創業から約2年。


助産師に関する事業を展開するWith Midwifeの創業者であり、代表の岸畑聖月さんは大きな決心をします。


「コーポレートロゴをリニューアルしよう」。


共に歩むメンバーとともに、これからのWith Midwifeの成長を見据えたロゴにするためです。


創業当時から大切に使い続けたロゴがありながら、約2年での本格リニューアルのご相談。


NASU代表 クリエイティブディレクターの前田高志、デザイナーの久本晴佳は、「勝てるデザイン」で応えることを約束します。


江戸時代から200年以上続く助産師の歴史をこれからも紡ぎ続けるため、時代に合った助産師のあり方を社会に提示するWith Midwife。


その新たなシンボルが誕生するまでのリアルな軌跡をたどります。


メンバー全員で今のWith Midwifeに必要なロゴをつくりたい

前田:NASUメディアでお話させてもらうのは、2021年末に公開ヒアリングをして以来になりますね。


岸畑:もう半年経つんですね! ちょうど、あの記事が公開されたあたりから、濃い時間を過ごした思い出があります。


前田:ですね(笑)。今回のロゴリニューアルは、NASUとして「勝てるデザイン」をサービスとしてローンチして最初の案件でした。僕の著書「勝てるデザイン」で定義した、

①一撃で伝わるデザイン
②捨てられないデザイン
③ならではのデザイン
④興味を奪うデザイン
⑤ポリシーがあるデザイン

この5つのハードルを超えたデザインを作って、お客さんに勝ってもらうというサービスです。


岸畑:結果から言ってしまうと、新しいロゴは間違いなく「勝てるデザイン」ですね。


前田:そう言ってもらえて良かったです。僕らとしてもプレッシャーはありました。創業時から皆さんが大切にされてきたロゴなので。個人的にはデザイナー人生をかけてやる気概でやらせてもらいました。


岸畑:正直、元々ロゴを変えようと思っていたわけじゃないんですよ。


前田:そうだったんですか?


岸畑:これはですね、前田さんに作ってほしいと思ったからですよ。


前田:えぇ〜!


岸畑:性教育のためのボードゲーム「ジニー」のデザインをしてもらったじゃないですか。あのときに「デザインってすごいなぁ」って思ったんです。こんなにもわかりやすく楽しくなるんやって。


前田:それでデザインの力を感じていただけたと。


岸畑:はい。前のロゴも思い入れを持って、大事に使ってきました。けど、私のセンスの問題もあるのですが、横長でうまく使えていないと感じることもあり、いつかは変えるだろうとも思っていました。

前田:実は、僕も前のロゴを初めて見たときに「あっ、つくりたい」って思ったんですよ。


岸畑:へぇ〜、そうだったんですか!?


前田:はい。A1明朝というフォント、Mを反転させたWに造形的な違和感を感じて、尖りが強い印象を受けたんですよね。助産師さんのイメージからすると、もっと柔らかいイメージでもいいんじゃないかなと感じました。

創業時から使われていた旧バージョンのロゴ

岸畑:なるほど。前田さんから見た当社のイメージとちょっと乖離があったんですね。


前田:そうです。前のロゴをつくられたのは、2019年の創業当時ですよね。その頃と比べて、With Midwifeさんも変わってきていることもあるでしょうから、そう感じたんじゃないかなと思うんですけどね。


岸畑:そうですね。メンバーも増えて、次の成長に向かおうというフェーズではあります。今になって思えば、このタイミングで会社のシンボルであるロゴを作り直すというのは、私たちがチームとしてWith Midwifeを再定義する良い機会になりました。


前田:岸畑さんはご相談の段階から「メンバーみんなと一緒につくりたい」って仰っていましたよね。


岸畑:それを一番大事にしたかったんです。前のロゴは、当時のブランドマネージャーと私だけでつくったものでした。With Midwifeを長く続く企業にするためにも、新しいロゴはこのメンバー全員の思いを具現化したものにしたかったんです。なので、初期のコンセプトワークの段階から全員に参加してもらいました。


ネガティブワードから見えた「会社らしさ」があるロゴの必要性

前田:勝てるデザインサービスでは、必ずコンセプトワークを行います。コンセプトワークでは、大きく3つの質問をもとにキーワードを探っていきました。ここからは今回メインでデザインを担当してもらった久本さんにも加わってもらいましょう。


久本:はい、よろしくお願いします。今回のコンセプトワークでは、自社のことだけじゃなくて、

①同業他社の羨ましいところ
②助産師、医療業界の悪口
③With Midwifeの劣っているところ、

という、あえてネガティブなことを皆さんに話してもらいました。


岸畑:私たちにとってもなかなか新鮮でした。普段、こういうテーマで話すこともないんで。なんでこういうテーマだったんですか?


久本:課題は、ありたい姿とのギャップとも言えます。あえてネガティブなことを言っていただくことで、その裏返しとして本当は皆さんがWith Midwifeとしてどういう姿を目指したいかを探る意図がありました。

実際のコンセプトワークの一部

前田:コーポレートロゴはいわば会社の顔です。企業としてのありたい姿や社会的価値、意義をきちんとデザインに落とし込むことが大事なんで、こういうワークをしてもらいました。


久本:それから、With Midwifeさんのこと、岸畑さんのことを徹底的にリサーチしました。デザインにつながるキーワードを探る意図もありましたけど、人生観や考え方、好みを把握するためです。


前田:「勝てるヒアリングシート」という新しいツールも使いました。ものすごい数のキーワードが出てきたんで、僕らの方で整理しながら課題と目指すべきロゴのあり方を探っていきました。


久本:そうして一つ、大きな課題として浮き上がってきたのが「サービスに見られてしまう」ということでした。

前田:慈善事業とか、ボランティアに見えてしまうっていう声が多かったんですよね。企業や社会との接点が見えにくく、社外での理解にギャップが生じてしまっているんじゃないかなと。


久本:おそらく助産師の社会性や福祉的なイメージが強く、企業として見られにくいのが原因だと考えました。


岸畑:仰るとおりです。もっと企業らしく見せるべきだというのは、全員共通の課題認識だったと思います。


前田:であれば、デザインの軸とした方がいいということで、助産師の価値を正しく伝えることに加え、「会社」らしさも意識して、初回のご提案ではデザインコンセプトを立てました。


久本:それが「変化しながら200年続く、本物の助産師の会社」です。助産師の歴史は、古くは江戸時代の産婆さんに遡り、200年以上にもわたります。With Midwifeさんは、そうして続いてきた助産師のあり方を、新しい形で社会に取り戻そうとされているんじゃないかなと考えました。

提案資料の一部

前田:200年って簡単には続かないですからね。時代が変われば、自分たちも、社会も変わらないといけない。これからさらに200年続くというのは、変化し続けるということでもあるんです。


岸畑:このコンセプトにはすごく納得しました。今、助産師のほとんどが病院で働いています。でも、本来の助産師は、妊娠・出産・育児で悩む女性やそのご家族にとって身近で、寄り添う存在であるべきなんです。


前田:実際、社名に「with」が入っていますし、ミッションでも「“寄り添う”ことを価値にする」を掲げていますよね。


岸畑:はい。助産師として、もっと時代に合った寄り添い方をつくっていかないと、出産数は減っていきますし、助産師の仕事もなくなりかねません。コンセプトとして提案いただいた「変化しながら」っていうのは、まさに私たちであり、助産師に必要不可欠なんです。


久本:既にWith Midwifeさんはビジネスとして助産師に関するサービスを数々展開されています。これからもイノベーションを起こし続けることで、助産師さんの次の200年の歴史を切り拓いていく存在です。事業を通じて助産師の価値を生み出し続けることが、With Midwifeさんの企業としての存在意義でもあると思いました。


前田:初回のご提案では、このデザインコンセプトにあわせて、作成中のロゴデザイン案もお見せしましたね。

1回目に提案したロゴデザイン


岸畑:今改めてみてびっくりしたんですけど、初回のご提案書は200ページもあったんですね!


前田:はい(笑)。提案書にも載っていない案を含めたらもっとです。今回は意図をもって、制作途中のデザイン案をどんどんお見せしていきました。


デザイン過程もすべて共有。デザイナーもクライアントと一体で

岸畑:最初のご提案が1月7日で、次のご提案がその翌週の1月13日。このときも200ページ以上の提案書を頂いて圧倒されました。


前田:あとで数えてみたら、1回目が36案で、2回目は、提案書に掲載したのは39案ですが、

2回目に提案したロゴデザイン

そこに載せなかったものを含めるとトータルで62案でした。

提案書には掲載されていないロゴ案の一部

僕らはお客さんに合わせて提案のやり方を変えていて、今回はWith Midwifeの皆さんとの対話を大切にしたいと思ったんです。


久本:最初に岸畑さんが、みんなでつくりたいというお話をされていましたからね。


前田:普段だとNASUの社内でだけやっている案出しやラフの段階から、皆さんにお見せして、フィードバックを頂きながら進めていきました。もっとも制作途中の案だったので「これは違う……」とか、「これ見せられても……」って感じだったかもですけど(苦笑)。


岸畑:いえいえ! むしろ一緒につくっている感じがあって、私たちも嬉しかったです。今になって見ると、どのロゴ案もそれぞれ違って、見ているだけで面白いですね。


前田:皆さんの反応が見たかったんです。何にピンとくるかとか、何が違うかとか。


久本:1回目の提案書はロゴ案を載せただけでした。

でも、それだけだと意見も言いにくいかもしれないなと。2回目からはタグラインのようなキーワードとあわせてお見せするようにしたら、少しずつ意見をいただけるようになりました。


前田:3回目はロゴもお見せしつつ、「With Midwifeは○○の会社だ」というキーワードをあわせてご提案させてもらいました。どちらかと言うと、言葉を選んでもらう感じですね。


岸畑:私たちの中では「助産師を蘇らせる会社だ」と「信頼できる新しい助産師の会社だ」が、これからのWith Midwifeが目指す方向に近いかなっていう印象でした。どちらも端的ながら的確でしたね。

