書いて送ってください」という説明は自分ではしているつもりです。

ですが、「問い合わせフォーム」があれば質問に答えていくだけで相談までたどり着けるので、もっと気軽にコンタクトを取ってもらえるようになるとは思います。


中川:そう、それは今回検討したいポイントの一つなんです。

メールで問い合わせをする従来の動き方、フォームを使う新しい動き方、双方に優しい設計にしたいので、慎重に進めたいとは思いつつ、作るのが楽しみな部分でもあります。

どのページからアクセスしても最終的にはお問い合わせしたくなるつくりを、意識したいですね。

サタケ:問い合わせフォームが使われるのは、基本的にファーストコンタクトだと思うので、「頼みやすい」「頼んでみたい」という第一印象を持ってもらうのが大切なのかな、と思っています。

ただ一方で、「何でもやります!」という感じの見せ方はちょっと違うと思っていて。問い合わせしやすい分、「一緒に何かやりましょう」とか、「とりあえず連絡ください」とか、ふんわりした問い合わせが来ても、僕としては困ることもあって……。


———確かに。


サタケ:そうそう(笑)。「来月、お時間ありますか?」みたいなメールが急に来たりして、「まだ僕たち、何も始まってないじゃないですか」って……。

だから表現が難しいかもしれませんが、「こういう人と一緒に仕事をしたい」というのが、フォームから伝わるようにできるとありがたいです。



Webの力を信じてるからこそ

———サタケさんから見て、イラストレーターさんで「この人のポートフォリオサイトはすごいな!」っていう方はいらっしゃいますか?


サタケ:うーん……パッと思い浮かぶ方は、いないんですよね。デザイン会社だと、「あっ」と目を惹く奇抜なものや変わったものはたくさん見るんですが……。

そういう意味では、みんな似たり寄ったりで横並びぐらいのイメージですね。誰かがずば抜けてもいないし、ポートフォリオサイトに力をかけている個人のイラストレーターさんは、あまりいないと思います。

中川:サタケさんのように、ご自身の仕事の範囲をしっかり伝えて、しかもto Bに向けてここまで運用している方は、僕も思いつかないですね。


———そもそも自分のサイトを持っていない方もいますよね。


サタケ:そう、最近は持っていない人も多くて、僕としてはもったいないなと思っているんです。作品を見たいときに、見られるものがない。

最低限、SNSで作品が見られたらいいんですけ、SNSだって今後なにがあるかわからないじゃないですか。例えば、Instagramが10年後もちゃんと活発に使われてるかどうかはわからないし、現にTwitterはめちゃくちゃ変わっていってるし……。

だから、そこに依存するとダメだ、というのはずっと思っていることではありますね。


———SNSに対して、その意識があるのはすごく鋭いと思います。


サタケ:多分、SNSがここまで普及していない時代からWebサイトを自分でつくっているから、余計感じるのかもしれません。

きっとSNSのネイティブ世代にとっては、Webサイトの必要性を感じることが少ないと思うんです。このプロジェクトを通じてそういう世代の方にも、Webサイトの力や可能性を示せたらいいな、と思います。


———“Webサイトを持つクリエイター”って、法人からすれば安心感がありますし、活動の幅も広がると思うんです。その意識が、若い世代のクリエイターにも広がっていけば、面白いですね。


サタケ:イラストレーターにとって、作品は商品だと思うんですよ。

……で、いい商品作ることにはみんな力を注ぐんです。これは100人いたら100人がそうだと思います。

だけど、その商品の見せ方がすごく雑になってしまっているのは、非常にもったいないですよね。普通、企業が商品を作ったら、それをどう良く見せるか、魅力をどう伝えるかに力を注ぐと思うんですよ。


———作るのと同じくらい、伝えることも大事ですよね。このプロジェクトで、最高のポートフォリオサイトができたら、サタケさんが「伝える」パイオニアになるかもしれませんね……!


サタケ:見本になりたい、とまでは言わないですけど、僕はWebの力を本当に信じているので、「みんな、もっとしっかり運用したらいいのに」と思ってはいるんです。

でもそれは僕が言葉にしても伝わらないと思います。実際にポートフォリオサイトを作って見せて、その結果「仕事がこんなふうに変わってきたよ」まで見せられたら、「自分もやってみようかな」という方が増えると思うんですよね。

そんなふうに、クリエイター同士が意識し合って高め合えるのはすごくいいことだと思います。


(ここでまたしても話しを聞いていた前田さんから——)

前田:そうだ、プロジェクトロゴを作っているんですよ。あれ、見てもらおうよ。


サタケ:えー、すごい! プロジェクトロゴ、もうあるんですか? いいですね、そういうものがあると気持ちが上がりますね。

中川:ちょっと待っててくださいね。

(手元のスマートフォンで、ロゴを探す)


前田:まだ途中ではあるんですけど、これが一番近いかな?


サタケ:おおお!


中川:サタケさんがこれまで作ってこなかったようなテイストだったりとか、「これから何かやるぞ!」という姿勢を表す感じで。


前田:サタケさんが使わないであろう、黒を使おうかな、と。サタケさんが作るデザインじゃなくて、NASUが関わって作っていくイメージです。


サタケ:いや、その通り。NASUと僕が融合したからこそ生まれるものがありますしね。


前田:あとこれ、世界地図が入ってるんですよ。


サタケ:……ん?

……あ、本当だ……!


前田:ちょっと暗すぎましたね。直します(笑)。


中川:すみません!


前田:NASUが総力を挙げて、いいものを作ります、という意志を込めているんですよ。


中川:以前、サタケさんから「今回のWebサイトリニューアルは、すごい大きな機会」と言っていただけたので、全身全霊で作っていきます。

(ちなみに、プロジェクトロゴは、取材日よりブラッシュアップを重ねこうなりました!)


サタケ:もうひたすら楽しみですね。本当にご縁で、このタイミングで今回のプロジェクトをやるのは、僕にとってかなり大きな転機になると思っています。


中川:…………このサイトを作り切らないと、死ねないな、と思って。


———決意が伝わってくる一言(笑)。


サタケ:それほどの気持ちを持っていただいてるというのが、ずっしりと伝わってきました(笑)。



6月2日、サタケさんの会社「ひととえ」2周年から始まった「サタケシュンスケを世界へ」プロジェクト。12月の完成を目指して進めて行きます。完成をご期待ください。






〈 文=郡司 しう(@Ushi_Jinguu)/ 編集=浜田綾(@hamadaaya914)、木村涼(@riokimakbn)、中山乃愛(@noa_liriope)/ 撮影=前田高志(@DESIGN_NASU)、バナーデザイン=小野幸裕( @yuttan_dn52)〉