「作風で売れている人は、基本的にいない」イラストレーター中村佑介が学生に語った仕事論 大阪芸術大学 特別講義レポート〈後編〉

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2026年5月23日、大阪芸術大学デザイン学科グラフィックデザインコースの学生に向けて、NASU代表・前田高志とイラストレーターの中村佑介さんによる特別講義が行われました。

前田は、2026年度から大阪芸術大学デザイン学科の客員准教授として授業を行っています。今回は同じ大阪芸術大学のOBであり、前田の後輩でもある中村さんをNASUのオフィスにお迎えし、グラフィックデザインコース3年生の学生に向けてお話いただきました。前編はこちらから。

講義の後半では、学生から寄せられた質問に中村さんが答えました。

作風、制作プロセス、仕事への向き合い方、挫折、就職活動など…これから表現やデザインの道を歩んでいく学生にとってリアルな問いが続きました。

作風は後からついてくる。大切なのは役立つこと

学生:作風を安定させるまでの葛藤や焦りはありましたか?

中村:ないですね。僕は、作風が欲しいと思って描いてきたわけではありません。どうやったらより多くの人に見てもらえる絵になるのかを考えて、今も少しずつ変えています。

学生の方は、売れている作家がいるととっさに「作風で売れている」と思ってしまう。でも僕の目から見ると、作風で売れている人なんて基本的にいないです。何かしらの役に立っているから、ニーズがある。それだけです。

作風って、親子丼の上に乗っている三つ葉みたいなものだと思うんです。三つ葉が乗っていなくても、親子丼はおいしい。なのに、絵になるとみんな三つ葉の方を先に欲しがるんです。美大で勉強しだすと、特に作風が必要だと思うようになりますよね。

でも、本屋さんで実用書コーナーの表紙なんかを見るとわかると思うんですが、アニメや漫画風ではなく地味に見えても仕事がバンバン来ている人たちがいる。仕事が来る理由を考えると、機能性を持っているからなんです。中身がパッと見て判別しやすい。役に立っている。その各自の考え方や方法が作風だと結果的に呼ばれてるだけなんですね。だから、作風は必要でも、それを追い求めることは、実は無駄なのかもしれない。作風は、後からついてくればいいんです。

前田:なるほど。自分がこう描きたい、ではなく、必要とされるものを描いている。

中村:そうです。

前田:完全にマーケター、デザイナーの考え方ですね。

道具へのこだわり

学生:普段使っている道具やソフトは何ですか?

中村:色はPhotoshopで塗って、紙はケント紙。鉛筆や定規、コンパスを使います。ペンはコピックのマルチライナー、消しゴムは「まとまるくん」ですね。あれが一番いいんですよ。ペンの線を持っていかず、下書きの線だけ粘着力で消える。

前田:消しゴムにこだわりが(笑)。

中村:うまくいかない時は、犬の散歩に行って気晴らしをしたり。

まずは目につくこと。次に内容を理解してもらう

学生:制作を進める上で、どのような思考プロセスを大切にしていますか?

中村:まずは目につくことです。いくらいいものでも、店頭で素通りされたり、SNSで流れていってしまったりしたら本末転倒なので。まずフックを作ることが大切です。

そのうえで、内容やコンテンツを理解してもらう。気にさせる。本だったら、ページを開かせるように誘導する。そういうところを大事にしています。

資料は、自分で買う。消費者にならないと、消費者の気持ちはわからない

学生:仕事に入る前のルーティンはありますか?

中村:よく調べることです。本を買ったり、映画ならブルーレイを買って観たりします。

基本的に「買う」ということは、とても重要だと思っています。先方が資料を送りますよと言ってくれることもありますが、売っているものなら自分で買います。なぜなら、消費者にならないと消費者の気持ちがわからないからです。

「5000円か、高いな」と思いながら買う。でも、これを5000円でも安いと思った人がいるんだな、と考える。その気持ちにたどり着いてから描くようにしています。

前田:ゴジラだったら、ゴジラのブルーレイを買うとか?

中村:買います。今はサブスクでも観られますけど、わざわざ買うんです。1本3000円、4000円するものにお金を払って観る気持ち。それを知ることが大事なんです。

たとえばロックマンの仕事をした時は、過去のロックマンを全部やりました。新品はもう売っていないので、スーパーポテトみたいなレトロゲームのお店に行って、ゲームボーイやファミコンのソフトを買い集めて、全部クリアして。

ちょうどオールナイトニッポンの仕事も並行していたので、ラジオのアーカイブを聴きながらロックマンをやっていたんです。年末年始に、家でゲームをしてラジオを聴いているだけのおじさんになっている気がして、仕事の下調べのはずなのに、すごく罪悪感がありました(笑)。

描いても描いても終わらない。3ヶ月かかった『マジックディスク』

学生:これまでで一番時間がかかった作品はどの作品ですか?

