2時間で申し込み1,000件、家系図を欲しいに変えるデザイン
Keifu
概要
YouTubeで配信されているビジネスのリアリティーショー「Nontitle」。Season6 昭和世代チームが立ち上げた家系図制作サービス「Keifu」の、ロゴデザイン、冊子デザイン(用紙選定・制作運用の設計を含む)、デモデイに向けたプレゼンテーション資料の監修を担当しました。
なお、代表・前田は番組第10話に出演しています。
プロジェクトのはじまり
番組内で生まれた事業を、「買いたくなる商品」に変える、勝てるデザイン。
Keifuは、行政書士の資格を持つメンバーの専門性を活かし、戸籍をたどって家系図を作成し、一冊の冊子として届けるサービスです。
家系図の難しさは、「自分ごとになりにくい」ことにあります。先祖の名前と続柄が並んでいると理解はできても、それが自分の人生と地続きのものだとは感じにくい。だから、あったらいいとは思われても、いま欲しいものにはならない。
この距離を縮め、番組を見た視聴者に「欲しい」と思わせる輪郭を与えること。そして何より、最終プレゼンであるデモデイに勝利し、事業化まで届けること。それがNASUに求められた役割でした。
NASUの目論見
「自分ごと」になったとき、家系図は欲しいものになる
情報を知るだけなら、書類で足ります。家系図が自分ごとになるのは、手元に置き、家族に見せ、リビングに置き、次の世代に手渡すという行為が生まれたときです。だからデザインすべきは、情報の器ではなく、その行為を引き出す一冊でした。
そのために、プロジェクト全体を貫くデザインのものさしを三つ定めています。
- 厳か ── 戸籍という史実の深さと重みが、佇まいから伝わること。
- 継承 ── もらってうれしく、捨てられない。次の世代へ渡していける格を持つこと。
- キュン ── 神聖さ一辺倒にせず、若い世代が手を伸ばせる可愛げを残すこと。
ロゴ、装丁、用紙、イラスト、プレゼン資料、そしてデモデイの服装まで、すべてこの三つのものさしで判断しています。
目論見に基づいた制作物のご紹介
樹の世界観を受け継ぎ、一本の線で繋ぐ
このプロジェクトのビジュアルには、先立つ存在があります。デザイナーyucoさんが手がけた、冊子のメインビジュアル「Keifuツリー」。ページを開くと現れる、大樹の枝葉に家族一人ひとりの名前が宿る、家系図そのものです。細密な線で描かれたこのビジュアルが、Keifuの世界観を先に確立していました。

「Keifu」のロゴタイプは、文字と文字が一本の線で繋がっています。家系図とは、人と人を線で結ぶことで「つながり」を可視化する図です。このロゴは、その構造そのものを文字に写し取っています。一文字ずつは独立した個人でありながら、一本の線で結ばれて初めて「Keifu」になる。樹の細やかな枝葉の線で、受け継がれていく家系のかたちをロゴタイプ自体が体現しています。

冊子デザイン ── オペレーションから逆算した装丁
このプロジェクトの冊子デザインは、見た目の美しさだけでは完結しません。
Keifuは、一冊ごとに掲載内容(家系図)がすべて異なります。つまり既製の印刷・製本ラインには乗らず、チーム自身の手で一冊ずつ製本する必要がある。装丁のデザインは、そのまま事業のオペレーション設計でもありました。
無線綴じから、和綴じへ:
Keifuチームが最初に用意していたのは無線綴じの冊子でした。しかし無線綴じは、製本を印刷所に委ねることになり、一冊ずつ内容が異なるサービスとは相性が悪い。仕上がりもどうしても商業印刷物の佇まいになってしまう。印刷所に依存せず、自分たちでプリントアウトし、自分たちで綴じられる方式のほうがいい。そこで提案したのが、家系図という題材にふさわしい伝統製本「和綴じ」でした。

和綴じの検討と、その壁:
和綴は難易度が高いのは承知の上での提案でした。Keifuメンバーがすぐに和綴じを習いに行き、実際に和綴じ版も完成させました。しかし手作業ゆえに品質にムラが出て、習熟した一人に依存する属人性も残る。量産を見据えると、時間もコストも見合いませんでした。

木製バインダーという着地:
転機は打ち合わせの中の「飲食店のメニューは、挟んで綴じてある」という着想でした。メンバーが都内のメニュー専門印刷会社を探して連絡を取り、豊富な紙とバインダーのサンプルの中から木のバインダーを発見。縦型だった既製品を横型に、木の部材もオリジナルで製作してもらい、現在のかたちになりました。バインダーといっても事務用品ではなく、家具のように、リビングの一角に置かれていても馴染む佇まい。表紙は上製本のような硬い板紙にパンチ穴を開けた仕様です。
一冊ずつ中身が違うという制約を、品質の均一性・製本のしやすさ・量産コストの面で解決しながら、「家宝」としての上質さを損なわない。情緒とオペレーションの両立を、仕様そのもので着地させた装丁です。
表紙のロゴは箔押しです。一冊ずつ手づくりされる冊子の中で、ここだけは量産に耐える仕様です。線が細いため、小さくすると箔が切れてしまう。その検証を経て、現在のサイズに落ち着いています。