3回目の提案の一部


前田:選んでもらった言葉をそのまま使おうとかではなく、これもあくまで方向性を探る一環でした。ここまでの一連のヒアリング、リサーチ、コンセプトワーク、ご提案への反応を踏まえて、次の4回目では少し作り込んだ案をご提案させてもらいました。


コーポレートロゴが持つべき“親”感

久本:4回目のご提案では、改めてWith Midwifeさんが目指す姿や課題を整理することから始めました。助産師本来の「価値」、With Midwifeさんの「革新」。この掛け算によって社会課題を解決するビジネスを展開されている一方で、助産師の在り方やWith Midwifeさんの見え方が「誤解」されていることが課題だと考えました。


前田:この問題を解決する方法を一言で言えば、正しく知ってもらうこと。ご提案では、「声も大きく、広がりも大きく」主張する必要があるんじゃないかと説明させてもらいました。


久本:じゃあWith Midwifeさんが何を目指すのかというと、助産師人口を増やすことじゃないかなと。

世の中で助産師の社会的意義・必要性が正しく理解されていてこそ、助産師人口の増加につながるからです。そのためにも、外からの見え方として“企業らしさ”が欠かせないというご説明をしました。

前田:ここで改めて「企業らしさとはなにか?」について、コーポレートロゴとサービスロゴの違いからお話しさせてもらいました。端的に言えば、コーポレートロゴは、企業のロゴで一番上に位置し、すべての元となるいわば“親”のような存在。サービスロゴは、そこから生まれる商品・サービス・ブランドなどの用途に合わせたものになります。


久本:ご提案では、他社さんを例に、コーポレートロゴと、商品・サービスやブランドのロゴとの使い分けもお見せしました。


岸畑:コーポレートロゴの“親”感っていうのが、すごくわかりやすかったです。実例も見せてもらってイメージもわきました。

久本:そのうえで、新しいロゴは、創業時からのロゴを大事にしながら、企業らしさと、With Midwifeとしてありたい姿を掛け合わせたデザインであるべきだと提案させていただきました。


前田:ロゴ案は、言葉が一緒にあった方が皆さんに意図が伝わりやすそうだったので、タグラインをイメージしたコピーと合わせてお見せしていきました。切り口としては5つで、デザインは14案ありましたね。


久本:実際に、既存事業のサービスロゴと並べたイメージもお見せしました。あと、コーポレートロゴは、どんなシーンでも“企業らしさ”を感じられる見え方をするのが大事です。名刺や封筒、Webサイトに当てはめてみたり、他社のロゴと並べてみたりして、検証したイメージもお見せしました。




こうしてロゴが完成……しない!

前田:ズバリ結論を言ってしまうと、「この中にはない」ってなったんですよね。


岸畑:はい。「このタイミングですみません」ってお伝えした記憶があります(苦笑)。計3回の可能性を探る提案をしていただいた後の作り込んだ提案だったので、この中から選ばないといけないって思っちゃったんですよね。


前田:僕らとしても誤解させてしまったなと思ったんですけど、これで完成じゃなくて、ここで選んでいただいた案を元に進化させていきましょうという認識でした。でも、ここまで使用イメージにも当て込んでしまったので、かえって完成が近いと感じさせてしまいましたよね。

「勝てるデザインサービス」を進める上で、今後の反省点となりました。

岸畑:私自身のモヤモヤもありました。みんなでつくりたいと思っていたので、メンバーの意見を引き出して尊重する一方で、自分があまり意見を言わずにここまで来てしまっていたんです。だから、このまま進む前に、ちょっと遅くなってしまったけど、私の思いやイメージも伝えたいって思ったんです。


前田:そのお話を頂いた時に率直にお伝えしちゃいましたよね。「僕はずっと暖簾に腕押し感があったんです」って。


岸畑:そうでしたね(笑)。私からつくってほしいとお願いした手前、あまり言っちゃいけないんじゃないかとも思ってました。デザイナーさんもプロだから、素人がどこまで口を出していいかよくわからなかったんです。でも、振り返ると、造形するのはデザイナーさんだけど、形にする前のコンセプトを考えるという部分は共同作業なんだなって。私はそこを放棄しちゃってたんだと反省しました。

前田:そのあと、岸畑さんに改めてヒアリングさせてもらったんですよね。そこで本音を聞かせてもらえたなって感じました。


岸畑:初めて言いたいことを言わせてもらって、やっと私もロゴ作りに参加した実感がありました。ここからついに本格的なロゴづくりが始まったなって。本当のスタートラインに立ったのはこの時だったかもしれません。

模索期間を経て新たなスタートを切った、With Midwife社の「勝てるロゴデザイン」。岸畑さんの思いを加えて、一丸で作り上げるデザインは、いよいよ最終局面を迎えます。次回、ついに完成編です。



(続く)




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勝てるロゴデザインが生まれるまで ヒアリング編

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〈 文=木村涼 (@riokimakbn)/ 取材・編集=浜田綾(@hamadaaya914)/撮影、レタッチ、バナーデザイン=小賀雪陽(@koga_bai)/記事内画像デザイン= 中山乃愛(@noa_liriope)〉