中村:一番時間がかかったのは、アジカンの『マジックディスク』ですね。

ジャケットが6面あって、開くと全部つながった1枚の絵になっている。地球儀が逆側につながって、環状になっている構造なんです。描いても描いても終わらない。全部塗って、クリアにして、また描いていく。


ASIAN KUNG-FU GENERATION『マジックディスク』2010 ©Ki/oon Music ジャケット
ジャケットを開くと、CDジャケット6面分の繋がった1枚のイラストになっている。

中村:しかもその時、ちょうど初めての画集を出してサイン会で全国を回っている最中で、この仕事も抱えていたんです。移動中はずっと荷物を抱えて、泊まったビジネスホテルに机がないこともあって、そういう時は冷蔵庫を机にして描いていました。

結果的に、まるまる3ヶ月くらいかかりましたね。比喩ではなく本当に、死ぬかと思いました。

今、弱点だと思っているものは、弱点じゃないかもしれない

学生:中村さんのイラストの、独特な世界観はどうやって作り上げていったんですか?

中村:特別なものを描いているかというと、実はすべて「あるもの」を描いているだけなんです。組み合わせと配置と色づかいで独特に見えているだけで、モチーフ自体は非常にオーソドックスなものをオーソドックスな描き方でしてるだけです。

ただ、こういうシンプルな絵柄で、ここまで陰影を排除したタッチの人で、スカートの裏の縫い目まで描く人が何人いるか。後ろでシルエットになっているのに、ビルの柵の石の部分まで描く人がいるか。パーカーの紐も、ちゃんと片方が抜けないように結んである。その細かさの集合体が、たぶん僕の作家性と呼ばれているものなんだろうなと思います。

「ゴジラ・ストアOsaka」メインビジュアル TM & © TOHO

でも、これは僕が美大予備校の時に、めちゃくちゃ怒られていた部分なんです。デッサンの時に「中村くんは部分に注目しすぎている」と。どのモチーフにも同じように興味があるから、手前のリンゴも奥のコップも同じ力量で描いてしまう。だから距離感が出ない。「君の絵はどれが主役なの?」と、ずっと言われていました。

自分でも弱点だと思っていたし、直そうとしても直らなかった。でも、それが今、裏返って強みになっている。だから、今怒られていることや、弱点だと思っているものは、実はそうじゃないかもしれない。それは覚えておいてほしいですね。

背景より、人物のほうが難しい

学生:背景を描く時に気をつけていることはありますか?

中村:背景は、コンセプトや内容によって決まることが多いです。CDならCDの内容、本なら本の舞台を描かなくてはいけない。だから、背景の方が創作性は少ないかもしれません。

逆に、人物の方が難しいことがあります。小説には、人物の見た目がまったく書かれていないことがあるんです。『夜は短し歩けよ乙女』や、アニメ化された『四畳半神話大系』のヒロインたちも、ルックスはどこにも書かれていない。だから、読者が思い描く人物像にするにはどうしたらいいかを、口調やセリフから考えていきます。そこはめちゃくちゃ苦労しますね。

前田:背景には、余白の怖さもありますよね。

中村:ありますね。だから作品によっては描かない方が良い場合も。

森見登美彦著『夜は短し歩けよ乙女』 単行本カバーイラスト(KADOKAWA)
森見登美彦著『四畳半神話大系』カバーイラスト(KADOKAWA/角川文庫)

就職活動はしていない。でも、ライトユーザーの価値観は頭に入れておく

学生:就職活動の経験があれば聞きたいです。

中村:就職活動はしていません。学内の企業説明会を聞きに行ったことはありますが、エントリーも面接も一度もしていなくて。最初からイラストレーターになるつもりでした。もしなれなかったら、フリーターになろうと思っていたので。

ただ、イラストレーター、作家になるにしても、ライトユーザーの価値観はきちんと頭の中に入れておくべきだと思います。

売れているものを、ちゃんと見る。映画でも、ヒットしているものを斜に構えずに、「なぜこの映画がヒットしたのか」をメモできるようにならないと、自分がそちら側に行くことはできません。

流行っている展示や映画は、「好き・嫌い」ではなく「流行っている」という理由で見に行った方がいい。家で雑に見るのと、映画館できちんと評価できるように見るのとでは、全然違いますから。

そして、就活全体に「必勝法」を求めないことだと思います。会社はそれぞれ違うわけだから、必勝法を探すのではなく、その会社をちゃんと調べて、どういう人材を求めているかを考えて、そのためにポートフォリオを組む。相手も人間だと思って受けに行く。マッチングみたいなものなので、優秀でも合わなければ落ちるし、落ちても気にする必要はないんです。

早く売れてしまったことは、僕にとって「計算外」だった

学生:これまでに挫折はありましたか?

中村:思ったより早く絵が有名になって、売れてしまったことが、僕にとっては挫折というか、計算外でした。

大学の恩師に「10年やってダメだったらイラストレーターを辞めなさい」と言われて、10年かけてやろうと思っていたんです。それが、1年でポンと売れてしまった。準備ができていなかったこともありました。

教科書の表紙を初めて手がけた時も、「僕のキャリアって、この後何を目標にすればいいんだろう」と思いました。教科書の仕事は、もっと60歳くらいになってからやるものだと思っていたので。当時まだ35、6でしたから。


高校生の音楽1(2013年度版)/ 高校生の音楽2(2014年度版) 株式会社教育芸術社
2013年からの毎年度、中村さんが表紙イラストを担当している。

前田:早く売れてしまったことで、自分の才能が足りていないと感じることも?

中村:初期に手がけたCDジャケットや本の表紙の中には、描写力ではなく、理解度が足りていなかったものもあります。今なら描き直したいと思うものもある。でも、絶版になってしまっていて、もう直せない。それは、やっぱり挫折ですね。ちょっと恥ずかしいなと思います。

「今しかできない経験」を、してほしい

学生:学生の今のうちに、しておいた方がいいことはありますか?

中村:僕はさっき言ったように、就職セミナーにもほとんど行かず、学校の授業をむちゃくちゃ真面目にやっていました。課題も自主制作もやって、映像学科の友達と映画を撮ったり、バンドをやったり。でも、大学の間に一度も合コンに呼ばれなかったんです(笑)。「あいつは真面目だから」って。

当時はそれでいいと思っていました。でも今考えると、死ぬほど行っておけばよかった。やり残した感が、すごくあるんです。

経験って、その時にしかできないんですよね。子供の頃に欲しかったものを、大人になってバイト代で買ったら、意外と期待外れだった、みたいなことがあるじゃないですか。あれと同じで、今しかできないことがある。だから、忙しくても友達の誘いに行ってみるとか、苦手な人にバーベキューに誘われても一回行ってみるとか。そういうことを、学生のうちにちゃんとやっておいた方がいい。僕は48歳になった今でも、それを思うんです。想像してみてください。つらいでしょう、将来50手前でこれ思ってるの(笑)。

流行っているものにこそ、あえて乗らない

学生:これから習得しておくと強みになるものは何だと思いますか?

中村:うまいとか、早いとか、おしゃれとか、かっこいいとか、そういうものはAIに代替されていく時代だとしたら、むしろ「ダサい」「泥臭い」みたいなものを、嫌味にならない程度に意図して出せるかどうか。そこが強みになってくるんじゃないかと、5年先を考えると思いますね。

あとは、もし仕事になった時は流行っているものにこそ、あえて乗らないこと。僕はLINEスタンプを出していないんです。依頼はありますし、すごく流行っているのもわかっている。でも、ニーズが最大の時にコミットしてしまうと、消費されるスピードが一気にはね上がってしまう。作家イメージが売れ切れないようにストッパーをかけることも重要だと考えています。

消費者は、僕自身も含めて、ドライなものですから。血も涙もない(笑)。だからこそ、消費のされ方を自分でコントロールしないといけないと思っています。

「こんな授業を学生の時に聴きたかった」

前田:では、質問はこれで終わりにしたいと思います。時間の関係で全部はお聞きできませんでしたが、面白い質問がたくさんありましたね。

中村:いつもとはちょっと違って、面白かったです。

一般の講演会だと、Wikipediaを読めば書いてあるようなことを聞かれることもあるんです。でも今日は、皆さんが自分の不安や興味から質問している感じがあって。僕も、こんな授業を学生の時に聴きたかったです。

前田:僕もそう考えて今日お呼びしたので、そう言ってもらえて嬉しいです。ありがとうございました。

中村:僕も、いつも籠って絵を描いているだけで、こういう仕事場にお邪魔する機会も少ないので、嬉しかったです。

学生の頃、先生の仕事場にお邪魔して「いつもこんな仕事をしているんだ」と知る機会はなかった。皆さんは、将来働く場所にリアリティが持てるから、すごく良いですよね。

イラストレーターとして売れること、続けること、仕事を選ぶこと。
中村さんの言葉は、単なる成功談ではありませんでした。流行や知名度に流されず、消費者を見て、社会を見て、自分の仕事を次につなげていく。その積み重ねが、長く依頼され続ける作家をつくっているのだと感じる講義でした。

〈 文=長谷川 遥花、浜田綾(@hamadaaya914)/ 編集=浜田綾、女川陽美 / 撮影=浜田綾 / 画像レタッチ=長谷川 遥花 〉

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