紙の選定、「自分たちで刷り続けられるか」まで含めて決める
紙も、装丁と同じ基準で選んでいます。理想の風合いだけでなく、コストと供給の安定性、つまり「チームが自分たちで刷り続けられるか」までを含めた判断です。
カバー 新だん紙 雪/四大判 Y目 110kg2
見返し NTラシャ 濃あい/四大判 Y目 130kg2
本文 クラフトペーパー グロスホワイト/ハトロン版 T目 108kg2
本文で理想としていたのは、和紙の風合いを持つ新鳥の子でした。しかし単価が高く、一冊ずつ刷り続ける運用には重い。アドニスラフWは安価ですが、和の質感がなくクラフト寄りに振れてしまう。市販のプリンター用紙(簀の目・大礼紙)まで実際に取り寄せて検証した上で、最終的に選んだのがクラフトペーパー グロスホワイトです。片艶クラフトの上位版にあたる紙で、和の質感を保ちながら、価格と供給が安定しています。
※本記事に掲載しているのは開発中のものです。紙の目は現在縦目ですが、本来は横目が適切であり、量産版では横目に切り替える予定です。
神聖すぎず、どこか可愛いキャラクター診断イラスト
冊子の中には、読み手が楽しめる16種類のキャラクター診断があり、そのイラストをNASUが制作しました。
当初はKeifuチーム自身がAIでつくっていた鳥獣戯画の方向性のイラストが原点でした。歴史的で厳かな印象を与えられる一方で、本気の妖怪画のように怖く、神聖になりすぎれば、手に取りづらくなります。かといってコミカルに振り切れば、家宝としての冊子の格が下がる。神聖すぎず、怖すぎず、モダンで、少し可愛げのある世界観を目指しました。

プレゼンテーション資料の監修 、「デザインしすぎない」という判断
プレゼン資料の元の構成・デザインは、Keifuチームのメンバー自身が作成したものでした。事業への理解も熱量も、当事者が作った資料がいちばん濃い。それ自体で十分に戦えるものです。
一方で、Nontitleは視聴者数の多い番組。デモデイの資料は、審査員だけでなく何十万人もの視聴者の目に触れます。そこで求められるのは「メジャー感」。つまり、番組の規模に見合う信頼感でした。
NASUが行ったのは、監修と一部のデザイン。ここで意識したのは、デザインしすぎないことです。
「デザイナーが作ったな」という仕上げだと、チーム自身の言葉と熱量が資料から消えてしまう。だから作り替えるのではなく、元の資料の骨格と言葉を活かしたまま、視聴者の目に耐える精度までブラッシュアップする。デザインの主役はあくまでKeifuチームである、という線引きこそが、この監修のデザインでした。
会場のスクリーンでは見えづらいほどの細部にも、雲の背景や波紋のテクスチャ、金のかすれを加えています。派手に「デザインされた資料」にするためではなく、Keifuというプロダクトが持つ上質さを、チーム自身の言葉を邪魔しないところで支えるためです。

デモデイの服装 ── 世界観を、人が着る
デモデイは、視聴者にとってKeifuとのファーストコンタクトです。だからこそ、壇上に立つ人の見え方もデザインの一部として提案しました。
冊子が白ベースである以上、ブランドの色も白です。白Tにすることで、冊子と人が一体化して見え、Keifuの「余白」「厳か」「継承」が一瞬で伝わる。
ファッションとしての強さでいえば、紺のTシャツにも惹かれました。Keifuは単なる歴史保存ではなく、若い世代にも家族の歴史に興味を持ってほしいサービス。「地味な戸籍調査を、かっこよくする」という目標において、紺の持つ少しキュンとくるファッション性は、その入口として相性が良い。
だからトップスでは世界観を最優先し、紺はパンツに回しました。「厳か」を白で、「キュン」を紺で。三つのものさしを、そのまま着るかたちに落としています。


調査報告書の存在からデザイン
Keifuの信頼感と価値向上のために、冊子とは別で調査報告書を作ることをご提案しました。

結果
- デモデイ(2026年7月19日・生配信)にて、昭和世代チームが勝利。 Keifuは事業継続となりました。
- 発表後、申し込みは2時間で1,000件を超え、最終的には5,000件以上となったため、販売開始翌日には二次受付を停止するほどの反響に。

Keifuチームメンバー
制作概要
- クライアント
- Keifu
- クリエイティブディレクション、デザイン、プレゼン資料デザイン
- 前田高志
- Keifuツリーイラスト
- yuco(yuco design)
- 冊子デザイン
- 前田高志、久本晴佳、際めぐみ


画像出典: